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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 新春対談 直言!長野県産業の強さと今後の課題

―スピードと変革の時代を生き抜くために何が必要か―

〈出席者〉
橋本要人(日本銀行松本支店長)
細萱英穂(長野県中小企業団体中央会会長)
〈司会進行〉
庄村美緒(長野県中小企業中央会専務理事)
大矢栄一(長野県中小企業中央会労働広報部長)
細萱英穂(長野県中小企業団体中央会会長)
細萱英穂

(長野県中小企業団体中央会会長)
橋本要人(日本銀行松本支店長)
橋本要人

(日本銀行松本支店長)

 

「人間的豊かさを再発見しました」。長野県で感じる、ゆとりある生活。

司会:本日はご多忙の中、日本銀行松本支店の橋本要人支店長においでいただき、細萱英穂中央会会長との新春対談をお願いしました。ありがとうございます。細萱英穂会長が長野県信用組合にお入りになったのが昭和30年。その同じ年にお生まれになったのが橋本要人支店長と、何かのご縁を感じるわけですが。本日はご自由に、ざっくばらんに長野県の産業とその課題等についてお話しをいただければと思います。
 さて、橋本支店長は着任されて一年余りとのことですが、県内を勢力的にご講演されて回られ、またご趣味のひとつであるサイクリングでも県内各地を走り回っておられるとお聞きしています。ご出身が兵庫県ということで、まず長野県についてどのようにお感じになっていらっしゃるかなど、ざっくばらんにお話しいただければと思います。
橋本:着任したときの記者会見以来、よく信州の印象はというご質問をいただきました。その時の第一印象もそうでしたし、1年が過ぎた今もそう思っていますが、まず一言でいうと、信州の人々の中に感じるのはインテリジェンスですね。美術館・博物館の数では全国一というように文化レベルがとても高い。そして、この自然環境のすばらしさ。私も銀行に入って25年以上たちますが、ある種エコノミックアニマルのように働いてきました。そのように経済の世界で過ごしてきて今信州に赴任し、ゆとりある生活というか、人間的豊かさの再発見というようなものを感じているんです。
司会:大変お褒めをいただきましたが、一方では「教育県」といわれながら、高校生の偏差値が全国最下位という現実もあります。
橋本:「教育県」を何の物差しで計るかということだと思うんですね。確かに偏差値や大学への進学率も指標の一つだろうと思いますが、長野県にはもっと良さがあって、この環境の中で育ってきた人々がいかに個性豊かに育つか、というところが重要なのではないでしょうか。
細萱:戦後、いろいろ日本の制度が変わりましたが、その時に信州の良さまで変えられてしまったという感じがしますね。つまり信州は「教育県」と言われますが、それは学区制ができる前の話。これは長野県に限ったことではありませんが、強引に社会制度が変えられてしまい、良いものが失われてしまったのではないかと思います。ですから、いまだに「教育県」といわれるのは恥ずかしいような気もしますね。

ハングリー精神が支えた近代長野県産業の黎明期。

司会:それではここから細萱会長に加わっていただき、長野県産業の成り立ち、その背景といったようなお話しから対談を進めて参りたいと思います。それではよろしくお願い致します。
細萱:よろしくお願い致します。信州は江戸時代、あるいはそれ以前から貧乏県だったのでしょうね。例えば戦国時代、上杉と武田、越後と甲州の両方から攻められたというくらい何もなかった。だからこそ、農民たちは何とかして稼ごうと思ったのでしょう。いろいろ考えた末、養蚕を行い、生糸の生産を手がけた。それで生糸の値段を確かめるために毎日、新聞を読んでいたんです。「米百俵」ではないけれど、貧乏だから逆に教育県になったんじゃないですかね。
橋本:ハングリー精神ですね。おっしゃるように、近代の長野県の産業を語るうえで、蚕糸産業はものすごく重要な位置付けですね。
細萱:そうですね。その後、蚕糸産業はだめになりましたが、その工場跡のかなり多くがIT関連産業へと変わっています。
橋本:そうですね。私も現在の長野県の製造業は強いと思い、いろいろなところで言っているんですが、この強さの秘訣は蚕糸産業のDNAがしっかり生きているところにあるんじゃないかなと思うんです。
細萱:同感です。
橋本:おっしゃったように蚕糸産業は明治時代から国際相場でしたから、その時代から長野県の人々は世界を見、市場経済とつきあってきた。
細萱:そうせざるを得なかったんですね。
橋本:そういう意味では、世界を見る目や市場経済とつきあう距離感が信州人のDNAの中にしっかり息づいている。それが今の産業のベースになっているんじゃないかなと思っているんです。
細萱:製糸工場がダメになってから、大戦当時に疎開工場が来た。その多くが機械産業でしたが、今も全部生きてますね。だから、ずうっと続いているんですよ。製糸産業から疎開してきた機械産業、そして今はIT関連へと。その全ての根本は、長野県は貧乏だったことにある。
橋本:そうですね。経済が活力を増していく時、それを支えているのは人であり、もっと豊かになりたいというハングリー精神。戦後の日本経済の高度成長もそういった人々の強い気持ちが支えたところが大きいわけで、その意味で貧乏だったというのは恥ずかしがることなど何もない。まさしく時代をステップアップするための、非常に大きな起爆剤だったんでしょうね。
細萱:そうですね。
橋本:中国が今そんな感じですね。ものすごいハングリー精神で一所懸命勉強していて、追いつけ追い越せでやっている。日本もそれに負けないように、もう一度元気を出さないといけないというところだと思うんです。

