特集2 森林資源を活用した新エネルギー開発
〜長野森林資源利用事業協同組合の森のエネルギー推進事業事例より〜

 今年2月16日「京都議定書」が発効した。これは地球温暖化の原因となる温室効果ガス(二酸化炭素、メタンなど)の削減数値目標や、その達成方法などを定めた地球温暖化を防止するための国際条約。日本は08〜12年の間に90年比で6%削減の目標達成をめざす。
 この非常に高いハードルをクリアするため、政府は「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定(02年12月)。バイオマスの総合的かつ最大限の利活用戦略を打ち出した。バイオマスとは再生可能な生物由来の有機性資源で化石燃料を除いたもの。これを燃焼することによって放出される二酸化炭素はもともと生物が光合成によって大気中から吸収したものであり、大気中の二酸化炭素収支はほとんどゼロになるという。二酸化炭素排出削減に大きく貢献するものと期待されている。
 そんな中で今年4月19日、経済産業省新エネルギー事業に認定された県下初の木質バイオマス発電所が完成した。事業主体は、宮澤木材産業(長野市)らで構成する長野森林資源利用事業協同組合(宮澤政徳理事長)。
 本特集では森林資源を活用した新エネルギー開発について、その背景、事業化の取り組みなどをレポートする。


年間総バイオマス量6%をめざす、「バイオマス・ニッポン総合戦略」

 「化石燃料への依存によって顕在化した温暖化等の地球環境問題を解決するためには、こうしたエネルギーシステムから極力脱却していくことが必要である。環境の保全とエネルギーの利用を調和させるためには、できる限り省エネルギーに努めることと併せて、環境への負荷の小さいエネルギーの利用を増やしていくことが重要である。そのエネルギーとして、太陽光、風力、バイオマス等のいわゆる「新エネルギー」の利用が注目されている。このうち、再生可能で生物由来の有機物であるバイオマスは、家庭の生ゴミや家畜排せつ物から木質廃材、未利用材や稲わら、もみ殻に至るまで多種多様であり、未だ十分に利用されていない。木質バイオマスの利用は、温暖化の防止だけでなく、これらを利用した産業育成等による山村の活性化を図る面でも注目される」(「平成15年度森林及び林業の動向に関する年次報告」(森林・林業白書)より)
 林野庁が平成十五年度森林・林業白書でこのようにまとめたように、国は木質バイオマスのエネルギー利用推進に取り組んでいる。木質バイオマスの利用法では、長野県では学校等へのペレットストーブ・ボイラー導入促進への取り組みで、一般にも比較的よく知られるところ。また液化や気体化への技術開発も進められ、液体燃料となるエタノールや気体燃料であるメタンガス等の利用も考えられている。
 木質バイオマスの利活用促進については、02年12月の「地球温暖化防止森林吸収源十カ年対策」(農林水産省)で取り組みが定められた。これを受けて「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定。大気中の二酸化炭素を増加させないという特性を持つ、木質バイオマスを含むバイオマスを総合的に最大限利活用することにより、持続的に発展可能な社会づくりをめざす。
 現在、わが国の一次エネルギー総供給量は5億3千8百万キロリットル。その約半分は石油でまかなわれ、太陽光、風力、バイオマス等の新エネルギーは1%程度にすぎない。ちなみに新エネルギー供給先進国であるスウェーデンでは総供給量の約27%(99年)が木質バイオマスエネルギーを中心とする新エネルギーでまかなわれているという。
 「バイオマス・ニッポン総合戦略」では、木質バイオマスを含めた廃棄物系バイオマス、未利用バイオマス等の年間総バイオマス量を原油換算で約3千5百万キロリットル、一次エネルギー総供給量の約6%まで高めることをめざす。


地球温暖化防止のほか、多くのメリットを持つ木質バイオマス

 木質バイオマスとは、樹木の枝葉、被害木、森林内に放置された間伐材木等の林地残材、製材工場等で発生する端材やおが屑、住宅の建築や解体の際に発生する建設発生木材など。これらを合わせて年間3千7百万m3に達するが、その半数程度は未利用のままとされている。
 木質バイオマスの利活用においては、化石燃料の利用量を低減させる効果に加え、以下のようなメリットが期待されている。

