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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

元気な企業を訪ねて -チャレンジャーたちの系譜ー

ものづくりもサービス業も基本は同じ。
ビジネスチャンスは徹底したお客様満足の提供の向こうに。

森 行成さん
野村工業グループ
代表取締役社長 野村 稔さん

ボジョレー・ヌーヴォー解禁日に160人の招待客

ウィスキー ブランデー 果実酒及びシャンパン
 11月18日深夜といえば、ワイン通には言わずと知れたボジョレー・ヌーヴォーの解禁日。毎年レストランやワインバーなどでのパーティが話題になる。諏訪市内でも同日、地域財界人やワイン販売業者、ソムリエなどのワイン愛好家約160人の招待客を集めたパーティが開かれ、新酒の味を楽しんだ。そのなかにはアメリカの世界的に著名なワインコレクター、ショーン・ペリー氏や、「フランスワイン界の黒船」として有名な在仏日本人、伊藤與志男氏の顔も。
 そのパーティを主催したのが、野村工業グループの野村稔社長。グループの中核企業である野村工業と、グループ会社のエスエヌ精機が手がける洋酒の輸入卸・小売事業のプレゼンテーションの一環として開催した。
 驚くのは、同グループは1954年、野村社長の父であり先代の故野村千古氏が諏訪市でバルブ関係の亜鉛・アルミダイカストおよび金型製造業を開始以来、諏訪のものづくりを体現してきた中小企業だということ。まったく縁のない洋酒の輸入卸・小売を手がける理由は後で述べるが、こちらもグループ売上高約200億円のうち約30億円を占める立派な”本業“なのである。

精密中空鍛造技術の、日本におけるパイオニア

全自動鍛造機
全自動鍛造機
 野村工業グループは、各種金型の設計・製作をはじめ、鍛造・ダイカスト製品の設計から加工まで一貫生産する野村工業(株)、FAシステム、IT関連機器、医療機器などの研究開発に取り組む(株)エスエヌ精機、工作機械、工具、情報システム機器など省力化・自動化を実現する各種商品の専門商社であるナンシン機工(株)、そして台湾の100%出資子会社など5社で構成。各社が有機的に連携を取りながらビジネスを展開している。
 千古氏は当時日本ではまだ珍しい技術だったダイカストに取り組み、北沢バルブ(現キッツ)の鍛造バルブ部門を担って同社発展を支えた。
 特に注目されるのが、コア技術である「精密中空鍛造」。創業後しばらくして、従来の鋳物に比べ材料節減と加工工程の短縮等により大きくコスト低減が図れ、効率の良いこの技術に着目。イギリス、イタリア、スイス、ドイツから最新鋭鍛造機を導入し、日本でいち早くこの技術に取り組んだ。現在「日本で五指に入る」と自負する技術を確立している。
 「1ドル360円の時代。しかも当時、長野では諏訪精工舎(現セイコーエプソン)くらいにしかなかった世界最先端の高価な機械。社員数10人の町工場が買うなど考えられないことでしたが、先代は『(その分)稼げばいいさ』(笑)。導入当初、運用面では苦労の連続。それがだんだんものになり、仕事になっていきました。そうなれば強い。他社と大きな差別化を図ることができました」と野村社長はふり返る。
 一方では諏訪精工舎に専用機器・装置を提供するとともに、ウォッチケースの金型・プレス成形の生産を開始。精密分野にも大きな地歩を築いていった。
 この両社との密接な関係は現在に至るまで続き、両社の事業発展に大きく貢献している。

