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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 中小企業連携による新市場開拓の道しるべ

~中小企業政策審議会経営支援部会報告(平成16年12月)より~

 平成11年の中小企業基本法改正により「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」へと大きく転換した中小企業施策の政策理念。しかしながらその後、理念を具現化するために必要な各種施策について、総合的かつ抜本的な見直し、検討はなされてこなかった。
 今ようやく明るい兆しが広がりつつあるように見える経済情勢の中、どのような中小企業支援策が求められているのか。
 そこで経済産業省は平成16年9月、経済産業大臣の諮問機関である中小企業政策審議会に「経済社会環境の構造変化の進展を踏まえた中小企業の創業、経営革新等に対する支援策の在り方」について諮問。それを受けて同審議会では、既存の支援法体系等に対する利用者の声を踏まえた評価をもとに、多面的な視点からあるべき中小企業支援策についての審議を行った。
 その結果、現在施行されている中小企業支援関連三法を整理統合。中小企業が柔軟に連携して行う事業活動を支援する新法「中小企業新事業活動促進法(仮称)」を制定することとし、今国会に法案を提出した。
 本特集ではまず、現在施行されている中小企業支援関連法について解説。そして中小企業政策審議会経営支援部会が取りまとめた報告書「今後の中小企業支援の在り方について」から一部抜粋し、概要と新法についての考え方を紹介します。

現行中小企業支援関連法の評価と課題
「今後の中小企業支援の在り方について」(一部抜粋)
1. 市場に挑戦する中小企業支援に当たっての基本的考え方
2. 中小企業による新たな事業活動への支援
3. 事業者による新たな事業活動への取り組みを促す環境整備
4. 施策の展開に向けた共通的課題
5. おわりに
事例 新連携対策委託事業 自然エネルギー研究会

 


現行中小企業支援関連法の評価と課題

 現在施行されている中小企業支援関連法は「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法(中小創造法)」「新事業創出促進法」「中小企業経営革新支援法」の3つ。事業者の創業や経営革新を支援する目的で運用され、それぞれに成果を上げてきている。

①中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法(中小創造法)

 創造的な事業活動を通じた新事業分野の開拓を目的として10年間の時限立法として平成7年4月に施行された(今年4月廃止期限を迎える)。 支援対象は、創業段階にある企業(創業5年未満・4業種の企業)、研究開発型中小企業、研究開発等事業計画の認定を受けた中小企業者など。
 研究開発補助金や政府系金融機関からの低利融資、税制面での優遇措置、民間金融機関等からの資金供給を円滑にする信用保険制度の特例や個人投資家からの資金調達を支援するためのエンジェル税制などの支援措置がある。平成16年8月現在の計画認定件数は、わが国研究開発型中小企業の3割強に相当する約10,800件にのぼる。認定事業者の約半数が売上高を増加させるなどベンチャー支援の先駆的な法律として効果を上げる一方、研究開発後の販路開拓等の事業化に当たってのフォローアップ支援の充実を求める意見もある。

②新事業創出促進法

 長引く景気低迷の中で、人材や技術等の経営資源を有効活用し、新たな事業の創出を円滑にするための支援施策。支援対象は、創業者全般(創業を行おうとする個人・法人、または創業五年未満の個人・法人)、新事業分野開拓実施計画の認定を受けた事業者。
 新技術を利用した事業活動を支援する日本版SBIR制度の創設、支援機関のネットワークである地域プラットフォームの構築とともに、商法や信用保険制度の特例等を支援措置として講じている。

③中小企業経営革新支援法

 既存中小企業の経営革新の支援を目的とする。支援対象は、新商品・新サービスの開発・生産・提供、新たな生産・販売方式の導入などにより付加価値向上をめざすビジネスプラン(経営革新計画)の承認事業者。
 補助金や政府系金融機関からの低利融資、信用保険制度の特例や設備投資に関する優遇税制等を支援措置として講じている。経営革新を支援する中心的な機能を果たし、今後の支援法体系の構築に当たっても中軸的な位置づけが期待されている。一方で、中小創造法との重複性も指摘されている。

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「今後の中小企業支援の在り方について」(一部抜粋)

