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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

元気な企業を訪ねて-チャレンジャーたちの系譜-

“時間をかけてつくったものは時間をかけておいしい。
地域おこしに情熱を注ぐパンやさんの極意。”

品田 宗久さん
有限会社高原のパンやさん
代表取締役 品田 宗久さん

地元はもとより、全国にその名を知られる店

 「LOHAS(ロハス)」が注目されている。これは90年代末にアメリカで生まれたマーケティング用語で、直訳すると「健康や環境を重視した持続可能な社会を志向するライフスタイル」。なるべく薬などに頼らず、安全な食生活を求め、自己啓発や友人関係との時間への投資を重視する生き方だ。イタリアから起こった「スローライフ」と同じような概念といえる。
 LOHASスタイルをいち早く実践してきたのが、自家製天然酵母を使った無添加パンを製造・販売する「高原のパンやさん」の、品田宗久代表取締役だ。
 JR小海駅から国道141号線を清里方面に4、5分ほどのロードサイドに工場直結の本店がある。自家製パンやケーキなどのほか、地域にこだわった自然食品も販売し、店内の一角にはイートインコーナーも。「自然・健康・本物・安心・安全」をキーワードに、地元はもとより、全国にその名を知られる店だ。
 同社は昭和24(1949)年、品田社長の父親である先代が小海駅裏に「多味屋パン店」として創業。品田社長はその二代目だ。
 昭和40年代からこの地域が観光地として人気を集め出すとともに需要が急増。夏には清里高原の清泉寮に毎朝トラック一台分のパンを納めたという。製パン専門学校を卒業後、東京の会社に就職したばかりの品田社長が先代に呼び戻されたのはまさにそんな時だった。もっとも観光客が訪れるシーズンは早朝から大忙しだが、冬は一転、閑古鳥が鳴いた。
 「冬は友だちと遊んでばかり。でも、それがとても良かった。地域の青年団や消防の活動を通して友人がたくさんできたし、パン組合の寄り合いでも人脈ができました。長野や松本の同業者も、私は地域柄まったく競争相手にならないので、技術的に突っ込んだものも含めて気軽にいろんな話をしてくれた。当時築いた各方面の人脈が、今も太く繋がっているんですよ」


八ヶ岳の本当においしい水と空気がつまったパン

 品田社長が天然酵母の研究に取り組み始めたのも、その頃から。
 たまたま知り合った油脂メーカーの研究者に「信州りんごの酵母を使ったら面白い」とアドバイスされたのがきっかけだった。現在、信州りんごから採取した自家製天然酵母をはじめ、数種類の天然酵母を生地によって使い分ける。
 天然酵母は菌の働きが弱く、イースト菌に比べ発酵に時間がかかる。しかもその間、細心の注意が必要で、パンを寝かせておくための余計なスペースもいる。非常に効率が悪い製法だ。
 品田社長は、天然酵母を使ったパンづくりは田舎だからこそできたという。都会の業者は家賃が高く広い場所が持てないので、いかに効率的に早く作って売るかを考えざるを得ない。しかし田舎なら、広い場所でじっくり丁寧に作ることができる、というわけだ。
 「せっかくこんな良いところで店をやっているんだから、環境に良くて、ウソのないパンづくりがしたいと思った。添加物が必要なのは機械で早く作るため。時間をかけて手づくりすれば本来要らないんです。天然酵母は最初つき合いづらかったが、癖が分かればかわいいもの(笑)。短時間で作ったものは短時間で商品価値が落ちていく。じっくり時間をかけて作ったものはフレーバーも良いし、時間をかけて味わえるんですよ」
 もうひとつこだわるのは、水。八ヶ岳の麓で取水した天然水の分子をさらに細かくし、そのなかに取り込まれた“汚れ”を取り除いた「自然回帰水」を使っている。「うちのパンは、八ヶ岳の本当においしい水と空気がつまったパンなんですよ」。


商品開発に込められた、地域へのこだわりと熱い思い

 同社では店頭販売のほか、大手百貨店が主催する「信州物産展」イベントへの出展や、ホームページ、DMによる通信販売でも相当数の販売実績を持つ。また東京、京都などの健康食品専門店からの注文も多い。百貨店催事では来店客に「特別限定セット」が購入できるハガキを配布し、リピーターになってもらう戦略に力を入れているという。
 もっとも、品田社長がこだわるのは「お客様に小海の店に来てもらうこと」。「田舎にこんな店があったんだと感動し、パンとともに“思い出”を持ち帰っていただきたいんです。大手スーパーなどと取り引きをして、値段交渉や特売対応といった競争の原理にも組み込まれたくない。あえて効率の悪いことを見つけて努力していくと、だんだん知恵が出て効率も上がっていく。そうすると次の展開も拓けていく。そう考えているんです」。
 地域へのこだわりは、商品開発にも顕著だ。
 例えば、今売り出し中の「ごはんパン」。浅科産コシヒカリを炊いたご飯を3割ほど生地に練り込み、佐久産大豆を100%使った豆腐のおからを中に詰めたおやき風のパンだ。中身はほかに野沢菜、ピリ辛カレー、よもぎなどがあり、いずれも地元の食材にこだわる。
 一方、自社製パンだけでなく、地域で質の高い食材を生産する地元生産者などとのネットワークを最大限に活用した「スローライフ・プロジェクト」も展開している。
 販売するのは松本の炭焼き職人、原伸介氏の作品をはじめ、東御市産の米を使ったせんべい、北相木産小麦で作ったうどんなど、いずれも地元にこだわり「LOHASスタイル」を体現したものばかり。それらをパックして通信販売するほか、本店でも販売している。「通販では商品内容はこちらにお任せ。箱を開けた時にお客様が感動し、喜んでいただけるよう努力しています」。
 「本当においしい食材をこだわって生産している生産者の皆さん、少量ながら質の高い食べ物を製造する皆さん、そしてこつこつと地方の文化を守る人たち。そんな田舎で頑張る人たちを情報発信していきたい」
 「スローライフ・プロジェクト」は、そう熱く語る品田社長の思いが込められた、地元の食と文化を守り育て、新たな地方文化の創造をめざす取り組みだ。


