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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

元気な企業を訪ねて-チャレンジャーたちの系譜-

“~ 完成品組立までの一貫体制でソリューションを提供。
技術深化のカギは産学、企業間の連携にあり。 ~”



小林 勇生さん
中野プラスチック工業株式会社
代表取締役社長 小林 勇生さん


コンピュータから自動車まで、各種コネクタが約7割を占める

 近年、デジタルカメラ、携帯電話、ノートパソコンなど、モバイル機器の記録メディアとして、メモリーカードの普及が急速に進んでいる。
 メモリーカードの規格はコンパクトフラッシュ、スマートメディア、SDメモリーカード、メモリースティックなど数種類。それぞれ非常に小型で、データの読み書きにほとんど電力を消費しない。しかも技術の進歩と大量生産によるコスト効果により、大容量・低価格も実現。今やモバイル機器には欠かせない記憶装置だ。
 中野プラスチック工業では、メモリーカードに対応するカード用コネクタをはじめ、コンピュータ、自動車、産業機器などの分野で使われる各種コネクタが約七割を占める。
 最近特に増えているのが、ひとつのコネクタで複数の規格のメモリーカードに対応する複合型カード用コネクタ。4種類に対応した「4in1」、5種類に対応した「5in1」なども手がける。
 「メモリーカードは薄く、反りや変形もある。自動機で組み立てていますが、人手による微妙な調整は欠かせません。カード用コネクタの需要が急増するとともに多機能化も進むなか、微細加工にいかに対応し、時代のニーズに応えられるか。それが当社の一番の技術テーマです」と小林勇生代表取締役社長。
 創業以来、プラスチックモールド部品メーカーとして、通信機器からコンピュータ、OA機器、自動車部品などさまざまな製品を手がけてきた。現在は精密モールド金型の開発・設計・製造、プラスチック成形、電子制御機器の設計・生産、さらに微細加工による電子部品の生産を主力とする。
 同社を中核として、金型製作の(株)中野金型、電子機器の開発から組立までを担う(株)太信、中国と香港の現地法人・中野精工の4社・5拠点で構成する「中野プラスチック工業グループ」を構成。小林社長は北信地域でプラスチックモールド部品を手がける会員企業11社による「北信プラスチック事業協同組合」の理事長も務める。


先進的な設備投資により、効率的な生産を実現

 戦時中、素材メーカーの住友ベークライトが中野市に疎開し、生糸の集荷場だった土蔵づくりの建物を借りて操業していた。ところが高度経済成長が始まっていた昭和30年代の初め、同社が川崎に新工場を建て、全面移転することとなった。
 当時、中野市内に工場は3社しかなく、最大規模の工場が移転するのは地域にとって大きな痛手。「たとえ規模を小さくしても事業の存続を」。そう求める地域の要望に応えたのが、長く造り酒屋を営み、また当時市会議員も務めていた同社の先代社長だった。
 そして昭和32(1957)年、残された古い機械を使い、住友ベークライト100%出資の下請け会社として再スタートした。それが同社の創業である。
 「酒屋は免許制のため、自分の力だけでは企業としてなかなか大きくなれないという気持ちもあったのかもしれません。もちろん、この業界にはまったくの素人。社員5、60人を引き継ぎ、住友ベークライトに技術指導を仰ぎながら、その規模なりの下請け仕事をするようになりました」。
 まず手がけたのが電話機周辺のプラスチック部品。その後、通信機器分野など独自の営業展開も積極的に進めた。オイルショックを契機に、住友ベークライトから独り立ちを果たす一方、富士通グループの部品工場の役割を担っていた富士通須坂工場との取引を拡大。半導体、コンデンサなどの容器、コネクタ、リレーへとシフトしていった。
 「電力メーターの部品製造も開始しましたが、当時主流だった縦型のコンプレッション成形機ではなく、インジェクション自動成形機の第一号機を導入。この先進的な設備投資により大幅なコストダウンと大量生産を実現し、高く評価されました。まさに当社の面目躍如といったところでしたね。県内では富士通、富士電機からの受注をメーンに、それを足がかりに県外にも展開していきました」。


強みは精密モールド金型への高い信頼にある

 順調に事業拡大を図るなかで、生産体制の再構築にも着手。昭和46年に金型のメンテナンス部門を分離独立し、(株)中野金型を設立。ロット生産が終わるとメンテナンスを行い、次の新たな生産に備えるという仕組みづくりを行った。
 「もともと業界ではプラスチック成形と金型製作は別々の動きをしていた。つまり自分で金型をつくり、成形は成形工場に貸与して行うというスタイルが多かったんです。当社では精密モールド金型の製作も自ら手がけ、高い技術を誇っていた。製品を頼めば金型からすべて用意できる強みを生かし、新しい顧客との取り引きも比較的有利な条件でできました」。
 小林社長が話すように、同社の強みは精密モールド金型への高い信頼にある。最新鋭のNC加工機を導入するなど設備投資を積極的に行うとともに、徹底した品質管理体制で千分の一ミリオーダーの精度を実現している。
 もっとも設備と同様に重視しているのが、技術者の”職人技“だ。「NC制御機は中国の若い技術者も簡単に使いこなしている。でも、そこまで。日本の技術者はいきなりNCではなく、汎用技術から出発しているから、すべてを機械任せにはしない。そこを深く掘り下げていきたい。それがモノづくりの原点だし、それがなくなったら日本のモノづくりは終わりだと思う」。
 顧客の国際化に対応するかたちで平成13(2001)年中国に合弁会社を設立し、プラスチック成形加工と組立を手がける。現在、金型は国内で製作するケースが多いが、今後中国でもある程度担っていくことになると予想している。