1. 市場に挑戦する中小企業支援に当たっての基本的考え方

 我が国の経済社会環境の構造変化と昨今の経済情勢、その中での中小企業の様々な取り組みを踏まえると、今こそ、中小企業基本法の政策理念をより直接的・効果的に具現化する施策体系の構築を目指し、環境変化の中で果敢に挑戦する中小企業の新たな事業活動を支援する施策の整理・統合・拡充を行う必要がある。構造改革を担う中核的存在である中小企業の積極的な取り組みを後押し・拡大することにより、個別事業者の経営効率の改善のみならず、景気回復の足取りを確実なものとすることが正に求められている。
 その一環として、法体系についても既存の支援三法を整理・統合して一本化し、事業者による連携支援を施策の新たな柱に加え、中小企業の挑戦を総合的に支援する立法措置を講じることが適当である。その際には、以下を基本的な考え方とすべきである。


支援三法(1)市場ニーズを捉えた事業展開への支援

 平成11年に改正された中小企業基本法の下、「多様で活力ある独立した中小企業者」の育成・発展を政策理念として掲げ、各種中小企業施策が展開されてきている。今般の支援法の制定に当たっても、この理念を前提として必要な措置を講じていく必要がある。
 具体的に言えば、中小企業はその規模や知名度等から、本来的には高い技術力を有するなど競争力のある経済主体であるにもかかわらず、マーケットにおいて人材や資金等の経営資源へのアクセスが十分確保されない場合が見られる。かかる点を踏まえ、情報の非対称性等の市場の失敗を補正すれば、自立的に展開し、高付加価値をもたらす可能性の高い事業活動を支援対象とすべきである。
 すなわち、新しい支援法では、事業者の自助努力を前提とした政策支援による後押しがあれば「市場化・事業化」につながる新たな事業活動を支援すべきである。

(2)利用者サイドの視点に立った分かりやすい施策体系の追求

 中小企業支援策の策定に当たっては、利用者にとっての分かりやすさの追求を大前提とすべきである。
 従来、ともすれば様々な施策が施策の提供者・供給サイドの視点から構築される傾向が見られたが、本来的に行政はサービス業であるとの基本認識に立ち返り、各種支援施策を利用者・サービスの需要サイドの視点に立って企画・立案・運用する必要がある。
 特に、施策の利用者である中小企業の経営者は日々の業務に多くの時間と労力を投入し、その中でも革新的な取り組みに精力的な経営者であればより一層多忙を極めている状態にある。かかる事業者が時々刻々と変化する経営環境の中で、自らの事業活動に必要かつ有効な支援策をベストのタイミングで選択出来る様な、分かりやすい、整理された施策体系の構築を目指すことが政府には求められている。

(3)中小企業の活力を通じた地域活性化

 地域には様々な業種に多数の中小企業が存在している。これらの企業が新たな事業活動に取り組むこと、あるいは創業により新たな経済主体が地域経済に登場することが、それぞれの地域に新たな産業を創出し、就業の機会を増大させ、市場における競争を促進し、地域経済の活性化をもたらす原動力になる。往々にして、景気動向に地域的な跛行性が見られ、景況感にも地域により大きな差が見られるのは、地域ごとの業種、業態等の相違に応じた地域の中小企業の活動の状況が地域経済の活性化に大きな影響を与えていることの証左でもある。
 一方、我が国の各地域には高度かつ希少な技術や技能を蓄積した企業や人材、大学の研究機能から伝統工芸、食材や街並み・観光資源など、様々な地域資源が賦存している。すなわち、地域経済の活性化に必要な経済資源はそれぞれの地域の歴史的経緯の中で十分蓄積されているのが現状である。地域経済の活性化を図るには、かかる地域資源の戦略的活用が不可欠であるが、その中核的役割を担う主体は、これから地域資源を活用して新たに事業を開始しようとする企業家やその地域に密着して事業を展開し、比較優位を持った生産要素や需要家の選好などの地域特性を熟知した地域の中小企業だと言える。
 したがって、中小企業支援に当たっては、地元密着型の中小企業の創出や地域に根付いた中小企業による革新的な事業活動への取り組みの促進が、地域活性化・地域再生に資するものであることを十分に踏まえ、地域特性にも配慮した施策の展開が必要である。

