ホーム > 月刊中小企業レポート > 月刊中小企業レポート(2004年10月号) > 特集1「2004年のものづくり白書」のポイント > 第1章 グローバル展開と国内基盤の 強化に取り組む我が国製造業
MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集1「2004年のものづくり白書」のポイント

第1章 グローバル展開と国内基盤の 強化に取り組む我が国製造業

第1節 回復しつつある我が国製造業の概況と我が国経済における重要性

 近年の我が国製造業の動向を見ると、生産は2002年以来回復傾向にあり、企業収益も2002年下期から増益を継続。過剰債務、過剰設備といった負の遺産も一部業界での再編もあって相当程度解消しており、新たな展開に向けた基盤は整備されつつある状況にある。(図表1)

図表1 経常利益の推移

図表1 経常利益の推移

 製造業の業況の回復要因を見ると、輸出の伸びや設備投資の回復があるが、企業自らの取組、すなわち、自らの研究開発による新製品の創造が新たな需要につながって企業利益を拡大させ、更には新たな研究開発・設備投資を生み出す「よい循環」も寄与。特に、近年成長の著しいデジタル家電については、家電産業のみならず、素材・部品産業といった幅広い産業が連携することにより、付加価値の創出に大きく貢献。
 デジタル家電等において、研究開発と需要拡大の「よい循環」が生まれている。(図表2・3)

図表2 研究開発がもたらすよい循環

図表2 研究開発がもたらすよい循環

 

図表3 デジタル家電生産が我が国経済に及ぼす影響

図表3 デジタル家電生産が我が国経済に及ぼす影響

 ただし、地域の景況は回復傾向にあるものの地域毎にばらつきが見られ、製造業の雇用を見ると、就業者数は下げ止まりつつあるものの引き続き対前年を割り込む水準。また、製造業の中小企業においては、業況・生産動向に改善の兆しは見られるものの、大企業に比してその水準は低いなど、依然として厳しい状況が継続。(図表4)

図表4 中小製造業の業況判断

図表4 中小製造業の業況判断

 

第2節 製造業のグローバル化と我が国製造業の事業環境

1. 進展する製造業のグローバル化
(1)国際競争への適応に努力する我が国製造業

 我が国製造業は海外生産の拡大など海外事業の展開に努力しており、その果実を生みつつある。また、為替変動の対応にも努力している。一方、我が国製造業の再編の動きは一部にとどまる。3割弱の企業は事業再編の必要性を認識。
 製造業企業は、着実な海外直接投資を実施。(図表5・6)

図表5 我が国製造業の直接投資額

図表5 我が国製造業の直接投資額

 

図表6 我が国製造業企業の海外生産比率

図表6 我が国製造業企業の海外生産比率

(2)高成長する中国経済において進展する我が国製造業の事業展開と課題
 中国の経済成長は引き続き著しく、GDPや輸出入は拡大。特に、外資系企業の積極的事業展開もあり、機械産業や素材産業が生産の拡大を牽引。
 こうした中で、我が国製造業は、直接投資を拡大するとともに生産設備や基幹部素材等を輸出することなどにより、我が国の製造基盤の強みを活かした工程間の分業を進展させ、そのメリットを確保。
 中国のGDPは引き続き高成長。電気・電子製品や自動車といった機械産業や鉄・化学などの素材産業が生産の拡大を牽引。(図表7・8)

図表7 中国における工業生産の業種別推移

図表7 中国における工業生産の業種別推移

 

図表8 中国の輸出入(対世界)(2003年)

図表8 中国の輸出入(対世界)(2003年)

 我が国製造業は、電気電子や自動車を中心に直接投資を拡大するとともに、中国での生産が拡大している電気・電子機器、通信機器、輸送機器などに係る基幹部品・素材など高付加価値製品を中心に輸出し、中国を市場として取り込む努力を強化。(図表9)

図表9 我が国製造業の対中国直接投資

図表9 我が国製造業の対中国直接投資

 今後の動向については、我が国製造業にとって、中国は生産拠点としての役割に加え、販売市場としての位置付けも高まる見込み。生産拠点としての役割も、単純な工程のみに止まらず、より高付加価値の組立工程や開発拠点の立地も徐々に進展することが見込まれる。我が国製造業は今後中国事業を拡大していく意向。(図表10)

