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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集1 2004年版中小企業白書の概要

中小企業の世代交代と廃業を巡る問題
経営者の高齢化

 我が国が高齢化社会に向かっていると言われて久しいが、企業の経営者についてはそれ以上のペースで高齢化が進んでいる。こうした中、多くの中小企業にとって今後、経営者の引退後の企業のあり方という問題が浮かび上がってくることは大いに考えられることである。このような観点から中小企業の事業承継の実態に迫ることとする。

中小企業における経営者交代の実態

1.経営者交代率の逓減


 経営者の交代の動向に関して、(株)帝国データバンクの「社長交代率調査」を見てみると、過去20年間の経営者の交代率は多少の増減があるもののおおむね逓減傾向にあり、最新の2003年調査では3.54%と調査開始以来最低の交代率となっていることが分かる(第23図)
 このように経営者の交代が進まなくなったのには2つの理由が考えられる。1つは病気や死亡で本人の意思にかかわらず経営者でいることが出来なくなる形での経営者の交代が減ってきたことである。
 「後継者教育実態調査」の結果を見ると、先代経営者の退任理由が昔と今では変化してきていることが分かる。20年以上前に事業を承継した経営者においては約4割が先代経営者の退任理由について「先代経営者の他界」と答えている。しかし、最近事業を承継した経営者の場合では他界による先代経営者の退任は約15%に減っている。そのかわりに、「先代経営者の高齢化」を理由とする者の割合が増加している(第24図)
 経営者の交代が進まないもう1つの理由は単に交代する人がいない、つまり一般に言われる後継者難である。
 経営者と先代経営者との関係を見てみると20年以上前では79.7%の経営者が先代経営者の「子息・子女」であり「親族以外」の経営者が継いでいる割合はわずか6.4%であった。ところが、最近では「子息・子女」の割合は41.6%にまで減少し、逆に「親族以外」の割合が38.0%に増加している(第25図)
 経営者の子供の承継意識が変化してきているためか「親の会社だから」というのみでは事業を継がなくなっているようであり、その結果、後継者の確保に時間が掛かるようになり経営者の交代が遅れる要因になっていると考えられる。

第23図
社長交代率推移
~経営者の交代率は逓減している~

第23図 社長交代率推移

第24図
先代経営者の退任理由の変化
~退任理由は先代経営者の他界から高齢化に変化している~

第24図 先代経営者の退任理由の変化

第25図
先代経営者との関係の変化
~先代経営者の子供が継承する割合は減っている~

第25図 先代経営者との関係の変化


2.事業承継の理由


 事業を承継した者は、どのような理由から承継しているのであろうか。ここでは「後継者教育実態調査」の結果からこの問題について考察してみよう。
 最初に後継者全体の承継理由について第26図を見てみると、20年以上前に就任した経営者は「家業だから」とする理由が過半数であったのに対し、最近では26.2%までに減少している。この減少の理由は第25図で見たように経営者の子供が継ぐ割合が減っているからである。
 では、経営者の子供の承継理由にどのような変化があるのだろうか。承継理由を複数回答で見ていくと、「家業だから」と答えている経営者は20年以上前に承継した経営者では76.0%なのに対し、20年未満の経営者ではほぼ70%で横這いに推移している(第27図)。その一方、「従業員・取引先への責任を果たすため」や「会社経営に魅力を感じたから」と答える経営者が増えている。「家業だから」という理由だけでなく、それ以外にも承継する理由がないと継がなくなってきているようである。


第26図
事業承継の最大の理由
~家業だから承継する後継者は減っている~

第26図 事業承継の最大の理由

第27図
先代経営者の子供の経営者の承継時期別の承継理由
~20年以上前と比較して家業だから継いだ経営者は若干減少している~

第27図 先代経営者の子供の経営者の承継時期別の承継理由

 

(1)新しい取組の開始

 次に、経営戦略と承継の成功の関係について見ていこう。まず、承継の有無別に企業が新しい取組を開始する割合について見てみると、ほとんどの取組について承継が有った企業の方が取組を開始する割合が高くなっていることが分かる(第28図)
 新しい経営者のこれらの取組は承継の成功に対してどのような影響を与えるのだろうか。取組の開始の有無と承継がうまくできたと答えている経営者の割合について見ていくと、すべての取組について取組を開始しているとする者の方がそうではない者よりも承継がうまくできている割合が高くなっているが、取組によってその差の大きさに違いが現れている(第29図)。最も差が出ているのは「従業員教育の拡充」(19.1%)で以下、「社内体制の改編」(13.8%)、「人事制度の改革」(12.9%)である。これら3つの取組に共通しているのは企業内部を変える取組であるということである。

