ホーム > 月刊中小企業レポート > 月刊中小企業レポート(2005年2月号) > 元気な企業を訪ねて-チャレンジャーたちの系譜-
MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

元気な企業を訪ねて-チャレンジャーたちの系譜-

“~ 仕事に惚れ、会社のためでなく自分のためにやる。
それが“ハイテクのまち”で しぶとく生き抜く極意。~”

宮後 睦雄さん
宮後工業株式会社
代表取締役社長 宮後 睦雄さん


最先端業界・企業から信頼、バラエティに富んだ製品を受注

製品
製品

 初期の懐かしいタイプから最新型まで、手がけたオーディオ機器やカーステレオ、PAミキサーといった音響製品、リードフレームをはじめとする電子部品などが収められた本社ロビーのショーケース。フロアには創業時に購入したという小さなプレス機が新たに化粧直しされて展示され、その歴史を静かに語りかけてくる。
 宮後工業は、音響機器、IT・OA関連製品、自動車関連製品の部品製造、高密度基板実装からアセンブリまでの一貫生産体制を誇るものづくり企業である。そのベースをなしているのが、創業以来培ってきた高度な金型設計・製作技術と精密金属プレス加工技術を持って業界トップメーカーのソニー、パイオニア、ケンウッドなど、エレクトロニクス、デジタル通信、ITまた自動車関連などの最先端業界・企業から信頼を得て、バラエティに富んだ製品を手がけている。
 現在フル生産しているのが、液晶などの大画面テレビに付属するスタンド。さらに最新パソコンの筐体、カーナビゲーションシステムのメカ部品および筐体なども多く、今市場で話題の人気商品を数多く手がけていることに驚く。
 力を入れているのがより精度の高い精密プレス部品。その理由を、宮後睦雄社長は次のように話す。「今後増えそうなのは、カメラに搭載される高精度なプレス部品。試作から提案し、他社との競合に勝って受注が決まりました。当社にはかつて手がけていたリードフレームの技術蓄積がある。それを生かして小さくて精密なものを積極的に手がけていこうと考えています。大きいものは売上げは伸びても、材料費や物流費がかさむだけですから」。
 2001年12月には中国上海に進出。現地法人「宮後電子(上海)有限公司」を立ち上げ、02年4月からパソコン、カーオーディオ、カーナビナビシステムなどの主要構成製品の生産を行っている。現在、従業員400人以上、売上高年間10億円余り。業績の伸びも順調だ。金型は特に難しいもの以外は同社技術スタッフの技術指導のもと、中国人技術者が現地で製造しているという。
 「本格的に稼働して2年半。インフラが整うまでは大変だった」と宮後社長。中国人と日本人のものの考え方や文化の違いも痛感するが、産業のグローバル化が進む中、今後も海外生産拠点づくりの強化を図っていく考えだ。

二頭の牛を手放した資金で第一号のプレス機を購入

 宮後社長は1939年(昭和14)年、坂城町で農業や酪農を営む家の三人兄弟の次男として生まれた。
 坂城町には戦時中、東京から数多くのものづくり企業が疎開。戦後そんな企業の多くがそのままこの地に根を下ろし事業基盤を固めていった。現在の
”ハイテクのまち“坂城町のルーツである。
 町内で工業が盛んになっていくのを目にして、もう酪農ではやっていけないと考えた父親が兄弟を集めてこう言った。「裸になったつもりで商売をやってみろ」。
 当時、兄の臣吉氏は酪農を営んでいたが、すでに別の製造会社に就職していた宮後社長が「牛を売ってものづくりを始めよう」と決断。二頭の牛を手放した資金で同社第一号となるプレス機を購入し、臣吉氏を代表に宮後工業を設立した。63(昭和38)年のことである。
 もっとも宮後社長自身はまだ二足のわらじ。勤めていた会社から下請け仕事を回し、帰宅後2時、3時まで手伝ったという。68年から金型の設計・製作を始め、当初は順調に受注を伸ばし設備投資も積極的に行っていった。しかし取引先の不調もあって経営状態が悪化。それを見かねて勤めていた会社を辞め、兄である先代社長の補佐役として宮後工業の経営に専念し、新たな取引先探しに奔走することとなった。
 「そんな時、静岡のある会社がカーステレオの金型を作ってほしいと現金で300万円持ってきたんです。ただし納期は1カ月。もちろん寝ずに作りましたよ。それからトントン拍子にうまくいくようになった」
 大きかったのは苦心の末にオーディオメーカー、パイオニアとの取引を得たこと。同社初の8トラックの機構部品を手がけたのをはじめ、携わる製品のほとんどがヒット。なかには一機種で300万台を出荷した製品もあったという。73年には宮後電子を設立しカーステレオ完成品の生産を開始。音響機器分野を中心にソニー、ケンウッドなどとの取引も拡大していった。
 「ここまで来るには相当苦労しました」。当時をふり返り、宮後社長はしみじみとそう話す。