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2. 中小企業による新たな事業活動への支援

(1)創業と経営革新への支援

 経済の活力・競争力の源泉は、独立した多種多様な企業が創意工夫を通じて自らの強みを存分に発揮しながら公正な競争を展開することにある。
 そのためには、市場からやむなく退出する企業がある一方で、新たな競争主体が参入し、常に市場における新陳代謝が促されることが重要である。しかしながら、我が国においては、創業の重要性についての社会的な認識が必ずしも高いとは言えず、また、創業に伴う不透明性・リスクの高さから未だ新たな事業主体の登場が十分とは言えない。
 他方、年功序列・終身雇用といった日本的経済システムが変遷する中で、一般的な傾向として自ら起業しようとする人々が増えてきていると言われている。情報技術を始めとする技術革新は、高度な専門的知識を必要とする事業分野から身近なニーズを捉えたアイデアに基づく事業まで、様々な業種・業態での起業のチャンスを拡大している。
 かかる状況において、経済社会全体の創造的挑戦の雰囲気を醸成し、個人が自己実現出来る雇用機会を提供するとともに、公正な競争環境の実現にとっての大前提となる新たなプレーヤーを創出する創業について、国が必要な政策支援を行うことが重要である。具体的には、これから事業の開始を目指す個人も含めた創業者に対して、政策金融を通じた創業資金の低利融資、民間金融機関等からの資金供給の円滑化に資する信用保険制度、出資を促す税制措置等を着実に講じる必要がある。
 また、元来、新たな事業活動により中小企業の経営の向上を図る経営革新は、市場競争に晒される企業において当然に自主的な努力に基づいて行われるべきものと言えるが、市場では必ずしも十分にその取り組みが確保されない恐れもある。このため、特に経営の向上の程度が高く、国民経済に新しい価値を生み出す蓋然性の高い経営革新に向けた取り組みを引き続き支援すべきである。
 具体的には、新商品・新サービスの開発、新たな生産方式や情報技術等の進歩を踏まえた生産管理システムの改善等、中小企業の経営全般における新たな取り組みであって、その取り組みが企業の事業活動全体の活性化に大きく貢献し、付加価値額を向上させる事業計画を支援対象とすべきである。事業者は自由な発想に基づいて経営革新に向けた努力を行っていることから、支援対象となる取り組みを狭く捉え、生産工程等におけるイノベーションに限定するのではなく、労務や財務管理等の改革についても、それが事業の活性化に大きく貢献するものであれば、広義の生産方式として支援対象に含めることが適切である。
 また、環境問題への意識が高まっている昨今、事業者はゼロエミッションやリサイクル率の向上など、生産プロセス等における環境負荷低減への先進的な取り組みに努力している。個々の事業者のこうした努力が持続可能な循環型社会の構築につながり、また、中小企業の発展に不可欠な地域コミュニティとの共生を可能とするものであることを踏まえ、環境・エコロジーに配慮した先進的な経営革新努力を幅広く支援していく必要がある。
 このため、個別事業者に付加価値向上に関する定量的な目標値や設備投資等の事業計画の策定を求める既存の経営革新支援法における支援スキームを維持し、その適正な運用に努める必要がある。具体的な支援措置としては、政策金融や信用保険等を通じた資金調達の円滑化に加えて、マーケティング等における助成措置の充実を図る必要がある

(2)相互の強味を生かした連携による事業活動への支援

①連携に対する支援の必要性

 中小企業を核として経営資源が融合し、有効活用される事業連携については、融合プロセスにおける技術評価の難しさや中小企業故の人材確保・資金調達の面での制約等が存在する。特に、設備投資資金から短期・長期の運転資金まで、連携を通じて行う事業内容によって発生する様々な資金ニーズに応じた資金調達は、ビジネスの成否を握る重要な課題であるが、連携事業に対する評価の難しさ等から、適切な資金供給が迅速かつ円滑に行われず、事業者がビジネスチャンスを逸する事態を招来する恐れもある。また、自らのアイデアを事業化するために必要となる技術・ノウハウ等を持ったパートナーを発掘し、信頼関係を醸成する過程は、時間も費用も要し、財務面での余力に乏しい中小企業にとっては不透明で事業リスクが高いものと言える。経営資源の限られる中小企業が自らに欠ける要素を調達する過程は、リスクと費用負担が伴い、市場に委ねるだけでは、有効な連携の構築が必ずしも十分進展しない可能性がある。
 このため、連携の形成から事業化までの段階で、それぞれの段階に応じた適切な支援措置を一貫して講じることが必要である。

