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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集1 2005年版 中小企業白書の概要

経済社会の活力の源泉としての創業者、自営業者の役割

創業者、自営業者による雇用創出等

1.中小企業の雇用創出力等

(1)大規模事業所と比較した中小事業所の雇用創出力
 事業所の新設による雇用の創出力を見てみよう(第1図)。新設事業所(41万事業所)は805万人の雇用を創出しているが、これは存続事業所(571万事業所)が創出した雇用の83.1%に相当する。また、1999年から2001年にかけては新設事業所の雇用創出量が事業所の廃業に伴う雇用喪失量(672万人)を大幅に上回っているため、存続事業所における24万人の純減を差し引いても、新設・廃業・存続事業所全体では109万人の純増であった。
 新設事業所による、この雇用創出力の大きさに鑑みれば、創業者自身の就労の場の創出を含め、第三者的な雇用創出の観点から、創業活動を支援していく意義は極めて大きいといえる。
 なお、業種別に見た新設事業所による雇用創出力としては、サービス業、小売業、飲食店が大きく、それぞれ新設事業所全体の雇用創出量の30.7%、18.6%、13.2%を占めている。この3業種の雇用の内訳を見ると、いずれもパート・アルバイトの占める割合が高いという特長を有し、それぞれ32.4%、54.7%、61.6%であった。
 以上、雇用機会の提供、事業所が生み出す新規の雇用、いずれの雇用創出力においても小規模な事業所が果たした役割が大きく、後者の中ではさらに新設事業所による雇用創出力が大きいものであったことを確認した。

第1図
新設・廃業事業所による雇用変動状況(非一次産業計)
~事業所の新設は、雇用創出に大きな影響を持つ~

第1図 新設・廃業事業所による雇用変動状況(非一次産業計)


(2)中小企業の創業と成長による雇用創出力
(財)中小企業総合研究機構が2004年12月に実施した「中小企業の創業環境・雇用創出力実態調査」(以下、「創業・雇用実態調査」と言う)の調査結果により分析を進める。企業の生い立ちには、個人による創業や、既存の企業の分社化、既存の部門を一企業として独立させたもの等様々な経緯が存在するが、そうした企業群を区別なく網羅的に補足し分析してきたこれまでの視点を転換し、ここからは就業形態の一つとしての、個人による創業活動とその成長に伴う雇用創出力を見て行こう。
 創業とその後の事業活動を通して見た場合、一企業の雇用創出力はどの段階で、どのように発揮されるのであろうか。第2図を見てみよう。量的に創業とその後の事業活動とを比較すると、創業による雇用創出力の力強さが目を引く。創業後の事業活動による新規雇用の創出では、創業後1~2年目の創出力が大きく、5年以降は落ち着いて推移しているように見える。
 「創業・雇用実態調査」の結果を見る限りでは、新設そのものの効果が大きく、次いで事業活動に伴う雇用が創出されるが、その量は創業後1~4年の間が大きいという解釈になろう。創業企業の持つ高い雇用創出力の発揮と、持続的な雇用創出の維持の観点からは、創業の促進・支援という入り口に至る段階での支援だけではなく、創業後4~5年までをも視野に入れた施策の充実が望まれる。
 従業上の地位に着目をすると、創業による雇用創出とその後の事業活動による雇用創出とは様子が大きく異なっていることが分かる。創業による雇用創出では、相対的に役員・正社員形態での雇用創出が多くなされているが、その後の事業活動に伴う雇用創出では創業後2年までの企業でパート・アルバイト形態の雇用が役員・正社員形態に対して相対的に特に多く創出されている。

第2図
創業活動とその後の事業活動による雇用創出
~創業活動による雇用創出が最も多い。
また、その後の事業活動による雇用創出とは質的な相違がある~

第2図 創業活動とその後の事業活動による雇用創出


(3)企業・創業者の属性と雇用創出力
 企業が創出する雇用には、創業等の段階による違いの他に、企業・創業者の属性によっても相違がないだろうか。同じ時期には、どの企業も雇用創出に関して同質な状況がみられるものであろうか。中小企業は多様な存在であり、規模を拡大することを目指す創業者もいれば生活を支える範囲で満足する創業者もいるであろう。そうした属性に注意を払わずに、企業を全体として観察した場合には、雇用創出力の全貌は企業の多様性にならされてしまうかも知れない。
 そこで、事業拡大を志向するか否かにより企業群を二分し、観察してみよう。
 第3・4図は、役員・正社員及びパート・アルバイトの採用実施率と、採用を実施した企業一社あたりの創出数をそれぞれ表したものである。両人材の共通点としては、事業拡大を志向する企業の方が採用を実施する割合が高く、かつ、一企業あたりの採用数も多い。企業年齢が同一であればどの企業も均しい雇用の創出力を発揮するわけではなく、属性によった差異が見られるのである。
 人材を個別に見ると、役員・正社員は、創業後1年の企業において、採用実施率・採用数ともに顕著に低い。その一方で、パート・アルバイトにおいてはそのような現象は観察できない。事業拡大を志向する場合でも、創業後1年の企業においては役員・正社員へのニーズは低いのであろうか。事業拡大を志向する企業において、役員・正社員数に不足を感じるかを企業年齢別に見ると、創業後1年であるからといって正社員数に不足を感じている企業の割合が他の年次企業に比べて低いわけではない。役員・正社員の人材に不足を感じていても、給与資金の捻出が難しい等の理由で採用活動そのものができない企業や、採用活動は行ったが採用できなかった企業が多い可能性を示唆していると思われる。

