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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集 2004年版中小企業白書の概要

柔軟な就業形態としてライフスタイルの多様化をもたらす中小企業

1.高齢者や女性の就業の受け皿となる中小企業

 中小企業は新たなサービスを提供することにより、消費者に対してライフスタイルの多様化をもたらしている。一方、さまざまなタイプの働き手に対しても、就業の場を提供することにより就労形態の多様化を可能にしているのである。

(1)女性の就労の場としての中小企業

 近年、少子高齢化が急速に深刻化し、労働力人口の不足が懸念されている(第8図)。少子化の直接の原因である出生率の低下には、一般的に、結婚や出産等に対する価値観の変化とともに、女性の職場進出に伴う子育ての機会費用の増大も影響していることが指摘されている。将来の労働力不足を回避するためには、結婚・出産により職を離れた女性が再び就業するための受け皿が必要である。
 一般に、当該年齢人口に占める労働力人口の割合(労働力率)を年齢階級別に見ると、女性だけが30歳~40歳で急激に落ち込む、M字型に似た曲線を描く(第9図)。これは、結婚や出産に伴い、就業者等が大きく減少し、その後、育児等が一段落したところで再び、労働市場に戻ってくることの現れである。
 次に、就業を希望している者に対する、実際の就業割合について見てみよう。第10図は、有業者と就業希望者の合計に対する有業者の割合を年齢別に見たものである。男女とも60歳代で若干落ち込んだのち再び上昇するが、男性の場合、50歳代までこの割合はほぼ一定であるのに対し、女性の場合は30歳代で大きく落ち込んでいることが分かる。

第8図
高齢者人口及び若年人口割合の推移
~近年急速に進む少子高齢化~

第8図 高齢者人口及び若年人口割合の推移

第9図
年齢階級別労働力率
~30歳代で大きく落ち込む女性の労働力率~

第9図 年齢階級別労働力率

第10図
年齢階級別有業者割合
~男性は60歳代で、女性は30歳代と60歳代で落ち込む~

第10図 年齢階級別有業者割合

 では、有業者の割合が大きく落ち込む30歳代の女性たちの就業や、その後の彼女らの復業の受け皿となっているのは、どのような企業なのだろうか。まず、第11図で従業者の男女構成比を規模別に見ると、従業者規模が小さい企業ほど、女性の比率が高い。女性全体の雇用に関して、規模の小さな企業が重要な受け皿となっているのが分かる。次に、年齢階級ごとの状況を見てみよう。第12図は、先程の女性の年齢別有業者割合(前掲第10図)を従業者数1~99人と100人以上で企業規模別に分割したものである。すると、ちょうどM字の落ち込みに当たる30~34歳の年齢層において、両者の比率が逆転していることが分かる。さらに規模を細分化すると、従業者数1~4人の小規模の企業層が重要な受け皿となっている(第13図)。30歳代でM字の落ち込みに入る際も、またその後40歳代で復職をする際にも、中小企業、特に1~4人の小規模の企業層が女性の就業の場として大きな役割を担っていることが分かる。
 女性の結婚や育児に伴う就労条件の変化が、大規模の企業から小規模の企業への移動をもたらしていると言えそうである。すなわち、M字の谷では大企業・中小企業の双方から女性が離職をするが、その復職する際の受け皿は専ら小規模な企業なのである。

第11図
有業者の男女構成比(規模別)
~規模が小さいほど女性の割合が高い~

第11図 有業者の男女構成比(規模別)

第12図
有業者及び就業希望者に対する有業者の割合(女性、従業者規模別)
~30歳代以降の年齢層では規模の小さな企業が受け皿となる~

第12図 有業者及び就業希望者に対する有業者の割合(女性、従業者規模別)

第13図
有業者及び就業希望者に対する有業者の割合(女性、従業者規模別)
~30歳代以降の年齢層では特に1~4人規模の小さな企業が受け皿となる~

第13図 有業者及び就業希望者に対する有業者の割合(女性、従業者規模別)

