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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

短期連載 新技術・新分野への取組み

 長引く不況の中、長野県経済は製造業を中心に、受注・生産の落ち込みや設備投資の減少など厳しい状況が続いています。そんな中にあって、自ら創造性を発揮して新たな技術開発に取り組み、経営の向上をめざす中小企業のために、長野県では幅広い支援制度を実施しています。
 支援制度は、補助金・助成金などの資金支援、委託開発制度、人材育成、産官学による共同研究、専門家による指導・助言、産業財産権の活用、製品のPRおよび販路開拓、法的認定による優遇措置など。それぞれのニーズに応じて最適な制度を選択し、上手に活用することによって、中小企業の創意ある向上発展が可能となります。
 ここでは「新技術・新分野への取組み」として、各種支援制度を活用し、経営向上を図っている県内中小企業の実例、および活用支援制度の内容等を紹介。中小企業が新たな経営革新への挑戦をめざす上で、貴重なヒントがここにあります。

導入事例 第6回 株式会社信州セラミックス

光触媒技術を応用した加工製品の研究と販売で、
21世紀の環境・健康・福祉を担う巨大市場をめざす。

酸化チタンを触媒とする「光触媒」が細菌やウイルス、カビなどを死滅

 シックハウスや病院での院内感染など、細菌、ウイルス、カビ、臭いなどに起因する健康被害が社会問題となっている。その深刻な問題を「光触媒」という技術の応用で解決しようというのが、(株)信州セラミックスだ。
 光触媒とは―。触媒とは化学反応の前後においてそれ自体は変化せず、相手の化学反応を速める物質のこと。光触媒では酸化チタンが触媒となり、光や熱が加わった部分の酸化チタン内部の電子が移動、その表面にある水分子を水素と酸素に分解する。この時に発生するOHラジカルという物質には、接触した有機物を分解して焦熱させる力があることが判明。その作用を利用して、素材として注目されている。
 同社は、光に反応した酸化チタンが消臭、殺菌効果をもたらす作用、つまり光触媒を応用した加工製品の研究と販売を手がけている。

独自の開発・生産拠点持たず、製品開発は協力企業と共同で

 桜田司社長は東京の半導体素材開発会社の元研究者。妻の実家のある木曽地方に移住し、木曽化工(株)セラミックス研究所を経て、84年に同社を設立。以来、セラミックスと高分子材料との複合による新しい機能材料の開発に取り組んできた。
 加工製品の開発は、食品コンサルタント、住宅メーカーなど全国28社の協力企業と共同で行い、独自の開発・生産拠点は持たないのが同社の特徴。触媒剤の販売と加工技術の指導、シーツ、スリッパ、タオルなど協力企業が製造した約60種類の「未来布(マイライフ)」ブランド製品の販売が主な収入源だ。
 桜田社長は「当社でいう、材料において新しいこと、とは、今までできなかったことができる、ということ。開発が完了すると必ず実際の市場に投入して認知を図り、多彩な用途への水平展開を狙っている。そのため、用途開発(製造・販売)については外部資源を活用している」と話す。
 「未来布(マイライフ)」ブランド製品は県内外の介護施設でも利用され、評判も上々。また、現在建設中の順天堂大学病院(東京都)にも感染対策として採用される予定だ。

光触媒説明図

国、県、ベンチャー支援機関等から 積極的に資金調達を図るに

 02年4月から県立木曽病院において、光触媒による感染対策プロジェクトを実施している。長期療養型病棟の半数の病室の壁、床、カーテンなどに光触媒加工を施し、信州大学医学部の教授五名がデータを収集。学会発表に向け、空気中の細菌数の変化や防臭などの効果を評価検討中だ。
 プロジェクト名「光触媒利用による病院の感染及び消臭対策」として、経済産業省の「地域創造技術研究開発事業補助金」を受けた。認定にあたって最も留意したのは、情報のディスクロージャーと細部にわたっての相談をつねに行うことだったという。
 同社は本件以外にも、96年、01年の2度にわたって「中小企業創造法」認定を受けるなど、国や県の中小企業支援施策を積極的に活用。さらに98年には、経産省の外郭団体VEC(ベンチャーエンタープライズセンター)の光触媒開発案件の債務保証認定、99年長野県ベンチャー財団・八十二キャピタルから3千万円の無担保新株引受権付社債発行など、ベンチャー支援機関等からも資金調達を果たしている。
 桜田社長によれば、それは資金調達の他に「社会の信頼を得る。開発技術の信頼を確保する。大企業に取り込まれるリスクを回避する」ため。銀行以外からの資金調達では一般社会の信頼を得ることが第一であり、そのためには外から見て分かる会社であるべきだという。
 技術を維持・発展させるための研究開発費の調達という点で、中小企業は大企業に比べて大きなハンデがあるのは否めない。それを補う手段として今後とも各種制度を活用したいと考えている。
 「今年四月には産総研(つくば市)の主任研究員が入社する予定。今後、資金面に限らず、社外資源の有効活用はますます進むと思う」

光触媒技術を「長野モデル」に。具体的進展を期待

 桜田社長は03年8月、長野県の田中知事に「長野モデル」として、光触媒技術を提案した。自社技術を県の企業振興に活用してほしいという気持ちからだ。
 「我々の光触媒技術は基礎材料であり、特許によってオリジナリティも保証されている。用途は広範囲にわたり、21世紀の健康を担うものとして約1兆円の市場規模が想定されている。用途開発および製造・販売は社外の専門企業に委ねているため、我々にも県内企業にもメリットがある」と話し、「長野モデル」への具体的進展を期待している。

今回事例掲載制度の概要

中小企業創造活動促進法(創造法)
 11月号17頁を参照願います。

地域創造技術研究 開発費補助事業
 地域において新産業・新事業を創出し、地域経済の再生を図る地域中小企業を支援する事業。大学等の技術支援を受けて実施する研究開発に要する経費の一部を国が補助します。
 補助の対象となるための要件は以下の通りです。
1. 中小企業、個人等であること
2. 地域の大学、公的研究機関等から技術支援(大学等からの(a)技術シーズの提供、(b)研究人材の提供、(c)研究施設・設備の提供、(d)技術指導の提供、のいずれか)を受けること
3. 中小企業による事業化に直結する即効性の高い研究開発であること
 1件あたりの補助金額は4千万円以内(補助率:2/3以内)です。



今回の取材企業の概要
商 号 株式会社 信州セラミックス
所在地 〒399-5501
長野県木曽郡大桑村殿35番地46
TEL 0264-55-1221(代)
FAX 0264-55-1181
設 立 平成13年5月
資本金 46,750,000円
社 長 桜田 司
従業員数 12名
URL http://www.shincera.co.jp
桜田 司さん

短期連載「新分野・新技術への取組み」は今回をもって終了します。
新しい連載企画にご期待ください。
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