「プティリッツァ」を小海町のシンボルに

 入り込み客の減少が続く松原湖高原、佐久市で相次ぐ大型店の出店により買い物客の町外流出が目立つ地元商店街――。
 小海町の厳しい商業環境を日々肌で感じるなか、品田社長の地域に込める思いは、地域の仲間や行政をも巻き込んだ小海町活性化への取り組みへとつながっていく。「観光は、観る、食べる、買う、学ぶ、癒すがバランスよくあると良いと言われる。この5つで町おこしをしようと今、仲間といろいろやっているところなんです」。
 品田社長が語る町おこしの取り組みのひとつを、町内いたるところで目にする。「森の小人プティリッツァ」。品田社長も中心メンバーの一人である小海の町おこしを考える町民グループ「こうみ塾」が提唱した小海町のシンボルだ。
 「プティリッツァ」とは、豊かな自然と素朴で温かい心を持った人間が住む土地でしか生きられない、とされる森の妖精ノームのこと。メンバーの一人が「小海の森の中でノームに出会った」と話したことから、それを小海町のシンボルにしようと発展した。
 平成12年にイメージを練り上げ、メンバーの一人であるデザイナーがイラストを描き、町がロゴマークの商標登録を行った。町民の豊かなイマジネーションが、行政を巻き込んでの町おこしプロジェクトへと発展したのである。
 プティリッツァは地元の木の端材を使ったキーホルダー、商店街にひらめく旗、町指定のゴミ袋、ホームページと、官民問わずさまざまな場所に展開。また松原湖畔で開く「フィンランド夏至祭」やクリスマスのイベントのモチーフにもなっている。
 愛知万博では、町と交流があるNPO地球緑化センターが出展した「地球市民村」のブースに参加。来場者にプティリッツァの顔を描いてもらいプレゼントするイベントを行い大好評を博したという。


「P-ねっとカード」と「Pマネー」で町の活性化めざす

 品田社長は平成14年に町内商工観光業者約90社で設立した「こうみP-ねっと協同組合」の理事長として、観光地と地元商店街がタイアップした町活性化への取り組みにも力を入れる。
 同組合は町内に3種類あったスタンプカードのサービスを統一した「P-ねっとカード」と、組合加盟店で使える商品券「Pマネー」を発行する。ちなみに名称の「P」はパーティ(仲間)、パーク(町民憩いの場である公園)、そしてプティリッツァの頭文字からとった。
 「P-ねっとカード」は、加盟店で買い物をすると200円につき一枚の「プティリッツァ」のポイントシールがもらえ、シール150枚(カード1枚分)で200円分の買い物ができる仕組み。シールの配布については個店の裁量に任され、工夫次第で自由に活用できる。
 例えば、毎年15チームほどが参加する町内ママさんバレーボール大会では、参加費をp-ねっとカードで支払う決まり。これがメンバーのシール集めの大きな動機づけとなり、町内での購買をさらに促す好循環を生み出している。
 一方、「Pマネー」は手数料不要、利用者に釣り銭が出せるという現金感覚で使える商品券。町民はもとより行政にも積極的に利用を働きかけ、町議会議員報酬の一部(5千円)や、行政による審議会への出席報酬もこれで支払われているという。また福祉や環境分野の団体と連携し、有償ボランティアの報酬として利用してもらうことも検討中で、将来的には地域通貨としての定着をめざす。
 「Pマネーを受け取った人のなかに、地域に良いことをしたという温かい気持ちが芽生えていってほしい」と品田社長。本当の狙いはここにあるようだ。
 「信州にはいいものがいっぱいある。でも、そのひとつひとつが結びついていない。私はその点と点をつないで線にし、線を3つつないで面にし、その面を大きくしたり、数を増やしたりしていく仕事をしていきたいと思っています。 いきなり成功を求めると良い結果は出ないし、単なるカネ儲けに走ると失敗する。 時間をかけて良い人間関係をつくりながら、じっくりと取り組んでいく、そのプロセスを楽しんでいくことが大切。 こうみ塾やP-ねっと協同組合の立ち上げもその一環です。 そういう取り組みの結果が収入に結びついていくのではないでしょうか」
 「時間をかけてつくったものは、時間をかけておいしい」と、天然酵母と無添加のパンづくりの意味を話した品田社長。その言葉は、もとより地域づくりそのものにも向けられているのだ。

 


プロフィール
品田 宗久さん
代表取締役
品田 宗久
(しなた むねひさ)
中央会に期待すること
全景
全景

中央会への提言
 何でも相談できる関係。プティリッツァを町のシンボルにするまでの経緯においても大変尽力いただきました。ここまでこれたのは中央会のおかげと感謝しています。

経歴 1948年(昭和23年)3月生まれ
1967年3月 日本菓子専門学校卒業
1968年8月   多味屋パン店入社
1991年3月   高原のパンやさん代表取締役に就任
出身   小海町
家族構成   母、娘1人、息子1人
趣味   ゴルフ

企業ガイド
(有) 高原のパンやさん

本社 〒384-1103
長野県南佐久郡小海町大字豊里2098-1
TEL(0267)92-2121
FAX(0267)92-2937
会社設立   1949年9月
資本金   500万円
事業内容   天然酵母、無添加パン、ケーキなど菓子類等の製造・販売
事業所   本店・工場、小海駅アルル店、臼田店
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