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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集1 2004年版中小企業白書の概要

まとめ
多様なパートナーとの新しい連携

~多様性がもたらす中小企業の可能性をさらに拡げるために~

 「平成15年度 中小企業の動向に関する年次報告(2004年版中小企業白書)抜粋」は、前号と今号で終わる。
 この中で我々は、多様な中小企業の存在が、この数年の不況の中でも様々なニューサービスを生み出す等、産業構造を転換させる原動力となっていることをみてきた。
 また、高い雇用創出力を持つのみならず、特に雇用機会に恵まれない女性や中高齢者に職を提供していることをみてきた。
 さらに、新しい就労形態を生み出す点においても、地域独自の公益サービスを地域の住民により解決する点においても、全く新しい技術革新を生み出す点においても中小企業の役割は大きいことを確認し、sohoや地域貢献型事業(いわゆるコミュニティ・ビジネス)、大学発ベンチャーといった新しい中小企業の態様を紹介した。
 このようにみていくと、中小企業とは外的な環境変化に受動的に対応するというより、経済社会にとって新しいものを生み出していく創造力を有する存在であることがわかる。
 もちろん、中小企業にとって、今後、対応が求められるいくつかの課題は存在する。
 その中で「年次報告」では、経済のグローバリゼーションと経営者の高齢化の問題を取り上げた。
 前者については、我が国のみがこれを止めることは困難であり、中小企業としても、①これをビジネスチャンスと捉え、積極的な海外展開を進めるか、あるいは、②国内で高付加価値化を図る等の対応を行うことが重要であるが、①の選択をとるにしても進出形態、現地生産管理方法等の違いによりパフォーマンスが異なることがわかった。②の国内で頑張る選択肢については、研究開発やブランド育成が有効なヒントであることが国内、国外双方で生産活動を行っている企業の例からわかった。
 後者の高齢化の問題、これは今後の日本にとって避けがたいものであるが、「年次報告」では経営者の高齢化に伴い重要になってくる事業承継と廃業の問題をみてきた。
 事業承継については、はじめは既存企業と新経営者との間に様々な「摩擦」が生じるが、承継を機に新しい試みを行うことで承継が成功することがわかった。
 また、承継者が見つからず廃業する場合も、資産超過での撤退の方が負債超過の場合よりその後の生活がよりよいこともわかった。
 最後に金融では新分野進出にかかる企業の資金調達の困難性、企業再生に当たっては計数に基づく経営計画作成の重要性を見た。
 中小企業は、好況の時も不況の時も様々な課題を抱えている。しかしながら、最初に見たように中小企業には常に新しいものを生み出す創造力に満ちた存在である。
 そしてその潜在的能力を発揮すれば数々の課題を克服し、時代の先導者としての役割を果たしていくことが可能である。
 また、今後、多様な中小企業が距離を離れた他の地域の中小企業と連携する、あるいは異業種、研究機関、NPO等の多様なプレーヤーと新しい連携を組むことにより中小企業の創造性はさらに高まるであろう。
 中小企業は過去も現在も将来も経済社会を先導する存在であることを指摘して、「平成15年度中小企業の動向に関する年次報告(2004年版中小企業白書)」の結びとする。

平成16年度において講じようとする中小企業施策

 平成16年に入り、我が国経済は、設備投資と輸出の影響を大きく受ける大企業を中心に着実に回復しつつある。中小企業は、日本経済活性化や雇用確保の鍵となる存在であり、現在の厳しい情勢を乗り越え、新たな展望を切り開いていくことが重要である。
 平成16年度においては、このような認識の下、以下の3つの柱に重点を置いて当面の中小企業施策を展開していく。
 第一に、中小企業金融対策である。金融機関の不良債権処理の加速化に伴い、中小企業への影響が懸念される中、やる気と能力のある中小企業までもが破綻することを回避するため、中小企業金融セーフティネット対策に万全を期すとともに、中小企業の隅々にまで資金が行き渡るよう、不動産担保や保証人に過度に依存しない資金供給手法を進めるなど、中小企業金融の多様化を促進する。
 第二に、中小企業の再生支援である。中小企業は地域経済の核となる存在である一方で、多種多様で地域性が強いという特性を持っている。このため、全都道府県に設置した中小企業再生支援協議会を軸として、地域金融機関や中小企業診断士・公認会計士等の専門家と連携し、地域の総力を結集して柔軟かつきめ細かく中小企業の再生支援に取り組んでいく。
 第三に、創業や中小企業の新事業への挑戦支援である。依然として中小企業にとって厳しい経済情勢が続く中で、中小企業の創業・新事業支援への挑戦を後押しし、経済活性化や雇用の創出につなげることは極めて重要な課題である。このため、挑戦する中小企業への資金面・人材面・技術開発・販路開拓等各面からの支援を強力に行っていく。