1. 二酸化炭素の排出を抑制し、地球温暖化を防ぐ
 木質バイオマスを燃焼することによって放出される二酸化炭素は、もともと生物が光合成によって大気中から吸収したもの。化石燃料とは違い、循環的に利用できるうえ、二酸化炭素の追加的発生を抑えることができる。

2. 廃棄物の発生を抑制する
 製材工場等で発生する端材や建設発生木材などは利用されなければ廃棄物となるだけ。これらがエネルギーとして有効に利活用されることで、廃棄物を減らすことができる。

3. エネルギー自給率の向上
 エネルギー需要の多くを化石燃料の輸入に頼る日本。エネルギー源の多様化、リスク分散の一助となる。

4. 森林の適切な整備への貢献
 森林機能を十分に発揮させるためには、間伐や伐採など適切な森林設備が不可欠。それにともなって発生する林地残材が燃料としての価値を持つことで、林業経営にも寄与し、森林設備推進にもつながる。

5. 山村地域の活性化
 林地残材など地域の未利用資源の収集・運搬、バイオマスエネルギー供給施設や利用施設の管理運営といった、新しい産業と雇用が発生。山村地域の活性化に貢献する。


林業・木材産業の育成、新産業創出、山村の活性化でも高まる期待

  このように木質バイオマスのメリットは、地球温暖化防止、資源再利用という環境面だけにとどまらない。厳しい状況が続く林業・木材産業や山村の活性化をうながすという面でも期待が高まる。
 林野庁では林業・木材産業の構造改革を図り、新たな発展をめざす補助事業として「林業・木材産業構造改革事業」を実施している。これは林業経営の効率化や木材産業の構造改革などを目的に、路網整備、高性能林業機械の導入、木材加工流通施設、特用林産物の生産加工施設の整備等に対して助成するもの。助成対象は森林組合や林業者等の組織する団体、木材関連業者等が組織する団体。
 同事業では地域材の利用促進を図る事業の一環として、木質バイオマスエネルギー利用促進事業を実施。木質バイオマス資源をバイオマスエネルギーとして活用するバイオマス発電施設、熱供給施設、ペレット製造施設や、木質バイオマスエネルギー利用施設を補助対象としている。
 また長野県でも、県産材供給体制整備事業(森のエネルギー推進事業)として、木質バイオマスエネルギーの利用推進を図っている。これは県内の森林資源の有効活用と新たな産業の創出により、地域の活性化を図るとともに、循環型社会の構築をめざす取り組みだ。
 今回、長野森林資源利用事業協同組合が建設した木質バイオマス発電施設は県事業の適用を受け、林業・木材産業構造改革事業からの助成を得た。


事業協同組合が建設した、
県下初の木質バイオマス発電施設「いいづな お山の発電所」



木材チップを燃料にした発電で一般家庭2千戸分を売電

 長野市街地の北、浅川地区から真光寺ループ橋を通り、飯綱高原・戸隠へと続く県道戸隠高原浅川線。
 よく整備された山間の道路を上っていくと、途中の中曽根地区に長野冬季オリンピックでボブスレー・リュージュ競技が行われた「スパイラル」がある。総延長1700メートル、標高差113メートルのコースは東洋一。冬期は競技施設としてワールドカップ等にも利用され、それ以外は公園として一般公開されている。
 長野森林資源利用事業協同組合が建設した、長野県初の木質バイオマス発電施設「いいづな お山の発電所」は、このスパイラルのほど近くにある。
 同組合は木質系廃材を利用したボイラー発電施設の設置および管理運営、木質チップ加工品等の共同販売などを主たる事業目的とし、03年5月に設立された。地域で営業する林業事業者、産業廃棄物処理業者、建設業者、製材業者、肥料製造業者など7社が構成員となっている。
 同施設では、組合や組合員の事業を通して確保される建設発生木材や製材端材、間伐材などをチップ化。それをボイラーで燃焼、発生させた蒸気でタービンを回して発電し、中部電力に売電する。売電契約期間は15年。
 発電出力は一時間あたり約1000キロワット(自家消費を除く)。1カ月の発電量で一般家庭2千戸分の電力をまかなえるという。燃やす木材チップは一時間に約2トンと膨大な量だが、化石燃料は一切使わない。焼却灰は堆肥化施設で補助材として利用する。