②効果的な連携の特徴

〈1〉異なる知見の融合

 中小企業が日々変動する多様化した市場の要請に的確に応えるためには、自らの事業分野における従来の経験のみに頼るのではなく、分野の異なる知見・技術・ノウハウ等を有する他者と連携し、これらの経営資源を有効に組み合わせることにより、一体的に事業を行っていくことが不可欠である。

〈2〉多様な主体との連携

 技術面で優れていてもマーケティング分野でのノウハウが乏しく市場へのアクセス面での障壁が高いことが中小企業の切実な経営課題であるが、流通チャネルに関しては商社等の大企業が高いプレゼンスを有している場合もある。また、福祉や環境など社会的な注目度が高まっている分野においては、営利企業とは異なる知見・ノウハウ等を蓄積しているNPOの活躍が目覚ましい。このため、中小企業の連携相手としては、他の分野の中小企業のみならず、中堅・大企業や国・地方の研究機関、大学、その活動領域の広さや取り組みの多様性から昨今注目度が高くなっているNPO等、多様な主体を想定すべきである。

〈3〉中核企業の存在

 連携が有効に機能するためには、発注元や販売先との交渉において責任主体が明確であること、窓口の一元化により調整コストが削減されることが重要である。また、製品の研究開発・製造工程から販売、サービスの企画から提供まで、事業活動全体を統括・管理し、事業者間の緊密な連絡・調整を行う主体が不可欠である。このため、参加企業等を取りまとめる中心的な企業の存在が極めて重要と言える。
 ただし、中心的な企業と参加企業等との関係はあくまでも対等に近い関係であって、従来の下請的な関係とは異なるものである。自発的に参加する企業等が、公平なルール・意志決定システムに基づいてそれぞれの役割・機能を分担し、機動的に事業を展開する「中核的なリーダー企業の存在するネットワーク」が緩やかな連携の本質である。

〈4〉一定のルール等の存在

 連携のメンバーには連携事業に貢献しうる品質・技術水準等を実現する能力が求められ、また、事業が計画と乖離した場合のメンバー間での責任分担・リスク負担が明確化されていること等が重要である。すなわち、上記中核企業の存在とも関連するが、連携事業に関して有効なガバナンスの仕組みが確立している必要がある。このため、有効な連携には、意志決定、責任分担、技術水準・品質保持能力等に関する一定のルールが必要と言える。

③連携に対する支援に当たっての留意事項

 自助努力を惜しまず、リスクに立ち向かい、市場に向けた取り組みを主体的・能動的に行う事業者を支援することが中小企業基本法の基本的な考えと言える。連携への支援もこの基本理念に則る必要があるが、連携には様々な主体が参画すると想定されるため、個別事業者の付加価値向上率は、必ずしも支援対象を選定する適切な指標とは言えない。連携支援では、個別の経営向上に着目するのではなく、マーケットを志向し、新たな市場・需要が相当程度開拓される効果の高い取り組みを支援の対象とすべきである。
 また、連携が効果的に機能するためには、中核的企業の存在や内部規律に関する一定のルール等を備える必要があるが、他方で、支援対象とする連携について、あまりに固定的・定型的な判断基準を設け、事業者による自由な発想や取り組みを枠にはめるようなことは本末転倒と言える。各種支援措置の執行には支援対象の外延が明確化される必要があるとの実務面での要請にも配慮しつつ、柔軟な運用を可能とする制度設計が重要である。
 各種支援措置は、事業者が能力の高い他者を捜し出す段階から、構築された連携が市場を目指して実際に事業活動を開始する段階まで、ビジネスのステージごとに求められる内容が異なると言える。政府を始めとする各種支援機関においては、かかる点を踏まえ、ソフト面での支援、予算措置、出資、融資などの支援ツールを適切に組み合わせる必要がある。その際には、従来から「販路開拓」、「市場ニーズの把握」を経営課題として挙げる中小企業が多い一方で、高い技術力が市場ニーズの捕捉に必ずしもつながっていない現状が続いている実態を客観的に分析し、支援措置を講じることが重要である。また、支援に当たっては官民の役割分担を十分に考慮すべきであり、一般的に言えば事業の成熟度が高まると、民間ビジネス・市場に委ねるべき部分が多くなることを念頭におく必要がある。