ものづくり企業に必要なのは、自分で技術力を磨くんだという信念。

細萱:長野県には軽薄短小といわれるものづくり産業のほか、伝統的ともいえる食品産業や、豊かな自然環境に関連した観光産業がある。また大企業は少ないものの、しっかりとした中堅企業がある。全般的に輸出比率が高く、かなり高い比率で海外進出もしている。そこら辺が長野県産業の特色ということになります。
橋本:そうですね。日本で一番最初に発達したのは太平洋ベルト地帯ですが、ここは沿岸部に近く、物流面でのコストという点で重厚長大産業が有利でした。一方、長野県は内陸部にありますから、軽薄短小という話がありましたが、そういう産業が発達するのは至極当然でした。精密産業が発達したのも、空気がきれいだとかの条件もありますが、経済的に非常に重要なのは物流面。それが今ちょうど時代のニーズに乗っかっているということではないでしょうか。ご指摘のとおり、長野県には最終製品を作るセットメーカーは少なく、多くが軽薄短小の部品メーカー。しかも圧倒的に中小企業の数が多いですね。部品メーカーを中心とした中小企業群が非常に数多くあり、その中小企業群が高い技術力を持っておられる。それが長野県の産業の特徴だと思いますね。
細萱:やはり技術力ですね。たとえ企業規模は小さくても技術力が高い企業が多い。不況の時にどんな企業が倒産しないかというと、中小企業の場合、一番は経営者ですけども、まず技術力のあるところです。ですから、今まで長野県内の数多くの企業を見てきて思うんですが、どんなに小さい企業でも、1つでいいから特許を取ってもらいたい。特許を取るぐらいの技術力を持ってもらいたい。南信のある企業は、申請中まで入れると30、そのうち特許になったのが15くらいもある。そこは多すぎるほどですが、1つでもいいから特許が取れるくらいの技術があると、そこから会社は伸びていきますよ。
橋本:私もいろいろな中小企業におじゃましましたけれど、長野県の製造業は今、業績が良いんですね。昨年9月の短観では長野県の製造業業況判断DIは日本銀行全国32支店中トップでした。要するに、良い企業は五年後、10年後をにらんだ研究開発投資に余念がない。それがその企業の強さだと思うんですね。しかも、そういう経営者はあまり行政に頼らない。自分が生きていくためには自分で技術力を磨くんだという信念を、経営の方針として持っておられるように思います。
細萱:来年どうなるか再来年どうなるかと、心配性の経営者の方が良いですね(笑)。今年4月からいよいよペイオフが解禁になりますが、金融機関にとって最も心配なのが取り付け騒ぎなんです。昭和一ケタ時代の取り付けの怖さを知っている人は今はもうほとんどいませんが、その話を聞かされてきた人は、今もその怖さを話しますね。私などもその一人かもしれません。そういえばつい5、6年前にも大阪でありましたね。
橋本:8月31日。忘れもしません。あの時、実は私が担当だったんです。本当に参りました、あれには。
細萱:あ、そうだったんですか。木津信組と兵庫相互銀行と、2つ一緒に出ちゃった。
橋本:同時処理でした。その前の月にコスモ信組もやっていましたので、私もほとんどクタクタでした。
細萱:ですから、我々もそういう取り付けの怖さというものを知らないと。そうなっちゃいけませんからね。
橋本:そうですね。

