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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

トピックス東西南北

失われつつある蔵造りの左官技術伝承

「泥・土が建物に命を吹き込む時代がまた来ると信じている」

 左官業界は、建設業界の中でも末端に位置し、下請け体質が強く残っており、仕事の殆どを親会社である建設業者に依存し、最近の長引く景気の低迷と、それに伴う建築件数の減少等により、経営環境は大変厳しい状況にあり、強力な営業により官公需等を積極的に受注し、下請体質から転換することが必要となっています。
 そこで、平成10年に須高地区の左官工事業者が一体となって、当地区の官公需(蔵の町須坂では平成5年度から”須坂地区歴史的景観保存対策事業“が実施)や、民間発注工事に対して積極的な受注活動を行うために『ザさかん須高協同組合』(その当時、The、ザとかを付けるのがはやっていたので、それならということで”ザさかん“と命名。現在代表理事は小林睦雄氏)を設立し、左官職人を母体とした全国的にもめずらしい土蔵改装専門の技術集団として、責任ある施工に取り組み、歴史・伝統・文化を取り入れた個性あるまちづくりのお手伝いをしています。さらに、先進技術や、失われつつある蔵造りの技術(左官技術)の伝承に関する講習会を積極的に開催し活発に活動しています。
 現在、組合員は11名でそのほとんどが「左官技能士」取得者で土蔵の修復・施工に携わっています。組合員企業の中には若手を採用したりして技術の伝承に努めています。その若手の人たちが一人前になるには10年の歳月を要するそうです。また、組合設立以来、年2回は県内外へと視察研修に行き更なる技術の習得に努めています。
 なお、土蔵の修復修理には、規模と施工方法にもよりますが目安としては150万円から350万円位かかり、工期も春から秋(冬の時季は凍みるので不向き)までの日数を要しますが、中には1年以上をかける場合もあるそうです。(お問い合わせ先 電話026―246―8102)

小林理事長さんからの心構え

 

Ⅰ: 日本の気候風土に合った特質を持つ日本家屋の壁を、”こて“一つで築き上げるのが「左官技能士(左官業)」の仕事です。
Ⅱ: 左官技能士は、国家資格で、実技試験では「仕上がりの美しさ」や「寸法の正確さ」、「材料の調整」から「”こて“の操作方法」まで採点されます。しかし、実際の仕事は、技能試験のレベルをはるかに超える技術が求められます。
長年使い込んだ”こて“は、職人にとって何にも代え難い一生の宝です。
Ⅲ: 「水引き」(乾き具合)が重要な左官の仕事は、太陽や雲など、自然との対話が必要です。陽の当たり方一つで仕上げ方が違います。それと同時に材料の作り方一つで良くも悪くもなります。
Ⅳ: 美しく仕上げられた壁の真価が問われるのは、10年、10年先です。
一つ一つの確かな作業が何十年もの寿命の差となって表れるからです。
”こて“一つで壁を築く左官の技、そこには自然を感じ取る、職人の細やかさが支えているのです。

須坂クラシック美術館 施工作業中 山下薬局 望楼のある老舗
須坂クラシック美術館 施工作業中 山下薬局 望楼のある老舗

 

取材構成 北信事務所

ちょっと一息コーナー
豆知識

 土蔵とは、家財を火災・盗難から安全に保管・貯蔵する目的の建物で、穀物を収納する倉とは少々ニュアンスが違うようで、私たちは、土蔵というと商家の白い漆喰を塗った家の財力を象徴する建物がまず頭に浮かびます。
 土は元来農耕民族である日本人にとって関係の深い素材で、とりわけもっとも自然な素材として利用され、そのまま土地に還すこともできるリサイクル可能な環境共生型の素材です。
 土は、屋内の湿度が高い時は空気中の水分を取り込み、乾燥状態になると水分を放出して室温を一定に保つ働きがあり、家財を保管するのに最適な環境を作り出します。
 瓦をのせた屋根と、藁を入れた荒壁の粗野な肌合いが土の香りを感じさせ、土の持つ力強さを感じとれます。また、風土に合った材料・様式・構造で作られた蔵が周囲の風景と混ざり合い、親しみ深い景観を作り出しています。
 最近、土のもつ優れた特徴と風合いが見直され、住宅の内外装に使用されることも多くなり先人の知恵の復興といった感があります。ただ、材料をすべて地元のもので揃えることが贅沢となった現在、材料の特徴を見極める目と正しい知識を消費者が持つことが重要です。
 現在、土蔵に関する知識のある設計者は少なく、修復できる左官職人も少ないため、全国的に土蔵は傷むにまかす状況です。土蔵の修復に関わる土を扱うことの難しさ、地域による土質の違い、耐久性・装飾性を考えると、かなりの経験が必要で、現在の既調台に慣れた左官職人には、とても手をつけにくいものになってしまっています。加えて、加工や準備にとても時間がかかるため効率が悪く、スサの多い固めの材料を塗っていくのは負担になってきています。また、本格的な修復の見積もりを出すと、びっくりする金額になり、工期も長くかかるため、結局ほとんどがモルタル・ペンキで修復されているのが現状です。

ちょっと一息コーナー
Q&A

Q 何故、塗り壁にヒビが入ったりするのですか?
A   一概に塗り壁が悪いとは言えませんが、塗り壁にヒビが入る原因として以下のことが考えられます。
木造建築による構造的下地が悪い。
コンクリート壁やALC壁の構造的なクラック。
乾湿の極端な場所。
風雨にさらされ年中湿っている場所。
大きな面積を持った壁だが目地を設けていない。
左官材料の劣化等。
Q 塗り壁が健康に良いのは本当ですか?
A   本当です。現代建築における内装材には、防腐剤が含まれており、その中には有害なホルムアルデヒド等の物質がアトピー症等のアレルギーの原因と考えられております。土壁・漆喰(しっくい)壁・珪藻土(けいそうど)壁は天然素材でできており有害な物質を含まない健康壁として定着してきております。
Q 塗り壁の利点は何ですか?
A   吸放湿性に優れている点です。室内の温度を適度に保ち快適に生活できる点です。また、木材と異なり、防火性、耐火性に優れています。
Q 塗り壁は値段が高いと聞いていますが?
A   確かに安い内装材と比較すると若干高いかもしれません。日本の風土には、左官の塗り壁が一番良いと言われております。材料メーカーも現在、需要に応じて品質が良くてしかも安い材料を出しております。
Q 家の中の壁を塗り替えたら、すぐにはがれてきました。何故ですか?
A   年数を経た壁が、新しく塗った壁に引っ張られはがれてきたのでしょう。壁を塗りなおすには、既存の壁をはがし下地処理をする必要があります。
Q 左官の塗り壁は色調やデザインに乏しいのでは?
A   様々な内装材やタイルと比較すると、色調やデザインは豊かだとはいえませんが、漆喰彫刻や蛇腹など構造では到底できない左官職人の手作りの良さがあります。
Q 塗り壁は工事日数がかかりすぎるのでは?
A   塗り壁は乾湿工法なので乾くまでに日数がかかります。塗り壁の長所(吸放湿性・耐火性)を考えますと乾式工法では得られない良さがあります。
Q 塗り壁の寿命はどれくらいですか?
A   手入れ次第では半永久的に持ちます。
Q マンションに住んでいます。壁は石膏ボードのようですが塗り壁にできますか?
A   クロスをはがし、下地処理をしたうえに、塗り壁ができます。
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