一貫体制による製品開発で、顧客にソリューションを提供

 「開発、設計から金型製作、プラスチック成形、組立までの一貫体制による製品開発で顧客にソリューションを提供していきたい」と、小林社長は力を込める。
 その考え方はすでに30年前からあり、プラスチック成形品にいかに付加価値をつけるかという発想から、(株)太信を設立した。
 同社はもともと組み立てをメーンにしていたが、近年、電子機器の開発・設計からプリント基板の実装、組立、検査まで一貫体制を構築し、OEMを中心にさまざまな製品を手がけている。
 特に制御関係に強く、ボイラーなど燃焼系の温度制御や、それを遠隔操作する技術で実績を持つ。また、発光および受光素子など光デバイスの微細組立技術も得意分野。その技術を応用し、微量の空気や流体を測って制御に使うマイクロフローセンサーへの展開も検討中だという。
 一方、自社製品の開発、販売も手がけている。その製品の一つが「地震ブレーカー」。設定した震度以上の地震が発生すると、避難に必要な時間(2分)を待って電気が落ち、復旧後は元のブレーカーを上げないと電気が流れないようにする装置だ。阪神大震災では電力が復旧し各家庭に通電した際、電熱系のスイッチが入って火災が起きる、いわゆる通電火災が20数件発生したという。その教訓から開発した。
 「社会のためになると考えて独自に開発し、火災報知器業者や、地域の自治会などを通しての販売をめざしています。もっとも、今のところ売れ行きはあまり芳しくない。それが悩みです」と小林社長は打ち明ける。
 一方、プラスチック成形そのものの技術革新にも挑戦。「成形不良ゼロ」と「リードタイムの半減」を実現する独自の射出成形システムの研究も行った(平成14年度創造法認定)。具体的な機器への実現はまだだが、既存の成形機の改良といった応用技術の展開により、研究成果を生かせるのではないかと検討中だ。また、金型からの発想により射出成形技術に新たな可能性を見いだせるのではないかとも考えている。
 「世の中がどう動いていくかよく分からない部分もある。技術的にはデジタル化が進むのは間違いないが、太信が特徴的な技術を持つアナログ技術も見捨てたものではないような気がします。いずれにしても方向性をひとつに絞らず、技術動向をより広く見ていくことも必要かなと思っています」。


産学、企業間の連携に活路を見出す

 技術革新を進めるにあたって重視しているのが、産学および企業間の連携だ。
 高度加工研究会という大学の先生との交流会に参加したり、大学と金型の共同研究を行うなど、積極的に連携を図っている。また一時期、遠藤守信信州大学教授のカーボンナノチューブの研究との連携も模索したこともあるという。また技術社員が出身大学の先生を訪ね、さまざまな情報収集を行うという取り組みも積極的に行っているという。
 一方、企業間の連携についてもいち早く取り組んできた。
 その1つが、現在も活発に活動している北信プラスチック事業協同組合だ。昭和44年に同社が中心になって設立し、メーンとする材料の共同購買事業のほか、検査測定事業、金融事業、福利厚生事業などを行い、当初から先進的な組合として高く評価されてきた。現在、各事業はもとより、ホームページを開設し、組合員同士、さらには世界に開かれたコミュニケーションツールとしての利用を図っている。
 ホームページで注目されるのは「売りたし・買いたし」というページで、ここでプラスチック原料の売り買い、在庫情報の交換を行っている。同業社を中心にデッドストックの流通をめざして開いたが、利用状況は「まだまだこれからといったところ」だとか。
 「産学でも企業間の連携でも、自分の良いところと相手の良いところを足して10倍良い物をつくるのが連携の目的。中野プラスチック工業グループ3社、あるいはいろいろなアイデアを持つ他の会社と一緒に、それがOEMでもEMSでも、顧客へのソリューションとして提供できていければ面白いし、それによって海外との競争にも勝っていきたい。そのためにも自ら積極的に情報交換の場に出て行き、自分にとっても相手にとってもメリットのあるパートナーを探していくことが大切だと思います」。
 プラスチック成形技術の可能性を徹底的に追求し、つねにより高いハードルに挑戦する同社。小林社長は有機的な「連携」にその活路を見出しているようだ。


プロフィール
小林 勇生さん
代表取締役社長
小林 勇生
(こばやしいさお)
中央会に期待すること
全景
全景

中小企業施策についての提言
 企業間の連携において、パートナー探しの場づくりをしてもらっている。これからも積極的に支援していただきたい。

経歴 1941年(昭和16年)7月生まれ
1965年3月 国学院大学経済学科卒業
1970年1月   中野プラスチック工業(株)入社
1991年4月   代表取締役社長に就任
出身   中野市
家族構成   8人家族 母、本人、妻、長男夫婦、孫(2男、1女)
趣味   読書。ゴルフ。よく歩くよう心がけ、それを健康法にしている。


企業ガイド
中野プラスチック工業(株)

本社 〒383-0042 長野県中野市大字西条1番地2
TEL.(0269)22-3141(代)FAX.(0269)22-3078
会社設立   1957年10月
資本金   4,500万円
事業内容   熱硬化性・熱可塑樹脂・各種精密プラスチック成形品の製造並びに販売、精密モールド金型の設計・製作・修理並びに販売
事業所   本社工場
関連会社   (株)太信、(株)中野金型、中野精工(香港)有限公司

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