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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集1 2004年版中小企業白書の概要

中小企業の世代交代と廃業を巡る問題
多様性を確保するための金融

 中小企業を巡る資金供給は依然として厳しい状況にある中、意欲的に新しい事業活動を行っている中小企業や現在業務運営上苦戦しているが、経営再建を目指して積極的に取り組んでいる中小企業等、やる気や能力のある中小企業に対する円滑な資金供給は、中小企業のみならず、日本経済にとって重要である。
 本章ではこのような視点の下、新しい事業活動を行おうとする中小企業、財務状態の悪化から早期再生を目指している企業の資金調達の実態を探る。

1.新しい事業活動を行った企業の資金調達


 経済のグローバル化が進展し、国際的な競争が進展している中、産業や雇用の空洞化に対応し、雇用機会を確保していくためには、既存産業の高付加価値化もさることながら、新規産業の創出等新しい事業活動が必要である。以下ではそのような新しい事業活動を行っている、やる気や能力のある企業の資金調達面の特性を明らかにしていく。

(1)新しい事業活動を行った企業の特性

 第35図は従業員規模別に最近3年間に行った経営上の取組のうち、新しい事業活動といえる取組について示したものである。ここからは、おおむね3年前の従業員規模が大きい企業の方が最近3年間で新しい事業活動を行っている割合が高いことが分かる。
 また業種別に見ると、製造業で新しい事業活動を行った企業の割合が高くなっている(第36図)
 このように新しい事業活動を行う企業は、その際に何らかの問題を抱えているだろうか。2001年度に中小企業庁が実施した「企業経営革新活動実態調査」によれば、新しい事業活動を行う際の問題としては「能力のある人材の確保」が最も多く、次いで「必要となる資金の調達」となっているが、従業員規模が20名以下の企業においては「必要となる資金の調達」が最も大きな割合となっており(第37図)、中小企業が直面する主な問題点として「人材の確保」と「資金調達」が大きなウェイトを占めていることが分かる。

第35図
最近3年間に新しい事業活動を行った企業の割合
(2001年の従業員規模別)

~従業員の規模が大きい方が新しい事業活動を行った企業の割合が高い~

第35図 最近3年間に新しい事業活動を行った企業の割合(2001年の従業員規模別)

第36図
最近3年間に新しい事業活動を行った
企業の割合(2001年の業種別)

~製造業において新しい事業活動を行った企業の割合が比較的高い~

第36図 最近3年間に新しい事業活動を行った企業の割合(2001年の業種別)

第37図
新しい事業活動に取り組む際の問題点(従業員規模別)
~人材確保についで、資金調達も大きな制約~

第37図 新しい事業活動に取り組む際の問題点(従業員規模別)

 

 


 

 新しい事業活動を行おうとする企業が予定している資金の調達構造はどうなっているのかを見てみる。第38図第39図は中小企業金融公庫が2003年9月に実施した「第89回中小製造業設備投資動向調査」、中小企業庁が2003年10月に実施した「商業・サービス業設備投資動向調査」をもとに、新しい事業活動を行おうとしている企業の資金調達構造を示したものである。それぞれ、設備投資予定のある企業の資金調達構造について、新規事業への進出等を予定している企業と、そうでない企業に分けて、従業員規模別に示している。これらから分かるように、すべての従業員規模層において、新規事業への進出等を予定している企業の借入金の割合は、そうでない企業の借入金の割合を上回っており、新しい事業活動への投資を予定している企業は借入れによる資金調達への依存が高いことが分かる。さらに、中小企業庁「商業・サービス業設備投資動向調査」では、借入れを民間金融機関、政府系金融機関とその他に分けて質問している。これを見ると、新規事業への進出等を予定している企業のうち、従業員規模が51名以上の企業では政府系金融機関借入が9.0%であるのに対し、20名以下の企業では28.4%と、従業員規模が小さいほど政府系金融機関からの借入れにて資金調達を行おうとしている割合が高くなっており、新しい事業活動を行おうとしている中小企業は政府系金融機関からの資金調達への期待が高いことが分かる。

第38図
新しい事業活動予定の有無別の資金調達構造(従業員規模別)
~新しい事業を行おうとしている企業の方が借入金による調達を予定している割合が高い~

第38図 新しい事業活動予定の有無別の資金調達構造(従業員規模別)

