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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

元気な企業を訪ねて -チャレンジャーたちの系譜ー

「切る」「磨く」技術を ナノレベルで追求する
世界トップクラスの技術力で300ミリウェーハ時代を牽引。

市川 浩一郎さん
不二越機械工業株式会社
代表取締役社長 市川 浩一郎さん

直径300ミリウェーハの時代が本格化

 ハイテク機器の心臓部である、IC、LSI(大規模集積回路)。数ミリ程度のシリコンチップ上には約8千万個もの微細なトランジスタが集積し、複雑な回路が形成されている。
 シリコンチップのベースとなるのが半導体でできた薄い基板、シリコンウェーハ。シリコンを円柱状に単結晶させた「インゴット」を0.5~1.5ミリ程度に薄くスライスした円盤だ。この円盤上に微細な回路パターンをいくつも焼き付け、四角いシリコンチップが製造される。それだけにシリコンウェーハには限りないフラットネスが求められ、サブミクロン単位のキズや凹凸も許されない。
 直径200ミリのものが主流だが、数年前からアメリカや韓国の半導体メーカーが直径300ミリウェーハへの移行を本格化。国内半導体大手各社も最近ようやく、直径300ミリウェーハに対応した設備投資計画を発表するなど、本格的な300ミリ時代を迎えようとしている。
 300ミリウェーハは200ミリウェーハと比べ、1枚から取れるチップ数は2倍以上となり、生産コストも下がるからだ。しかし、面積が広くなった分、シリコンウェーハを磨く技術もさらに高度な技術レベルが求められることになる。まさに、300ミリウェーハ時代のカギを握る最も重要なファクターといっても過言ではない。

「切る」「磨く」技術を追求。手がけるのはすべて一品料理

 不二越機械工業は昭和39年、シリコンウェーハ加工装置「ラッピングマシン」の開発に成功以来、一貫して半導体シリコンを「切る」「磨く」技術を追求。世界でもトップクラスの技術力を持つ加工機械メーカーとして知られ、シリコン市場の3割を支えている。特に「ポリッシングマシン」では世界トップシェアの地位を譲らない。その技術は、東京ドームの芝を1ミリの誤差もなく平らにすることができるレベル、といえば分かりやすいだろうか。
 製品は両面・片面それぞれの「ラッピングマシン」と「ポリシングマシン」がメイン。それらのマシンをベースに、「切る」「削る」「貼付」「磨く」「剥離」「収納」という、インゴットからウェーハへと加工し、出荷するまでの一連のプロセスを自動で行うシステムへと組み上げる。加工する対象物もシリコンの他、化合物、ガラス、水晶、磁性体とバラエティに富み、3百ミリシリコンウェーハへの対応も万全だ。
 ユーザーは半導体ウェーハを生産するすべての企業。事業開始以来関係が深い信越化学グループをはじめとする日本企業を中心に、東南アジア、欧米にも広がる。シリコンウェーハそのものの価値を求めるプライム品だけでなく、不良ウェーハを削り直した「再生ウェーハ」を手がけるメーカーも重要な納入先だ。
 システムはもちろん、マシンもすべて1点もの。どれひとつとして同じものはない。
 「当社は、それができるから生きてこれたという自負があります。言ってみれば当社は、御用聞きの魚屋。店に並べて売るスーパーとは違って、そのお客様が欲しい魚を1匹ずつ売る。ただし、それだけで帰ってきてはいけない。3枚に下ろすという付加価値を付けて売るのです」と市川浩一郎社長。
 同社が手がけるのは、完全に一品料理。同じユーザーに同じ機種を納めても、今日のものと明日のものとは違う製品となる。ユーザーから次々と入ってくる新たなニーズにそのつど応えていくからだ。
 「技術者は大変です(笑)。約60名の設計技術者が毎日、四苦八苦して取り組んでいますよ。でも、だからこそお客様の工場内や技術の心臓部にまで入っていけるし、そこからさまざまなニーズがいただける。開発途中、お客様からさまざまな要求がありますが、それは当社を頼ってくれている証拠。それを大切にしています」。

自立への”執念“と、ものを見る目がチャンスつかむ

 同社のルーツは、飛行機部品を製造していた不二越精機工業が昭和19年、長野市松代に戦時疎開したことにさかのぼる。長野市松代は当時同社で工場長を務めていた先代社長、市川知命氏の故郷。昭和27年に不二越精機工業から設備一切を引き継ぎ、不二越機械工業を設立した。
 当時はほとんど、現在の「NACHI不二越」の下請け。高速度旋盤、木工機などの各種工作機械や、油圧バルブ・空圧シリンダーの製造で企業としての基盤を築く。その一方で、たとえ苦しくても自分の力で経営戦略を立てられる会社へ、という“執念”はつねに持ち続けた。
 転機となったのは、先代社長の友人からの一通の手紙だった。その内容は「半導体シリコンのインゴットを切断する機械をつくってみないか」というもの。大企業に持ち込んでは断られていた開発話に、先代社長は「面白い、やってみよう!」と飛びつく。
 そして昭和39年、当時電子業界で実用化され始めた半導体シリコンの特殊加工機械の試作に成功。さらに当時、半導体シリコン製造事業を始めたばかりの信越化学工業との共同出資により、シリコン加工専門工場として長野電子工業株式会社(千曲市)を設立した。
 それ以降、シリコン特殊加工機械のひとつとして「ラッピングマシン」の研究開発、製造を本格的に手がけていくこととなった。ついに下請けメーカーから、自社製品の開発、製造メーカーへという執念が実ったのである。
 昭和45年には産業界で工作機械自動化の流れが急速に進む中、油圧バルブの生産体制の確立と増資のため、現在地に新工場を建設。油圧バルブ・空圧シリンダーの専門工場として操業を開始した。
 そして翌年、半導体シリコン用として開発したラッピングマシンの性能の高さと、シリコンだけでなくガラス製品の研磨加工にも画期的な合理化機械であることを、産業界が高く評価。爆発的な販売台数を記録し、現在の同社の礎を築く大きな一歩となった。
 「当社は、もしかしたら下請けだけでも生きていけたかもしれない。しかし、つねに自立への執念を持っていたからこそ、新しい機械の試作というチャンスに恵まれた。よく先見の明があったと言われますが、たまたま切ったものが半導体シリコンだったというだけ。それは結果論にすぎない。ただ、その結果にもっていくために、いかにアンテナを高くしてものを見ているか、情報を敏感にキャッチできるかが大事。先代社長がつねに言っていたのも、ものを見る目をしっかり育てろ、でした」。