④支援体制の在り方

 事業連携においては、地域の経済資源を有効活用する事例も多く、支援体制としては、地域を挙げた形で有効なプロジェクトを市場化に向けて後押しする様な仕組みが重要である。他方で、連携は特定地域に限定されたり、地理的に一定範囲に縛られるものでもない。実際、既存の行政区域を越えた広域的な取り組みも見られ、また、現地法人を設立してアジア諸国等への展開を行っている中小企業も多いことから、今後は、国際的な展開までも視野に入れた連携が形成・発展していく可能性が極めて高い。このため、地域特性を軸とした連携から、より広域的・国際的な活動領域を想定した連携まで、最適な組み合わせを追求する事業者の連携構築に対応した支援体制が必要である。
 事業展開に当たって最も重要となるのが、必要なタイミングでの必要な資金調達の確保である。このため、政府系金融機関や民間金融機関が連携プロジェクトの早期の段階から参画し、有望な案件に対しては、連携事業・プロジェクトとしての収益性・キャッシュフローを前提とした融資が着実に実施される支援体制を構築することが喫緊の課題と言える。かかる体制整備を通じた資金供給の円滑化は、財務面では必ずしも優良とは評価出来ないものの、卓越した技術・ノウハウを持った中小企業が有する経営資源の有効活用を可能とするものであり、その積極的な取り組みが必要である。
 さらに、金融のみならず、補助金や技術、マーケティング、法務・財務・税務等の様々な分野での専門的な知見に基づくアドバイス等の各種助成措置が適切に連動し、集中的に投入される仕組みが必要である。また、最終的に市場に製品やサービスが提供される段階までフォローアップを行い、事業者の立場に立った実践的な支援を講じていくことが重要である。

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3. 事業者による新たな事業活動への取り組みを促す環境整備

(1)支援機関ネットワークの整備とワンストップサービスの提供等

 地域には既に技術、人材、情報又は資金等、ビジネスに不可欠な要素に関して専門的かつ高度な知識や支援スキームを有する政府系金融機関、民間金融機関、地域技術移転機関、公設試験研究所、商工会、商工会議所、中央会等の各種支援機関が存在し、これまでも、それぞれの地域に蓄積されてきた地域資源を活用した新事業展開を支援してきている。地域資源の活用を通じた内発的発展、地域産業の自立的な成長を促すためには、引き続いて、これらの支援機関による効率的かつ効果的な支援の展開が必要である。
 一方で、競争の進展や技術進歩は支援機関にも恒常的な支援能力の向上を迫っている。各支援機関には、互いに切磋琢磨しながら各々の専門性、特性に一層の磨きを掛け、支援機関としての機能・競争力を高める努力が求められており、また、こうした過程を通じて支援者としての高い能力を備えるに至った支援機関が緊密に連携して支援者ネットワークを構築することが、新事業展開をより強力に推進する体制として必要と考えられる。
 かかる支援者ネットワークには高い利便性、すなわち事業者等が求める各種支援・アドバイスを費用対効果の優れた形で適時適切に提供することが期待される。このため、技術面、人材面、資金面等において様々な支援事業を行う各種支援機関に関する総合的な情報提供をワンストップサービスで行うことの出来るネットワークのハブ的な存在が必要であり、いわゆる中核的支援機関が担っていくべき機能は今後更に重要と考えられる。
 なお、かかる環境整備の一環として、ベンチャー企業の活動を総合的に支援するインキュベーション施設の整備等により、地域での産学官連携を促進することも有用と言える。