ものづくりもサービス業も基本は一緒

台湾野村股イ分有限公司
台湾野村股イ分有限公司
 典型的な諏訪のものづくり会社が、なぜ洋酒の輸入卸・小売りを手がけたのか。そこには創業者、千古氏の明確な経営哲学と、時代を見抜く鋭いビジネス感覚がある。
 「ものづくりもサービス業も基本は一緒。いかにお客様に満足を提供するかだ。先代は昔からつねにそう言っていました。それは苦労して事業をするなかで身につけてきた経営哲学です。20年ほど前に洋酒の輸入販売を開始したのも、正規輸入では数万円もする良い酒を数分の一で提供できればお客様に喜んでもらえる、という発想。免許が必要だし、何も知らない事業はできないと大反対したのですが押し切られました(笑)」と野村社長は明かす。
 酒類卸と小売の免許を取得して業界に参入したが、規制で守られた業界はいったん攻め込まれれば弱い。酒のディスカウント販売のはしりとなり順調に業績を伸ばしていった。
 分社化も「お客様満足の追求」を実践した結果だ。より確実に顧客の心をつかむために専門の営業部門(ナンシン機工)を、顧客の声と社員のアイデアを商品化して満足してもらうために開発設計部門(エスエヌ精機)を、という具合。
 87年には「企業経営の夢だった」台湾(高雄)に現地法人を設立したが、ここでもその哲学を徹底。「自分たちだけ儲かればいいという考えは絶対にだめだ。台湾の人たちの生活が良くなれば会社も必ず良くなる、と教えられました。その姿勢が台湾政府にも伝わり、李登輝前総統が台湾の中小企業の手本とまでおっしゃってくれたんです」。
 社長室には千古氏逝去を悼んだ李前総統直筆の書と、野村社長が李前総統の自宅に招待された際に一緒に撮った写真が飾られている。
 野村社長はハイテク立国をめざす台湾を事業拠点として非常に重視。現在、台中県の輸出加工区中湊園区に専用機械製造の新工場建設準備を進めている。

ローテクとハイテクの融合が中国に勝つ大きな要因

アクチェーター
アクチェーター
 同グループは諏訪で製造した精密中空鍛造製品を中国に輸出している。「伝統的ローテク技術ともいえる技術ですが、金型は大手メーカーと共同開発したCAD/CAMのハイテク自動機・システムにより24時間無人稼働で製作している。このローテクとハイテクの融合が中国に勝つ大きな要因です」。
 野村社長が強調するように、同グループは半導体関連装置や、現在メーンとして取り組む液晶フラットパネルの製造装置などハイテク分野の開発設計でも高い技術力を誇る。ベースとなっているのが諏訪精工舎のウォッチづくりを支えてきた精密技術だ。
 さらに産業用ロボットの開発設計・製造でもかなりの実績を持ち、「これで得られる財産はかなり多い」(野村社長)。2005年の愛知万博には、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「次世代ロボット実用化プロジェクト プロトタイプ開発支援事業」の成果として「ダンスパートナーロボット」を出品する予定だ。
 これはパートナーの微妙な身体の動きを感知し、「踊る」という反応をするロボット。介護をはじめ、生活全般において人と協調する生活関連ロボットが将来かなりの市場規模に達すると見られているが、その基礎技術がここに集約されている。

情報にヒラメキを感じた時、新しいビジネスが始まる

節電太郎(水道凍結防止帯節電装置) 履いたまま泳げるサンダルマイフリッパー
 同社の得意とするのが、外部から持ち込まれたアイデアを卓越した技術で商品化すること。
 そのひとつが「マイフリッパー」だ。これは履いたまま泳ぐこともできるまったく新しい素足感覚のビーチサンダル。商品のアイデアを持ち込まれた時、野村社長は子供が海岸で足を切り、家族の楽しい海水浴旅行が台無しになった経験を思い出し、事業化を決断したという。千古氏も「面白いやってみろ」と勧め、事業をスタートするや大ヒット商品となった。その後、世界的ファッションデザイナー、三宅一生から2000年パリコレ用シューズとして特別注文が舞い込むというオマケも。
 このような生活関連消費財では、水道凍結防止帯の電気代を90%節約する「節電太郎」も同様にしてできた。
 外部のアイデアを商品化した製品で画期的なのが、人工心肺装置の開発。ある病院のメディカルエンジニアが、人間にやさしい新しい装置の開発を超大手メーカーと共同で取り組んできたがいっこうにものにならないと、持ち込んできた。
 人工心肺装置は心臓手術の際、血液を体外で循環させて生命を維持する機器。トラブルが発生したら患者の生命に直結するだけに、当初開発への取り組みは躊躇したという。しかし鍛造、精密技術の一方で「マイフリッパー」もつくりだす、同グループの飛び抜けた柔軟性と高い技術力を高く評価する依頼主の熱意と信頼に応えるかたちで開発に取り組み、見事成功。大きな話題を呼んだ。
 新しい分野に積極的に挑戦していく企業風土。新規事業参入の垣根はとても低い。「入ってきた情報にヒラメキを感じた時、そこから新しいビジネスが始まるのです」。