大学との共同研究と技術伝承のマッチングが大切

 自他共に認める技術力の高さ。市川社長によるとそれは「うちがもともと持っていたのではなく、お客様が我々の技術力を高めてくれた」ということになる。
 マシンの仕様は、温度管理、研磨剤の濃度、流し方、ターンテーブルの形状など、ユーザーそれぞれの条件によって変わる。ハイレベルなニーズに対して、職人技ともいえる技術的アプローチによって、きめ細かく、しかも的確に対応できるのが同社の強み。その繰り返しによって、製品がブラッシュアップされるとともに全体の技術レベルも高まっていく。
 「だから当社の技術力は、意識的に高めてきたというよりも、技術者がお客様の現場に行ってニーズをいち早く受け取り、それを製品として具現化していく中で自然に培ってきたものなのです。
 一方、競合他社より早くニーズをつかむという点では、長野電子という半導体シリコンの専門加工会社を持つことが大きな強み。最先端メーカー各社の製品に関わっているので、将来の技術動向に関する情報がいち早くキャッチできる。つねに進歩する技術に追いつくためには、今どういう状況にあるか、次どうなるかという、お客様や現場から入ってくる情報をいかに敏感に受け止められるかにかかっています」。
 もっとも、技術の伝承だけでなく、新しい技術領域への挑戦も重要なポイントだ。同社では大学との共同研究にも積極的に取り組んでいる。
 「今最も売れている製品は、以前、埼玉大学との共同研究によって見いだしたアイデアを盛り込んだもの。そういう基礎技術を応用する発想と技術も大切です。大学との共同研究で新しいアイデアを模索しながら、技術伝承も着実に伸ばしていく。そのマッチングが大切だと考えています」

アセンブリに特化。協力会社も大切なお客様

 同社の特徴は、製品開発と設計、アセンブリに特化したメーカーであること。モノづくりに必要な部品のほとんどを外注し、協力会社の数はトータルで百社を超える。それだけに外注先との関係を非常に重視。市川社長は「協力企業も大切なお客様」と話す。
 そんな考え方から同社では、周年記念行事には社員、家族とともに協力会社を招待。さらに懇談会を年3回開き、そのつど事業の概況を明らかにするとともに、期初には経営方針を発表。同社へのさらなる協力を要請するという。
 「当社が欲しい品質の部品を納めていただくのだから、我々にとっては協力会社も大切なお客様なんです。お互いに切磋琢磨し、より良い製品づくりを進めることで初めて、ユーザーにお返しができる。私はそれが一番大事なことだと考えています」。
 最近の関心事は「知的所有権の重要性と、それに勝つ技術力が問われていること」。
 同社が保有する特許は2百件を超える。その一方で、新しい技術開発を手がける際に必ず行う先行技術の調査では、ほとんどが既に特許出願されているという。いかに既得特許に触れず、より画期的な技術開発を行うかが問われている。もっとも、国内外での特許取得や維持にかかる費用負担の大きさは「頭の痛い問題」だ。

プロフィール
市川 浩一郎さん
代表取締役社長
市川 浩一郎
(いちかわこういちろう)
中央会に期待すること

中小企業施策についての提言
研究開発費の優遇税制・非上場企業の事業承継税制等、中小企業に対する税制の見直しが必要ではないか。

経歴
1940年 (昭和15年)12月19日生まれ
1963年   日本大学理工学部電気工学科卒業
1963年   北辰計装(株)入社
1968年   不二越機械工業(株)入社
1988年   代表取締役社長に就任
趣味   ゴルフ、音楽鑑賞と楽器演奏。小学生でバイオリンを始め、ハワイアン全盛時代の大学時代からウクレレ、ギターなどを楽しむ。大学卒業後、会社のバンドに加わり、パーティなどでの演奏活動も。「ここ2、3年は忙しくて参加できない」が、長唄の三味線も習う。聴くのはもっぱらジャズ。
家族構成   妻、2男、2女

企業ガイド
不二越機械工業株式会社

本社 〒381-1233 長野県長野市松代町清野1650
TEL.026-261-2000(代) FAX.026-261-2100
設立   昭和27年(1952年)5月27日
資本金   6,000万円
事業内容   半導体素材加工装置の開発・製造・販売、油圧機器製造
事業所   本社・工場
海外拠点   マレーシア
関連会社   FK MACHINERY(M)SDN.BHD.、長野電子工業株式会社
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