第39図
新しい事業活動予定の有無別の資金調達構造(従業員規模別)
~新しい事業を行おうとしている企業は資金調達を借入に依存することが多い、
また従業員規模が小さい企業では、その借入を政府系に期待する割合が高い~

第39図 新しい事業活動予定の有無別の資金調達構造(従業員規模別)

(3)新しい事業活動を行った企業の資金調達の希望と現実

 第40図は従業員規模別に新しい事業活動を行った企業が希望している資金調達方法を示したものである。ここからは、従業員規模の大小に関係なく、希望する外部からの資金調達方法として金融機関借入が最も割合が高いことが分かる。これら金融機関借入を希望している企業のうち、実際に金融機関借入を確保できた企業を見てみると、従業員規模が大きい企業の方が資金調達方法として金融機関借入を確保している割合が高く、逆に従業員規模が小さい企業では新しい事業活動を行うための資金調達手段として金融機関借入を希望していても、実際に金融機関借入を確保できている企業の割合が低いことが分かる(第41図)

第40図
新しい事業活動のために希望する資金調達方法(従業員規模別)
~希望する資金調達方法として自己資金に次いで金融機関借入の割合が高い~

第40図 新しい事業活動のために希望する資金調達方法(従業員規模別)

第41図
新しい事業活動のために金融機関借入を確保している企業の割合(従業員規模別)
~従業員規模が大きい方が、金融機関借入を確保している企業の割合が高い~

第41図 新しい事業活動のために金融機関借入を確保している企業の割合(従業員規模別)

(4)新しい事業活動を行った企業のメインバンクの対応

 さらに、新しい事業活動を行った企業とメインバンクとの関係を見てみよう。
 第42図は3年前のメインバンクの借入れ申込への対応と最近3年間で新しい事業活動を行った企業との関係を示したものである。ここからは、メインバンクから思い通りに貸してもらえた企業の方がそうでない企業より、商品・サービスの開発や改良を開始している割合が高いことが分かる。数の面から見ても思い通りに貸してもらえた企業の方が新しい事業活動を行った数も多く(第43図)、新しい事業活動を行う企業にとって、メインバンクから思い通りに貸してもらえるかが主要な問題であるといえる。
 以上、これまでの分析をまとめると、新しい事業活動を行う企業の特性は①製造業に多い、②従業員規模が大きい企業の方が新しい事業活動を行っている割合が高い、③新しい事業活動を行おうとしている企業の中で、従業員規模が小さい企業にとっては政府系金融機関への期待が高い、④外部からの資金調達方法として、金融機関借入を希望する割合が一番高いが、従業員規模が小さい企業では実際に金融機関借入を確保できている企業の割合が少ない、⑤メインバンクから思い通りに貸してもらえるか否かが、新しい事業活動を行うか否かに影響を与えている。

第42図
新しい事業活動を行った企業の割合(2001年のメインバンクの対応別)
~メインバンクから思い通りに貸してもらえた方が新しい事業活動を行った企業の割合が高い~

第42図 新しい事業活動を行った企業の割合(2001年のメインバンクの対応別)

第43図
最近3年間に行った新しい事業活動をの数(2001年のメインバンクの対応別)
~メインバンクから思い通りに貸してもらえた方が、新しい事業活動を行った数が高い~

第43図 最近3年間に行った新しい事業活動をの数(2001年のメインバンクの対応別)

2.金融機関の経営不振企業に対する姿勢

(1)金融機関側にもメリットがある経営改善への取組

 視点を金融機関の側に転じて金融機関による企業再生への取組について見ていくことにしよう。
 金融機関にとって、貸出先企業が経営不振に陥り、倒産など債務不履行を起こす事態となれば、貸出金が回収不能となり損失となってしまう。また倒産に至らなくても、債務者区分が低い企業に対する債権は、貸し倒れに備えた引当金を多く設定しなければならないなど、利益を圧迫する要因となる。
 逆に、経営不振企業が再生し債務者区分がより上位に移れば、引当金はこれまでよりも少なくて済みそれだけでも金融機関にメリットがある。また、再び利益を上げることができるようになり新たな成長をすることができれば、その企業との取引を通じて収益を上げることも可能であろう。その意味からも、経営不振企業の再生は金融機関側にも十分メリットがあるものである。