第3図
役員・正社員採用実施率・採用数と事業拡大志向
~企業年齢が同一であっても、
採用の実施や採用数には企業の属性による差異が見られる~

第3図 役員・正社員採用実施率・採用数と事業拡大志向



第4図
パート・アルバイト採用実施率・採用数と事業拡大志向
~企業年齢が同一であっても、
採用の実施や採用数には企業の属性による差異が見られる~

第4図 パート・アルバイト採用実施率・採用数と事業拡大志向


 こうした創業後の時期毎の雇用創出には、量的な特長の他に、質的な特長はあるだろうか。「創業・雇用実態調査」では、過去一年間に特に採用が必要だった人材を、専門人材・基幹人材・一般労働者の3つに区分し、調査を行っている(第5図)。これによれば、いずれの時期においても専門人材へのニーズが高い事が分かる。また、基幹人材へのニーズは漸増する傾向を見せている。これは、創業後一定の成長を遂げた企業が、次の段階を模索する上で経営判断の企画立案を担う人材や、増えた従業員の指揮監督を任せることのできる人材を求めるものと思われる。
 次は、創業者の創業動機や経営経験との関係について見てみよう。

第5図
創業後の段階と特に必要な人材
~どの段階でも専門人材へのニーズが高い。
また、基幹人材へのニーズが漸増する傾向がみられる~

第5図 創業後の段階と特に必要な人材


 まず創業動機である。創業者には、経済的な利潤を追い求める者や、社会に貢献をしたいと考える者、自分の生活のために創業をする者等の様々な属性を有する者がいるが、それぞれの目的を達成する上では必ずしも雇用の創出を要件としないことが予想される。第6図は創業者の創業動機と創業による雇用創出力(創業時総従業員)を表したものである。「企業を大きく育ててみたかった」、「社会に貢献したかった」と考える創業者による雇用創出力が大きいことが分かる。「より高い収入を得るため」、「専門分野を磨き、活かしたかった」を動機とする創業者は相対的に創出力が低い結果となっている。創業時には技術力の充実や、比較的小規模であっても利益の高い事業スタイルといった人材以外の要素での実現を目指すということであろう。
 創業後の事業活動による雇用創出力を表したものを見ても「企業を大きく育ててみたかった」、「社会に貢献したかった」を動機とする創業者は雇用創出力が大きい結果が出ているが、創業による雇用創出力よりもその傾向は一層強まっている。「より高い収入を得るため」、「専門分野を磨き、活かしたかった」の属性は、ここでは相対的に雇用創出力が高くなっている。「自由に仕事をしたかった」、「生計をたてるため」、「年齢に関係なく働くため」はここでも相対的に雇用創出力が低い結果となっているが、創業による雇用創出力と比べてその差は小さくなっている。

第6図
創業者の創業動機と創業による雇用創出力
~「企業を大きく育ててみたかった」「社会に貢献したかった」
の属性を有する企業の雇用創出力が大きい~

第6図 創業者の創業動機と創業による雇用創出力


 次に創業者の属性として、経営経験との関係を見てみよう。経営経験があれば、それまでに積んだノウハウや取引先との関係・人脈が、全く経営経験がない場合より有利に働くことが考えられるからである。第7図は経営経験の有無と創業による雇用創出数を見たものである。創業による雇用創出では、経営経験のある創業者企業で高い雇用創出数が観察された。やはり過去の経営経験で積んだノウハウ等が有利に働いていると思われる。
 目を転じて、創業後の事業活動に伴う雇用創出との関係ではどうだろうか。ここでも経営経験を有する創業者企業の雇用創出数が高いが、その中でも異分野での経営経験を有する創業者企業の雇用創出数が高いことが分かる。異分野での経営経験が従来の業界の常識にとらわれない発想・経営を引き出し、良好な結果につながっていると推測される。

