MENU

 月刊中小企業レポート
> 月刊中小企業レポート

月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集1 2004年版中小企業白書の概要

直接投資を行っている中小企業の特徴と成功要因

 直接投資を行っている企業は、そうでない企業と比べ、どのような特徴があるのだろうか。また、その中でどのような企業が成功するのであろうか。直接投資を行う企業の属性を明らかにし、直接投資の成功要因を見ていくこととしよう。

1.直接投資を行う企業の特徴

(1)企業規模と直接投資の関係

 直接投資(ここでは、海外子会社を設立する行為を「直接投資」とする。)を行っている企業はそうでない企業と比べてどのような特徴を持っているだろうか。まず、経済産業省「企業活動基本調査」により、本社の企業規模と直接投資の実施の有無の関係を見ていくと、規模の大きい企業ほど海外直接投資を行っていることがうかがえる(第7図)。直接投資に係る先述の考え方を適用すると、規模の大きな企業はより多くの経営資源を保有している可能性が高いからであろう。
 なお、「中小企業海外活動実態調査」より、企業規模と直接投資先の業務内容との関係を見ていくと、おおむね本社規模の小さい企業の方が「主に生産品を日本に輸出」の割合が高く、逆に本社規模が大きい企業の方が「主に現地日系企業への販売」「主に現地企業への販売」の現地市場への販売を行っていることが分かる(第8図)

第7図
企業規模別の海外子会社を保有している企業の割合
~企業規模が大きいほど海外進出する割合が高い~

第7図 企業規模別の海外子会社を保有している企業の割合

第8図
本社従業者規模と業務内容
~本社規模が大きい企業は、現地販売を行う現地法人の割合が高い~

第8図 本社従業者規模と業務内容

 

2.中小企業の直接投資の成功と失敗

 ここまでは直接投資を行う企業の特徴について見てきた。そこから明らかになったのは、規模が大きく、自己資本比率が高く、高い労働生産性を有し、研究開発集約度の高い企業が直接投資を行う傾向が強いということであった。それでは、こうした直接投資を行う企業のうち、どのような企業が実際に現地での競争に耐え抜き生き残るのであろうか。次にこの点について、本社及び現地法人の属性、戦略との関係に着目しつつ分析しよう。

(1)パフォーマンスの指標

 成功と失敗の尺度としてまず考えられるのが、現地法人の存続と撤退である。しかしながら、存続している現地法人が必ずしも成功しているとは限らない場合がある。例えば、現地での経営が上手くいかず、日本から追加的に資金補填を行っている場合などは成功しているとはいえないであろう。そこで、ここでは第一に直接投資先の現地法人の存続と撤退という観点から分析を行い、さらに存続している現地法人の利益額あるいは売上高が増加傾向か減少傾向かにより、成功、失敗という判断をすることとする(第9図)

第9図
直接投資の成功・失敗のイメージ図

第9図 直接投資の成功・失敗のイメージ図

(2)直接投資の成否と事前の重視事項

 中小企業の直接投資の際にはどのようなことが重視されるのであろうか。第10図により、直接投資を行う際に重視していた内容を本社の従業者規模別に見ると、「安価な労働力の確保」を重視して直接投資を行う企業は本社の従業者規模に関わらず総じて約5割となっている。また、「市場の大きさ」では、本社規模が大きい企業ほど回答している割合が高くなっている。
 それでは、どのような項目を重視して行われる直接投資が成功に結びつくのであろうか。この点を見るために、中小企業の直接投資による1998年時点の現地法人のうち、2003年現在も存続している現地法人(以下「存続法人」という。)と1998年以降に撤退した現地法人(以下「撤退法人」という。)に分け、両者の重視した項目の違いを見ると共に、存続法人については最近5年間の利益額が増加傾向の法人と、減少傾向(又は変化なし)の法人に分け、重視した項目に違いがあるのかどうかを見てみよう。すると存続・撤退では、「安価な労働力の確保」を重視した現地法人が存続している傾向にある一方、利益動向については「市場の大きさ」、「法・税制の整備」を重視した現地法人が利益増加傾向にあった(第11図)

第10図
直接投資時に重視する内容(本社規模別)
~本社規模が大きい企業は市場の大きさを重視する割合が高い~

第10図 直接投資時に重視する内容(本社規模別)