(2)革新的な事業活動の原動力たる技術開発の推進と人材育成

 新製品・サービスの開発・提供を通じて、創業や経営革新等に取り組もうとする場合、その大きな原動力になるのが技術開発である。我が国中小企業の中には、特定の技術分野において他社が比肩出来ないような高度な技術・技能を糧に、創造的な事業活動を行っている企業が多く存在する。こうした中小企業は、生産拠点の海外移転が進展する中でも、高付加価値品の開発・提供を通じて、独自の市場領域を開拓・確保しており、我が国経済の活性化を図る上で、付加価値創造の源泉となる技術開発への積極的な取り組みを促進することが重要である。
 しかしながら、資金力・リスク負担力が脆弱なこともあり、中小企業による技術開発は、その投資額を見ても大企業とは大きな格差があるなど、必ずしも十全な状況にあるとは言えない。今後、中小企業による技術開発への取り組みを促進し、創業・経営革新等へとつなげていくためには、技術開発に対する補助金等による政策的支援の充実を図るとともに、技術開発成果の事業化を一体的に支援していくことが必要である。
 また、技術等の経営資源を効率的・効果的に経営革新に生かしていく上で、知的財産や情報技術(IT)等が有効に機能しうる。現在、一部の中小企業においては、新製品の開発に当たり知的財産の活用・保護を図りつつある企業や、経営革新のツールとしてITを活用する企業が見られるものの、全体としては、知的財産やIT等に対する戦略的な取り組みが十分に普及しているとは言えない。今後、中小企業における経営への戦略的な活用を促進していくことが重要である。
 さらに、中小企業における経営革新や事業連携を促進するためには、高度な技術・技能を習得し、それを効果的に使いこなす人材を育成することが必要不可欠である。
 我が国産業の競争力の源泉である技術・技能は基本的に人に蓄積され、化体されるものであり、経営革新への取り組みや異分野の知見を融合して、より高度かつ新たな付加価値を創出するためには、先進的な技術の習得や既存技術の高度化、さらには既存技術・技能の摺り合わせ等を効果的に行い得る人材が重要である。実際、中小企業においても、研修活動や日々の業務等を通じて、これまでも優れた産業人材の輩出に向けた努力がなされているが、例えば企業OBや未就業の女性・若年者などの優秀な人材を外部から採用して必要な教育を行うといった対応も含め、今後も様々な人材育成への取り組みに努めることが重要である。また、政府においても、事業者における人材育成への取り組みに対する適切な支援を講じていく必要がある。

(3)将来における経営革新に資する経営基盤強化への支援

 現下の景気回復動向は一応の安定感を増しつつ推移しているものの、一方で業種別に見た景況感には跛行性が存在している。特に市場競争環境の激変や国際市況の混乱による原材料価格の急騰、規制制度の変更等、事業者の自助努力のみでは改善出来ない外的環境の変化が生じ、業況が全般的な景気回復動向と乖離している特定業種においては、市場環境の早急な好転が見込まれないことから、革新気風に富んだ前向きな企業であっても、経営革新への取り組みに踏み出せない事態が想定される。
 このため、この様な業種における近い将来での経営革新の芽を摘むことが無いように、緊急避難的に特定業種を指定し、将来の経営革新に寄与する事業者の経営基盤強化への取り組みを支援するスキームは維持する必要がある。ただし、かかる措置はあくまでも外的環境変化に対応した緊急避難的な措置・セーフガード的な位置づけであって、将来的に経営革新への取り組みにつながることが前提であることは論を待たない。したがって、業種の指定に当たっては、かかる緊急避難的な措置が真に必要なものであるかどうかにつき慎重かつ客観的な判断が求められ、その政策支援に関しては期間を限定して行う必要がある。