経済が高度に発展してきた社会にとって、観光産業は次代を担う重要な産業。

司会:長野県はとても豊かな観光資源があります。ところがそれを生かしきれていない、という話をよく聞きます。ここからは長野県の観光産業についてお話しいただければと思います。
橋本:問題は2つあると思うんですね。1つは、日本人には昔から観光などのサービス業は製造業と比べて劣るという意識があること。これを徹底的に直したほうがいいですね。産業発展論的に言うと、製造業はある程度の段階にいくと、まさしく今起こっているように、労働コストの違いから労働集約的な部分は発展途上国に移っていかざるを得ない。そうなった時、どうやって雇用を確保するかというと結局、サービス業にいく。産業のサービス化の進展は、その国の経済が高度に発達してきていることに他なりません。そういう意味で観光産業は次代を担う重要な産業だと思います。
 もう1つは、いったい何が観光になり得るのかといった時、私が思うのはそこらじゅうにあるものすべてが観光足り得る、ということです。要するに、観光とはその地域の個性をどう観光客に見せるかということで、別に信州だけでなくどこでもそうなんですが、観光の重要性というのは非日常性にあると思うんですね。その地域で日常生活の中に埋没している人々は、外からやってきた人が素晴らしいと思うような地域が持つ魅力に案外気がついていないものです。だからよそと比較したり、外部の人の意見に耳を傾けたりすることで、自分たちが持っている素晴らしさを再発見することがとても大切なのだと思います。
細萱:02年度の統計を見ると、長野県の観光地を訪れた人は9千6百万人。かつての1億人から少し減少してきているんです。
橋本:原因の一番は、スキー客が半減しているからでしょう。スキーブームがピークだった90年前後、都会のスキーヤーは満員の夜行バスに乗って長野県のスキー場に行き、八畳とか十畳の宿に押し込められ、スキー場ではリフトが一時間待ち(笑)。私もそんなスキー客の1人だったのですが。ところが、そうやって観光客のことをあまり考えずブームに乗って儲けたスキー観光地の多くは、それを再投資に回さず消費してしまった。これでは観光客からそっぽを向かれるのは当たり前です。今重要なのは何万人減ったから何万人増やそうという発想ではなく、観光客はある程度の人数に絞っても、その人たちに本当に信州が良かったと言って喜んで帰っていただけるようなサービスを徹底することだと思います。その人たちの口コミは情報源として非常に重要であり、リピーターにつながります。何でも産業として成立するためには持続的安定的収入が必要ですが、何度も信州に来てくれる固定客を増やせばそれがかなう。そんな発想の転換が今とても求められていると思いますね。
細萱:確かにそうですね。温泉に来たとか、スキーで来たとか、信州に何か目的を持ってこられた方は、そういう素晴らしいサービスを提供されればきっとリピーターになるんでしょうね。支店長さんも転勤族の1人ですが、そのような人に信州はどうかとたずねると、とても良いと、もし他に転勤になってもまた帰ってきたい、なんて声が出るんですよ。私などはこんな寒い所が本当に良いのかとも思うんですが、それでも良いんですね。ですから、とにかく来てみれば分るんですね、信州の魅力が。ですから、一度でも良いから長野県へ来てくれ、という呼びかけが必要なんだと思います。

人を呼ぶのはサービス業。求められるサービス業の再構築。

橋本:ただ去年、白骨温泉の問題があったじゃないですか。実は私は、あそこに決定的な問題が含まれていると思うんです。
細萱:というのは。
橋本:記者会見の時、温泉側は「お客さまには白いお湯のほうが喜んでいただけると思った」と説明しましたね。しかし、それはあくまで供給者の論理。要するに、問題は本物の温泉を楽しみにしてきた人たちに本物を提供しなかったという事なんだと思うんです。温泉側には決定的にマーケティングが欠如している。今お客さまが何を欲しているのかをちゃんと理解し、それを提供していくという、需要者の論理で考えていくことが重要だと思います。
細萱:それまでは温泉ならどこでも良いと思っていました。しかしこの問題が全国的に波及し、源泉かけ流しが良いんだとか、温泉に対して人々の目が覚めてきましたね。そういう点では、あの事件はプラスになりました。この年末年始、長野県の温泉地のホテル・旅館は一番良い部屋から予約が埋まったようですね。長野県に限らず、有名温泉地の非常に人気のある旅館などはもう1、2年前から予約が入っているそうです。つまり良い温泉から、高い部屋から予約が埋っていく。そういう点では不況とはいいながら、みんなお金があるんですね(笑)。
橋本:要するに、1人の消費者は2つの側面を持っているんです。こちらのスーパーのほうがこちらより何円安いと言っている消費者が、その一方で温泉でもモノでも、自分が価値を認めたものにはきちっとお金を使うんです。ここに実は経営の考えるべきことがある。つまり、自分たちが提供している「財・サービス」はどの分野なのかということです。製造業はこれを常に考えています。研究開発をし、付加価値創造力をつけているわけです。だからサービスの世界でも、他にない満足度という付加価値があれば、おっしゃったように高くても買うんですね。
細萱:確かに日用品は安売りの店で十分だけど、年末年始ゆっくりしようかという時にはやはり付加価値の高いところ、心の満足が得られるところを選びますね。
橋本:自分が対象としている商売はどこを狙っているのか。県内にも出店している、例えばヤマダ電機やベイシアなどの量販店は、アメリカ型経営形態で徹底的に価格競争を展開しています。ところが長野県は地勢と規制に囲まれて旧態依然としたものが温存されてきた。そこに高速交通網ができて県外資本がボンと入って来た時、ガタガタと崩れてきた。それを今後どう立て直していくか。観光を契機として、サービス業の再構築を行っていくことが求められていると思います。人を呼ぶのは何といってもサービス業。その最たる例が東京でしょう。

