信州の企業人-チャレンジャーたちの系譜-

“~ 環境の変化に敏感に対応し、
つねに時代の食ニーズに応える総合食品流通商社。 ~”


小池守さん
株式会社丸水長野県水
代表取締役会長兼社長 小池 守さん


そのルーツは、戦時中の長野県水産物卸統制組合に

 長野県全域をマーケットに、食を通じて「おいしさ」「鮮度」「安全・安心」を追求し、消費者が満足する豊かな食生活を提案する、丸水長野県水。創業以来の部門である水産をはじめ、食品、冷凍食品、畜産の4事業部を展開する総合食品流通商社だ。
 そのルーツは、戦時中、消費者への水産物の配給を行っていた県下5地区に支部を持つ長野県水産物卸統制組合にある。敗戦後、物価統制廃止により、各支部が独立。例えば、東信地区を担当していた支部は「長野県丸水上田魚市場」とするなど、各社はそれぞれ統制組合の名前の一部を採って社名とした。長野県丸水上田魚市場はその後、再編の中心的役割を担ってきた。
 企業としての直接の原点は、1950(昭和25)年4月、物価統制令の解除と同時に岡谷市に設立された(株)丸水長野県水岡谷魚市場である。


産地との関係づくりに特別の配慮

 小池守会長兼社長が入社したのは51年9月。「44年に陸軍士官学校に入校しましたが、終戦後、早稲田の専門部に入学し直しました。当時、長野県水産物卸統制組合の東信支部長をしていた父親は、長男の私を後継修業のために北海道に行かせる手はずを整えていたのですが、無理に頼んで行かせてもらったのです。3年後の卒業時はちょうど新制切り替えの時で、もう1年行けば早稲田大学商学部卒業だったのですが、さすがに、すぐ帰って来いとどやされて(笑)。大学は諦めて専門部を卒業し、上田に帰ってきました」。
 市場に入ってくるものはほとんどセリにかける時代。小池さんは入社するとすぐにセリの現場に立ち、大きな声を張り上げる毎日が続いた。寒中でもランニングシャツ1枚で汗をかくほどで、相当のエネルギーを必要としたという。「半日商売すれば、あとは集荷の電話連絡くらい。ヒマなので酒飲んでるか、寝てるかでしたね(笑)」。そんなのんびりした時代だったのである。
 とはいえ昔も今も、産地からいかに荷を集めるかは市場にとって死命を決する問題。交通網が発達していない当時ではあったが、二大市場である築地と大阪からのルートからは鉄道と、ある程度まとまった量をトラックで、さらに青森、秋田、新潟、富山、石川などの日本海ものは小口を鉄道で入れた。駅留めで入った荷を早朝取りに行き、市場に出すというのが日課。「海なし県」だけに、産地との関係づくりにも特別の配慮をしてきたという。
 「品物をいかに集めるかで苦労した時代ですから、品物があれば魚市場は売れて困るほど。昭和30年代までは、まさに古き佳き魚市場の時代でした」。


営業譲受、合併を繰り返し、業容の強化・拡大を図る

 その後、丸水長野県水岡谷魚市場は茅野水産青果(協)の営業譲受、岡谷中央食品製造(株)との合併を行い、62年には(株)丸水長野県水魚市場に社名を変更。76年に(株)県水丸水松本魚市場と合併し、本社を松本市に移転。78年には(株)丸水上田綜合食品卸売市場と合併し、現社名である(株)丸水長野県水となった。
 85年には本部機能を松本市から長野市に移転。そして89(平成元)年10月の松本市公設地方卸売市場開設の後、12月に本社を長野市に移転した。
 このように同社は、長野県下全地域の水産および青果卸売業の営業譲受や合併を繰り返しながら、長野県下1円に拠点網を構築。2002(平成14)年にも(株)五幸の営業譲受を行うなど、今日まで営業譲受、合併のチャンスを積極的にとらえながら、業容の強化・拡大を図ってきたのである。


卸売業の機能強化とローコストな企業体質づくりをめざして

 「市場の一番の得意先だった鮮魚店はかつて、上田市内だけでも5、60店はありました。ところが今、昔ながらの業態で続けている店は数軒しかなく、小売店からスーパーへという業態変化も著しいのが現実」。
 経営環境が大きく変化する中で、同社が生き残りをかけて取り組んでいるのは、卸売業としての機能強化とローコストな経営体質づくり。「お客様に満足を与えられなければ、ものを売る商売は成り立たない。消費者ニーズを満足させるためには、商品の良さとサービスの良さが原点。そのためにもソフト、ハードの両面から取り組んでいます」と小池さんは力を込める。
 具体的には、効率的な商品管理機能、商品ごとに最適な温度環境を保ち品質を保持する物流機能、そして情報機能。「合併を繰り返してきた会社なので、内部的にいかにまとまりをつけていくかも大きなテーマ」という同社にとって、特に情報機能強化は緊急の課題だ。
 同社では、2000年から情報の一体化をめざす全社的情報網「IP21システム」の構築に着手。02年9月に1部完成し、水産事業部に導入した。改良点の修正などを行いながら、その他の事業部にも順次導入し、04年2月の完全稼働をめざして取り組んでいる。
 ローコスト体質のカギを握るのは、物流機能のムダをいかに省くか。「IP21システム」の稼働により、営業社員一人ひとりが携帯するパソコンからオンラインで受発注する体制がさらに強化され、より効率的な販売活動が実現できると期待している。



