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月刊中小企業レポート
更新日:2006/03/30

特集2 新分野・新事業で生き残れ!
県内建設業四社に見る新分野進出への取り組み。

建設業界の新分野進出

 建設投資の低迷など、建設市場における大きな構造変化の中で、建設産業はかつてない厳しい経営環境にさらされている。技術力や経営基盤の強化はもとより、本業以外の新たな事業分野への進出も視野に入れた抜本的な対応が大きな課題となっている。
 長野県は平成15年4月から5月にかけて、各建設事務所管内の建設業者916社を対象に「構造改革への取り組み」についてのアンケートを実施した(回答429社・回答率46.8%)。
 それによると、経営多角化として建設業以外の分野にすでに進出している、または今後進出を考えている建設企業は229社(60%)。
 すでに経営多角化を図っている企業119社の進出分野は、廃棄物・環境分野(37%)、農業・林業(32%)、医療・福祉(15%)、不動産(13%)の順。農業を利用した観光産業、清掃業や飲食業などもあった。一方、今後多角化を検討している建設企業が進出を予定している業種もほぼ同様の結果となった。
 県ではこのような状況を踏まえ「建設産業構造改革支援委員会」を設置し、意欲と熱意のある建設産業の支援を行なっている。
 本特集では、新分野進出により生き残りを図る県内建設業の事例として、四社をピックアップ。その具体的取り組みを紹介する。

■北信土建株式会社【長野市】 環境製品製造事業
野沢柳一郎
代表取締役社長
野沢柳一郎

「新しい木」の原料は、廃棄物100%。
環境循環型製品の製造で「山紫水明の信州」を守る。

原料は廃棄物100%。「木」の環境事業として取り組む

 廃木材と廃プラスチックを主原料とする「新しい木」。それが北信土建が製造する「NE-MWood」だ。耐水性、耐候性、不朽性に強く、割れ、反り、曲がりが少ないため、屋外のウッドデッキやベンチ、外壁などの他、室内のフローリングや建具にも使われている。
 同社は明治40年に創業以来、100年近くも建設業一筋という老舗建設会社。しかし建設産業の衰退化が必至の情勢の中、企業存亡の危機感を抱き、98年に新規事業立ち上げの準備に入った。折しも同年、「環境」の理念のもとで長野冬季オリンピックが開催。さまざまな事業候補の中から、「環境」に関わるもの、しかも地域一番になれるものにターゲットを絞る。
 そして、廃木材のリサイクル率が低く、大半は焼却処分されていること、建設リサイクル法が施行されるとさらに大きな木のゴミの山ができるという深刻な問題に着目。「木」の環境事業として「NE-MWood」の製造事業を立ち上げ、02年7月に操業開始した。
 「NE-MWood」は、長野県内で排出される廃木材と廃プラスチックを三百ミクロンに粉砕したものを配合。押出成形し、表面を研磨すると天然木の質感が生まれる。原料は廃棄物100%。将来不要になった際には原料として再利用できる環境循環型製品だ。「NE-MWood2エクステリア」は、(財)日本環境協会エコマーク事務局によりエコマーク商品に認定されている。
 まつもと芸術館(松本市民会館)、県庁南側車椅子専用スロープ、JA松本ワイナリーなど、施工実績も順調に伸びている。

事業を担うのは、配置転換した技術者たち

 この事業を担うのは、従来の建設部門とは別に新たに設置した「環境システム事業部」。長野市若穂保科にNEプラントを稼働する。同事業部の社員50名の過半数は、建設事業部から配置転換をした技術者たち。
 環境保全の必要性や顧客満足(顧客ニーズ)の大切さや、製造原価削減に対する認識や時間に対するコスト意識など、新規事業は社内の意識変化をもたらした。不況の建設業界において積極的な新分野への挑戦、環境ビジネスに取り組む先見性など、社外からも高い評価を受けている。
 環境システム事業部の永井慶信取締役は「従来とは違った人脈との交流や、従来考えられなかった産官学のパートナーシップが構築できたことも大きい」と話す。
 同社では今後、生分解性樹脂を利用した環境製品の他、福祉・健康など「人」を中心とした環境事業にも取り組む計画だ。

■三矢工業株式会社【立科町】 ウッドチップリサイクル事業
安江高亮
代表取締役社長
安江高亮

樹木廃棄物を100%再利用し、
自然に戻す「ウッドチップ・リサイクルシステム」。

不用材を100%資源として有効活用しよう

 今後地方に根づく産業は、モノと人との有機的なつながりのある農業、観光、環境、福祉。三矢工業はそんな発想から新分野への進出を決めた。
 従来、建設工事等で伐採、伐根された根株、枝葉、竹などの樹木廃棄物は焼却処理されていた。その不用材を100%資源として有効活用しようというのが、同社が手がける「ウッドチップ・リサイクルシステム」。
 不用材は、移動式破砕機(ハンマーミル方式)で必要なサイズに破砕処理。砂や鉄などの異物を除去し、純粋なウッドチップ材を選別した後、土木建設工事等で使用する。余ったウッドチップ材は、土壌改良材や床下調湿材などとして使われる炭にしたり、堆肥製造の原料として利用する。