宿泊客を囲い込むと地域も一緒に沈む。地域の元気に人のにぎわいは絶対不可欠。

橋本:金融の世界でデリバティブズが非常に盛んになってきてるでしょ。デリバティブズっていったいなんなのかっていうと、元本と利子というようなものを構成要素ごとに分解して、これ自体が経済価値として転々と動いていくというものです。これは金融が一番進んでいるんですけれども、こういうものがすべてに必要になっています。売れるものも売れないものも全部入れてセットでいくらと在庫整理する福袋にはもう、消費者は反応しなくなってきているんです。いらないものはいらないんです。
 これをしているのがホテル・旅館など観光関連業界です。大規模なホテル・旅館では、宿泊客を食事からおみやげまで、自分のホテルにすべて囲い込んで外に出さない。でも、これでは観光を契機としたサービス業の再構築にも、地域経済の活性化にも何もならないんです。宿泊、食事、オプショナルツアーなどすべてバラバラにして、そのひとつひとつがビジネスとして成り立つような格好に組み立てることによって、観光客に町の中を徘徊してもらわなくてはいけない。そうすれば松本の裏町も少しは元気が出てくるでしょう。宿泊客も「一泊二食付きだと、またこの懐石か」と思うから、一泊しかしないんです。素泊まりなら、今日はこんなものが食べたい、翌日はこんなものが食べたいといって二泊するかもしれませんよね。だけど、その経営からなかなか脱却できないんですよ。
細萱:長野県だけではありませんが、まさに宿泊客の囲い込みですね。旅館内に飲み屋はあるし、みやげ物屋はあるし、すべて施設内で間にあってしまって外に出ない。もっとも、長野県の温泉は外に出ても何にもないんじゃないでしょうか。昔は射的場があったりしましたが、今はありませんし。
橋本:いや、そんなことないですよ。もし仮にそうだとしても、例えば松本市の浅間温泉だったら、松本市街地までお客さんをお送りするんですよ。どんなものがお気に入りですか、こんな良いところがありますよとご紹介して。そういう経営をしたら、絶対に勝てると思いますよ。囲い込むから地域も一緒に沈むわけです。地域が元気になるためには、人のにぎわいが絶対に不可欠です。
細萱:今はお客さんが要求するものは多様化し、高度化していますからね。射的なんてつまらない、もう無理ですね(笑)。
橋本:今、松本市内はすごいんですよ。コンテストでトップになったようなバーテンダーが何人もいて、おしゃれなバーがいっぱいできています。私もよく行きますけど、土蔵づくりのコジャレた小料理屋などもたくさんあるわけですよ。そういうところに観光客をご案内しただけで、松本の印象は全然違ってきます。観光客が街にあふれてくると、街そのものもハイセンスに変わっていくと思うんですよね。
細萱:山ノ内町の渋温泉のある旅館に行くと大きな鍵を貸してくれて、温泉めぐりができますね。
橋本:それが正解なんです。渋温泉は今、北信地区で一番元気ですね。それは若者が中心になってなんとか活性化させようと、そういう取り組みをしているから。観光客は旅館に来るんじゃなくて、地域に来るんです。だからホテル・旅館は必死になって自分たちのサービスを上げようと努力する。そこに競争原理が働いて温泉全体が活性化する仕組みができるわけです。ところが、競争を嫌がって観光客を開放しないと、地域全体が沈没するんです。

観光サービス業は人と人とのふれあい。人の気持ちに感動するとその地が好きになる。

細萱:ただ、さっきもスキーの話が出ましたけど、今、スキーは人気ないんですね。東京にも千葉県にも屋内スキー場があったんですが、今はもう全部だめになってますね。やっていけない。どうして人気がなくなったのでしょうね。
橋本:いや、人気がないんじゃないんです。我々ぐらいの年代はものすごくスキーをしていたんです。そういう人たちが今、スキーに行かないでしょ。私などは今スキーに行くと、スキー場のちょっとゆったりできるところで地元の地ビールなどを飲みながら日向ぼっこしてリラクゼーションを楽しみたい(笑)。こういう潜在的スキーヤーがいっぱいいるのに、それを引っ張りだすためのマーケティングが全然できてない。我々の年代の人々の頭には、スキー宿やスキー場は野沢菜と梅干のイメージしか残っていないわけです(笑)。で、ものすごく大装備してスキー場まで行くのはもう、しんどいなと。ところが今や、スキーも全然変わってきてるし、スノーシューだとか、歩くスキーだとか、楽しみ方が幅広くなっている。そんなものをどう提供して、眠っているスキーヤーを引き出すかだと思うんですね。実は、経済的には若者を引き出すよりも五十代以上のほうが絶対良いんですよ。
細萱:スキー自体がつまらなくなったのかな、滑ればあっという間に終わってしまうから。あるいは価値観が少し変わってしまったのか。
橋本:いや、まず過去の印象が悪すぎるのと、現代的にスキーが楽しくなっていることを情報発信できてないからでしょう。スキーは大荷物を揃えて行かなければいけない、という意識しか残っていない。今は手ぶらで行ってもいいんですよ、レンタルが非常に充実しているから。まず消費者が今何を欲しているのかを理解すること。それがまず第一だと思うんです。
細萱:新潟県の越後湯沢にはホテルやマンションが建ち並んでいますが、良くないようですね。
橋本:今は全然だめですね。あそこはアクセスの良さでバブルの時に続々と建ったんです。それに比べて、長野県はアクセスが悪かった。しかし私はそれは結構なことだと思っているんです。観光にはそこそこの時間とそこそこの距離が非常に重要だからです。長野市では新幹線ができたがために宿泊客が少なくなったといわれていますが、泊まってその価格に見合うサービスなり、感動なりがないといけないと思います。
 さらに長野県の観光産業は閉鎖的です。ほとんどが県内資本ですね。それはそれで良いんですが、そもそも長野県の観光は何から始まったかというと、私が思うに農業からなんですね。農業の片手間に観光をやってきたから、本業である農業が忙しいとお客さんそっちのけになってしまう。いまだにホスピタリティに欠けるといわれるのは、その意識が続いているからかもしれません。観光サービス業は人と人とのふれあいですから、人の気持ちに感動するとその地が好きになる。しかし、その逆も当然、ある。ですから、今までは片手間だったかもしれないけど、これからはこれが中心産業になるんだという意識で取り組む必要があると思います。ホスピタリティというと、従業員教育だと言われるんですが、私はそれだけじゃないと思うんです。さっき言ったように、地域すべてが観光なんです。小布施町がなぜ成功しているかというと、地域住民が一体になっているから。そして、小布施にとって観光客は非常に重要なお客様だという住民のホスピタリティが定着しているからです。
細萱:長野はある意味、善光寺に頼りすぎてますね。何でもかんでも善光寺。もっとも、先の善光寺御開帳ではあまり潤わなかったという話もあります。それは支店長が言われるように、地域がもっと一体となってお客様としてお迎えしなかったからかもしれません。しかし、やはり普段からきちんとマーケティングをしている店は繁盛しているようですね。


