信州の企業人−チャレンジャーたちの系譜−

“〜 「差別のない信頼の経営」を理念に、
世界NO.1製品の開発に挑戦する。 〜”


太田哲郎さん
オリオン機械株式会社
代表取締役社長 太田 哲郎さん


産学官共同開発を積極的に進め、畜産大賞優秀賞を受賞。

 平成15年度畜産大賞(社団法人中央畜産会主催)の研究開発部門において、「搾乳ユニット自動搬送装置(キャリロボ)の開発」が優秀賞を受賞した。これは、つなぎ飼いの牛舎で搾乳機械を自動搬送するシステム。酪農家の労力を約4割も削減する画期的な開発として高く評価された。
 このシステムの開発を手がけたのが、オリオン機械(須坂市)。農業・生物系特定産業技術研究機構との共同開発により受賞した。
 同社は1980年、搾乳ロボットの開発に世界で初めて着手。この時は実用化には至らなかったが、1993年に農水省の補助金を得て研究を再開した。その研究の応用成果が、この製品である。
 「昨年10月の発売開始前から多くの注文が舞い込むなど、大好評をいただいています。従来、酪農家の皆さんが規模拡大を図るには大きな投資が必要でしたが、これは既存設備を利用して省力化できる。しかも労力をかなり削減できるので、酪農家の後継者対策にもなります」。太田哲郎代表取締役社長は新たなヒット商品に期待と自信をこめる。
 同社ではさらに、信州大学繊維学部とのフィルター関連の研究や触媒燃焼技術の研究など、産学官共同開発を積極的に進めている。


酪農関連機器から産業機械まで、多岐にわたる自社製品を開発。

 同社は酪農関連機器をはじめ、温湿度制御・プロセス管理用制御機器、エアードライヤー関連機器、冷水機・除湿乾燥機、食品機器、ドライポンプ関連機器、業務用ヒーターと、多岐にわたる製品分野で自社ブランド製品を開発する研究開発型メーカー。
 1957年に国産初のミルカー(搾乳機)の生産販売を開始し、1959年には、冷凍技術を外部から導入し、搾った原乳の腐敗を防ぐ原乳冷却装置(ユニットクーラー)を開発。その後、国産初のドライポンプ(1965年)を開発して産業機械に進出。さらに環境試験装置、クリーンルームシステムなどで電子機器業界に、業務用高湿冷蔵庫(チルドマン)で食品業界にも参入した。酪農関連機器は現在、売上高比率で25%程度となっている。
 驚くのは、酪農関連機器をはじめ、ほとんどの製品分野で国内トップシェアの製品を持つこと。それは産業機械分野に進出するにあたり「シェアNO.1をめざす」というテーマを掲げ、着実に成果を上げてきた結果である。


下請けから脱皮して自社製品を持つ。その志で国産初のミルカーを開発。

 同社は1946年(昭和21年)、現・代表取締役会長である太田三郎氏が「合資会社共栄精機製作所」として創業した。
 太田会長は戦時中、三菱重工で戦闘機の開発・製造に携わった。しかし、敗戦により軍需工場がすべて閉鎖されたため帰郷し、金属切削加工の下請け事業を開始したのである。
 「最初は歯車をはじめ、さまざまな下請け仕事を手がけました。東京にもせっせと営業に出かけたそうです。特に大きかったのは、松本の石川島芝浦機械様から消防ポンプの製造の仕事を受注できたこと。それが会社の基礎を作ったと、会長は今でも感謝の気持ちを忘れません」(太田社長)。
 この消防ポンプの製造で培った技術を生かして手がけたのが、国産初のミルカーである。当時、長野でも比較的酪農が盛んだったが、酪農家にとって搾乳は大変な重労働。外国には優秀な搾乳機があるが日本でも作れないか、という地元酪農家の要望に応えて開発に取り組んだ。
 「いくらニーズがあっても、自分たちに問題意識がなければそれをつかめない。下請けから脱皮して自社製品を持ちたいという強い願望と志があったこと、そして社員全員で力を合わせることができたことが分岐点になりました」。


ニーズをつかんだ製品づくりと、「お客様満足の追求」を徹底。

 その後、次々と酪農関連機器の開発を手がけ、市場を席巻。現在、日本唯一の酪農関連機器メーカーとして、国内50%以上の市場シェアを獲得している。欧米メーカーが世界市場を握るこの業界で、その半分以上をおさえるスウェーデンの巨大メーカーですら、日本市場では同社に勝てない。
 その理由を「市場ニーズをつかんだ製品づくりと、お客様満足の追求にある」と太田社長は力説する。同社が早くから自社の実験牧場を持ち、自らがユーザーの立場に立って製品づくりを進めてきたのも、そのため。ちなみに自社牧場を持つのは、世界でも前出のスウェーデンのメーカーと同社だけだという。
 「ミルカーは、牛が嫌ったらすぐに蹴飛ばす。それはもうニーズなどという生ぬるいものではありません(笑)」。牛のデリケートな部分に直接装着するものだけに、人間の医療器械のような細心さが求められる。マッチングが悪いと牛が病気になり、何億という損害が発生するケースもある。
 「酪農関連機器は問題があれば、お客様から即座に反応が返ってくる。だからこそ直にお客様の声を聞き、製品に反映させることを徹底してきた。それは他の製品分野も含め、当社にしっかり根づいています」。