図表10 我が国製造業から見た中国の位置付け

図表10 我が国製造業から見た中国の位置付け

 その一方で、中国経済の発展とともに一次産品価格等は国際的に上昇しており、また、中国経済そのものについても、人民元レート、エネルギー不足や資産価格の上昇などの課題が指摘される。さらに、税制等の施策の透明性、知的財産の保護、インフラ整備等に関する課題もあり、中国における事業展開で成果を上げていく上では、こうした点への対処も必要。
 国際的な商品市況は、中国の活発な事業活動を背景に上昇傾向。(図表11)

図表11  工業原材料価格指数(JOC-ECR)の推移

図表11  工業原材料価格指数(JOC-ECR)の推移

 中国の経済発展に対しては、税制等の施策が不透明、技術ノウハウの流出や知的財産権の侵害といった問題点が指摘されており、1 年前より悪化。また、将来的には賃金の上昇などを懸念する指摘(5年後は62・6%が懸念)が多く、為替リスクも今後高まると考えられている。(図表12)

図表12 中国での事業展開上の課題

図表12 中国での事業展開上の課題

(3) 堅調なASEAN経済において深化する我が国製造業の事業展開
 1997年のアジア通貨危機により落ち込んだASEAN経済は、着実に回復。特に、通貨危機以降価格競争力が確保されたこともあり、ASEANの貿易は、輸出超過に転換。
 我が国製造業にとっては、1980年代以降の直接投資の蓄積、現地における事業展開の経験や製造基盤の整備が見られることから、ASEANは引き続き重要な在外拠点としての役割を有する。(図表13)

図表13 ASEAN4の貿易額と対世界シェア

図表13 ASEAN4の貿易額と対世界シェア

(4)製造業にとり高い潜在力を有する国内事業環境
 我が国に立地する製造業は国内の製造基盤の優位性を活用した対応が重要。
 例えば、我が国製造業企業は、部品・素材製造企業と組立加工企業との連携による迅速な製品開発や新しい生産機械・技術の導入といった面で優位性を有する。最先端商品を評価し、需要が顕在化する国内市場があることも有利。今回の我が国製造業の業況回復の局面において重要な役割を果たしたデジタル家電については、こうした我が国製造業の優位性が活用されたといえる。
 デジタル家電においては、その製造に関連する企業が相互に協力することにより、我が国製造業の競争力を確保。(図表14)

図表14 液晶ディスプレイにおける生産の連関

図表14 液晶ディスプレイにおける生産の連関

2. 製造業の内外市場における収益性
 我が国製造業企業にとっては、高級品・差別化品分野、特に国内の同分野の収益性が高く、差別化、高機能化の取組を高感度で豊かな消費者の存在する国内市場でまず結実させることが高収益化にとり重要。高収益企業は、低収益企業に比べ、研究開発、設備投資、知的財産の管理・取得、ブランド力の強化などに積極的であり、こうした取組の拡大が重要。
 国内高級品・差別化品市場獲得に向けた差別化、高機能化が収益向上に重要。デジタル家電のように製造業が差別化、高機能化を進めて消費需要を喚起し、高収益をあげることが期待される。海外市場でも、差別化、高機能化が収益力向上のポイント。(図表15)

図表15 収益性の向上に資する取組

図表15 収益性の向上に資する取組

 

第3節 新たな発展に向けた我が国製造業の取組

1. 継続的な革新努力
(1)事業展開の選択と集中など戦略的経営の推進
 我が国製造業が収益を上げていくためには、戦略立案とそのスピードある実行は不可欠。事業展開の選択と集中を果断に行うとともに、業種によっては、産業再編を図ることも効果的。また、経済連携協定締結など、通商環境の変化も踏まえつつ対外事業展開の取組を強化することが重要。(図表16)

図表16 重点的経営課題(過去3年間/今後3年間)

図表16 重点的経営課題(過去3年間/今後3年間)

(2)差別化による市場ポジションの確立
 企業が収益力、競争力を向上していくためには、多様化するマーケットニーズを踏まえつつ競合他社との差別化を図っていくことが重要。具体的には、①技術開発の拡充、効率化に加え、②デザイン・ブランド活用、③知的財産管理、④標準化に対する積極的な取組を図ることが重要。