リスク分散ができている長野県農業。課題は競争の仕組みをいかに根づかせるか。

細萱:長野県は就業率で全国一位、特に高齢者の就業率が全国一位です。これは農業のウエイトがかなりあるからだと思います。観光と同様、農業の分野でもいかに高い付加価値をつけるかということが求められているのではないかと思いますね。ここら辺については、どうご覧になっていますか。
橋本:長野県の農業は米、野菜、果樹と非常に種類が多い。非常に種類が多いということはどういう事かと言うと、会長が一番お詳しい「ポートフォリオ・マネージメント」ができているということだと思うんです。農産物というのは市場価格です。天災もあるし、全然できなかったり、不作だったりするわけでしょ。ところがいろいろな作物があるというのは、全部はやられないということです。ある農作物の価格がメタメタになっても、こっちがあるよ、というかたちで。つまり、いろいろな作物を作ることによってリスク分散ができているのです。先ほど蚕糸産業のDNAという話がありましたけれど、やはりものすごく苦労してきたわけですよ、市場経済の中で。それが農業の中にもしっかり息づいているんじゃないかと、私は感じます。もっとも、農業にも悪いところはある。それは流通です。JAを中心とした流通を見直し、より良い農作物をより良いかたちで提供していくべきです。もちろんJAも良いんですが、いかんせん競争がないんですね。付加価値創造のイノベーションは、競争の中から出てくるんですから。
細萱:企業組合という制度がありますが、最近、長野県では農家の奥さんなどが企業組合をつくり、自分たちの農作物を自分たちで販売するケースが増えてきています。
橋本:そうでしょうね。経済特区の中でも、農業の株式会社化とかが出てきていますね。一気にはいかないでしょうけれども、そういう競争の仕組みを農業にいかに根づかせるか。イノベーションのためにはすごく重要なことだと思いますね。

経済的自立を果たしていくための構図を長野県はどう描いていくのか。

司会:少子高齢化が本格的に進み、国も地方も財政悪化という問題を抱えています。そのような背景のなか、また地域間競争も一層激しくなるなかで、長野県の地域経済と産業の活性化をどうやって進めていくかが大きな課題になっています。そんななかで中小企業の振興をいかに図っていくべきか。その辺のところをお話しいただければと思います。
橋本:まずとても重要なことは、今起こっている足元の景気回復は民間主導だということ。民間主導と財政主導では起こることが違うんです。戦後いろいろな転換がありましたが、要するに地域間の格差を富の再分配を通じていかにならしていくのかということだった。集団就職で出た若者たちが故郷に仕送りすることで富の再分配が行われ、そこに良い労働力があるという事で大手の工場が進出してくる。設備という生産要素が移転することによって、雇用効果が出る。その後の極めつけが田中角栄の列島改造論。都市部であがった税収を地方交付税、交付金で地方にばらまくという財政主導により、むしろ地方のほうが景気が良くなるケースも少なくなかった。しかし、今回はまったく財政が出ていかない。三位一体の改革で、交付金だめ、補助金だめ、税源の委譲とバーター、というような格好になっているわけですね。その結果、都市部と地方との景気回復の格差が起こっている。
 幸いにも長野県の製造業は、今の需要にマッチした機械系業種のウエイトが高く、全国一、二を占めるほど非常に良いポジションにいます。ところが非製造業は下から三分の一ぐらいのところです。特に足を引っ張っているのが建設業。長野県の平成16年度の投資的予算削減率は全国トップですから、良いか悪いかは別にして、当然、建設業の痛みというのは激しく出てきます。しかしそれだけかというと、観光関連を中心にサービス業、小売業といったところもまだまだ。そういった意味で、三位一体の改革というのは今起こっていることそのもの。今まで中央から金をもらうから、口出しもされて個性を発揮できなかった。しかしこれからは税源委譲をやるので、自分たちのモデルを考えて自分たちのやりたいようにやっていこうというのが、いわば三位一体の本来の意味だと思うんですね。
 大切なのは、長野県として経済的自立を果たしていくための構図をどう描いていくか。そこには、こういうことをしたいから規制緩和、税源委譲をしてくださいという姿勢がセットにならなければいけない。そういう意味ではまさに正念場に差しかかっていると思います。
 そういう中で今、長野県が展開する「3×3(スリーバイスリー)」というグランドデザインはすばらしいと思います。ただ、そこに個別・具体的な肉付けがなされて実践に移されているかというと、「?」がたくさんつくのですが。業界、県職員が一体となってそこに個別・具体的肉付けをして、個性豊かな長野県としての経済的モデルを作りあげていかなければいけないと思います。
 もっとも、私に言わせればこんな贅沢な県はめったにないんです。他の都道府県では、製造業がない、農業もおぼつかないというところもたくさんあります。そうするともう観光ぐらいしか生きていく道がない。例えば、沖縄は公共事業と観光と軍しかありません。だから背水の陣で観光産業に頑張っているわけですね。長野県は製造業がある、農業がある、観光資源が豊富にある、なおかつ三大都市圏から非常に近いという最高の立地条件にある。ここが本気で取り組んだら、絶対すばらしい県になり得るんですよ。しかし、その努力を怠っている部分も少しあるんじゃないかなと思うんです。すみません、とりあえずここまでにします。言い出したら、きりがない(笑)。
※既存基幹産業である農業、製造業、観光業と、成長性の高い福祉・医療、環境、教育の分野との連携・融合を指す。

