元気な企業を訪ねて−チャレンジャーたちの系譜−

“〜 自律的に行動する有機的ネットワーク型組織をめざし、
異業種多角化のメリットを活かした事業を展開 〜”


久保 正直さん
アスザック株式会社
代表取締役社長 久保 正直さん


八社・五事業部を擁する異業種多角化を展開

 1958(昭和33)年、日本で初めて誕生したインスタントラーメン。今や日本の食生活にすっかり定着し、01年の国内生産量は53億食に達している(日本即席食品工業協会調べ)。このインスタントラーメンになくてはならないのが、フリーズドライ(冷凍乾燥)などによる乾燥野菜の具だ。
 アスザックフーズ(株)は、フリーズドライおよびエアドライ(熱風乾燥)による乾燥野菜で、質、量ともに全国トップクラスの実績を誇る開発メーカー。
 インスタントラーメン市場の成長とともに業績を拡大。各種インスタント食品に使われる野菜や果物などの乾燥調理食材から、一般消費者向けの「ザク切りイチゴ」といった各種デザート類まで、幅広く開発を手がけている。
 「もともと農協が手がけていた生鮮野菜加工工場がルーツ。収穫の出来不出来によって需給バランスが崩れるのを防ごうと、菅平で生産するキャベツを乾燥保存する研究を続けていたのですが、用途開発が進まず業績は芳しくなかった。そこで70年に創業者、現会長の久保好政が支援要請を受け、経営を引き受けたのが始まり。それがアスザックフーズの前身、旭食品工業のスタートです」。
 アスザック(株)をコア企業に、アスザックフーズ(株)を含む八社・五事業部を擁する「アスザックグループ」を率いる、久保正直代表取締役社長はそう話す。
 アスザックは、コンクリート製建設資材等の製造販売を手がける「インフラエンジニアリング事業部」、アルミ建材、土木・景観製品製造販売の「スペースエンジニアリング事業部」、高機能構造用ファインセラミックス製造販売の「ファインセラミックス事業部」、センサーや制御機器を手がける「P&D事業部」で構成。これにアスザックフーズと、ベトナム、中国の関連会社等を加えてアスザックグループを形成し、異業種多角化を展開している。


創業当初から志向する、「創造開発型企業」

 創業は1949年。旭高圧スレート(株)須坂工場として、厚型スレートの製造を開始したのが始まりである。
 そして56年、当時工場長だった久保好政会長が独立し、旭高圧(株)を設立。その後、旭プレコン(株)に社名変更し、側溝、地下埋設製品といった土木・建設用コンクリート二次製品の製造・販売を開始した。
 70年には業績不振に陥っていた古河系の鋳造会社、(株)秋田工場の支援要請に応え、再建に着手。同社を(株)アキタとして鋳造部門に進出した。同様に支援要請を受諾してスタートした旭食品工業もまったく同時期。ここから同グループの異業種多角化経営が始まったのである。
 同社は創業当初から「創造開発型企業」を志向。積極的に新しい開発に取り組み、独自の技術や製品を生み出すことで事業を発展させてきた。新しいものを創りだすこと。それは今日まで脈々と続く同グループのポリシーであり、異業種多角化展開の強力な推進力でもある。
 積極果敢なチャレンジ精神は、初めて手がけた鋳造事業でもいかんなく発揮された。長野県工業試験場(当時)との共同研究による画期的な金型鋳造法「Vプロセス(真空鋳型成形技術)」の開発成功である(71年)。
 金型鋳造は非常に難しい技術。それを知るが故に当時、県工業試験場の呼びかけに県内鋳造業者は誰も手を挙げなかったという。素人の無謀なチャレンジともいえ、実際大変な投資をして造った設備も廃棄の憂き目にあうなどトラブル続き。「これが開発できなければ会社もろともダメになるという状況で、まさに背水の陣。必死に取り組んだ結果、ついに生まれた発明だったのです」。