(3)企画開発・生産・物流プロセスの革新
 我が国製造業は、これまでカンバン方式などの生産技術を生み出し、プロセス改善によって高い競争力を維持してきた。今後も、生産工程において競争力を確保していくためには、我が国の製造業の現場力・企業ネットワーク力を活かしつつ、一層、①生産方式の見直しや徹底したコスト削減、②需要に即応する生産プロセスの革新に努めていくことが重要。
 生産工程等の改善に取り組むことにより、我が国製造業企業が生産効率を大幅に改善した事例も多い。

〔事例 企業風土改革に基づいた継続的な生産革新/半導体製造装置メーカー(中小企業) 〕
 E社は、従業員一人一人が主体的に生産革新に取り組む企業風土改革を進めつつ、1個流し生産など生産ラインの改善、ステンレス溶接など外注工程の内製化、関係企業との物流の効率化に取り組み、部品・仕掛かり・完成品在庫を大幅に削減し、従業員一人当たりの付加価値生産性は14倍となって一時悪化していた業績を抜本的に改善。E社は、生産要員による各種治具の改良など生産革新に取り組み続けており、取引先の大手電機メーカーからも視察を受けている。

(4)国内生産回帰・活用
 こうした生産効率の向上もあり、高度な技術を必要とする製品や国内の需要に即応する必要がある製品等については、国内生産を重視し、中には海外から国内に生産を切り替える事例もみられる。(図表17)

図表17 海外から国内への生産工程の切替事
(過去1年間)の理由】

海外から国内への生産工程の切替事(過去1 年間)の理由】

〔事例 MDプレーヤーの生産を国内に切替/音響機器メーカー〕
 F社では、材料費等の下落や物流費の節減が期待されること、コスト中の人件費比率が低いことなどを背景に、需要即応と無駄の徹底排除を目的とする生産革新を国内で進めることとし、MDプレーヤーの生産をマレーシアから、国内に切り替えた。期待されたコスト削減に加え、品質の向上がもたらされている。

〔事例 SCMの追求と水平型生産体制の推進/大手総合電機メーカー〕
 G社は米国向けデジタル・ビデオ・カメラの生産を中国で行っていたが、映像処理回路チップや光学レンズなど日本で調達する部材が4割に上る同製品のSCM(サプライ・チェーン・マネジメント) を強化するとともに、各種製品の生産体制を一元的に管理して増産対応、生産の平準化を図る水平型生産体制に同製品を取り込むため、日本国内における生産に変更した。この結果、米国の量販店への納期は4週間から3週間に短縮するなどの成果をあげている。

(5)環境ビジネスへの取組の強化
 環境問題への国民の意識が高まる中、我が国製造業は、ハイブリッド自動車など省エネルギーなどの環境性能の向上やリサイクルを前提にした製品開発、環境に配慮した生産工程の構築など、製品設計や生産・販売プロセスなどあらゆる局面に環境配慮を取り込む新たな取組を推進しており、こうした取組が競争力の源泉になりつつある。

(6)競争力強化を支える高度専門人材の育成
 こうした取組を支えるのは、これらに知見を有する人材であり企業戦略、技術戦略の構築、生産プロセスの革新のための能力開発が重要。企業例でもこれらに向けて取り組む事例も増加している。

〔事例 生産革新や多能工育成に向けた研修・評価制度/大手光学機器メーカー〕
 K社では、工場長等から職場長までの現場部門に加え、技術、生産管理、品質保証関係のスタッフが一緒になって生産革新研修を実施し、トヨタ生産方式を学び、実践している。また、K社では、高度な熟練技術を有する者を名匠認定し、原則2年間、選抜された継承者へマンツーマンの技術伝承を行う制度や、多くの工程や業務数をこなすことができる一流の多能工の作業者をセル生産方式の中核的役割を担う「マイスター」として認定する制度を実施している。これまでに10数名がS級( スーパーマイスター) に認定されており、工場現場への写真の掲示や社長との食事会の開催などが行われている。

