特集1 建設業における新たな経営管理手法
~上田市建設事業協同組合の経営管理ソフトの開発事例から~
公共事業が減少していく中で、経営の効率化・高度化を目指し、上田市建設事業協同組合では、日々の業務日報情報を集計、分析し、経営管理シミレーションを行うことで、迅速な経営判断が可能となる経営者のためのアプリケーションを開発いたしましたので、その内容をご紹介いたします。
全国中小企業団体中央会助成事業
平成16年度中小企業活路開拓調査・実現化事業
(組合等情報ネットワークシステム等開発事業) |
【実施テーマ】
『日報情報による経営管理シミュレーションアプリケーションの開発』
(1)経過
平成15年度「地域における建設産業再生のための先導的・革新的モデル構築の支援調査事業((財)建設業振興基金助成事業)」を実施し、上田市建設産業の現状について調査。
調査内容
①組合員企業の現状業務の分析とその問題点の抽出
②既存ASP(*1)ソフトの適用性評価と改良内容の整理及びコスト見積
その結果、経営管理情報の的確な収集が困難で、経営者の多くがリアルタイムでの意志決定ができないことが判明した。それを踏まえ平成16年度において「経営管理システム」の開発に取組みました。
(*1 ASP ビジネス用のアプリケーションをインターネットを通じて顧客にレンタルする事業者のこと。顧客は業者が保有するサーバーにインストールされたアプリケーションソフトを利用する。)
(2)目的
日報管理を基にした経営管理シミュレーションアプリケーションの開発に取り組み、迅速な経営判断のできる仕組みを確立することで上田地域建設産業の経営効率の改善を図ることを目的とする。
(3)本開発の特徴
1. |
本開発での週間計画日報のコンセプト一週間計画日報では、週単位のPDCAを可能にします。 |
① |
今週または来週行う作業についての実施計画(Plan)を立て、目標設定します。 |
② |
計画に対して作業実績を入力(Do)することにより、目標に対しての達成度の確認ができます。 |
③ |
週間の計画と実績を対比・分析(check)することができます。又、全体工程とのチェックをすることも出来ます。 |
④ |
分析結果から対策を立案して次週の計画に盛り込む(Action)ことが可能となります。 |
2. |
週間計画日報では、週ごとに対策(Action)を行うことで、様々な問題を解決することが可能となります。 |
① |
月間に比べて週間PDCAを行うため、早期に対策が実現できます。 |
② |
前週の対策を次週の週間工程に盛り込めるため、確実な対策の実施が実現できます。 |
③ |
上司が工程の作成指導及びチェックをすることで若手社員の教育訓練のOJTにも活用できます。 |
④ |
週単位に原価の発生・管理を行うことで、全社員の原価意識を向上させることができます。 |
3. 週間計画日報では、原価・進捗状況を詳細に管理・分析することが可能となります
従来のシステム
① |
月単位での予実管理・分析 |
② |
期間での予実管理・分析 |
新機能搭載システム
① |
日単位での予実管理・分析 |
② |
週単位での予実管理・分析 |
③ |
月単位での予実管理・分析 |
④ |
期間での予実管理・分析 |
4. |
週間計画日報では、週間工程計画を導入することで現場単位のPDC及びA(対策)をシステムに反映させることを実現しました。
これにより、経営判断を行う上でもっとも大切な経営情報の精度とスピードの向上を図り、建設業における経営革新を可能にします。 |
(4)既存システムとの比較
1. 特色と効果
① |
全従業員が各業務での計画に対して費用を数値化する。(社内、社外、物品、その他必要経費) |
② |
日々管理することにより年間スケジュール、予算を基にリアルタイムな集計が出来る。 |
③ |
数値目標に対する方向性が速やかに判断でき対策がピンポイントに指示可能となる。 |
④ |
経営全般の、経過日数(X/365日)でのシミュレーションが可能となる。 |
(1)システムの全体像
平成15年度の調査事業での成功要因を導き出す上田市建設事業協同組合員企業(地元ASPサービス会社(株)シーティーエスのサーバーを利用)を基に「日報情報による経営管理シミュレーションアプリケーション」を開発。