大切なのは個々の企業が一本立ちすること。そのためにもイノベーションを。

細萱:おっしゃる通りで、ここにいるとそういうことに気がつかないですね。長野県で良いのは製造業というお話がありましたが、私が今、非常に心配をしていることは「ドル安」です。ブッシュ大統領が再選されてドルが強くなるかと思ったら、とたんに弱くなってしまった。ドルが弱くなって、円が上がった。ドルがすべての通貨に対して弱くなった。これが非常に心配ですね。特に製造業を中心とする輸出関連業種。今年3月頃には一ドル90円台程度まで行くのではないかというエコノミストもいますね。確かにその可能性も否定できないような気配です。そうなりますと、240円が一気に120円まで上がり、さらに急激に79円にまで円高が進んだプラザ合意後の再来があるかもしれない。あの時、我々が一番懸念したのが円高不況だったのです。長野県の製造業が全部ダメになるんじゃないかというほどの懸念があったんです。あの時は何とかそれを乗り越えたんですけれども、再びその懸念が無きにしもあらずですね。
 一方、中央会の会長としての立場からお話ししますと、中小企業が組合を作るというのが中央会の主旨ですが、それでも基本的にはまず個々の企業が一本立ちしていかないとだめですね。そういう企業が集まって、より以上の力を発揮しようというのが本来の目的でしょう。そのために中央会として進めるべきことは情報交換です。その上に立ったイノベーション。イノベーション、革新がなければだめだと、私はつねに言っているんです。それを中小企業が自からやっていくことが大切です。先ほどお話しした、特許もそのひとつですね。このままドル安が続けば大変になる。中央会としては、情報がいかに満遍なく欲しいところに行き渡るかということを考えていかないといけないと思います。支店長、その辺はいかがでしょう。
橋本:もちろん、為替が安定するのにこした事はありませんね。今ドル安の方向に向かっている背景は結局、米国の貿易赤字と財政赤字、つまり双子の赤字です。これを受けて信任が低下している。戦後の世界経済はIMF体制のもとアメリカの圧倒的最終需要に支えられ、アメリカがくしゃみすると世界中が風邪をひくというような体制になっていました。それが近年、ユーロが統一され欧州経済圏としての地歩を固めつつある。アジア地区も中国が市場経済に参入し、世界経済の中で一番成長率の高い地域になってきている。
 日本も中国も、最終的には米国の最終需要に依存しているところが多いわけですけれども、今や中国に進出する企業の多くは労働コストが安いからというよりも、中国の先行きのマーケットとしての魅力に目がいってるわけですよね。そういった意味で世界経済は、アメリカ一国に依存しすぎてた構図からバラけた方が持続的な安定に繋がっていくと思うんですね。その時に、いつまでもIMF体制でドルに依存した形の取引を続けるのがいいのかどうなのかという通貨体制の問題にもなってくるんです。しかし通貨体制だとか、円高だとかドル安だとか以前に、財・サービスに付加価値があって強ければ、あまり通貨価値の影響を受けないともいえるわけですね。そういった意味で、私どもとしては通貨価値安定のためにいろいろな努力をしていかなければいけないわけですが、企業のベースはやはり、通貨に影響を受けないような付加価値創造力を持つということでしょう。いずれにしても日本経済が、アジア経済との相互依存関係を強化しながらアジア地区の発展に貢献していくというのは、世界経済の持続的成長においても非常に大きな目標のひとつになってきつつあるように思います。
細萱:ヨーロッパ、アジアが非常に強くなり、もうアメリカ一国じゃないんだ、昔と違うんだということですね。そうなるとドルの暴落とか、あるいは円の暴落とか、日本の国債の暴落とかそういう問題が生ずるのかどうか。幸田真音さんの『日銀券』(新潮社)が単行本になっていますが。その中で、非常にショッキングな事件が起きますね、サウジアラビアが石油の決済をドルからユーロに変えるという。そこで大変な混乱になるんですが。もしそういう事態になって、ドルの暴落とか、あるいはアメリカ国債の暴落とか、日本の国債の暴落とかそういう事態になると経済は大混乱するでしょう。そうならないために、日銀さんはどういうスタンスでこれからやっていかれるのかお聞きしたいのですが。
橋本:アメリカに赤字をファイナンスするための資金が入り続けるためには、アメリカの財政運営や経済運営において、世界各国からコンフィデンスを勝ち得る政策を取り続けられる必要があります。そうでないと、そこから資金が逃げ始めたとたん、今会長がおっしゃったような話になる。ですから、それはアメリカが勝手にできる話ではありません。市場や世界各国からの監視の目の中で今後もアメリカ経済の運営がなされていくということです。今現在、確かにアメリカ経済は少し雇用関連の数字がにぶい部分もありますけれど、企業のコンフィデンス自体は非常に高く、設備投資もしっかりしているので、今、アメリカから資金が逃げ出すようなことはないと思っています。

