短期連載
新技術・新分野への取組み

 長引く不況の中、長野県経済は製造業を中心に、受注・生産の落ち込みや設備投資の減少など厳しい状況が続いています。そんな中にあって、自ら創造性を発揮して新たな技術開発に取り組み、経営の向上をめざす中小企業のために、長野県では幅広い支援制度を実施しています。
 支援制度は、補助金・助成金などの資金支援、委託開発制度、人材育成、産官学による共同研究、専門家による指導・助言、産業財産権の活用、製品のPRおよび販路開拓、法的認定による優遇措置など。それぞれのニーズに応じて最適な制度を選択し、上手に活用することによって、中小企業の創意ある向上発展が可能となります。
 ここでは「新技術・新分野への取組み」として、各種支援制度を活用し、経営向上を図っている県内中小企業の実例、および活用支援制度の内容等を紹介。中小企業が新たな経営革新への挑戦をめざす上で、貴重なヒントがここにあります。


導入事例 第5回 村山コーポレーション有限会社

ユニークな発想と高度な技術でつくりあげた
高機能折り畳み自転車で注目を集めるベンチャー企業。


16インチ折り畳み自転車では世界最小の折り畳みサイズを実現

 健康志向、省エネへの意識の高まりといった時代のトレンドを反映し、自転車の愛好者が増えています。
 ひとくちに自転車といっても、ちょっと買い物に利用するタイプや折り畳みができるもの、アウトドアを楽しんだり、スポーツとして乗るタイプなど、さまざま。旅行にも持ち運べる折り畳みタイプは、そのスタイルのユニークさから街乗り用にも人気を集め、日本国内での年間販売台数は約20万台(2003年度予測)で、年々増加傾向にあります。
 長野市の村山コーポレーション(有)は、ユニークな折り畳み自転車「MC-1」の開発メーカーとして、全国の熱心な自転車ファンに知られる存在です。
 「MC-1」の最大の特徴は、折り畳んだ状態で荷物を載せるカートとして使えたり、イスとして使ったりと多目的に利用できること。しかも、アルミフレームのため軽量かつ頑丈で、折り畳んだ時の大きさは65×55×36cmとコンパクト。すでに日本、アメリカ、イギリスの3カ国で特許を取得済みです(日本の意匠登録も)。
 「自転車状態では、小径車ながら五段変速と走行性能も高く、カート状態では重い荷物も載せて転がして移動できます。16インチタイヤの折り畳み自転車では世界最小の折り畳みサイズを実現しました。数ある折り畳み自転車の中でも走行性能、アイデア、つくりともに世界最高級レベルにあると自負しています」(村山社長)
 平成14年春に試作品を完成し、夏に600台を製造。東急ハンズや自転車専門店のほか、通信販売などで試験販売し、市販価格は1台49,800円(税別)とややハイクラス向けながら、発売以来15カ月で550台を販売しました。
 平成14年、15年と、世界各国の有力ブランド・メーカーの最新モデルをはじめ、パーツ、アクセサリー、ウエアなど自転車関連製品が一堂に展示される日本最大の国際サイクルショー「JICS東京国際自転車展」に出品。14万人近くの自転車ファンが訪れた同展で熱心な自転車ファンの注目を集めたり、雑誌等で紹介され、ファンの注目度もさらに上がっているようです。