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(2)既存ASPとの関連 |
(3)本開発週間計画日報の位置付け |
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(4)本開発での運用方法
運用形態として、利用する場所からインターネットを使いASPデータセンターに接続し利用する。
セキュリティと信頼性が確保され、使用するユーザーの負担軽減にもなる。
ASPサービス
(5)開発内容
週間計画日報の入力画面
○ |
実行予算書の全体工程表より、実施する週の工程を抽出する事により週間計画日報の内容が自動的に実行予算書より抽出され表示される。 |
○ |
予算数量と前週までの実績から予算の残数を基に次週または今週の計画(上段)を立案する。 |
○ |
実際に行なった作業計画に対して実績数値を入力(下段)すると週間の進捗状況を把握する事ができる。 |
○ |
週間計画日報を確定し、日々の実績を週間計画日報に入力する。 |
☆ |
実行予算書を週間計画の予算書にする事により、日報入力の精度の向上に繋がる。 |
☆ |
週間計画日報を作成する事により、達成目標(週全体、日々)を集約する事ができる。 |
週間計画日報の種別毎の入力画面
○ |
週間計画日報の入力を全要素入力、材料、労務、外注、経費、機械費、その他と科目毎の入力もできる。 |
○ |
週間計画日報だが、通常日報と同じにコメントの入力が出来、上長からのリターンも受ける事ができる。 |
明細書の作成
○ |
仕入れ先、単価、数量、人員の変更に伴い、明細書の作成が出来る(科目毎) |
○ |
変更が発生した場合、変更予算明細が作成できる。 |
☆ |
明細書を作る事により、精度の高い原価管理が可能となる。 |
計画実績集計表(原価グラフ)
☆ |
週間計画日報に実績と出来高を入力する事によりグラフ化が出来、どこで問題が発生したのかのチェックが出来る。又、集計内容を変更することで科目毎の問題点の抽出が可能となる。 |
☆ |
工事、プロジェクトの始まりから入力する事で、問題点への対応をリアルタイムに対処する事が可能となる。 |
☆ |
グラフで見ることにより、工程計画の適正性の把握、指導が可能となる。 |
☆ |
原因究明手段として、科目別グラフで分析したところ外注費が11月第2週で超えていた為に問題点に繋がった。しかし早急に対処し12月第1週目で修正出来た。 |
手書き報告用の作業指示・報告書
☆ |
パソコンが苦手な人、インターネットに接続出来ない現場の場合、FAX等でも日報を報告する事が出来ます。 |
☆ |
日報報告書には、画面と同じ情報のほかに出面や材料・経費・外注・機械等を記入し、普段の日々日報と同じ感覚で記入することが出来ます。 |
☆ |
外注日報は、外注業者用も用意し、現場に社員が常駐しない現場でも、外注業者が記入する事により指示書と報告書にする事が出来ます。 |
本開発事業において『日報情報による経営管理シミュレーションアプリケーションの開発』は完成された。又、本アプリケーション開発ができたことにより、前年度調査事業からの問題・課題解決への糸口をつかむことになり目標へ近づいた。
下表「開発目標に対する成果」のとおり、ほとんどの目標に対して達成できてきた。前年度調査事業での残された課題についても、本開発事業により、先を見る事が可能になった。しかし、本開発事業で開発したアプリケーションを、組合員企業が運用できて本開発事業目標の達成と考える。
本開発は、「日報情報による経営管理シミュレーションアプリケーション」の開発であり、日々の業務日報情報を効率的に集計・分析でき、経営管理シミュレーションを行なうことで現在よりも迅速な経営判断が可能となるアプリケーションである。
運用目的としては、組合員企業のイニシャルコスト、ランニングコストを出来るだけ抑える事、組合員企業の規模を問わず運用できることを前提に開発を行なった。
- イニシャルコスト・ランニングコストを抑えるには、新たなパソコン等のハードの導入を行なわず、現在使用しているパソコンで運用できる仕組みとして、インターネット経由でASPデーターセンターへ接続して利用できることにより、サーバー設置・管理、セキュリティ管理が不要になり、イニシャル・ランニングコストが大幅に軽減できる。又、インターネット環境があれば、本社、支店、営業所、現場事務所、自宅でも利用できる。