Vプロセスを世界に技術供与し、特許料収入で新技術に投資

Vプロセス工場内
Vプロセス工場内
 「Vプロセス」は数多くのメリットを持つ画期的な発明だった。
 表面が平滑できれいな鋳肌が得られる、模様の再現性が高い、肉薄でも面積の大きな鋳物ができるなどのメリットがあり、造形性が高く、繊細な表現が可能なアルミの鋳造に最適。木型でも砂による摩耗がなく量産でき、砂はそのまま何度でも再利用できるためコストパフォーマンスも高い。砂の再生のための燃焼処理が不要で煤煙などが発生せず、人と環境にやさしい、等々。
 画期的だったことが、もうひとつある。Vプロセスで取得した特許を独占するのではなく、世界各国に技術供与する特許許諾管理業務を開始したことである。「当時、技術許諾によって特許料収入を得るなどという会社は日本にほとんどありませんでした。欧米諸国、中国などから入る年間3億円の特許料収入をさらなる多角化のために投資しました」。
 投資先は、80年代初めに金属をはじめとする工業材料に代わる新素材として注目を集める、高純度ファインセラミックスの研究と技術蓄積。そして85年、半導体製造装置に使われている金属部品を初めてセラミックスに置き換えるという日本初の画期的な技術開発を実現した。
 「純度の高いセラミックスは金属に比べて耐熱性や耐薬品性が高く、電気的特性を上げたり、強度が高いという特性を持つ。セラミックスに置き換えることでより精密な半導体が作れるようになり、歩留まり向上にも貢献できました」。
 世界の半導体製造装置において、そのセラミックス部品の採用はもはやスタンダード。液晶製造においても必要不可欠になっているという。「この製品は今や大手セラミックスメーカーはどこも製造していますが、高純度な大型製品分野では当社を含め二社に限られます」。
 同社は金型から加工、塗装まですべてを一貫生産できる全国でも珍しい存在。そのメリットを活かし、Vプロセスの付加価値をさらに上げ技術蓄積をしながら世界に広めていこうと取り組んでいる。


高耐久性を誇るバイコンで差別化。社会インフラに大きく貢献

 ルーツであるコンクリート部門でも、同社が初めて開発した製品や、他がほとんど手がけていない製品は数多い。例えば、側溝のU字溝。溝の壁部分は車が通る側は厚めに、人が通る側は薄めにできている。今は当たり前になっているが、それを初めて開発したのが同社だ。
 他社との差別化技術として積極的に売り込んできたのが、バイコン(バイブレーション・コンクリート)製品。コンクリート二次製品の製造を開始した翌67年から製造を開始し、すでに40年近い技術蓄積を持つ製品だ。
 一般的なコンクリート製品はウェットキャストといい、水とセメントと骨材を混ぜて固めて作る。それに対してバイコンは、水分をほとんど加えずセメントと骨材に振動をかけてプレスして作る(ドライキャスト)。ウェットキャストに比べて耐久性が非常に高く、凍結と融雪剤によるコンクリート破壊も起きないという大きな利点がある。ただ製造にはかなりの熟練技術を要するため、手がける企業はあまりない。それだけに大きな差別化技術なのである。
 同社は67年以来、官公庁にドライキャストの採用を繰り返し提言してきたが、なかなか受け入れられなかった。ドライキャストの仕上がり表面はザラザラ。それに対して、仕上がり面が滑らかでなければいけないというのが官公庁の一貫した(頑なな)姿勢だったからだ。
 もっとも同社の粘り強いアプローチが実り、ようやく最近、国土交通省や県が施工する縁石では主にドライキャストが採用されるようになった。社会インフラのために何が本当に良いのかを考えればドライキャストに行き着くのは自明。「これでようやく報われていくかなという気がしている」という久保社長の言葉に実感がこもる。
 「縁石については数年前からドライキャストしか販売していません。我々の良心にかけて、問題が起こるのが分かっている商品(ウェットキャスト)は売るべきではないと思ったからです」。


