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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

元気な企業を訪ねて-チャレンジャーたちの系譜-

“~ 欧米型の本当に豊かなリゾートの実現をめざして。
「国際価格」の提供でリゾートホテル100店舗をめざす~”

石田 浩一さん
株式会社パイプのけむり
代表取締役社長 石田 浩一さん

一泊二食付き4980円で100店舗をめざす

 北アルプスの麓ならではのビッグスケールを誇る、八方尾根スキー場(白馬村)。長野冬季五輪ではアルペンスキーとジャンプ・ノルディック複合の会場となり、日本ジャンプ陣の感動的な金メダル獲得シーンの舞台となったところだ。
 ホテル、ペンションが数多く林立する八方尾根地区のなかでも、”八方銀座“の趣をなすゴンドラリフト駅周辺。「白馬ホテルパイプのけむり」はその一角にある。あかあかと火が灯る暖炉のあるロビーがリゾートホテルならではのリラックスした雰囲気を醸し出している。
 その最大の特徴は、一人一泊二食付きで4,980円(平日4人一室利用)という圧倒的な安さ。しかもロビーの雰囲気からもうかがえるように、施設や料理も決して見劣りしない。
 この低価格路線を武器に現在、白馬、軽井沢、白樺湖、箱根大平台、箱根小涌谷、箱根強羅(今年4月15日オープン)の6店舗を展開。箱根大平台93%、箱根小涌谷80%など、いずれも高い年間稼働率を誇る。夏には静岡県熱海に7店目を出店予定で、同社では100店舗の実現をめざし積極的に多店舗展開を図っていく計画だ。
 「現在、全国に国民宿舎は232カ所、温泉地は3,000カ所ある。それを考えれば100店舗は十分実現できる数字だと考えています」と、パイプのけむりの石田浩一代表取締役社長は自信満々だ。

観光は次代を担う重要な産業である

 グローバリゼーションの急激な進展のなかで近年、世界各国が「観光」の持つ政治、経済への多大な効果に注目、その拡大に取り組んでいる。日本でもようやく03年から「観光立国」実現に向けた取り組みを開始。モノづくりをベースとする「貿易立国」一筋だった従来路線から修正を図りつつある。
 日銀松本支店の橋本要人支店長も観光産業の重要性について次のように話している。
 「製造業はある程度の段階にいくと、まさしく今起こっているように、労働コストの違いから労働集約的な部分は発展途上国に移っていかざるを得ない。そうなった時、どうやって雇用を確保するかというと結局、サービス業にいく。産業のサービス化の進展は、その国の経済が高度に発達してきていることに他なりません。そういう意味で観光産業は次代を担う重要な産業だと思います」(本誌05年1月号「特集・新春対談」より)。 
 ところが、わが国の現状はというと―。
 「リゾート白書2004」(リゾート事業協会)によれば、一人当たり年間旅行宿泊数はドイツ17.1泊を筆頭に、イギリス16.1泊、フランス15.8泊、アメリカ12.7泊。対して日本は3.9泊。その一方で、宿泊施設などにかかる一泊当たり旅行消費額では、ドイツが8470円なのに対し、日本は33,580円と欧米先進国の2~4倍ものコストがかかっている。

貧しい日本のリゾートに『国際価格』を提供する

 こうした現状を打破し、貧しい日本の観光事情を一変させる起爆剤となること。それが百店舗をめざす同社の本当の目的だ。
 「日本の旅行の原点はお伊勢参り。長い間コツコツと貯金し、一生一度の旅だからと大散財した、その感覚が今も残っているんですね。一方、欧米の人々は十数日の旅の間、普段と同じようにとてもつつましやかに過ごしますが、何度も出かけます。お金は使いませんが、とても豊かなリゾートライフを楽しんでいる。リゾートは人がリフレッシュするためになくてはならないインフラだと思います。高級ホテルも必要ですが、ファミリーや友人と気軽に行く旅行では、コンパクトでも清潔な部屋が用意されているリーズナブルなホテルも必要でしょう。そのどちらも存在しているのが豊かな社会であり、その時々でどちらかを選択できるのが豊かな生活だと思う。そういう意味で、日本のリゾートは貧しい」
 リゾートは人間にとってなくてはならないインフラ。だからこそ欧米並みに無理なく旅行が楽しめる価格と、快適なリゾートライフが楽しめる最低限の機能を提供する。それが石田社長の信念だ。
 「当社はいわゆる安売り屋とは違う。欧米で当たり前の価格、つまり『国際価格』を提供しているのです。やがて日本のリゾートホテル業界もこういう価格に収れんしていくのではないか。だから私は低価格で機能の揃ったホテルを展開していこうと、それがビッグビジネスになると考えているんです」