マルチ技能者と知識技能者の養成に計画的に取り組む

カーナビゲーションシステム
カーナビゲーションシステム

 同社にとって、創業からの十余年を苦難の時代とするならば、以降今日までは躍進の時代。それを実現する土台となっているのが、企業としての「信用」だ。
 会社の信用を築き繁栄させるためには、いかに顧客志向に立った良いものを、計画通りに、適切かつ競争力のある価格で供給し続けられるかにかかる。このすべてをつねに維持すれば、顧客に安心と満足を与え、会社の信用の重みを増し、取引のチャンスを拡げていくことができるとする。社是の第一に掲げる「品質外交」はこれを徹底していこうという決意にほかならない。
 そのためには社員一人ひとりが会社の方針を正しく理解し、目標達成のために力のベクトルを集結させることが大切。同社は創業以来「企業は人なり」を基本理念に、人材育成には特に力を入れてきた。「人を大事にすることをモットーに、優秀な人材を揃え、思想の統一を図り、時に厳しさを与えながら人材育成に取り組んでいます」。
 人材育成の基本として重視するのは「6S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ・作法)」。これを生産現場まで浸透させ、全社員が実践する。「これができていれば何でもできる。当社はISO9001、14001の認証をいち早く取得しましたが、スムーズに取得できたのも6Sを早くから実践してきたからだと思っています。工場内もプレス業としてはかなりきれいでしょう」と宮後社長は胸を張る。
 「大切なのは気力、体力、知力。やろう、という気持ちが大切です。社員にはよく会社のためにやらなくていい自分のためにやれ、と言うんです。本人が成長すれば結局会社のためになるんですから。新卒社員は3年は勉強期間だと思っています」
 金属精密プレス業界の中でも、精密金型技術とその生産設備、プレス加工技術とその生産設備をあわせもつ企業はそう多くない。そのメリットを最大限に活かすため、高度な技能を持つマルチ技能者と、ITに長け生産技能も身につけたテクノロジスト(知識技能者)の養成に計画的に取り組む。
 技術系の新入学卒社員は入社半年後から数年間、取引先大手メーカーの設計開発部門に教育派遣される。相手先技術者とまったく同じ環境で製品開発を手がけながら、最先端の製品開発技術を身につける。なかには素晴らしい開発実績が高く評価され、相手先の社内褒賞制度で社長賞を受賞した技術者もいるという。