(2)高齢者の就労の場としての中小企業

 高齢化が進む昨今では、高齢者福祉が活発になると同時に、真の高齢者福祉とは高齢者の自立を促すことであり、そのためには就業の機会を与えることも重要であるという議論がある。ところが、年功序列色が強い給与体系のもとでは、相対的に給与が低く、新しい知識・技術の習得が期待できる若い労働者の方が、高齢者よりも望ましく、特に大企業では、高齢労働力の就業が難しいと考えられる。厚生労働省「高年齢者就業実態調査」(2000年)によると、60歳代前半層の労働者が就業する場合に、何らかの点で「問題が生じる」と答えた事業所は全事業所のうち42.3%となっている。第14図は、「問題が生じる」と答えた事業所側が挙げた60歳代前半層の労働者が就業する場合の問題点である。
 このような中、実際に高齢層の受け皿となっているのはどのような企業なのだろうか。第15図は、男性の就業者割合を規模別に分割したものである。女性(前掲第13図)だけでなく、男性でも高齢になるほど、従業者規模1~4人のごく小規模な企業が大きな受け皿となっている。
 では、小規模な企業ほど高齢者や女性の復職の受け皿となりやすいのは、どのような特性によるものなのだろうか。高齢者に就業に関する意識を問うと、フルタイムでの就業よりもむしろ短時間の就業を希望している(第16図)。また、30~50歳代の就業希望者が希望する仕事の形態を男女で比較すると、女性は多くがパート・アルバイト等の比較的短時間での就業を希望している(第17図)。
 ここで、就業時間ごとの就業者の割合を従業者規模別に見ると、規模が小さいほど、従業時間が短い就業者が多いことが分かる(第18図)。家庭の主婦業を兼ねる女性や、フルタイムでの就業を希望しない高齢者が中小企業を就業の場として自ら選択する可能性が高い。

第14図
60歳代前半層の労働者が就業する場合の問題点
~総じて「労働能力が低下していて仕事に支障がある」とする事業所が多い~

第14図 60歳代前半層の労働者が就業する場合の問題点

第15図
有業者及び就業希望者に対する有業者の割合(男性、年齢階級別)
~男性でも高齢層では小規模な企業が大きな受け皿~

第15図 有業者及び就業希望者に対する有業者の割合(男性、年齢階級別)

第16図
高齢者が希望する就業形態(55歳以上69歳以下)
~60歳以上ではフルタイムよりも短時間の就業を希望~

第16図 高齢者が希望する就業形態(55歳以上69歳以下)

第17図
就業希望者が希望する仕事の形態(男女別、30~50歳代)
~30~50歳代の女性は正規の雇用よりもパート・アルバイト等の形態を希望~

第17図 就業希望者が希望する仕事の形態(男女別、30~50歳代)

第18図
従業者規模別1週間当たりの就業時間
~従業者規模が小さい企業ほど短時間の就業の受け皿となる~

第18図 従業者規模別1週間当たりの就業時間

(3)企業等のOB人材の活用

 人的経営資源が必ずしも豊かでない中小企業にとって、必要に応じて外部の人材を活用することは、有効な戦略と言える。従来は外部人材として、公認会計士や中小企業診断士等の公的な資格を有する専門家や学識経験者、コンサルタント等が活用されてきた。加えて近年、豊富な知識と経験を持つ企業等のOB人材が注目されており、高齢者の生きがい創出の場としても有効であると考えられる。
 第19図は、企業が活用した外部人材の種類を示したものである。ここから分かるように、外部人材として従来活用されてきた有資格の専門家やコンサルタントを挙げる企業が多い中、OB人材を活用している企業も4割にのぼっている。規模別に見ると、比較的規模の大きな企業で活用されている(第20図)。業種別に見ると、建設業で特にOB人材が活用されているようである(第21図)。
 中小企業庁では現在、企業OB人材活用推進事業を実施している。各地の商工会議所に「企業等OB人材マッチング地域協議会」を設置し、人材の発掘・収集やデータベースへの登録、企業と人材のマッチング支援等を実施する。また、日本商工会議所に「企業等OB人材マッチング全国協議会」を設置、地域協議会のデータベース構築等の活動支援や本事業の普及啓発、各種調査等を実施している。
 働くことの意義は、単に収入を得ることだけではなく、生きがいの創出にも寄与するものである。高齢化への対応として、高齢者福祉の充実とともに高齢者の生きがいの場を創出することは非常に重要であり、このような面でも中小企業の役割は今後ますます重要なものになっていくと考えられる。

第19図
活用した外部人材の種類
~これまでに外部人材を活用した実績がある企業のうち、
39%がOB人材を活用した経験を持つ~

第19図 活用した外部人材の種類

第20図
OB人材の活用状況(規模別)
~OB人材は、比較的規模の大きな企業で利用されている~第20図 OB人材の活用状況(規模別)

第21図
OB人材の活用状況(業種別)
~特に建設業でOB人材を活用している~

第21図 OB人材の活用状況(業種別)

 

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