1.中小企業の再生資金の円滑化

①政府系金融機関による融資制度の充実
 経営改善、経営再建等に取り組む必要が生じている中小企業者に対して融資を行う「企業再建貸付」について、平成16年4月から中小企業再生支援協議会の支援により再建に取り組む者を貸付対象に追加し、さらに、運転資金の貸付限度額を引き上げる。
 また、法的再建手続き等により再建中の中小企業者を対象とした、DIPファイナンス、DIP保証の積極的活用を図る。
②中小・ベンチャーファンド法の改正
 平成10年に制定した中小・ベンチャーファンド法(中小企業等投資事業有限責任組合法)を改正し、ファンドに融資機能を追加するとともに、ファンドの投資対象の拡充を図る(通常国会で成立後、速やかに施行予定)。これにより、ファンドが、ベンチャー企業への短期のつなぎ融資や中堅企業の経営革新のための融資、事業再生中の企業に対する融資(DIPファイナンス)をすることができるようになる。また、出資先企業や出資を予定している企業の債権を取得し、これを株式転換することにより(デッド・エクイティー・スワップ:DESS)事業再生を主導できるようになる。さらに、ファンドが、未公開の中小企業に加え、成長資金が必要な中堅企業などに対しても出資することができるようになる。


創業・新事業展開・経営革新への支援

 現在、我が国経済は、開業率と廃業率の逆転現象が起こるなど、経済の新陳代謝の停滞と活力の低下が懸念されている。
 このため、創業・経営革新及び新事業展開を図ろうとする既存中小企業に対し、資金、人材、市場開拓等、多面的な支援を行う。

1.中小企業の新事業展開への支援

(1)「がんばれ!中小企業ファンド」の組成促進
 優れた技術やアイデアを有しているにもかかわらず、新事業展開に困難を抱えている中小企業に対し、中小企業基盤整備機構が目利き能力、販売網などを有する民間主体とともに「がんばれ!中小企業ファンド」を組成し、資金供給や販路拡大等の経営支援をきめ細かく行うことにより、中小企業の新事業展開を強力に支援する。

(2)中小企業・ベンチャー挑戦支援事業

 高い新規性を有するが事業化リスクを伴う中小企業等の技術シーズ、ビジネスアイデアを市場につなげるため、中小企業等が行う実用化研究開発に要する経費や事業化に向けた販路開拓等に要する経費の一部を補助するとともに、ビジネスプランの具体化に向けたコンサルティング等を一体的に実施し、創業・新事業展開を支援する。(予算額3,387百万円)

2.創業・新事業展開・経営革新への資金供給円滑化

■新創業融資制度
 ビジネスプランを的確に審査し、無担保・無保証人(本人保証不要)で創業者及び創業を予定する者に融資を行う「新創業融資制度」の融資限度額を550万円から750万円に引き上げ、創業におけるより広い資金需要に応えることにより、より一層の創業の促進及び雇用の創出を図っていく。

■ベンチャーファンドへの出資
 国内の成長初期段階(アーリーステージ)にあるベンチャー企業等に対する投資促進を目的として、中小企業基盤整備機構が中小企業等投資事業有限責任組合に対して出資する制度を実施する。

3.創業・経営革新への法的支援

(1)中小企業創造活動促進法(中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法)
 創業や研究開発・事業化を通じて、新たな事業分野の開拓を行おうとする中小企業を支援するため、中小企業創造活動促進法に基づき都道府県知事の認定を受けた研究開発等事業計画に従って事業を行う中小企業者等に対し、以下の支援措置を講じる。
①特許料等の軽減措置
②技術開発に対する補助金(地域活性化創造技術研究開発事業)
③信用保証協会の債務保証制度(新事業開拓保険等)
④政府系金融機関による設備資金・長期運転資金の低利融資制度  等

(2)経営革新支援法に基づく支援
 中小企業経営革新支援法(以下「経営革新法」とする)に基づき、中小企業の創意ある向上発展を図るための経営革新支援及び経営基盤強化を支援するため、所要の措置を講じる。

■経営革新の支援
 国又は都道府県から承認された「経営革新計画」に従って行う事業に対し、以下の支援措置を引き続き講じる。
新商品又は新役務の開発、販路開拓、人材育成等に対する補助金(予算額1,176百万円)
政府系金融機関による設備資金・長期運転資金の低利融資制度
設備投資減税等の税制上の特例措置
新規・成長雇用分野雇用創出特別奨励金
「雇用対策特例法」により、45歳以上の労働者を新たに1人以上雇い入れる場合に、中小企業労働力確保法の認定を受けることにより、45歳未満も含め新規に雇い入れる基盤人材確保のための助成  等
 また、新たな支援措置として、経営革新法に基づく技術開発による経営革新計画の承認を受けている場合には、その事業により生じた特許の審査請求料と第1~3年分の特許料について1/2の減免措置を講じる。

■経営基盤の強化の支援
 経済的環境の著しい変化等で業況が悪化している業種(特定業種)につき、その商工組合等の構成員たる中小企業者の作成した「経営基盤強化計画」を主務大臣が承認し、その計画に従って行う事業について、機械等割増償却制度等の税制上の特例措置、政府系金融機関による設備運転資金への低利融資等を講じる。