- 企業規模を問わず運用できる方法として、サーバー設置がいらない、利用人数に応じての契約ができる。又、パソコン不慣れな方は手書き日報を書き、パソコンが出来る人が代行入力を行なう事が可能となった。
- 各企業に合った運用方法の提供、運用指導、操作指導が受けられ、サポートセンターによる導入指導が受けられる。
項目 |
自社導入 |
ASP |
ハード |
サーバー、クライアントPC用意 |
クライアントPC(現在使用している物でもOK)用意 |
ソフト |
アプリケーション・データベース・OS用意 |
アプリケーションのみ用意 |
運用管理 |
システム管理者が必要 |
システム管理者不要 |
維持管理 |
サーバーのメンテナンス人件費、電気代、サポート料 |
サービスの定期使用料 |
社内インフラ |
LAN構築、インターネットが必要 |
インターネット環境 |
セキュリティ対策 |
ウイルス対策ソフトが必要 |
なし ASPデーターセンターで対応 |
バックアップ |
定期的にバックアップが必要 |
なし 〃 |
地震・火災・停電・故障 |
データ消滅。故障時はストップ |
心配なし 〃 |
サーバーの買い替え |
定期的に入れ替え |
なし 〃 |
|
ASPデータセンターを利用し、本事業で開発したアプリケーションの利用サービスを組合員向けに行う。
順次
- 地域の拡大
- サービス内容の拡大
- 新技術、施設環境整備、拡充を行う。
- 組合員に、新しい技術・システム情報提供サービス。
- 新コンテンツテンプレートの開発。
今回の本開発事業で、昨年の調査事業で残された課題が解決できた。上田市建設事業協同組合の組合員向け『日報情報による経営管理シミュレーションアプリケーション』の開発完成に伴い、上田市建設事業協同組合、又、組合員企業が、これからの時代で生き残るための条件とは何かをみると、他地域、他社と差別化できる明確な特徴を持つ事と、時代に取り残されない状況変化に対応できるしくみ、迅速な経営判断を実践できる組織体制、情報システムが整備されていることが重要と考えられる。日々変化する経営環境に対応でき、中小企業の経営資源を効率よく運用・展開する手法、手段、戦略を新たな枠組みでの機能が求められている。現在の経営環境の変化は、従来の中小企業の企業行動の前提を突き崩しているだけでなく、当事業協同組合の基盤をも大きく揺り動かしており、まさに当事業協同組合として本開発事業が新たなビジネスモデルへの展開に結びつく事への可能性を伸ばすツールになればと考える。
しかし、本開発事業での開発アプリケーションを組合員各社が運用すれば、単なる値引き競争や、仕事の奪い合いを激化させるツールになる恐れがあり、上田地域の中小建設業が、自らのビジネスを創造していくためには、自社のメリットやコアコンピタンスを活用し運用する事が重要である。
組合組織が組合員企業をサポートし、組合員企業が組合組織をサポートという相互の関係は、お互いの発展に永続的に寄与し地域経済発展のためにも重要である。
建設業の皆さんが元気になるための一助になることを念じて
上田市建設事業協同組合
理事長 平野 岩夫
|
私共、地方の中小建設業を取り巻く環境は改めて言うまでもなく、公共事業の減少、一般競争入札におけるダンピングの横行などにより急速に悪化してきています。そして更に厳しくなっていくことも避けられません。
ではどうすれば生き残っていけるのか、そしてできるものならば企業の発 展をも視野に入れるにはどうすれば良いのかを考えてみました。方法は大きく分けて次の2つの柱があると思います。
(その1)
本業(建設業)経営の強化
・ |
日々の変化に即対応でき、即経営判断が適正にできるようにする。 |
・ |
間接部門の省力化、経費の削減。 |
(その2)
新規事業への進出
今回の事業(建設業における新たな経営管理手法)を右記の内の(その1)を達成するために効果的な方策と位置づけました。
昨今IT化が叫ばれ、ITの進歩には目をみはるものがあります。そこでITとのコラボレーションで何か方法があるのではと思い、取り組むこととなりました。
手前みそにはなりますが、出来上がったソフトは当初の予想よりかなり良くできたと思います。このソフトを利用していただければ、例として次のような効果が期待できます。