事業協同組合を設立し、経産省新エネルギー事業認定を受ける

 同組合の宮澤政徳理事長は事業化の背景についてこう話す。「98年頃から公共工事から発生する伐採木や廃木材を引き取り、特殊堆肥、吹き付け用基盤材、家畜用敷き材等に再生利用する事業に取り組んできました。ところが大幅な公共工事の削減で需要が激減。さらに特殊堆肥の流通にも大きな不安を感じるようになりました。その一方で、木材チップの不法投棄、野積みも問題化していた。そんな状況の中で、木材チップを最終的にエネルギーに変える事業の有益性に着目したのです」。
 宮澤理事長らは国内やヨーロッパのバイオマス先進利用各施設を視察。木質系廃材を燃料にして得られるエネルギーで発電し、電気としてリサイクルする収益事業計画を立てた。そして事業化のためには国庫補助金が必要不可欠と判断し、事業協同組合の設立を選択した。
 組合設立後のスケジュールはかなりタイト。
 同年10月に経済産業省新エネルギー事業計画書を、11月に県産材供給体制整備事業計画申請書をそれぞれ提出。翌04年1月に県産材供給体制整備事業の補助金交付が決定し、6月に工事着工。11月RPS認定(経済産業省新エネルギー等発電事業者事業認定)が下り、中部電力との契約を締結した。「補助金交付決定後すぐに着工したかったのですが、三重県の同様施設で事故があり安全管理審査がかなり厳しくなった。それで着工が半年近く遅れ、8、9カ月で完成しなければならなくなりました」(宮澤理事長)
 そして05年3月に竣工。4月19日完成式典を行い、24時間の通常操業を開始した。総工費は7億円余り。そのうちの2億9千万円はRPS認定による補助金でまかなった。「国、県へ提出する申請書の作成からプラントの建設手配まで、コンサルタントや商社などに任せることなく、すべて組合内で手がけた。それでかなり経費節約ができたと思う」と宮澤理事長は胸を張る。


既存インフラの利用など、恵まれた環境条件も

 同施設が比較的スムーズに事業をスタートできた背景には、その恵まれた環境条件も大きい。ひとつには県林務部の後押しがあり、RPS認定による補助金が得られたこと。
 そしてもうひとつは、すぐ近くにボブスレー・リュージュコース、スパイラルがあったこと。このような発電施設を新設する場合、電力会社の最寄り変電所まで業者側が自前で高圧線を引く必要があり、その経費だけで一億円ほどかかるという。スパイラルにはすでに高圧専用線が引かれており、その既存インフラを利用できたため「数十万円ですんだ」という。
 またリサイクル事業立ち上げに対し、長野市および関係行政機関の理解と協力・支援が得られたことと、施設設置にあたり地元の同意と協力が得られたことも大きい。組合員は地元で古くから山林事業に携わってきた事業者。長きにわたって築いてきた地元との良好な関係の成果といえるだろう。
 現在、同施設の運転に関わるスタッフは4人。「24時間自動運転とはいえ、かなり厳密な操作が必要」(宮澤理事長)なため、所長には電力会社から転籍したボイラー・タービン技師、副所長には電気主任技師とそれぞれベテランを配置した。
 「人員はこれでも多いかなと思っています。当施設はあくまでも収益事業であるため、労務費(一般管理費)をどれだけ圧縮できるかが課題。本来、保安要員等を考えれば五名程度必要なのですが、その分の労務費を自前でまかなうのは厳しい」と打ち明ける。施設採算に見合った事業運営をいかに進めるかがカギだ。
 スタートして約2カ月(5月17日現在)。特に大きな問題は発生していないが、トラブルが発生した際、プラントメーカーといかにスピーディーに連携するか対策を練っているという。「これからいよいよ出力アップを図り、本格的な売電体制に入ります」。


木質バイオマス発電プラントその仕組み

図(1)
バイオマス発電ブランドのしくみ
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 同施設のバイオマス発電プラントの仕組みは別図(1)の通り。発電プラントは主要設置機器として燃焼炉、ボイラー、タービン発電機、水冷復水器等からなる。組合員である宮澤木材産業(株)リサイクルセンターでチップ化した木くずを組合が燃料として買い取り、ボイラーを運転。ここで発生した蒸気によりタービン発電機を回し、発電するシステムだ。
 燃焼炉は含水率50%までの木材チップの燃焼が可能で、一次、二次燃焼により完全燃焼させる。炉内燃焼温度を約1,000度まで高温にすることにより、ダイオキシンの発生を抑制する構造だ。ボイラーは熱回収率が良く、リリーフバルブによる安全設計。排出される焼却灰は堆肥化設備に引き取られ、堆肥の補助材として再利用することとした。