第11図
直接投資の際に重視した内容とその後のパフォーマンス
~市場の大きさで考えることが重要~

第11図 直接投資の際に重視した内容とその後のパフォーマンス

(3)事前の情報収集

 第12図により直接投資を行う前の情報収集先について本社の従業者規模別に見たところ、本社規模の大きさに関わらず「同地域への直接投資経験のある日本企業」や「取引金融機関」から情報収集した企業の割合が高い。これは海外の生の情報が日本では伝わりにくいため、経験者やそのような経験のある取引先を豊富に持つ金融機関に求めることでそうした情報を仕入れているからなのであろう。
 次に、どの機関(あるいは企業)から情報収集を得ることがその後のパフォーマンスに良い影響を与えるかを見るために、(2)と同様に中小企業の直接投資に係る1998年時点の現地法人を存続法人と撤退法人に分け、さらに存続法人については最近5年間の利益増減傾向を見てみよう。すると、「日本の業界団体」、「日本の公的機関」から情報収集した現地法人が存続している割合が高く、一方で「同地域への直接投資経験のある日本企業」、「取引金融機関」、「現地政府機関」から情報収集した現地法人の利益増加傾向の割合が高いことが分かる(第13図)

第12図
直接投資前の情報収集先(本社規模別)
~本社規模が大きい企業は様々な機関(あるいは企業)から情報収集を行う~

第12図 直接投資前の情報収集先(本社規模別)

第13図
直接投資前の情報収集先とその後のパフォーマンス
~生の情報を仕入れることが重要~

第13図 直接投資前の情報収集先とその後のパフォーマンス

(4)直接投資先の最高責任者

 次に現地法人の最高責任者はどのような者が任されているかを見てみよう。「中小企業海外活動実態調査」では現地の最高責任者の出自について尋ねている。これを本社規模別に見ると、本社の従業者数が50人以下の企業では、「本社の代表者」が自ら現地法人の最高責任者となっている割合が36.3%と最も高く、「合弁先の役員、従業者」がこれに続いている(第14図)。本社規模が大きくなるにつれて、現地の最高責任者が「本社の従業者」である割合が高くなり、逆に「本社の代表者」、「本社が選んだ現地国籍を有する者」の割合が減少している。
 次に現地責任者をどのような者に任せるかにより、存続・撤退に影響があるかを見ていこう。第15図に示されるように、最高責任者を日本人とする場合、「本社の代表者」が自ら最高責任者となるよりも自社内の人間に任せていた方が存続する割合が高くなっている。また、現地国籍を有する者に任せる場合では、「合弁先の役員、従業者」より、「本社が選んだ現地国籍を有する者」に任せた方が存続する傾向にある。
 では、日本人が現地の最高責任者となる場合について、海外に派遣する従業者にはどのような能力が求められるのであろうか。厚生労働省「産業労働事情調査(2001年)」では海外展開を行っている企業と行っていない企業の双方に対して、「経済のグローバル化の下で求められる人材能力」について尋ねている。これによると、海外展開している企業はそうでない企業に比べ、「戦略立案力」、「語学力」、「コミュニケーション能力」を挙げている企業の割合が高いことが分かる(第16図)
 しかしながら、中小企業の場合、そうした人材を確保していることはまれである。本社従業者にそのような人材がいないのであれば現地関係機関等から「現地国籍を有する者」を日本側で選抜し、その者に経営責任者として任せることも選択肢として考えられる。先に述べたように現地国籍を有する者を最高責任者として任せた場合に、「本社が選んだ現地国籍を有する者」が、「合弁先の役員、従業者」に比べ存続する割合が高くなっている(前掲第15図)。このような差が生じる理由は何であろうか。そこで「合弁先の役員、従業者」と「本社が選んだ現地国籍を有する者」について、日本での経験等の有無を比較したのが第17図である。ここから分かるように、「合弁先の役員、従業者」が責任者の場合は、日本向けの経験がない場合が半分近くになるのに対して、「本社が選んだ現地国籍を有する者」が責任者の場合は日本での勤務経験や日本への留学経験のある者が多くなっている。つまり、現地国籍を有する者が最高責任者の場合、その者の日本での経験が重要な要素となるといえよう。

第14図
現地法人の最高責任者の属性(本社規模別)
~本社規模が小さい企業ほど、代表者が自ら最高責任者になる傾向が強い~

第14図 現地法人の最高責任者の属性(本社規模別)