(2)金融機関側の判断の基準

 第44図は、金融機関が支援するか否かを判断する際に「非常に重視する」と回答した点を業態別に示したものである。これによれば、全ての業態を通じて「経営者に経営改善の意欲があるかどうか」、「経営者が自社の現状を正しく認識しているかどうか」を非常に重視すると回答している金融機関が多くなっており、何よりも経営者自身の自覚と意欲を求めていることが分かる。
 また、「自行がメインバンクであるかどうか」という回答も規模の大きい業態を中心に多くなっている。
 他にも「企業情報の開示が得られるかどうか」という項目も「非常に重視する」とした割合が大きな業態を中心に多くなっており、支援して本当に事業が改善するのかどうかの判断をするための情報を求めていることも分かる。
 ここまで見てきたように、金融機関は特に経営者の意欲を重視している。また、本当に再び業績を回復できるかどうかを判断するための情報を求めている。このことから、経営者の意欲と再生への道筋の具体化という点からも経営計画の作成は非常に意味があると考えられる。

第44図
金融機関が中小企業の経営改善を支援する際の判断基準(金融機関業態別)
~経営者の意欲や企業情報の開示の他に、自行がメインバンクかどうかも重要な判断基準~

第44図金融機関が中小企業の経営改善を支援する際の判断基準(金融機関業態別)~経営者の意欲や企業情報の開示の他に、自行がメインバンクかどうかも重要な判断基準~

(3)金融機関が用いる支援方法

 では、金融機関が中小企業の経営改善の支援に用いるのはどのような手法であろうか。第45図は、金融機関が中小企業の経営改善を支援するに当たって「非常によく用いる」、「よく用いる」と回答した割合を金融機関の業態別に示したものである。これを見ると、経営面でのアドバイスといったソフト面での支援や一時的に資金繰りを緩和する効果がある返済条件の緩和(利息の減免や元本の放棄を伴わないもの)は、よく用いられていることが分かる。その一方で、利息の減免や元本の放棄といった金融機関に直接損失が発生する方法は、ほとんど行われていないことが分かる。これは、元本の一部放棄のような行動をしてまで当該企業を支援する経済的合理性が存在するかどうかといった判断の他、一部の企業に行えば、他の企業からも同様の対応を迫られるといったモラルハザードを起こす懸念があることが背景にあると考えられる。
 しかし、一旦支援を受けられたとしても継続的に支援が受けられるかどうかは、また別の問題である。第46図は、金融機関が支援を開始した後に、支援の継続に特に障害となるものを尋ねた結果である。これによれば、大手行以外の業態では、経営者の意欲の弱さが支援の継続に特に障害になると回答している。たとえ金融機関からの支援が得られたとしても、その時点では再生へのスタートラインに立っただけであり、決して安心してはならないのである。

第45図
金融機関が中小企業の支援に用いる方法
~全ての業態で自行による助言やアドバイスを用いる一方で、
利息の減免や元本の放棄はほとんど行われない~

第45図 金融機関が中小企業の支援に用いる方法

第46図
支援開始後、支援の継続に特に障害となる要素(金融機関業態別)
~たとえ支援を受けられても、経営者の意識の弱さは金融機関の支援継続を困難にする~

第46図 支援開始後、支援の継続に特に障害となる要素(金融機関業態別)

3.円滑な再生と金融

 経営不振からの企業再生のためには、具体的かつ実現可能性のある経営計画が不可欠である。
 経営不振に陥った企業は資金的に苦しくなることから、再生のために選択できる手段も自ずと限られてくるのが実情であろう。限られた手段を最大限に生かし再生を果たすためには、企業自身の努力が最も重要であることは言うまでもないが、企業自身の取組と合わせて、関係者の協力も欠かせない。
 しかし、その協力を得るためには企業自身が自ら再生への道筋を示し、具体的にどのような協力を必要としているのかを説明しなければならない。その意味において、経営計画は再生に向かって自らが取り組むべき課題を明らかにすると同時に、関係者の協力を得るために不可欠なものである。
 また、再生への過程において資金面で重要な鍵を握っている金融機関の協力は特に不可欠のものである。どんなに実現可能性の高い経営計画であっても、手元資金がなくなってしまえば、その時点で倒産してしまうからである。そのようなことからも、金融機関には企業に再生可能性があると判断される場合には、一時的な返済の減額など、柔軟な対応が期待される。

 

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