有機的ネットワーク型組織で、世界市場に向かって使命を果たす

 「総合生活基盤産業」をめざす同グループのスローガンは、「人が好き。自然が好き」。キャッチフレーズ、スローガンともに新入社員の言葉がヒントになっているという。
 「異業種多角化を展開する中で、自分たちが一体何者なのかがはっきりしなくなっていた。そんな時、どの部門も人の生活を支え役立っているのではないかと『総合生活基盤企業』というフレーズを出してきた。なるほどと思った。そこで九七年の社名変更時に、当社のアイデンティティをそこに整理したのです」。
 「創造開発型企業を標榜しつつ、いつの間にか、言われたものを作ればいいという下請け根性が根づいていた。新しいものを生み出し社会に貢献するためには、社会や人が本当に何を望んでいるのかが分からないといけない。例えば、大切な家族や友人のためなら本当に喜んでくれるものを作ろうと思う。だから、好きな人のためにと考えて商品を創り出せるようになろうと。自然も同じこと。自己満足で作ってもだめだということです。もっとも、それがなかなか難しいからこういうスローガンを立てているわけですが(笑)」。
 アスザックフーズで一般消費者向け商品の開発を重視しているのも、顧客志向の製品開発のセンスを高めるため、コンクリート、アルミなどの部門でウェブ販売に力を入れているのも同じ考えからだ。
 会社のビジョンをより早く実現していくために優秀な人材の採用と育成は不可欠。そのために力を入れているのが「人種、男女、年齢などにこだわらない」採用の仕組みづくりであり、全社的なコミュニケーションのトレーニングだ。
 久保社長は人材育成についてこう話す。「その人に対する理解不足のために、本来育成されるべき人材が潰されているケースがある。組織全体のコミュニケーションのスキルを上げることによって血と神経が行き交う人間関係ができれば、もっとしっかり人を育成できるはずなんです」。
 各部門間で技術者が応援し合うなど、お互いの強みを有機的に結びつけ、異業種多角化のメリットを活かした事業を展開している同グループ。めざすのは「それぞれが自律神経を持ち、全体を理解した上で自分がすべきことを自己判断して行動していく有機的ネットワーク型組織」だ。
 「我々の使命は、各事業が担うべき使命を世界の市場に向かってきちんと果たしていくこと。そのためにも企業間の協力関係は大切。幸い須坂にはそれぞれ特長を持つ異業種企業が集積し、お互いに海外展開でのさまざまな問題、苦労話などをざっくばらんに話し協力し合っている。それはとても心強いし、大きな財産だと思っています」。久保社長はそう話し、企業間のネットワークづくりの促進をめざした中小企業施策の必要性も訴えた。



プロフィール
久保 正直さん
代表取締役社長
久保 正直
(くぼまさなお)
中央会に期待すること

中小企業施策についての提言
 やる気がある会社の自律性を促進できれば大変な力になる。資金が必要なケース、マーケティングが必要なケースなどいろいろありますが、仲間やネットワークによってお互いに助け合うための支援をいただきたいと思います。

経歴 1954年(昭和29年)2月生まれ
1976年3月 学習院大学経済学部卒業
1977年   (株)アキタ入社
1990年   代表取締役社長就任
出身   須坂市
趣味   休日には健康づくりと犬のストレス発散のため、犬と一緒に近隣の山歩きを楽しんでいます。
家族構成   妻、子供(男2人、女2人)



企業ガイド
アスザック(株)

本社 〒382-8508 長野県上高井郡高山村大字中山981
TEL.(026)245-1000(代) FAX.(026)245-4558
創業   1946年4月
資本金   6,350万円
事業内容   ファインセラミックス事業部(ファインセラミックス)、スペースエンジニアリング事業部(アルミ建材・エクステリア)、インフラエンジニアリング事業部(コンクリート2次製品・景観石材)、P&D事業部(電子機器・産業機械)
事業所   本社(高山村) 工場/高山村・東御市・塩尻市・飯田市
関連会社   アスザックフーズ(株)、ASUZAC Co.,Ltd.、ASUZAC FOODS Co., Ltd.(ベトナム・ホーチミン市)、旭開発(株)、渮澤旭日食品有限公司(中国・山東省)、渮澤亜旭昌食品有限公司(中国・山東省)、上海分公司(渮澤亜旭昌食品有限公司)(中国・上海)


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