土木工事から庭づくりまで、開発されている利用技術

 ウッドチップ材の利用技術は、土木工事を中心に各種開発されている。
バークブロアー工…ウッドチップ材を特殊な機械で吹き付け、宅地開発や道路工事などで発生する法面を保護する工法。ウッドチップ材が雨水のショックを吸収し、風雨による土砂の流失や濁水の発生を抑える。土壌乾燥を防ぐため、緑化にも有効。
エコ法枠工…ウッドチップ材を円筒形状の生分解性麻袋に詰め、法面へ格子状に設置。雨水による浸食等から法面保護を図る。
カラーマルチング工…ウッドチップ材に動植物に無害な着色料を使用し、カラフルな庭を造る工法。保温・保水効果にすぐれ、浸食防止効果が高く、雑草の発生も抑制する。
カラーチップ樹脂舗装工…ウッドチップ材と湿気硬化型の樹脂材を混合撹拌した後、転圧して固める舗装工法。ウッドチップ材がショックを吸収するため足にやさしく、水はけも良い。
フィルトレックス工法…直径20~45cm、長さ30mのフィルターソックスの中にウッドチップ材を充填。濁水浄化、土砂流出防止を図る。

余ったウッドチップは炭化し、環境および健康製品に加工

 今、ウッドチップ・リサイクルでの問題は「環境に悪影響を与えない、安定した状態でウッドチップが処理されているかどうか」。
 同社では、余ったウッドチップを連続炭化炉内で800度以上で炭化し、粉末炭(土壌改良材)や床下調湿材、木酢液などに加工している。その取り組みに、責任ある処理をめざす自治体や産廃排出業者も注目。指名での処理依頼も多い。また製品購入を希望する花卉栽培等の農業者も増え、今後さらに伸びると期待している。
 同社では03年1月から土壌汚染調査・浄化工事に着手。さらに農業生産法人たてしなファーム(有)を設立し、有機無農薬農業にも着手しており、積極的に新分野への展開を進めている。

■株式会社細野建設【小谷村】 土壌汚染調査事業
細野武久
専務取締役
細野武久

いち早く事業化に着手した土壌汚染調査が好調。
全国500件の実績により環境省指定調査機関に指定。

ニッチで初期投資が少なく、土木の経験が生かせる分野として

 細野建設は03年1月、土壌汚染対策法に基づき環境省指定調査機関の指定を受けた。土壌調査の実務経験が3年以上あることや、各登録制度による技術管理者を専任技術管理者として置くことなどが指定要件。同社の豊富な実績と高い技術力が認められたかたち。
 同社は29年に細野組として創業。小谷地区での災害復旧土木工事を主力事業としている。しかし受注の波が大きく、「ニッチで初期投資が少なく、土木の経験が生かせる分野」として土壌浄化ビジネスに着目。94年に環境事業部を立ち上げ、翌95年に2人の専任者で土壌および地下水の汚染調査業務に着手した。
 もっとも、多角化の必要性について社内のコンセンサスを得ること、土木部門から配転した専任者の意識改革、ネットワークづくりによる対外的認知などに苦労。採算ベースに乗るまでには数年を要したという。

SCSC式土壌汚染調査法とエコプローブで汚染箇所をスピーディに絞り込む

 同社の土壌汚染調査はSCSC式土壌汚染調査法と呼ばれるもの。コンパクトな専用機械を使用してボーリングし、土壌サンプルを採取して調査する。汚染が確認された場合は、天然微生物からつくったバイオ製剤で土壌を修復する。
 従来のボーリングマシンは仮設等にかなりの費用が発生するのに対し、屋内や狭小現場でも調査できるため、比較的安価に試料採取が可能。また、エコプローブにおいては、これまで難しかった砂礫層サンプリングを低騒音で実現した。さらにオンサイトで油汚染箇所が特定できる現場簡易診断システム「e-CONシステム」により、汚染の絞り込みがスピーディにできるのも大きなメリットだ。
 また同社では昨年から、県内全域の特定有害物質を扱う18業種・約4万カ所の事業所をデータベース化し、汚染のリスク情報を地図化して提供する独自のサービスも手がけている。土壌汚染に対する関心が高まる中、土地取引や開発にともなう需要を見込む。