4.起業家育成施設(ビジネス・インキュベータ)の整備

■起業家育成施設の整備に対する支援
 地域における新事業創出や雇用の拡大を図るため、新事業創出のポテンシャルの高い地域(新事業創出促進法に基づく高度技術産業集積地域及び高度研究機能集積地区、中心市街地活性化法に基づく特定中心市街地、地域産業集積活性化法に基づく基盤的技術産業集積活性化地域)において、起業家育成施設(ビジネス・インキュベータ)等の整備を行う地方公共団体等に対する支援を行う。(予算額790百万円)


技術開発の促進

 我が国のものづくりを担うやる気と能力のある中小企業が元気になることが経済の活性化や国際競争力の強化には必要不可欠であり、優れた技術力により世界トップを占める中小企業を多数輩出するため、新事業・新分野に果敢に挑戦する中小企業の技術開発を強力に支援する。

1.技術革新の促進

(1)中小企業技術革新制度(SBIR)
 新事業創出促進法に基づき、関係省庁が連携し、新産業の創出につながる新技術開発のための補助金・委託費等を特定補助金等として指定し、中小企業者等に対する特定補助金等交付に関する支出の目標等を策定し、中小企業者等への支出の機会の増大を図る。さらに、その技術開発の成果を事業化につなげるために、特許料等の減免措置、特別の貸付制度、信用保証の特例などの措置により支援を行う。

(2)創造技術研究開発事業・地域活性化創造技術研究開発事業
 中小企業等が自ら行う新製品、新技術等に関する研究開発を促進し、中小企業製品の高付加価値化等を図るため、研究開発等に要する原材料費、機械装置費、技術指導受入費等の経費について、国から直接の場合1/2(創造技術研究開発事業)及び都道府県を通じた場合2/3(地域活性化創造技術研究開発事業)の補助を行う。(予算額4,162百万円)

(3)課題対応技術革新促進事業
 新規事業・雇用の創出を促進し、活力ある我が国経済を実現するには、産業の核となる新たな技術を生み出すことが不可欠であり、技術開発を一層強力に進めることが必要である。このため、関係省庁が連携し、中小・ベンチャー企業に対し、経済・社会ニーズに即応した技術開発課題を提示し、公募を行い、優れた提案について、中小企業基盤整備機構から研究開発を委託する。(予算額22,918百万円の内数)

2.産学官の連携の促進

 産学官連携による技術開発・事業化を以下のような事業により、強力に推進する。

(1)地域新生コンソーシアム研究開発事業【中小企業枠】
 地域において新産業・新事業を創出し、地域経済の活性化を図るため、大学等の技術シーズや知見を活用した中小企業を中心とする産学官の強固な共同研究体制(地域新生コンソーシアム)の下で、実用化に向けた高度な研究開発を実施する。(予算額1,945百万円)

(2)中小企業技術開発産学官連携促進事業
 ものづくりを支える地域の中小企業が抱える技術的課題を解決するため、公設試験研究機関を中心とした産学官の連携の下に、地域における中小企業の技術開発力の向上を図り、技術開発成果の普及促進等を推進する。(予算額246百万円)

(3)大学発事業創出実用化研究開発事業
 大学の研究成果を活用して、産学が連携して実施する実用化を目指した研究開発に対し、中小企業等が研究資金を拠出すること、事業化計画が明確であること等を要件として、研究開発の管理を行うTLO等を通じ、研究開発等に必要な資金の一部を補助する。(予算額2,602百万円)


中小企業連携組織対策の推進

 中小企業は一般に規模の過小性、信用力の低さ等によって、市場における競争単位としては大企業に比べ不利な立場におかれている。
 中小企業がこのような不利を克服し、発展していくためには、連携・組織化を図ることにより自社に不足する経営資源を補完し、その能力が十分に発揮されるようにすることが有効な手段の一つといえる。このため、中小企業の組合制度等による連携支援の強化を行っていく。
 また、近年においては、新市場創出等の観点から、特徴のある技術、ビジネスノウハウ、知的財産権等を持つ中小企業等が相互に連携し、製品・サービスの高付加価値化を目指す取組への支援が重要となっており、このような新たな連携に対しても支援することとする。

(1)事業化を目的とした新たな連携への支援の強化(新連携対策委託事業)
 専門知識や高度な技術等を有する特徴のある中小企業等が連携して製品・サービスの高付加価値化を目指す取組を支援するため、連携先企業・大学の発掘や連携組織構築のための経費を支援する。(予算額546百万円)

(2)企業組合制度の一層の活用

 中小企業組合は、最低資本金規制がなく、有限責任の下で法人格が得られる組織であるため、近年では、企業をリタイアした人材や高齢者、主婦等が簡易な創業のために利用するケースが増加している。また、中小企業が異なる技術・人材等の経営資源を持ち寄り、連携して研究開発等を実施するケースも増えている。創業促進の観点から企業組合制度が一層活用されるよう、その普及を重点的に行う。
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