リテールサポートなど、営業の強化にも積極的

 企業体質の強化とともに、営業の強化にも積極的に取り組んでいる。
 力を入れているのは、ひとつは業務筋、つまりホテルやレストランなどの飲食店との取引の拡大。それは本来、小売店の業務テリトリーだが、小売店の力が弱くなる中で「もたもたしていると他に入られる」という危機感から。実際、新潟、富山などの業者から仕入れたり、独自の情報網を使い、あるいはインターネットなどを利用して、築地や全国の産地から直接仕入れる業務筋も増えているという。
 そしてもうひとつは、「リテールサポート」とよばれる小売店支援活動。商品に関する高度な専門知識と市場動向などの最新情報をもとに、その店に応じた店構えから商品構成、販促企画、さらには従業員教育といった経営全般におよぶサポートを行い、魅力的な小売店づくりを実現する取り組みだ。
 そこには旧態依然の店頭を活性化させることで、小売店はもとより、同社自身の売上増を確実に図っていこうという狙いがある。
 同社では以前から、米国で長い歴史を持つIGAジャパンの指導・協力を得て、小売店の従業員教育、店舗改装、商圏調査、来店客調査など小売店の経営全般におよぶサポートを行い、確かな実績を上げてきた。
 しかし「店構えや商品構成をいくら整えても商品が当社のものでなければ意味がない」という反省から、営業統括本部内にリテールサポートの専門チームを編成。チームメンバーと得意先の担当社員がタッグを組んで同社の商品を売り込むサポート体制へと転換し、成果を上げている。


流通業は環境適応産業。問われる社員の適応能力

 「ローコストな企業体質づくりといっても無限にできるわけではない。やはり大切なのは、必要な人材にいかに効率の良い仕事をしてもらえるかということだと思います」。
 同社では今、年功序列を排除し、成果評価制度を基本に公平公正な評価システムを持つ新しい人事制度の構築に取り組んでいる。体質的に持つ「待ち」の姿勢からいかに脱皮し、流通業界の中でアグレッシブに活躍していく人材を育成するか。それが同社の今後を左右するといっても過言ではなく、新人事制度はそのための土壌づくりでもある。
 「流通業は環境適応産業。これだけ環境が変わっている中で、それに適応していける能力が社員一人ひとりになければ会社は生き残れない。社員一人ひとりが効率の良い仕事をしていくこと。それ以外に”うまい方法“などいくら考えてもありません」。


業者との信頼関係を大切にした経営をめざして

 最近、ある県内大手スーパーが卸売業者との取引をドラスチックに変えたという。それまでずっと数十億の取引があった卸売業者でも、取引額をスパッと数億円に絞り、まったく新しい卸売業者と取引するようになったのである。昔のような義理人情の商売ではまったくない、厳しい経営が求められているのも確かではあるが。
 「だからといって、長年かかって築き上げてきた卸売業者との信頼関係も(マージンが)多いか少ないかでスパッと切るようなやり方で、果たして将来的な関係を構築していけるのか」と、小池さんはその風潮に疑問を呈する。
 「まず第一に大切なのは、消費者との信頼関係ですが、荷主、メーカーなど商品供給してくれる業者との信頼関係も大切。これは今後も企業として大事にしていくべきではないか」と強調した。




プロフィール
小池守さん
代表取締役会長兼社長
小池守
(こいけまもる)
中央会に期待すること

卸売業界は今、非常に厳しい環境にある。上田卸商業協同組合理事長の立場として、組合の活性化に対する指導、支援を積極的に講じてほしい。上田卸団地は小さい卸売企業の集合体だがまとめていくことがなかなか大変で、組合から脱退してしまう企業もある。そういう問題でも的確な指導をしてもらえればありがたいと考えています。

経歴
1926年 (大正15年)5月3日
上田市生まれ
1950年   早稲田大学専門部卒業
1951年   (株)長野県丸水上田魚市場入社
2002年   代表取締役会長兼社長に就任
趣味   謡(観世流)
家族構成   妻と二人暮らし
公職   上田卸商業協同組合理事長
(社)長野県食品衛生協会会長



企業ガイド
株式会社丸水長野県水
所在地 〒381-2286 長野県長野市市場3-43
TEL.026-285-3111(代) FAX.026-285-6017
創業   昭和25年(1950年)
資本金   4億9880万円
事業内容   水産物卸売市場、一般食品・冷凍食品・食肉・肉加工品・酒類の卸売、食品加工業、冷蔵倉庫業
事業所   本社 水産事業部/長野・上田・佐久・松本・諏訪・伊那・飯田・東京 食品事業部/長野・小諸・佐久・松本・諏訪・伊那・飯田・群馬 冷凍食品事業部/長野・佐久・松本・伊那 畜産事業部/長野・松本・伊那
関連会社   マルゼンフーズ(株)、(株)丸水運送センター、アスコット(株)、(株)丸水フーズ

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