〔事例 ものづくり現場の改革に向けた社内の研修制度の充実/大手総合電機メーカー〕
 L社は、2001年に社内にものづくり大学校を立ち上げ、全国の工場から集まる従業員に対して幅広い教育を行っている。具体的には、電子機器組立や3次元CADなどの高度技術の研修などに加え、セル生産方式の導入・改良に向け、現場のリーダーのSCMへの理解を深めるなど課題解決能力を高める研修に力を入れている。座学だけでなく実践も重視し、例えば、課題解決型研修では、実際の事業場におけるSCMの導入・改善を試みるなど、現場における実際の生産革新に取り組んでいる。

2 . 製造業それぞれの個性を活かした取組の強化
(1)中小製造業による直販への取組
 依然として厳しい経営環境が続く中小企業では、下請企業が顧客に直接販売する「直販」に取り組む例もみられる。こうした取組により、潜在的な顧客ニーズの把握、需要動向の把握、ブランド力・製品開発力の向上を通じて、収益を高めている企業もみられる。
 直販によって既存流通経路より高い収益率を獲得し、顧客ニーズや需要動向の迅速な把握、自社ブランドの認知度向上、商品企画力の強化などを実現している。

〔事例 直販に挑戦する中小製造業〕
N社(ゴルフクラブ製造・販売)
 既存流通製品の約1/3~1/8 という他社が追随できない低価格での価格設定を武器にした直販(2004年3月時点で28店舗を展開)により、ゴルフクラブ生産販売を急拡大。
いまばりタオルブティック
 今治タオル産地では自治体の援助を受け、東京銀座に産地タオル製造企業20社の主力製品を置く直営店を開設。商品開発力の強化や今治タオルのブランド力の向上に寄与している。
O社(眼鏡フレーム製造・販売)
 ファッション性の高い東京青山にアンテナショップを開設し、ハイエンドな一般消費者の知名度向上等ブランド力の強化、デザイン等の商品開発力の向上を実現。
P社(皮革工芸製品製造・販売)
 直販店を自社のブランドコンセプトを発信する拠点として位置付け、直販店展開によって得た消費者認知に基づき百貨店との取引の拡大も実現して、販売総額を拡大傾向で推移させている。

(2)サービスを取り込んだ新たなビジネスモデルの構築
 我が国製造業の一部には、これまでの単に製品を製造・販売するシステムから、販売後のサービスを含めて総合的に効用、機能を提供する新たなシステムを構築する動きもある。
 こうした取組により、収益体質を強化している例もみられる。

〔空調設備と遠隔監視による省エネ型運転制御の融合事例/空調・冷凍機器メーカー〕
 Q社は、オフィスビル向けの空調機器にオンラインの遠隔監視システムを組み込み、故障の防止や省エネルギー運転制御を行うサービスを提供。故障が発生した場合には、2時間以内にユーザーもとに到着し、修理を行うとともに、ビル周辺の気象状態に基づいた省エネルギー型の運転制御を行っている。

(3)伝統的工芸品産業における積極的な対応
 需要の低迷や後継者不足の問題等をかかえる伝統的工芸品産業では、海外デザイナー等との協働による新製品の開発やデザイン・ブランド戦略による差別化、また先端技術との融合によって新たな需要を開拓している例もみられる。

〔事例 新たな需要を開拓する伝統的工芸品産業〕
リサイクル材の活用による商品の開発(美濃焼)
 回収した食器を粉砕した再生原料を20% 程度配合したリサイクル食器「Re-食器」が全国に拡大。産学共同の団体を中心に産地・業界の厳しい状況が続く中、環境負荷の少ないものづくりをキーワードに苦境からの脱却を目指している。
伝統的な技術の活用による安全な製品の開発(木曽漆器)
 (財)木曽地域地場産業振興センターでは、漆器の新たな市場を開拓すべく、耐久性の強い漆器製給食器を開発し、木曽漆器工業協同組合が製品化した。一般に使用されているポリカーボネート食器(PC食器)では環境ホルモンの溶出の危険があることを踏まえ、産地の小・中学校では、PC食器から高温殺菌や機械洗浄にも耐えられる同漆器製食器に切り替えた。
 健康的で手触りもよく食器に最適と好評を得ている。

このページの上へ