坂城を愛し、仕事に惚れれば、大抵の人は我慢できる

チップマウント
チップマウント

 もっとも、そうやって育成投資しても中途で辞めてしまう社員もいる。「去る者は追わない。当社は人材育成学校なのだとプラス思考で考えています(笑)。実際、ある会社からうちを辞めて入った社員を高く評価する声を聞けば、それもうれしいじゃないですか」。宮後社長はそう言って笑うが、「だからこそ人を選ばなければ」とも。やはり残念な気持ちでいっぱいなのだ。
 一方で、中途社員はほとんど辞めないという。他社を知るだけにあらためて同社の環境の良さを実感するようで、「とてもよく働いてくれる」。宮後社長は最近、中途社員の採用により力を入れていこうかと考え始めているという。
 「長野、坂城を愛し、仕事に惚れれば、大抵の人は我慢できる。大切なのは給料の多い少ないではなく、その仕事にやりがいを持てるかどうかです。当社では一通りの仕事を経験すると社員に自分がやりたい仕事を選ばせていますが、技術者の場合、生産技術部門への希望が非常に多い。ここはより精度の高い製品をより効率的に生産するための方法を考え、故障せずに動き続ける独自の専用機やシステムを作る部門。自らアイデアを凝らした完成品を自らの手で作り出す、技術者ならではのやりがいを感じているのでしょう」
 人事制度でも先進的だ。「職制」と「身分」の両輪で社員の能力を公平に評価する資格制度を25年ほど前から導入している。
 「身分」は部署における社員の能力レベルを数段階に分けて客観的に評価するもの。経験年数、職長の任命などによって受験できる資格試験に合格すると給与に反映される。「例えば、技術担当役員が技能を客観的に評価できる内容で実技試験を行うなど客観性を重視。資格等級が上がれば給与も役職者同様にもらえる、努力した人が報われる人事制度です」と自負する。宮後社長が今、特に注目しているのは女性の力。事実、各事業所では女性社員が活躍する姿が目につく。

坂城の信用できる仲間同士、ここでできるものはここで

品質検査
品質検査
 「今日まで事業を続けてこられたのは、坂城に支えられてきたおかげ」。そう話す宮後社長は地域企業の役に立ちたいという意識も人一倍。現在、坂城町の製造業116社が参加する「テクノハート坂城協同組合」の理事長も務める。
 組合員全員の利益をめざす各種事業を展開する同協同組合だが、大きな課題は組合員の賦課金、共同購入の売上金などでまかなっている運営資金の確保。「技術開発支援などを行う『坂城テクノセンター』との統廃合も真剣に考えるべき時に来ている」と打ち明ける。
 そこで今後は地域別分科会、同業種別分科会、個別プロジェクト分科会など、組合員各社の特色を生かし、それぞれ課題と目標とリーダーを明確にして取り組む組織横断的な活動の展開を提案していきたいと考えている。
 「坂城町内でも、こんなものができる会社はないかと声を上げ、それに応えてものづくりに取り組むケースもある。それが活発になればと思います。東京などからも話は来ますが、見積りの材料にされるなど上手に使われてしまうことも少なくない。同じ坂城の信用できる仲間なのだから、ここでできるものはここでやりたい。みんなが頑張って、単に下請けではなく完成品もできるような会社がもっと増えれば、協同組合も変わっていくと思います」
 中小・零細企業が頑張る”ハイテクのまち“坂城。その真骨頂は、たとえ厳しい時代の風が吹いても決して負けない「しぶとさ」にあるという。同じように頑張ってきた仲間として、宮後社長が贈るエールは熱くやさしい。


プロフィール
宮後 睦雄さん
代表取締役社長
宮後 睦雄
(みやごむつお)
中央会に期待すること

本社
本社
中小企業施策についての提言
 大企業、中小企業、零細業者など、あらゆる企業が一緒に仕事ができるよう方向づけてほしい。長野県企業を大きく成長させるためには、中央会などの中小企業団体のコーディネートが重要であり、お互いにざっくばらんに話し合っていくことが大切だと思います。

経歴 1939年(昭和14年)1月27日生まれ
1967年7月 有限会社宮後工業取締役に就任
1980年4月   宮後電子(株)代表取締役副社長に就任
1993年2月   宮後工業(株)代表取締役社長に就任
公職   テクノハート坂城協同組合理事長
長野県中小企業団体中央会長野支部副支部長
テクノさかき工業団地組合組合長
出身   坂城町
趣味   絵画(油絵)、書、写真、ゴルフ(ハンデ10)、野球など多彩。
最近は富士山と浅間山、アルプスを題材とすることが多く、年に2、3作仕上げる。社員の結婚祝いに絵画を贈ることも。
家族構成   妻 長男は上海に、長女は近隣に嫁ぐ


企業ガイド
宮後工業(株)

本社 〒389-0602 長野県埴科郡坂城町中之条1025
TEL.(0268)82-2346(代) FAX.(0268)82-3795
創業   1963年10月
資本金   7,000万円
事業内容   音響機器各種部品、IT・OA機器部品、機器組立
事業所   本社工場、テクノサカキ工場、戸倉工場、八幡工場
関連会社   宮後電子(上海)有限公司
このページの上へ