発電装置
●発電装置
木材チップのボイラー燃焼により発生した蒸気でタービンを回し発電する、水冷復水式多段タービン発電装置(出力1,300kW/h)。
中央制御装置
●中央制御装置
プラントを集中的に制御管理する中央制御装置は同施設の心臓部。中央監視室のモニターにより、燃料供給、燃焼温度、蒸気発生量、発電量などのデータを24時間リアルタイムで監視し、安全なプラント運転を実現している。
供給される木材チップ
●供給される木材チップ

燃料供給装置
●燃料供給装置
燃料となる、建設発生木材や製材端材、間伐材などの木材はすべて50mm以下にチップ化。隣接するストックヤードに一時貯留しておき、順次燃料供給装置に投入する。
ストックヤード
●ストックヤード
燃焼装置
●燃焼装置
燃料となる木材チップは定量的に搬送され、焼却炉に投入される。トラベリングストーカーという、キャタピラ状の火格子がゆっくり動きながらチップを完全燃焼させる。炉内は約1000℃の高温。

排煙処理装置
●排煙処理装置
燃焼後の排煙は200℃以下に急速冷却。
集じん・バグフィルターを経て、微細な粒子や有害物質等を除去した後、排気される。


「いいづな お山の発電所」の将来展望と課題

長野森林資源利用事業協同組合理事長 宮澤政徳

 森林における未利用資源活用への調査研究が進められるなか、長野森林資源利用事業協同組合はこのたび長野県下初の試みとなる木質バイオマスによる発電施設を設置し稼働しました。関係各方面の皆さまのご支援・ご協力に心より感謝申し上げます。
 木は地球温暖化防止に寄与する再生可能なエネルギー。しかしこれまで、山間地において発生する廃材はなかなか資源として生かし切れない状況にありました。これを燃料として積極的に利用する施設が稼働できることは、山林事業を営む者にとって大きな活路を拓くものです。
 当施設の規模は小さく、発電量もそれほど多くはありませんが、市街地の一般家庭二千戸分の電力をまかなうというとても重要な役割を担います。それだけに長期間にわたり安定的に電力を供給していくことが大命題。さらに派生するエネルギーを利用した周辺温熱利用施設開発への協力も視野に入れ、この施設を核として、将来さまざまな可能性も模索していきたいと考えています。
 当事業は、年間を通じたバイオマス燃料の絶対量確保、電気事業者との売電量および単価の取り決め、施設運営の経済的見通し、技術的安定性のある機器導入と管理技術者の確保・育成など、さまざまな課題も抱えています。それらをひとつひとつクリアしていくことで、協同組合事業として長期的かつ安定的な経営を実現していきたいと考えています。
 当組合は木質バイオマス発電事業のパイオニアとして、技術ノウハウの蓄積に努めるとともに、当該施設やシステムを広く公開しノウハウを提供。山間地域の未利用資源を有効活用するパイロット的事業として、これが他地域にも波及していくよう積極的に協力しています。
 木質バイオマス発電の促進が化石燃料からの転換を図り、二酸化炭素の排出を削減し、地球温暖化対策の一助になることを期待してやみません。

長野森林資源利用事業協同組合プロフィール

所在地 長野県長野市中曽根2188番地5
設立年月日   平成15年6月4日
代表理事   宮澤 政徳
地 区   長野市、須坂市、長野県上水内郡信濃町、長野県上水内郡牟礼村
出資金   7,000,000円
組合員数   7社
組合員資格   素材生産業、木製品製造業又は木質系産業廃棄物等収集運搬処理業を行う事業者
主たる事業  
組合員の取り扱う木質チップ加工品等の共同販売
組合員のためにする木質系廃材を利用したボイラー発電施設の設置及び管理運営
組合員のためにする木質チップ等の利用に関する調査研究
組合員の事業に関する経営及び技術の改善向上又は組合事業に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
組合員の福利厚生に関する事業



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