積極的に展開する、産学、産産連携

 外部のアイデアを積極的に取り込みカタチにする姿勢が、産学および産産連携へとつながるのは自然の流れだ。
 人工心肺装置をはじめとする医療機器および塑性加工で、信州大学、名古屋大学と連携。特に信大は工学、医学、繊維の各学部と交流を持ち、カーボンナノチューブ、有機ELなどの分野でも技術蓄積を深めている。
 さらに前述の「ダンスパートナーロボット」をはじめとするロボット工学では東北大学、情報、生産システムでは諏訪東京理科大学、情報探索・評価では青葉技術会と、それぞれ積極的に協同プロジェクトを推進。大幅なコストパフォーマンスを実現した携帯薬液注入器「ディヴテックポンプ」は、地域コンソーシアム研究開発事業に参加した八社と共同開発した。
 一方、開発体制の強化をめざした?世界最速試作センターの共同設立に参画。また「ものづくり指南塾」には立ち上げから積極的に関わるなど、品質向上、コストダウンなど企業体質の改善をめざした取り組みにも熱心だ。

新しい企業間連携としての協同組合のあり方を推進

 協同組合にも早くから取り組み、98年に設立した「キッツ協同組合」では理事長を務める。当初、組合員は機械部品メーカーのみだったが、空洞化の進展と異業種交流を重視する考えから卸売業やサービス業を加え、増員を図った。
 「異分野で情報交換し連携を深めていくことが大事。組合としてやればひとつのテーマでもいろいろなアプローチが可能で、産学、産産連携にもつながります。一社で何でもかんでもやるのは限界があり、例えば組合員同士で設備を融通し合えば効率的。そのためにも、単に共同購入などにとどまるのではなく、事業の連携を深めていくことが大切です」
 もっとも野村社長は、組合員同士の仲間意識、連携気運がかなり高まっていると感じている。「今までとは違う企業間連携としての組合が出てくる状況になりつつある。企業トップがどれだけ危機意識を持っているか。それにかかっていると思います」。
 同グループの新たなターゲットは環境分野。廃液処理装置のほか、DTFや新エネルギーといった省エネ・省スペース・省資源を実現する分野の研究に取り組む。諏訪南インター近くに取得した工場では太陽光発電パネル製造装置などを手がける。
 「お客様満足」を哲学に柔軟な発想でビジネスをとらえ、意欲的に外部と連携を図りながら新たな事業展開を推進していく同グループ。諏訪のものづくりを変えていく推進力を担う存在のひとつだ。


プロフィール
森 行成さん
代表取締役社長
野村 稔
(のむらみのる)
中央会に期待すること

中央会への提言
 協同組合は今後、単に共同購入などにとどまるのではなく、事業の連携を深めていくことが望ましい。それを進めるためのヒントやアドバイスをしていただけたらと思います。

経歴 1946年(昭和21年)10月24日生まれ
1969年3月 工学院大学卒業
1988年7月   野村工業(株)代表取締役に就任
1998年8月   キッツ協同組合理事長に就任
2004年5月   諏訪工業協同組合理事長に就任
公職   長野県中小企業団体中央会 諏訪支部副支部長
長野県中小企業団体中央会 総代
茅野商工会議所 常議員
茅野市工業振興協議会 会長
出身   駒ヶ根市
趣味   らんの栽培、ゴルフ
コチョウランの栽培も手がけたが、今は作られた花よりも原種の素朴な美しさにより魅力を感じる。
家族構成   妻、子供2人、母

企業ガイド
野村工業株式会社

本社 〒391-0001 長野県茅野市ちの650番地
TEL.(0266)72-6151(代) FAX.(0266)73-6559
設立   1954年11月
資本金   6,000万円
事業内容   各種金型の設計・製作、精密中空鍛造品・各種ダイカスト品・精密加工・組立 (バルブ管材部品・ガス機器部品・光通信機器部品・他)、FA周辺機器設計・製作、酒類販売
事業所   本社工場、湖東工場、名古屋営業所、埼玉営業所、酒天童子部、中国・上海事務所
関連会社   (株)エスエヌ精機、ナンシン機工(株)、(有)シー・エヌ・ティー、台湾野村股イ分有限公司
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