熟練溶接工の技術で、工芸品の域に達したつくり

 村山コーポレーション(有)の創業は平成13年5月。「私の家内が主体となって有限会社を設立して創業しました」と創業の経緯を話す村山克一社長は、25年間にわたって製品開発に携わってきました。
 「MC-1」開発のポイントは、時間の有効利用や、時間に縛られないゆったりとした旅を楽しみたいといった時代のニーズに応えるとともに、地震や火災、自動車が故障したなどの非常時にも対応できる商品という発想をいかに具体化するか。しかも、持つことに喜びを感じ、愛着のわく良い物が欲しい、という消費者の高級志向にも応えるモノづくり。それが、走行安定性を確保しつつ、折り畳んだ状態がコンパクトで持ち運びが容易、しかも荷物を積んだままでの持ち運びも可能な折り畳み自転車「MC-1」に結実したのです。
 商品化にあたってまず突き当たった壁は、フレームを形づくるアルミの溶接。開発当初は溶接部がすぐに壊れてしまい、自転車としての安全性確保はとてもおぼつかない状態だったようです。何度も試行錯誤を繰り返し、結局、世界トップレベルの溶接工の技術が必要という結論に。
 「かなり手を尽くして探し、何とか熟練溶接工のいる会社とタイアップすることができました。さらに、私が求めるベクトルと一致するまでお互いに努力しました。それが最も苦心したところですが、匠とも呼べる熟練工の技術によって、ほとんど工芸品、ともいわれるほどの域に達したつくりが実現できました」(村山社長)
 一方、日米英での特許出願にあたっては、費用面での負担を考慮し、まず日本で出願。「海外への出願は費用がかかるので。先願権が認められる1年の期限に近づくまで、類似特許が私の申請以前に出願されていないかを調査、確認。期限までにアメリカとイギリスに申請しました」。

技術力が評価され、「技術力等支援資金」利用第1号に

 同社は平成15年6月、県が創設した中小企業の技術や知的財産を評価し、無担保融資をあっせんする「技術力等支援資金」を利用した融資(2000万円)を県内で初めて受けました。資金の用途は、東京および海外で開かれる国際自転車展への出展、広告宣伝費を含む販売ルートの開拓や、客先ニーズに対応した機種の拡充など。
 「たまたま県関係者に融資について相談したところ、この新制度が始まることを教えていただきました。開発型ベンチャーが事業を立ち上げる場合、当然ながら最初は収支が悪いもの。当社も銀行から資金を借りることができませんでしたが、運良くこれを利用して融資を受けることができました。創設以来初めてのケースのため参考資料がなく、少し戸惑いましたが、地方事務所商工課と金融機関、それぞれの担当者に説明資料をお渡しし、アドバイスをいただきました」(村山社長)
 「技術力等支援資金」は、不動産など物的担保が限られるベンチャー企業の新たな資金調達の新たな手段として、長野県が平成15年度に創設した制度。融資限度額は設備資金で最大1億円、運転資金で最大3000万円(金利は融資する金融機関が決める)。
 創業から数年を経て、ようやく開発した新製品を市場に投入する際、資金繰りに苦しむベンチャー企業は少なくありません。同社もまったく同じ悩みを抱えていましたが、技術の独自性と将来性が評価され、融資を受けることができました。村山社長は「他分野でも工業所有権を所有しているので、今後も機会があれば利用したいと考えています」と話します。
 同社では現時点で「MC-1」標準モデルの開発は終了。今後は高級化、オプションの品揃え強化などを行いながら、海外も含めた販売ルートの開拓に力を入れていく計画です。さらに、折り畳んだ状態でも転がして移動できる特長を生かし、折り畳み式の電動補助自転車への応用も検討しています。
 「現在、決してすべてが順調に進んでいるわけではありません」と謙遜する村山社長ですが、着々と次の展開を進めているようです。

村山コーポレーション有限会社


今回の取材企業の概要
商 号 村山コーポレーション有限会社
所在地 長野市若里3-10-40 若里カンカン1A
TEL 026-228-8795
FAX 026-228-8795
設 立 平成13年5月
資本金 300万円
社 長 村山 克一
従業員数 1名
URL http://www.mc1.jp
村山 克一さん



今回事例掲載制度の概要

技術力等支援資金
 融資の対象となるのは、高度な技術力または知的財産を有し、その技術力等を活用した事業の実施のための資金を必要とする製造業を営む人で、担保余力がないことにより、他の制度資金等の利用が困難な人。中小企業経営や知的財産の専門家らで構成される県が設置した委員会において、技術等の内容、事業計画・資金計画を発表し、審査を受ける必要があります。

融資の仕組み

融資の仕組み


目次に戻る