海外業者と直接取引し、国際相場でモノを仕入れる


 「今、この料金でこれだけの品質を提供できるホテルは少ない」と胸を張る石田社長。「国際価格」が実現できる理由、その秘けつを「国際相場でモノを仕入れること」と明かす。
 食事は合理的なバイキング形式に統一。食材は生鮮食品を除き、多くを海外から直接輸入する。食材の選定は自ら現地の業務用食品問屋に足を運び、サンプルをキッチン付きのホテルで調理して食べてみて良いものを選び、メーカーと直接契約。年間数トンもの輸入量になるというコーヒーの場合、関税、運賃、保険、取扱手数料などすべて入れても日本の五分の一程度だという。缶詰スープなどホテル向け半完成品が主体なので、アルバイトやパートでも簡単に調理でき、人件費削減にもつながっている。
 食材だけでなく、ホテルの建設資材の多くも直接輸入し、建設を請け負う業者に支給している。例えば、日本製だと30万円ほどするペアガラスの窓はアメリカ製で18,000円程度。ロビーの美しい大理石や御影石は中国から輸入しているが、施工の手間賃を含めても数十分の一。さらにカーペット、イス、テーブル、ベッド、ソファから照明器具、絵画まで、日本とは文字通り「ひとケタ違う」価格で購入している。

 国際相場で仕入れる条件は、商社を通さず世界各国の個々の業者と直接取引すること。そのため同社では必ず現地に行き直接コミュニケーションをとりながら、取引先として本当に信頼できる相手かどうかをじっくり見極める。リスクの大きさを考えれば手間暇は惜しまない。
 「中国との取引では石の産地まで行きました。相手は日本の見本市会場で知り合った中国の業者。日本の見本市に出店するくらいの会社なら大丈夫だろうという気持ちもありましたが、実際に現地を訪れて会社の実態をしっかり確かめ、相手トップと食事をし酒を酌み交わし、その人となりにも触れました。今ではお互いに確かな信頼関係を築いています。中国の人は一度信頼すればとことんつき合ってくれる。建設中に材料が足りなくなるなど不測の事態が起こっても、すぐに対応してくれますよ」

社長業は説得業。ビジネスの極意は「説得」に

 奈良県出身の石田社長が白馬村で創業したのは今からちょうど30年前の75年。現在本社としているのが当初の建物だ。
 京都外国語大学在学中から信州のリゾート地でアルバイト。28歳の時、白馬村内のホテルで四年間修業したフランス料理の腕を生かし、8室のペンション「ヒュッテパイプのけむり」をスタートさせた。
 ヨーロッパ風の建物、フランス料理と自家製パン、そしてまだ珍しかったチーズケーキが人気を呼び、ペンションブームのさきがけに。3年後には本格フランス料理とリッチな雰囲気をめざした「ホテルパイプのけむり」をオープンし、一躍高級リゾートホテルの仲間入りを果たした。
 その後、増築を繰り返し、200名収容のホテルとして営業。スキーブームもバブル景気も絶頂期を迎え、まさに順風満帆だった89年、同社はそれまでの高級ホテルから、バイキング形式の食事を主体とする低価格ホテルへとドラスティックな業態転換を行う。その理由は前述した通りだ。
 構想を打ち出した時、まず驚いたのは社員たち。「白馬一高い高級店に憧れて入ったのに、白馬一安いホテルになるわけですから、もう詐欺みたいなもの(笑)。もちろんみんなから反対されました。でも私は説得するのがうまいんですよ(笑)」。
 石田社長は「社長業は説得業」だという。この時も社員の不安をひとつひとつ解消すべく、連日夜を徹して徹底的に議論。それでも社員の動きが鈍いと見るや、1カ月だけ実験してみようと提案し、予想通りの結果を導く。「さらに、シーズンオフにこれだけお客様が来たらみんなにボーナスを出すと言ってやってみたら、また軽くクリアした。社員には10カ月分ものボーナスを支給しましたよ。社員の意識はそれで俄然変わりましたね」。同社の低価格路線転換はこうして動き出したのである。
 当初から会社の財務内容はすべてオープン。この時も分かりやすい数字を上げることができたのも社員のモチベーションアップにつながった。現在同社ではストック・オプションを導入し、モチベーションを高める努力を続けている。
 石田社長にとって「説得」はビジネスの基本。それは出店に不可欠な不動産取得においてもいかんなく発揮され、バブル時代の数十分の一で購入したこともあるという。「もちろん相手の弱みにつけ込んだり、脅すような交渉の仕方ではありません。相手の言うことをきちんと聞いた上で、こちらの提示額の順当さを理路整然と示し説得した結果です。ビジネスにおいて『説得』はとても大事な技術だと思います」。

