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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集1 2005年版 中小企業白書の概要

まとめ

リスクをとるのは誰か

 中小企業では、特に「人」の要素が重要である。常に変化する市場環境の中で、新しい事業を切り開いていく経営革新は、中小企業経営者の全人格による決断という性格を有する。このような経営者の発掘と育成が円滑になされていくことこそが、中小企業が引き続き我が国経済社会の活力であり続けるために最も重要なことである。
 第3部で述べたように、人が経営者となる経路には大別すると事業承継と自ら開業する道があるが、いずれにせよ、優れた経営者を育てるのは市場における競争の中での日々の事業活動そのものである。日々事業リスクに向き合う環境こそが経営者を育成していく。
 今日においては、社会全体に将来の不確定要因が増え、また、社会の中の人々、家族、会社等の関係自体が不確定なものとなってきているため、ある意味でリスクを取らざるを得ない状況が生じているとされる。就業行動について見ても、労働者が職務を通じ、あるいは職務外で必要な能力を主体的に開発し、自ら職業キャリアを形成することができるようにしていくことが課題となっている。
 この状況は、一面では、事業リスクに挑戦していく経営者が輩出される必要性が高まっており、また、その素地が整いつつあると考えることもできるが、現実には第3部第3章で述べたように、社会の中堅層を中心にリスク回避的志向が強まっており、経営者予備軍である開業希望者は全体的な数が減少している。日本社会は、今後、個人がリスクの中に事業機会等の各種のチャンスを見出していく環境を整備し、リスクに対して社会全体として適切に取り組んでいく必要があるだろう。
 現在の状況下で、将来について不安を抱く者が多く、また、学生等の若い世代が安定志向を持つことも理解できるところではあるが、政府としては、若い世代が正確な状況認識に基づき多様なキャリア形成を行っていくことができるよう、情報提供等に努め、リスクを取る者が努力に応じて報いられ、失敗してもやり直しのできる環境を整備していくことで、特に若い世代の希望や、機会の平等への信頼が揺らぐことのないようにする必要がある。
 未来は決して運命的に決定されているものでもないし、人生の「勝ち組」と「負け組」はこれまでもこれからも決して単純に決まるものではないことを想起し、改めて社会の中でそれぞれの主体が適正にリスクと取り組んでいくことが必要であること、社会全体としてリスクに取り組んでいくことが可能な仕組みを構築していくべきことを確認する必要がある。
 中小企業や、とりわけ事業の成否が生活に直結する自営業者や開業者は、毎日リスクと向き合っている。
 最近のマクロ経済状況との関係では、近年のデフレの進行がこれらの特に規模の小さい企業の活動を不利なものとし、また、第3部第3章で分析したように開業率に悪影響を与えてきた。早期にデフレを脱却し、マクロ経済の安定的な運営を確保していくことが、政府にとって重要な課題である。デフレ予想のインフレ予想への逆転は、人々の将来のリスクに対する見方を変え、開業リスクを取りやすくするものと考えられる。
 また、社会の諸制度のあり方の背景には、制度が前提とする就業形態や家族形態等に対する捉え方が存在しており、中長期的にはこれが人々の行動に影響する可能性がある。これらの制度について、第3部第3章で述べたように、人々が直面するリスクが適切に評価され、人々が様々な就業形態の間を移動することを通じて何度もリスクに挑戦することが可能となる環境を整備していくことが望まれる。
 リスクを取る者が減少することは、第2部第1章で述べたように、それぞれの企業レベルでもリスクを取らないリスクを生じさせることはもちろん、社会全体にとっても自営業の減少や開業率の低下等を通じ、中長期的には、潜在成長力の維持や産業構造の高度化が危うくなるリスクを生じさせるものである。
 我が国は保守的な風土が強いと言われることもあるが、過去の幾多の危機に際して社会はリスクに果敢に挑戦し、それを乗り越えてきたことを改めて確認すべきである。

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