中小企業が強みを発揮していくためには、製造業も非製造業も集積効果をねらえ。

橋本:長野県は製造業が比較優位で、先をにらんで技術開発もきちっとやられているので基本的には問題ないと思います。しかし注文つけるとすれば、2つあります。
 ひとつは販売力の弱さ。もう少し工夫の余地があるように思いますね。中小企業は大企業と違って非常に限られた人数でやるわけですから、個々の企業がそのための人材をいかに育成していくかという事が非常に重要です。また、新製品の開発をしようと思っても基準や規制がたくさんありますよね。中央会はその相談窓口となったり、規制・基準への対応支援をしていくことが重要になると思います。
 もうひとつは、中小企業が強みを発揮していくためには集積効果が必要だということです。要するに、製造業が一カ所に集まることによって水平的、垂直的な分業体制ができ、新製品を開発していくときも異業種の中から新しいアイディアが出てくる。例えば、諏訪圏工業メッセ。私はこれはとても良いと思っているんですが、諏訪に持っていけば何かできるぞというイメージがあるから、そこに技術力が集積してきます。隣同士が協力するという意味でも重要だと思います。
 実は、これは非製造業にも同じことが言えるんですね。大型ショッピングモールが近くにできて中小商店街はそれにどう対抗していくのかといった時、それぞれ個性を持った中小商店が集まり、そのショッピングモールに対抗できるゆるやかな集合体として力を出していく。そういう企業間の連携をどうアレンジして、より一層深めさせるか。そういう意味合いにおいて、中央会の存在意義というのは非常に大きいのではないかと私は思っています。
細萱:おっしゃる通り、専門店を中心とする商店街がみんな連携してデパートのような機能を持たせるというのが今、話題になっていますね。飯田でもそんな動きが始まっているようですが。値段はスーパーより若干高くなっても、配達などのサービスもしっかりやるから結果的には安いんだと。そうやってモールに対抗しているんですね。
橋本:飯田でやってるのは、高齢者などが商工会議所に電話をすると各店に連絡が行き、必要な品物を自宅まで届けるという宅配サービスみたいなものですね。ですから、昔に戻っているんですよね。最終的に中小商店の生き方はそういうふうに、小回りをいかに効かせるかみたいなところに行き着くような気がします。住民と店がフェイストゥフェイスでお互いによくわかっていて、ケアも含めて全部できるというようなね。



大切なのは行政に頼らないこと。そして個性的な人材の育成。

司会:個々の企業としてやらなくてはいけない連携がある一方で、先ほども県の「3×3(スリーバイスリー)」の話もありましたけども、県などの行政が誘導する連携施策も大事なのではないかと思いますが、その辺はいかがでしょう。
橋本:日本人、特に信州人は官僚に弱いんですね。今起こっている大きな政府から小さな政府への移行の背後には、中央官僚の集団的知識が各企業に起こっているイノベーションについていけなくなったという事があると思うのです。行政は総論は書けるかもしれないけれど、各論のことは何も分からない。ですから、総論の方向が良いということであれば、中小企業が動きやすくなるインセンティブとインフラの整備は行政にお願いするけれども、それ以外はすべて民間がやる、というくらいのイメージを持つ必要があるんじゃないかと思います。
細萱:私も行政なんかあてにしちゃいけないという立場ですが、一方で例えば、中央会は補助金が二で会費が一の比率で運営されています。ですから補助金がなくなってしまうと、もうやっていけないんですね。そこでどうすれば良いのか、ジレンマというか苦悩があります。この比率が逆転するように自分の努力で収入を増やせればいいのですが、これはなかなか難しい。ですから、会費で運営している団体はどこも苦しいですよ。
 また連携によって新しいものを生み出そうということについては、各県から上がってきたものを国(通産局)がチェックするんです。民間に任せればいいのに自分たちで審査するわけですよ。良いアイディアが出てきても、役人の頭で考えるから、これはどうか、あれはどうかと注文つけてしまう。そうすると、中小企業はいちいちうるさい事言うなら、そんな資金を借りないで自分たちでやろうということになる。任せるようで任せていないところに少し問題があるのではないかと思いますね。そういうなかで、中央会では今、産学官連携といったものを柱として進めているのですが。
橋本:産学官も非常に良いのですが、その一番根本になければいけないのはやはり、人材育成ですね。中小企業白書などを読んでも、中小企業のかなり多くで人材の育成と確保が最大の問題になっています。そこの部分は個別企業ではどうにもならない部分もありますね。今までの教育は製造業のワーカーを配出するためのシステムとしては良かった。つまり品質が非常に整った製品を作り出すための平均値の高い人材の養成です。しかし今、製造業では、労働集約的なワーカーは海外に移り、国内では研究開発型の知的集約的な人材が求められてきています。また、サービス業でも、いかに個性豊かな人間を育てるかが重要になっています。なおかつ今までの教育は正解をきちっと書いた人が百点なのだけれども、実際我々が社会に出てみると「正解」なんて何もない。毎日手探り状態で、ぶちあたった壁からどう脱却するかというような事を日々求められているわけです。我々が子どもの頃は自然のなかでの遊びから知恵、知識というのを得てきました。しかし近年は受験勉強ばっかりやっているからか、そういうものが全然鍛えられていない。それが問題で、そういう教育のレベルから変えていかなければいけないと思うんです。
 一方で、団塊の世代が六十歳定年を迎えてきますが、この人たちのスキル、ノウハウというのは非常にたくさんある。平均寿命が八十歳まで延びているわけですから、マーケティングだとか生産管理といったスキルやノウハウを持った人をうまく中小企業にマッチングさせていくことができればと思うんですね。新しい世代の教育と個性豊かな人材を育てていくというところに競争力を保つ重要な要素があるのではないかと思います。


