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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

元気な企業を訪ねて -チャレンジャーたちの系譜ー

“「型こそすべて」- 超精密金型づくりを極め、
不可能を可能にしながら、新しい価値の創造をめざす。”

平林 健吾さん
株式会社サイベックコーポレーション
代表取締役社長 平林 健吾さん

従来のイメージを見事に裏切るプレス工場

金型パーツ
金型パーツ
 あらゆる工業製品を形づくるさまざまな形状の金属部品は、鋳造、切削、塑性といった金属加工技術によって作られる。製品の用途や成形加工のしやすさ、コストなどにより最適な技術が選ばれるが、特に精度の高い製品を安定的に大量生産するという点では、プレスを代表とする塑性加工が最も適しているといわれる。低コスト、しかも軽薄短小ニーズにも合致しているため、電気・電子、精密機器などの部品製造では主流をなす工法だ。
 サイベックコーポレーションは、超精密プレス加工技術で世界にその名を轟かす少数精鋭の開発型メーカー。主力の自動車をはじめ、電気・電子、光学、医療機器、空調機器といった製品に使われる超精密部品の金型開発とプレス加工を手がけている。
 プレス加工工場に入ると、大きな騒音や油にまみれた床といったプレス工場につきもののイメージは見事に裏切られる。とてもクリーン。加工機は防音ボックスで囲い騒音をできる限りカット、常温で加工する技術を開発して熱や油っ気を取り除いたという。
 コイル状に巻かれた金属板(フープ材)がスタンピングを繰り返すプレス機械に送り込まれていく。最後にいくつもコンベアから転がり出てくるのは、段差や長い突起などがついたかなり複雑な形状の製品。もちろんパーツの接着など、後工程も施していない。もとは真っ平らな金属板を一台の機械に組み込まれた金型でガチャンガチャンとプレスするだけで作ったものとは、とても信じられない。

金型技術をとことん突き詰め、「冷間鍛造順送型」を開発

冷間鍛造順送型
冷間鍛造順送型
 「プレスで一番重要なのが金型の開発。絶対に不良を出さない精度の高さと、大量生産できる耐久性の高さをあわせ持つ金型を作るためには、膨大な技術の蓄積が必要です」と、創業者である平林健吾代表取締役社長。
 同社では精度の高いプレス加工を行うため、早くから金型の自社開発・製造に着手。金型加工には世界最高精度の機械を駆使し、しかも精度を保つため恒温管理された環境で作業を行うという体制を築いてきた。自社開発の超精密金型を使用し、自社でプレス加工する。この一貫生産体制こそが、同社のキーワードであるVE(バリューエンジニアリング)の証なのだ。
 このような取り組みのなかで生み出されたのが、同社のブランドであるコア技術「冷間鍛造(冷鍛)順送型」だ。これは一つの金型のなかで、絞り・潰し・シゴキ・曲げといった十五工程にもおよぶ作業を行い、板厚を変えながら三次元的な形状を作り出すとともに、より高い強度をも得られる画期的な技術。
 三次元形状の部品加工はもともとプレスでは不可能とされていた。それを可能にしたことで、手間と時間とコストがかかる切削や焼結などの加工方法を一貫工程で安く大量生産できるプレスに置き換えることができ、大幅なコストダウンを実現した。この技術により同社は、三次元形状の超精密部品のプレス化を積極的に推進している。
 加工分野は電気・電子関連部品が主体だったが、五年ほど前から、より高度な技術が要求される自動車の機能部品にシフト。今では約八割を占める。一方、電気・電子関連部品は中国の技術供与先メーカーで製造し、日本の大手メーカーに供給する体制をとっている。
 「自動車の機能部品や制御部品は点数が多く、その多くが三次元的形状。しかも高い精度が要求されます。また当社はすべて鏡面に磨き、表面コーティングも施していますが、そういう後処理技術も重要です。電気・電子部品の板厚は1、2ミリなのに対し、自動車部品は5、6ミリと非常に厚い。国内でこれほど厚いものを手がけているのは当社だけでしょう。それだけにプレスや金型加工の機械も市販のものでは限界があり、特殊な加工機械を機械メーカーと共同開発している。そこまでしないと良いモノづくりはできません。当社が今あるのは金型技術をとことん突き詰め、技術を蓄積してきたからにほかならないのです」
 創業者の言葉には、これまで培ってきた技術力への自信と自負がにじみ出る。