ペルサーモ(電子冷凍)
ペルサーモ(電子冷凍)
ドライポンプ
ドライポンプ

省エネ露点センサ
省エネ露点センサ
サーボ式真空調整器
サーボ式真空調整器
触媒燃焼式ヒーター
触媒燃焼式ヒーター


深刻な経営危機に直面し、「差別のない経営」をめざす。

 世の中がオリンピック後の不況にあえいでいた1964年、同社に大きな転機が訪れる。倒産寸前という、かつてない深刻な経営危機に直面したのである。その原因は、マネジメント不足による営業部門の混乱。さまざまな不適切な問題が表面化し、経営を追い込んだ。
 太田会長はその時、社員に会社の内容をすべて話し、「社員のクビを切るなら会社を閉める。みんなで苦労を分かち合おう」と協力を求めた。そして110名の社員のうち30名が全国の取引先に出向。1人の人員整理も行わなかったのである。
 その一方で、営業部門の綱紀粛正を図り、社内の大改革を断行した。その時に発表したのが、次のオリオングループの思想(経営理念)。
(1)差別のない信頼の経営
(2)一級の社会人と一級の製品づくり
(3)全員経営と衆知の結集
 人間尊重を基本とし、どんな状況下でも社員を整理しないという経営思想は今、同社の根幹を成す理念として定着している。
 社員一丸となって経営改善に取り組んだ結果、1年後には売上げに改善の兆しが見え始め、難局を乗り越える事ができた。
 「会社と社員の信頼関係ができたことが一番の要因です。また出向した社員の多くが営業というまったく経験のない仕事に就き、そこでお客様の声を聞くことの大切さを改めて知るとともに、自信をつけた社員も多かった。それも大きな会社の変化につながったと思います」。


世界NO.1製品の開発に挑戦。その成果も着実に実る。

 「NO.1をめざす」。昭和40年代に定めて以来、同社にとっては永遠ともいえるテーマだ。今も長期経営方針として、
・提案営業ができる商品企画
・他社のまねをしない独自の商品開発
・日本初・世界初の技術開発
・小さな市場でNO.1を目標とする(高いマーケットシェア)
・産学官共同開発、異業種との交流、技術提携
を掲げ、世界NO.1製品の開発に挑戦する開発型企業をめざす。
 「当社は日本では40年間トップだが、世界のマーケットではまだまだ。たとえ企業規模でトップになれなくても、品質面では世界に出るチャンスはあるはず。グローバル化が進む中、それを世界トップレベルにしていかないと負けてしまう」と太田社長は気を引き締める。
 とはいえ、前出のキャリロボをはじめ、サーボ式真空調整器、ライン型温度特性検査装置、省エネ露点センサ(圧力下…圧力が加わった条件下)など、「世界NO.1」の果実も着実に実ってきている。


モノを売る原点は現地工場にあり。中国市場の開拓をめざして積極投資。

 同社は1996年に「台湾オリオン」と「香港オリオン」を、2000年には中国市場への産業機器部門の拠点として「上海オリオン」を設立し、真空ポンプの現地生産を行なっている。
 マーケットのあるところで現地生産・販売するというのが、同社の海外展開の基本的な考え方。「現地に工場をつくれば現地の技術情報が入るし、サポート体制も充実・強化できる。モノを売る原点は工場を持つことにある。中国では特にそれが重要だと考えています。中国市場は間違いなく日本より大きくなる。だから、今は投資先を中国に絞っています」。
 大きく広がる中国のマーケット。その向こうには、さらに大きなアメリカ市場が広がる。同社が夢みているのも、その巨大市場の開拓だ。「世界NO.1の製品を持って行かないと、アメリカでは太刀打ちできませんから」。太田社長の言葉に力がこもった。



プロフィール
太田哲郎さん
代表取締役社長
太田 哲郎
(おおたてつろう)
中央会に期待すること

中小製造業はつくることには長けているが、売ること(マーケティング)が弱い。どんな商品が売れるかをまず調査し、それを形にし、改良を加え、最後に売れる商品に作り上げるというプロセスの、一番大事なところができていないのではないか。それを支援する体制が必要ではないかと思います。

経歴
1949年 (昭和24年)5月5日生まれ
1968年   長野県立須坂高等学校卒業
1973年   東京電機大学精密機械工学科卒業
1973年   英国ガスコイン社勤務
1974年   松下電器産業株式会社入社
1978年   オリオン機械株式会社入社
1991年   代表取締役社長に就任
趣味   ゴルフ、音楽鑑賞、楽器演奏(ギター、キーボードを少々)、読書(歴史小説)
家族構成   妻、一男・二女



企業ガイド
オリオン機械株式会社

本社 〒382-8502 長野県須坂市大字幸高246
TEL.026-245-1230(大代) FAX.026-245-5424
創業   昭和21年(1946年)
資本金   3億8000万円
事業内容   環境試験機器、冷凍機器、空圧機器、真空機器、熱機器、酪農機器の開発・設計・製造・販売
事業所  
本社・工場/ 須坂市・千曲市・千歳市
技術研究所/ 長野市
営業統括部/ 東京
海外/ 台中(台湾)・香港・上海
グループ会社/ 43社(海外含む)

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