第28図
承継の有無と取組を開始した企業の割合
~承継が有った企業の方が今まで行っていなかった取組をよく開始している~

第28図 承継の有無と取組を開始した企業の割合

第29図
取組開始の有無と承継が成功した企業の割合
~取組を開始している企業は承継が成功している割合が高い~

第29図 取組開始の有無と承継が成功した企業の割合

3.承継準備と承継時期


 第30図にあるように、経営者の子供の場合は50%以上の経営者は10年以上前から承継を決めていたのに対して、親族以外の経営者の場合6割近くの経営者は承継を決めてから1年も満たないうちに事業を承継している。このため準備する時間がないわけである。
 しかし、第31図で見るように準備を行っていた経営者は良好なパフォーマンスを残している。特に「業界内での人脈づくり」、「関連知識や技術の習得」に関しては、準備をしていなかった経営者との違いが大きくなっていることを考えると、やはり承継を決めてからの準備期間が必要だということになろう。つまり、後継者の候補がすでにいるのであれば、早めに後継者に決めて経営者になるための準備をする時間を与える方がいいだろう。
 事業を承継するのに適当な年齢とは何歳ぐらいなのだろうか。まず、承継した時の年齢から見ていくと経営者の子供の9割は50歳になるまでに事業を承継していることが分かる。一方で親族以外の経営者の場合は7割が50歳を過ぎてから承継している(第32図)。子供に継がせる場合では、ある程度若くても周囲は納得することができるのに対し、親族以外の場合は余計なトラブルを避けるため年功序列的にベテランの者を後継者に決めるからであろう。そのため、承継する年齢が経営者の子供の場合よりも必然的に高くなっているものと考えられる。
 次に承継経営者の承継年齢についての感じ方について見ると先代経営者の子供の場合、「35歳~39歳」、「40歳~44歳」、「45歳~49歳」で承継した経営者の半数以上は「適当な年齢だった」と回答している(第33図)。特に「40歳~44歳」で承継した経営者では75.9%と最も割合が高くなっている。
 他方、親族以外の経営者の場合は、「44歳以下」、「45歳~49歳」、「50歳~54歳」で承継した経営者の過半数が「適当な年齢だった」と回答している(第34図)。親族以外の経営者においては経営者の子供の場合よりも「適当な年齢だった」と感じる年齢が5歳ほど高くなっているようだが、「44歳以下」でも62.0%の経営者が適当だったと感じていることが分かる。

第30図
先代経営者との関係と承継の準備期間
~親族以外の経営者の場合は後継者に決まってからすぐに承継することが多い~

第30図 先代経営者との関係と承継の準備期間

第31図
承継の準備の有無と承継後の従業員数成長率
~承継前に業界内での人脈づくり、関連知識や技術を習得していると大きく成長している~

第31図 承継の準備の有無と承継後の従業員数成長率

第32図
承継時の年齢
~先代経営者の子供は50歳までに承継する割合が高いのに対して、
親族以外の経営者の場合は50歳以降に承継する割合が高い~

第32図 承継時の年齢

第33図
経営者の子供の承継適齢期
~40歳代で承継した経営者は適当な年齢で承継したと答えている割合が高い~

第33図 経営者の子供の承継適齢期

第34図
親族以外の経営者の承継適齢期
~親族以外では40歳代、50歳~54歳で継承した経営者の約60%は適当な年齢で継承したと答えている~

第34図 親族以外の経営者の承継適齢期

4.円滑な廃業と経済の活性化

 今回の分析は、主として小規模企業経営者を対象としたものであり、それゆえに、個々の企業が廃業することによる影響を個別に見れば、大企業の倒産と比較して、決して大きなものではないであろう。
 しかし、小規模企業が我が国企業数の87.2%を占めることを考えれば、個々の影響が積み重なって我が国経済に大きな影響を与える可能性があると考えられる。特に、倒産的廃業の及ぼす影響は、大企業の倒産と比較しても無視できないものであろう。
 中小企業の果敢な挑戦が、我が国経済のダイナミズムの源泉であることはしばしば指摘されるところであるが、果敢な挑戦は企業の大きな成長につながる可能性を有する一方で、失敗のリスクを大きくするものであることもまた事実である。
 倒産的廃業の及ぼす影響を考える時、果敢な挑戦をする一方で、万が一事業に行き詰まり回復が難しいと判断される場合には、傷が深くなる前に一旦退出する冷静な判断も求められるであろう。
 早期の退出が円滑に行われないことによる悪影響はあるようであり、失敗を容認しない風土が早期の退出を遅らせて悪影響を大きくし、結果としてさらに失敗を容認しない風土の強化につながっている可能性も否定できない。
 このことを踏まえ、経営者の側には、早期の退出を決断する勇気が求められるとともに、失敗を容認する風土の醸成が求められるであろう。
 また退出を円滑にするためには、退出に伴う費用を低減することもまた重要である。退出にあたって、多額のコストが発生することはその分、経済的資源の損失につながることとなるからである。既に述べたように、活発な参入は活発な退出と密接な関係にある。たとえ参入が活発になり、新たな経済資源が生み出されたとしても、それが退出費用により消耗されてしまっては、参入の効果が減じられてしまうことになる。このような退出による損失を少しでも減少するためには、退出者の用いていた経済的資源が、参入者に有効に活用されるような仕組み作りも重要であろう。このことが、結果として参入に必要な投資額も減少させ参入の活性化につながる可能性もある。参入と退出は表裏一体であるという認識の元に、入り口だけでなく出口をも考慮した取組が必要であろう。
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