第15図
現地法人の最高責任者の属性と存続・撤退関係
~代表者自らが最高責任者になるよりも、自社内の人間に任せる方が存続している~

第15図 現地法人の最高責任者の属性と存続・撤退関係

第16図
経済のグローバル化においてに求められる人材能力
~海外展開には、戦略立案能力・語学力が求められる~

第16図 経済のグローバル化においてに求められる人材能力

第17図
現地最高責任者の日本での経験
~本社が選んだ現地国籍を有する者は、日本での勤務経験を受ける割合が大きい~

第17図 現地最高責任者の日本での経験

(5)直接投資後の取組(生産管理)

 「中小企業海外活動実態調査」では、存続法人、撤退法人に「直接投資前にはあらかじめ想定していなかったが、実施後に生じた課題、問題」について尋ねている。この調査によると、生産管理面では「品質管理が困難」(38.1%)という課題、問題が生じた現地法人が多く、またこの課題、問題が発生した現地法人では、最近5年間の利益額が増加傾向の割合が減少傾向(又は変化なし)の割合に比べ、低くなっている(第18図)。このことから、品質管理の課題、問題が発生すると、利益動向にマイナスの影響を与えると考えられる。
 現地法人のうち、どのような生産管理を行っている現地法人が良好なパフォーマンスを示すのであろうか。第19図では現地法人の経営上の取組として、どのような生産管理を行ったかについて尋ねている。これによると、生産管理に関する取組については、「作業マニュアルの作成」「生産計画の作成」「整理整頓の徹底」が多くの現地法人で実施されている。また、本社の従業者規模別に見ると、本社規模が小さい企業ほど「熟練工の養成」に取組む現地法人の割合が高く、他の項目ではおおむね本社規模が大きい企業が取組む割合が高くなっている。
 つまり生産管理においては、整理整頓、TQC活動といった基本的な管理を行うこと、また、多工程持ち、熟練工など個人の技術に頼った生産体制よりも複雑な操作を要しない設備を導入し、組織的な生産体制を構築することが、現地法人の利益額を増加させることができるという点で成功の要件といえよう。

第18図
現地法人で発生しやすい課題、問題と利益動向
~「品質管理が困難」は、現地法人の収益低下の要因となる~

第18図 現地法人で発生しやすい課題、問題と利益動向

第19図
現地法人での生産管理の取組内容(本社規模別)
~本社規模が小さい企業ほど熟練工の養成を行う企業の割合が高い~

第19図 現地法人での生産管理の取組内容(本社規模別)

(6)直接投資後の取組(現地販売管理)

 「中小企業海外活動実態調査」では「直接投資前にはあらかじめ想定していなかったが、実施後に販売面で生じた課題、問題」を尋ねている。それによると販売面の課題、問題としては「現地での競争激化による採算悪化」(18.5%)、「現地向けに見込んでいた販売額の確保が困難」(18.1%)、「日本国内向けに見込んでいた販売額の確保が困難」(8.9%)と回答する現地法人の割合が多くなっている。また、これらの課題、問題が生じた現地法人では、そうでない現地法人に比べ撤退する割合が有意に高くなっている(第20図)
 こうした販売面での課題を踏まえ、特に日本国内とは異なる商慣習が存在する現地向け販売を行っている現地法人について、販売管理において取組んだ内容を見てみよう。すると、「現地市場調査」「営業人員の育成・教育」が多くの現地法人で実施されているが、本社の従業者規模別に見ると本社規模が大きい企業の方が、これらに取組んでいる割合が高い(第21図)
 次に、販売管理における取組が現地法人の売上高の増加という点で、良好なパフォーマンスを与えるかを見るために、(5)と同様、販売管理での各種取組と最近5年間の売上動向との関係を見てみよう。すると、「現地市場調査」、「営業人員の育成・教育」、「アフターサービスの実施」に取組んだ現地法人ほど、現地法人の売上高が増加傾向にあることが分かる(第22図)。ここから分かることは、情報収集能力のある大企業に比べ、中小企業では現地市場の情報収集や販売ネットワークの構築が困難であるが、これらの困難を克服するために現地市場調査だけではなく、自ら現地市場に乗り込み根を張った活動を行うことが、現地販売において重要であるといえよう。

第20図
現地法人の販売面での課題、問題と撤退の関係
~販路を確保できなかった現地法人は撤退につながりやすい~

第20図 現地法人の販売面での課題、問題と撤退の関係

第21図
現地販売管理での取組内容(本社規模別)
~本社規模が大きい企業ほど、市場調査、営業人員の育成に積極的~

第21図 現地販売管理での取組内容(本社規模別)

第22図
現地販売において実施される販売管理方法
~自ら積極的に営業活動を行うことが重要~

第22図 現地販売において実施される販売管理方法

このページの上へ