「SYVEC」― 企業理念をそのまま社名に

 同社が創業社名「信友工業」から「サイベック(SYVEC)コーポレーション」という社名に改めたのは、1991年のこと。バブル崩壊の逆境をはねのけ、最新鋭設備を誇る本社工場を現在地に建設した翌年のことだ。
 社名の由来について、平林社長はこう話す。「旧社名”信友“の頭文字〈SY〉と、”Value Engineering for Customers“の頭文字〈VEC〉を組み合わせた。信友工業の技術でお客様に価値を提供していこう、という意味を込めたんです」企業理念がそのまま社名なのである。コーポレートスローガンは”Idea&Technology“。ここには、社員一人ひとりのアイデアが最新技術に直結するのだ、という心構えを込めた。
 平林社長は松本工業高校卒業後、シチズン時計(株)に入社。8年間にわたり時計用工作機械を製造する部門で開発を担当した。その後、請われて転職した松本のプレス加工メーカーでプレス技術と出会い、その面白さを知る。「非常に速いスピードでモノづくりができる。これからはこの技術だと思った」
 そして73年、29歳で独立創業。6年目には国産トップクラスの「ワイヤーカット放電加工機」を導入し、本格的に高精度な金型製造に取り組む。小さな町工場では考えられない大型設備投資。しかし「型こそがすべて」という平林社長の信念のもと、ここから独自の金型開発が深められていったのである。

世界の最先端にいると自負しています

金型工場
金型工場
 「我々がこれから日本でターゲットとすべきは、超精密、超微細、高機能、環境への対応、軽薄短小といった製品分野。ここでプレス技術は重要な意味を持つ。ミクロンオーダーの加工精度や三次元形状の要求に対し、プレスでいかに付加価値の高い工法開発を行い、新しい金型を作り量産に結びつけていくか。それが大きなテーマです」
 それを担うのが平林社長が所長を兼務し、同社社員45人中11人が所属する「VT(バリューテクノロジー)研究所」営業、工法開発、試作、量産設計を一貫して行う研究開発の拠点だ。
 研究員は顧客の声をダイレクトに聞き、自ら金型の組立、試作を行いながら、高付加価値製品を作り上げていく。追求するのは金型技術だけではない。自動車部品の軽量化を実現する高張力のハイテク材といった金属素材や、熱処理技術など幅広い技術分野もターゲットだ。一方、マーケティング活動にも力を入れ、マーケティング担当研究員がつねに市場動向に目を光らせ、新しい製品分野や開発テーマを探している。
 「お客様から多いのは、切削や焼結で作っている部品をプレスにいかに置き換えるかというテーマ。研究所スタッフはまずその製品をお客様がどういう使い方をするのかを徹底的に聞き出し、納得したうえでより良い製品づくりのための設計提案を行う。我々の最大の目的は単なる技術でなく、お客様に価値のある技術(バリューテクノロジー)を提供し喜んでいただくことだからです」
 同研究所が手がける商品分野は、自動車用燃料電池、電子制御装置、太陽電池、パソコンCPUの水冷装置、医療機器など幅広い。
 例えば自動車用燃料電池では、1000枚積層で使われるセパレータという部品の製造コストをいかに圧縮するかが目下のテーマ。ステンレス板を絞り込んで成形するメタル・セパレートを主要取引先である自動車グループと共同開発中だ。「完成は10年、20年先のこと」だが、これが成功すれば世界を極めることも夢ではないという。同社に対する期待もかなり大きいようだ。
 「世界の金型業界でも、これほどの専門的組織を立ち上げて研究開発に取り組んでいる企業はおそらく皆無。そういう意味では世界の最先端にいると自負しています」と平林社長は胸を張る。