通常、我々が仕事をすると取引先から毎月請求書が送られてきます。仮に工期が1ヶ月の工事であれば、経営者がチェックする時にはすでに工事は終わっていることも十分予想されます。これでは工事が赤字であっても手の打ちようがないわけで、対策も経営判断も存在しません。
こうした問題を解決しようというのが、本事業により完成したソフトです。日本中どこにもない使えるソフトだと自負していますが、このソフトを利用していただくことで、全国の建設業の皆さんが元気になります様念じております。 |
経営管理ソフトの開発に取り組んで
上田市建設事業協同組合
情報委員会委員長 宮原 政廣
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本事業は平成15年・16年に亘る事業で、組合の情報委員会活動の中心的役割を果たし、遅れている建設業のIT化の促進も含め「情報技術とは」の問に大いに役立ってきたと思います。
今回の経営者向けの管理用ツールとしたアプリケーションの開発については、まず3つの課題を委員会で協議いたしました。その内容は次の通りです。
- 技術的課題について
現行で市販及びオリジナルソフトを検討する中で、プロ化された操作や、セキュリティー、呼び出しツール等が複雑化されていて、マニアックな面が非常に多く入力方法等に多くの難関がある。
- 経済的課題について
まず、基幹ソフトを組合で独自に作るとなると5,000万円から1億円も掛かる。又、基幹ソフトの導入を組合員各社が検討いたしましたが、現在の市場性を考慮しても、売上げ比率としてこれへの投資は多く出せないが、間接費の軽減による中では、0.5%から1%位が上限ではないか。
- 取り巻く環境について
建設CALS・EC等、今後、進化するITに対応すべく設備、人材の育成は企業存続も含め、出来る所から進めて行く事が大切であり、組合として平成9年、新館の建設と合わせ一致団結し進化するIT化への対応として情報技術の先行をしてきました。
しかし、ここに来て大きく経営環境を改革せざるを得なくなり、公共工事減少、経済全体の落ち込み等の外的要因などによりTCOの削減が一段と要求されました。
以上3つの課題を総合的に委員会で検討をして地元企業(株)シーティーエスの基幹ソフトに日報管理のツールを載せて、「誰でも入力、いつでも入力、毎日結果、明日の対策」をキーワードに簡素化された表示、簡単入力をする事により、経営シミュレーション機能を持つ、アプリケーションと基幹ソフトが合体したCIS-SPを開発いたしました。
利用金額も全国の建設業の皆様に使っていただける内容としましたので、今回の事業の大いなる成果と自負できるのではと期待しております。 |
中央会におきましては、平成14年度に中小企業連携組織調査開発等支援事業の活用を提案し、情報担当職員等も委員として参加しながら組合員が保有する建設資・機材を有効利用するシステム構築のためのニーズ調査とインターネットを利用したネットワークシステムの研究を実施していただきました。この事業における提言を基に平成15年度には長野県中央会、全国中央会が連携して(財)建設業振興基金の助成事業に推薦し「地域における建設産業再生のための先導的・革新的モデル構築の支援調査事業」に取り組み、経営者の迅速な意思決定を行い効率的な経営をしていくためには、業務日報情報を集計し分析して活用することが重要との結論を得ました。さらにこの構想を実現をするため平成16年度には組合等情報ネットワークシステム等開発事業により、当初計画したとおり「日報情報による経営管理シミュレーションアプリケーションの開発」がここに完成しました。
このように3年間集中的に補助事業を導入できたことに加えて、いち早くインターネット環境を整えた役員、組合員の意識の高さ、そして全国にASPサービスを提供する㈱シーティーエス(上田市)と連携できたこともシステム開発が早期に実現した大きな要因と思われます。
今回の事業は、組合内の連携はもとより外部とのネットワークも活用しながら組合員の経営支援を進めるもので、中小企業連携のモデル事業であります。今後各企業が導入して成果を上げていただくために、中央会としても担当
者の研修等の面で支援をしていければと考えています。
(東信事務所)
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