激しい変化を先取りするために、つねに「世界」を意識した経営が大切。

細萱:企業の実態を見ますと勝ち組、負け組の二極化が鮮明になってきているように思いますが、特に中小企業の場合、経営トップの資質というか、リーダーシップというか、その辺のところがかなりキーポイントになっているように感じています。いかがでしょうか。
橋本:そうですね。私はあえてキーワードを選ぶとすれば「世界」だと思います。グローバル、インターナショナルでもいいのですが。今、ものすごい勢いとスピードで世の中に変化が起こっているんですね。経営者はその変化を先取りして手を打っていかなくてはいけません。そのためにも多角的な視野を持つということが非常に重要で、自分の会社の経営だけに埋没しているとついていけません。多角的な視野を持ちましょうという意味で「世界を眺めよう」と言いたいですね。おそらく製造業では多くの経営者がしっかりと世界を眺めているんですが、非製造業、つまり小売業にしてもホテル・旅館業にしても、すべてが世界を意識した経営に取り組まなければいけない時代だと思います。製造業もかつては世界の優秀なものを物真似してここまで伸びてきたわけで、非製造業も劣っている部分があるならば、もっともっと世界を勉強して世界の真似をすればよい、と思うんですね。自分たちは地域経済の中でやっているから世界なんて関係ないとおっしゃるかもしれないけど、それは違います。今はみんな海外旅行をしているわけですよ。海外のサービスと、その値ごろ感を体験してきているんです。そういう人たちに満足していただけるサービスを提供しなければいけないんです。
 今、長野県でも中国などから観光客を呼ぼうとしているわけですが、そのためには中国の人がハワイではなく、信州に行きたいというような観光地作りをしなければいけませんよね。小売店でも海外旅行に行った人がどういうものを買っているのか、どんなものに関心があるのかという、世界を意識した経営がとても重要だと思います。最終的にはマーケティングということになると思いますが。

経営者はつねに一歩二歩先を展望しながら企業経営の努力を。

司会:さて、おふた方には長時間にわたり、お話しをいただいて参りましたが、そろそろ時間が来たようでございます。長野県の産業、特にサービス業の課題と展望について、たくさんの貴重なご意見、ご提言をうかがうことができました。とても面白く、また大変に有意義なお話しをありがとうございました。
 私ども中央会も今年、創立50年の節目を迎えました。そこで対談の締めとして、これからの50年について、ひと言ずついただければと存じます。
橋本:とにかく、過去50年のスピードとは比べものにならないほどのスピードで今、世の中が変わっているということでしょうね。ですから、これから先の50年を見通せといってもまったく分かりません。半年先ですら、まったく分からないのですから(笑)。とにかく、そのスピードについていくために多角的に視野を持ち、変革に乗り遅れないように、あるいは一歩でも二歩でも先を展望しながら企業経営に努力するという感覚が必要なんだと思います。
細萱:まさにそうですね、今から50年後は地球自体なくなっているかもしれないしね(笑)。先ほど、中小企業がどうあるべきかという話になったんですが、これはもう経営者の問題だと私は思います。世界観という問題が出ましたけども、それに加えて、経営者は自分がやっている仕事のバランスシートをいつも頭に入れていないとだめですね。ある仕事に対してその先を読みつつ、自分が今やっていることがどういう状態にあるかを毎日把握していなければいけません。それが一番の基本。その上で、精神的な強さや、絶対会社を良くするんだ、将来伸ばすんだという熱意や希望を持って経営にあたるということが大切なのではないかと思います。
司会:ありがとうございました。それでは、これで閉じたいと思います。

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