技術供与を積極的に推進。海外生産要求に応え、利益も

 大手メーカーの海外生産シフトが進むなか、部品メーカーには現地生産の要求も大きい。同社は独自に海外拠点を持つのではなく、現地ローカル企業への技術供与を積極的に推進することで、そのニーズに応えている。
 他企業への技術供与は94年、米オバーグ社との契約が最初。金型技術と金型を有償で提供し、さらに技術供与先がこの金型を使って製品を作るごとに一定のロイヤルティを徴収する。現在、オバーグ社のほか、日本、シンガポール、中国の企業、台湾の工業技術院にも技術供与を行なっている。
 中国の技術供与先メーカーには5年ほど前、本社工場で作っていた光ピックアップなどの製品をすべて移管。今では2000人規模で月産1800万個を生産する一大拠点となり、日本の大手メーカー数社の現地生産拠点に供給している。
 「我々は社員45名の小さな会社。ニーズがあっても独自に海外生産拠点を設けるわけにはいかないし、そのつもりもない。そのかわり海外のローカル会社に技術を売ることで対応するとともに、ロイヤルティによって利益を上げていくという仕組みをつくったのです。これが大きい。この資金を研究所での新しい開発や、加工機械メーカーとの共同開発に投資できるのですから」
 経済成長が進み、急激な変貌を遂げている中国。同社では今後中国での自動車生産量増大に備え、近い将来、自動車部品の技術供与も検討中だ。

技術者はロマンがないと面白くない

山田ドビー-SYVEC(SVC-300)
山田ドビー-SYVEC
(SVC-300)
 「人材教育には投資を惜しまない」という平林社長。外部研修を積極的に活用するほか、社内に「テクニカルセンター」を設置している。
 テクニカルセンターはバスケットボールなどができる体育館や休憩室、CAD図面をプロジェクターで検討できるシミュレーション室や実習室などを備え、社内研修のスペースとして活用されている。
 さらに平林社長は、広く業界における人材育成にも力を注ぐ。業界団体や企業等の招きに応じて積極的に講演活動を行うほか、テクニカルセンターを開放して「平林塾」を開講(月1回・1年間)。自身を含む専門家による講義や加工現場の見学などのカリキュラムを組み、日本のモノづくりを担う優秀な若手プレス技術者の育成に取り組んでいる。
 「長野県にプレス業界が残るためには、最先端の技術を見てもらい、プレスでこういうものができるという認識と、そのためにはどういう金型が必要かを知ってもらうことが必要。技術者が
”井の中の蛙“にならないよう、高い技術の”物差し“を教えることが大切です」
 プレス技術と出会い、その素晴らしさに惚れ込んで30余年。「型こそすべて」と超精密金型づくりにまい進し、不可能を可能にしながら世界のモノづくりの現場に新しい価値を創造し続ける平林社長。最後にこう結んだ。「技術者はロマンがないと面白くない。ロマンがある技術とは何か。それを教えるのが私の役目だと思っています」。

プロフィール
平林 健吾さん
代表取締役社長
平林 健吾
(ひらばやしけんご)
中央会に期待すること

本社工場
本社工場
中小企業施策についての提言
 顧客から製造品の解析データの提出を求められることが増えている。分析、解析はかなり高度な試験装置と研究費が必要であり、中小企業ではとても無理。それを研究機関等で対応してもらえればありがたい。

経歴 1944年(昭和19年)4月12日生まれ
1963年3月 松本工業高校機械科卒業
1963年4月   シチズン時計(株)入社
1973年10月   (株)信友工業設立(資本金700万円)
1991年4月   (株)サイベックコーポレーションに社名変更
2000年4月   バリューテクノロジー研究所所長に就任(社長兼任)
趣味   スキー(1級)、ゴルフ
家族構成   妻、子供3人(長女、長男、次男)

企業ガイド
株式会社サイベックコーポレーション

本社 〒399-0704 長野県塩尻市広丘郷原南原1000-15 アルプス工業団地内
TEL.0263-51-1800(代) FAX.0263-51-1808(代)
創業   1973年
資本金   8,000万円
事業内容   超精密部品の金型開発およびプレス加工
事業所   本社工場
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