好調な事業展開。さらなるネットワークの拡大と強化

 土壌汚染調査は入口部分、つまり調査業務を確立しないことには、次への展開が生まれない。その点、いち早く参入し、調査現場も500件を超える豊富な実績は同社最大の強み。
 環境事業部の売上高は全体の1割程度だが、事業は順調に推移。03年5月期は約6千万円、今期は1億円を見込む。今まで構築してきたネットワークをさらに広げながら、地域におけるイニシアチブの獲得をめざす。
 もっとも環境部門を大きな柱に育てるためには、技術者育成と情報収集が鍵を握る。「この事業は最低でも数年は現場を経験しないと技術者として1人前とはいえないし、営業も出来ない。今後、ますます研鑽を積み積極的に環境事業の展開を進めていく予定」だ。

■安平建設株式会社【飯田市】 デイサービスセンター
松村紘一
代表取締役
松村紘一

利用者の立場に立ったサービスの提供とふれ合いに、
喜びと生きがいを感じる施設づくりをめざして。

構想から一年足らず。異例のスピードでオープンへ

 デイサービスセンター「たまゆら」は、1カ月延べ600人のお年寄りが地域から訪れる、日帰り介護施設。経営にあたるのは、安平建設が設立した子会社(株)たまゆらだ。
 安平建設は土木を中心とする建設業。公共工事の減少と業者間競争が激化する中、02年春から経営危機を回避するためリストラに着手。さらに新分野事業を立ち上げ、減少する売上げをカバーすることにした。
 ちょうどそんな時、建設情報雑誌の記事で建設業者が通所介護施設を建設し、自社で運営している事例を読む。「当社でも手がけることができないか」。松村紘一社長は早速、検討に入る。母親がデイサービスやショートステイなど福祉サービスを利用。妻は看護師、さらには理学療法士として、長年病院に勤務していた経験を持つ。介護には興味があった。
 さまざまな問題を経て建物が竣工し、オープンしたのは03年4月17日。構想から一年足らずと、異例とも思えるスピードだ。
 一番の問題は、人材確保と従業員教育。もともと未知の分野のため社員の配置転換はなく、すべて一から。オープン3カ月前に短大卒の新人4名、一般募集により7名、そして妻の12名を採用。比較的良い人材が集まった。教育訓練は、事業の計画段階から提携していたコンサルタント会社に依頼し、オープン1カ月前からみっちり行った。

センターのオープン以来、建設業本社内にも活気生まれる

 デイサービスセンター「たまゆら」は、利用者のニーズや生活スタイルを大切にした、民間ならではのサービスを提供している。
 松村社長は「利用者の世話をするのではなく、一緒に運動し、一緒に遊び、一緒に食事をし、喜怒哀楽を共にする。利用者との、そんなふれ合いに喜びと生きがいを感じる施設に育てようと考えている」と話す。
 また、機能回復のためのリハビリではなく、残っている機能でいかに上手に日常生活ができるようにするかという、生活リハビリの考え方を採り入れて指導している。
 同センターのオープン以来、建設業本社内にも少なからず影響があったという。「会社が異業種に進出したことで世間から注目されたこと、本業のイメージアップにもつながったこと。そして多くの社員が新会社に出資してくれたことで、デイサービスセンターの利用者が増加するにつれ、社内に活気が出てきたこと。それが良かった」。
 同社では05年4月をめどに、ショートステイを併設、運営する計画だ。さらにそれが軌道に乗った段階(概ね五年後)で、デイサービスセンターやショートステイ、賃貸住宅などが集まり、高齢者が自立できる福祉村の実現をめざす。


■「建設産業構造改革支援プログラム」の概要
 県では意欲と熱意のある県内建設産業の成長を支援するため、「建設産業構造改革支援プログラム」を実施している。その中で「経営多角化・新分野展開支援」施策について、その概要を紹介する。


●建設業等新分野事業進出費補助金
1. 補助対象
県内に主たる営業所を有する中小企業で、建設業許可を有する建設企業。または、県の入札参加資格を有する測量・建設コンサルタント等の企業を含んだ企業グループ。
県内に主たる事務所を有し、建設業許可を有する中小企業等協同組合および協業組合。
県内に主たる営業所を有し、建設業許可を有する建設企業。または県の入札参加資格を有する測量・建設コンサルタント等の企業で従業員百人未満の単体企業(進出先分野に一定の制限がある)。

2. 補助対象となる経費
新分野進出を試行するために要する、次のような経費の2分の1以内。ただし100万円を限度とする。(( )内は補助される経費)
新分野の市場調査(委託料、賃金)
新分野の知識や技能を習得するために研修を受ける(受講料、教材費、旅費)
試作品の製作(材料費、機械の賃貸料)
経営コンサルタントなど専門家の助言を受ける(謝金、旅費)
アンテナショップの出店(賃貸料、賃金)
参考書籍を購入する(購入費)
広告・宣伝のチラシを作る(印刷費)

3. 問い合わせ先
各地方事務所 建設産業構造改革支援担当
長野県土木部監理課建設産業構造改革支援グループ
TEL026―235―7314
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