100店舗実現に不可欠の株式上場に向け着々と準備

 同社は制度資金、雇用促進資金といった各種中小企業支援施策の活用においても積極的だ。「かなり手厚く制度が整っていると感じています。メーンにしている政府系金融機関もいろいろな制度資金を紹介してくれるので頻繁に利用しています」と石田社長。
 今年2月には政府系金融機関を引受先とする私募債(5000万円)を発行。低コストで調達した資金は、四月オープンの箱根強羅ホテルパイプのけむりの設備投資資金の一部に充てた。
 これは同社の事業計画と資金計画の確かさ、中小企業としての信用度の高さを裏づけるもの。また一方では、普段からの積極的な制度活用を通じて、政府系金融機関等と良好な関係を保っていることの表れでもある。
 もっとも今後、リゾートホテル百店舗構想を実現するために絶対に欠かせないのが、株式市場からの資金調達。同社ではすでに株式上場に向け着々と準備を進めており、石田社長は「近い将来、ジャスダックあるいはマザースへの上場を検討している」と打ち明ける。
 「上場したら10年で達成できますよ」。百店舗達成の見通しをたずねると、石田社長は事もなげに即座にこう答えた。



プロフィール
石田 浩一さん
代表取締役社長
石田 浩一
(いしだこういち)
中央会に期待すること

中小企業施策についての提言
 制度資金の申請書類作成の指導から、中小企業経営におけるさまざまな具体例に基づいたアドバイスまでよくご指導いただいています。本当にざっくばらんにいろいろと相談に乗ってもらえるのがありがたく、企業経営にとても有益です。中央会をあまり利用されない中小企業経営者も多いようですが、もっと中央会に相談を投げかけ利用することをお勧めしたいですね。

経歴 1948年(昭和23年)6月生まれ
1972年3月 京都外国語大学ドイツ語学科卒業
1975年4月   ホテル白い小屋(白馬)でフランス料理修業終了(4年間)
1975年12月   白馬パイプのけむり創業(8室)
1979年9月   (有)パイプのけむり設立。代表取締役社長に就任
1988年1月   (株)パイプのけむりに組織変更
1992年7月   軽井沢ホテルパイプのけむりオープン
1995年6月   白樺湖ホテルパイプのけむりオープン
2000年12月   箱根大平台ホテルパイプのけむりオープン
2003年2月   箱根小涌谷ホテルパイプのけむりオープン
2005年4月   箱根強羅ホテルパイプのけむりオープン
出身   奈良県大和郡山市
趣味   海外旅行。北米、中国は仕事もかねてよく出かけるが、今一番行ってみたいのが南米。また、以前行ってとても感動したシルクロードの旅はぜひもう一度辿ってみたいと考えている。
家族構成   独身

企業ガイド
(株)パイプのけむり

本社 〒399-9301 北安曇郡白馬村八方
TEL.(0261)75-1216(代) FAX.(0261)72-6068
創業   1975年9月
資本金   1億560万円
事業内容   リゾートホテル事業
事業所   本社(白馬村)、軽井沢、白樺湖、箱根大平台、箱根小涌谷、箱根強羅
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