第7図
経営経験と創業による雇用創出
~経営経験のある創業者企業で高い雇用の創出が見られる~

第7図 経営経験と創業による雇用創出


 最後に、最低資本金規制特例制度の利用企業(以下「特例利用企業」と呼ぶ)を雇用創出の観点で見てみよう。第8図を見ると、2003年に創業した企業のうち、同制度を利用し創業した企業では事業規模の拡大を志向する割合が高い事が分かる。こうした志向を持ちながらも資本金の準備が創業の制約となっていた一定の層を掘り起こしたのだとすれば、最低資本金規制特例制度は一定の効果を挙げたということになろう。

第8図
最低資本金規制特例制度の利用と事業拡大志向
~最低資本金規制特例制度を利用した企業は
事業規模の拡大を志向する企業の割合が高い~

第8図 最低資本金規制特例制度の利用と事業拡大志向


 次に、創業による雇用創出数を表したのが第9図である。特例利用企業においては事業規模の拡大を志向するか否かにかかわらず、雇用創出数は相対的に低いように見える。しかし、企業の規模を調整した上で分析を行うと、特例利用企業であることと雇用創出力との相関は見られなかった。一見、特例利用企業が低い雇用創出数であるように見えるのは企業規模に起因するものであるなら、企業の体力に見合った雇用の創出がなされているという意味で納得のできる結果である。
 では、創業後の事業活動に伴う雇用創出数はどうであろうか。低廉な資金で創業する特例利用企業の特性を考えると、やはり創業間もない期間での雇用創出力の発揮には一定の限界があるようにも見えるが、特例利用企業においては事業拡大を志向する企業の割合が高いことに鑑みれば、今後企業が体力を蓄えて行くにつれ、それに見合った雇用の創出力を発揮して行くことが期待される。

第9図
最低資本金規制特例制度の利用と創業による雇用創出数
~事業規模の拡大志向に関わりなく、創業による雇用創出には
コンパクトな特例利用企業の特性が反映されている~

第9図 最低資本金規制特例制度の利用と創業による雇用創出数


(4)雇用創出企業の特性
 雇用の創出がすべての企業で均しく行われるわけではない様子がこれまでの結果で表れた。それでは、雇用を量的に創出する企業とはどのような企業であろうか。創業後の事業活動による、新規の雇用創出に焦点をあてて見ていこう。
 回答企業全体の雇用創出数に占めるシェアが10%ずつ均等になるよう、創出数の大きい企業から順番にグループ分けを行った(第10図)。雇用の半数が上位5.4%の企業によって創出されていることになるが、こうした特に雇用を創出する企業はどのような特長を有するのであろうか。標本数を確保するため、ここでは全体の60%の雇用を創出した上位8.2%の企業に着目をして、創業時から見られる特長や創業後の活動で見られる特長はないか、観察してみよう。
 創業時からの属性としては、経営の中核となる部分を創業者以外の者に委ね分業を行う体制がとられているかどうかが考えられる。企業活動には様々な分野があるが、創業者が自らすべてを行わずに従業員へ委ね分業を行う体制であれば、より多くの活動を行う時間的なゆとりが生まれ、効率的に事業の拡大を図る事ができる等、機動的な活動が可能になると思われる。また、企業が成長をする際に、分業体制が予め敷かれていたことが組織化の骨格として作用することも期待される。
 第11図は、創業時において分業し委ねていた分野の有無を調査したものである。技術・商品開発や経理・財務の分野の分業体制については上位8.2%企業と下位91.8%企業とでは傾向に違いは見られないが、上位企業においては販売・マーケティングに関して分業を行っていた割合が下位企業における分業実施割合よりも高く、すべて創業者が担当した割合は低い傾向が見られた。
 なお、創業後の企業年齢(創業年)との関係をみると、特定の年齢層が上位企業を輩出しやすいような傾向は見られなかった。
 次に、創業後の属性・活動に目を向けてみよう。第12図は過去一年間に力を注いだ経営上の取組につき、上位・下位企業がそれぞれ取り組んだ割合を示したものである。全般的に上位企業は下位企業に比べ取組を行っている割合が高いが、特に経営管理(組織)の改善、新事業への進出、資金調達の円滑化に取り組んでいる割合が高い。新事業への進出や経営管理の改善に取り組む上では、新しい人材の獲得が必要となるのであろう。

第10図
創業後の事業活動により創出した雇用のシェアと企業の分布
~5.4%の企業でアンケート回答企業全体の半数を創出している~

第10図 創業後の事業活動により創出した雇用のシェアと企業の分布

第11図
雇用創出企業と創業時の分担体制
~上位8.2%企業は下位91.8%企業に比べ、
創業時に販売・マーケティングの分業体制をとっていた割合が高い~

第11図 雇用創出企業と創業時の分担体制

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