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4. 施策の展開に向けた共通的課題

(1)政府における関係省庁・機関の緊密な連携と地方自治体との協調

 中小企業における経営革新への取り組みは様々な業種において展開され、また、その中には従来本業としていた業種からこれまで未経験な事業分野への進出や他業種の事業者との連携による新たな事業分野の開拓等が見られる。競争環境の激化等に伴い、実体経済・ビジネスの世界においては、従来の産業分類では捉えきれない事業者の取り組みが活発化してきているとも言える。他方、中小企業施策はこれまでも業種横断的な施策として措置されてきているが、各種支援制度の利用・活用が製造業等の特定の業種に偏っているのが実態である。
 様々な事業分野で意欲ある中小企業の事業革新が進められ、また、産業構造の転換につながる様な既存産業分類の枠を超えた事業展開が見られることを踏まえると、今まで以上に関係省庁が緊密に連携を取り合い、積極的な対応を行うことが重要と言える。所管の業界に捕らわれず、現実の事業者の動きを捉え、適切な中小企業支援策を機動的に実施することが必要であると考えられる。
 さらに、中小企業支援に当たっては、三位一体の議論も踏まえた国と地方自治体との新たな連携の在り方を検討する必要がある。すなわち、経済活動の基盤である中小企業の在り方は、激しくなる国際競争の中での我が国産業の競争力や産業構造の姿に直接的に関係するものであることから、経済政策全般と整合を図る必要があり、今後も国の視点に立った中小企業政策の推進が不可欠と言える。他方で、中小企業の活力は地域経済の活力の源泉でもあることから、中小企業の現場ニーズに近い地方自治体においては、地域活性化の視点も踏まえた、きめ細かな中小企業政策の展開が求められている。国と地方自治体とがそれぞれの視点を踏まえ、支援ノウハウや情報等の共有、施策の相互補完等を図りながら、互いに知恵を出し合い、中小企業の発展・成長に向けて協調を深めていくことが重要と言える。

(2)適切な政策評価と政策立案・運営へのフィードバック

 市場競争に晒される民間事業者においては、日々変動する経営環境の中で事業の見直しを行い、「選択と集中」の考え方に基づいて経営資源の適正配分が行われている。限られた政策資源を有効活用するためには、政府における施策の立案・執行においても「選択と集中」の考え方は重要である。実際、政府の施策全般についても政策評価の手法が制度的に導入されており、今般の支援措置に関しても、政策効果を定期的に評価し、その結果の公表や施策実施機関等への適切なフィードバックを実施するなど、制度の改善に向けた持続的な取り組みが行われる仕組みの整備と着実な実施が必要不可欠である。

(3)制度の周知徹底・広報の重要性

 現在、多様な中小企業支援策が用意されているが、制度そのものの存在が潜在的な利用者を含めた施策対象者に対して必ずしも十分に知られていないとの指摘も見られる。制度を承知した一部の利用者にのみ活用される制度であっては、政策資源の有効活用の観点からも問題がある。これまで、政府等においても政府広報やパンフレットなど様々な手法を通じて各種制度の周知徹底に努力してきたところであるが、施策の普及実態を見ると、その対応には改善の余地が多いと考えられる。広報が潜在的な制度利用者の掘り起こしを通じて、創業や経営革新、連携事業などの創造的な事業活動を誘発する重要な政策ツールであることを踏まえて、引き続き分かりやすい形で制度の周知徹底・広報に努める必要がある。その際には、情報量の増加がかえって利用者までの情報伝達を阻害する側面があることから、政府や各種支援機関においては、適切に整理・相互調整するなど、情報発信に工夫を凝らすことが重要である。具体的には、ホームページやパンフレット等を通じて提供する情報を利用者の視点に立って整理・充実し、また、情報提供に当たっても商工会、商工会議所、中央会、中小企業基盤整備機構などの各種中小企業支援機関及び金融機関等との連携体制を構築して、中小企業支援策の共同広報の実施や中小企業支援機関相互の施策の紹介に努めるなどの検討が必要と考えられる。

新連携支援のプロセスイメージ(案)

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5. おわりに

 我が国を代表する大企業、世界に名だたる国際企業も創生期を見れば、その多くは規模の小さい中小企業であったが、自らに降りかかる危難をも顧みず市場に挑戦する情熱に突き動かされた経営者が、今の企業の姿へと続く隘路を切り開いてきた。また、現在、それらの大企業を支え、我が国経済活動の根幹をなしているのも中小企業であり、中小企業が日本を世界に冠たる経済大国に位置づける競争力の源泉となっている。すなわち、中小企業は経済活動の基盤であって、不撓不屈の信念と確固たる実力に裏打ちされた矜持を併せ持つ中小企業が経済構造改革を担い、常に我が国経済社会を先導してきているのである。
 国内の経済社会構造の変化から国際政治情勢まで、一層の激動が予想される21世紀において、我が国を活力に溢れた国とし、魅力ある社会を構築していくためには、これまで以上に中小企業による新たなる領域・地平への挑戦が必要となっている。このため、事業者には、新たな事業活動、とりわけ今後の中小企業の目指すべき姿の一つであると同時に、産業構造を転換する推進力となる事業連携への積極果敢な取り組みが強く期待される。そして、国を始めとする関係機関には、主役たる中小企業が新たな事業活動へと挑むために必要な環境整備に万全を尽くすことが責務であることを認識し、叡智を結集して各種施策の展開を図ることを強く要望する。
 本答申が、新たな時代における中小企業の飛躍の土台となることを期待している。

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 ◆事 例  新連携対策委託事業  自然エネルギー研究会

 コイル製造の(株)セルコ(小諸市)を中核企業とする、東北信地域企業8社の連携組織「自然エネルギー研究会」が、風力・水力向け発電機の開発に取り組んでいる。この研究開発事業は、経済産業省が平成16年度に創設した「新連携対策委託事業」の認定を受けたもの。
 「御社のコイルを使って、新しいエネルギーを利用した発電機を開発してみては」。平成16年度の長野県中小企業支援センター商品化・販路開拓アドバイザーを務める石田俊彦氏の提案に、かねてよりエネルギー問題に高い関心を持っていた(株)セルコの小林延行社長が応じたのが同事業スタートのきっかけ。
 早速、石田氏と懇意にしている3社(佐久市、小諸市)が参加し、平成16年4月プロジェクトが発足。毎月1回全国から専門家を呼んで「自然エネルギー運営委員会」という名称の研修会を開催してきた。今年1月にはこの研究開発テーマを基に行った小林社長の講演を聞き、構想に賛同した4社が新たに加わった。現在、自然エネルギー研究会には会員8社と準会員1社が参加しているが、いずれも石田氏に経営等のアドバイスを受けている間柄。
 今年3月には参加各社が出資して発電機を開発・販売するための新会社を設立。事業計画や研究開発のための組織体制など、具体的な運営に関する事項を決定する。年内には試作品を完成させ、平成18年をメドに商品化し販売にこぎつけたい考えだ。
 小林社長はプロジェクトへの抱負を次のように語る。
 「当社を含め、メンバー企業はさまざまな製品を考案し製造しても、大手企業の部品として使われているのが現状。この研究開発プロジェクトによって、自分たちが主体的に製品づくりに関わり、脱・下請けが実現できればと期待しています。中小製造業の弱点である販売面での体制も確立し、ぜひ新しいビジネスモデルを作っていきたい」
 プロジェクトの究極の目標は、風力・水力発電と太陽光発電とのハイブリッド化。将来そのような製品を実現させようと、小林社長をはじめ参加企業各社は大きな夢を抱きつつ意欲的に研究開発に取り組んでいる。

■事業内容
現在市場にない高効率小型水力発電機・風力発電用小型専用発電機商品化。少ない電力を蓄積活用できる水力発電システムの市場提供及び50~600W程度の高効率都市型風力・太陽電池システムを開発・製造・販売する連携企業体を構築する。この目的の為に部品設計・製造に関する固有技術を有する企業の連携体で推進。
商品開発は2005年10月までに高効率発電機を商品化し同年12月より販売予定。発電システムとしては2005年11月迄に商品化、2006年1月に発売予定。
第一ステップ販路開拓:長野県の建設業者・公的機関・農業関係に協力要請の説明を実施。

■「自然エネルギー研究会」構成企業(社名/事業内容)

  • (株)ケ・アイ・エス(佐久市佐久平駅北)
    太陽光発電装置の開発・製造販売
  • ナビオ(株)(佐久市伴野)
    各種充電器の開発・製造
  • アテナ電通(佐久市瀬戸)
    アナログ設計・試作
  • (有)室電子工業(南佐久郡小海町)
    電線ハーネス、プレス・組立
  • (有)野崎デザイン(小諸市御影新田)
    車用エアロパーツの設計
  • (有)中澤鋳造所(須坂市野辺)
    試作鋳物、金型用素材の鋳造
  • 日精電機(株)(佐久市根々井)
    モーター製造販売
  • (株)セルコ(小諸市御影新田)
    各種精密コイルの開発・製造

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