株式会社鈴木 代表取締役社長 鈴木 教義さん |
不可能に挑戦し、技術革新を実現 工業製品を大量生産するために欠かせないのが「金型」。金属、プラスチックなどの素材の性質を利用し、製品に成形加工するための、主として金属材料を用いてつくった型である。その品質は製品の品質の良否に直結し、ミクロンオーダーやサブミクロンオーダーの精度が要求される。「製品の産みの親」ともいわれる金型は、日本が世界に誇る技術のひとつである。 株式会社鈴木は昭和8年(1933)、芝浦機械の金型職人だった先々代社長が東京・蒲田で創業。今年6月、創業70周年を迎えた。 同社は創業以来、一貫して精密部品用金型の製造技術を追求。さらに時代のニーズに応えるかたちで超精密金型分野に特化。独自の高度な超精密プレス金型技術をベースに、精密機器、電子部品、生産システム(半導体関連機器)の各事業分野を推進している。 「0への挑戦」ともいわれるほど、限りなく高い精度品質が要求される製品分野。同社は徹底して精度を追求するとともに、コスト・納期・品質すべての要求に応える高品質な製品を供給し、日本はもとより世界の最先端産業のニーズに応えている。経営理念である「不への挑戦」は、そんな厳しい競争条件の中でつねに不可能に挑戦し、技術革新を実現していこうという決意を表したものだ。 日本から中国へ製造業の生産移転が続き、韓国、台湾などの技術レベルも大きく伸びている。「しかし、金型技術はまだまだ。金型の精度は今や1000分の1ミリの世界。それだけに、最後の調整をはじめ永年培ってきた”匠の技“ がものをいうからです。当社は代々、ベテランから若手への技術の伝承がうまくいっているし、着実に若手が育っている。当社が今後コストや技術面での戦いを有利に進める上で、それは大きな武器だと思っています」と、鈴木教義社長は自信をみせる。 コアテクノロジーは金型 コネクタコンタクト用、小型電子機器部品用、モールド部品用の精密プレス金型・精密モールド金型の開発・製造を行うのが、金型製造部門。 同社のコアテクノロジーであり、高精度を追求し、超微細加工に挑戦し続けている。最新鋭のNC加工機はもとより、工場内に恒温環境設備を導入。場内の温度変化を常にプラスマイナス一度に維持することにより、ハイレベル加工を実現している。 生産システム製造部門(半導体関連機器)では、金型技術と量産経験に基づくメカトロニクス技術、システム化のノウハウなど、これまで蓄積してきた独自技術を融合した自動化・省力化機器の開発・製造を手がける。 ハイテク製品のプリント配線基板やIC実装にも対応したSMT(表面実装)機、テーピングなどの後加工を行う半導体後加工システムを中心に、世界のマーケットで自社ブランドによる積極的なマーケティングを展開。さらに、カメラでプリント基板の微細なキズを検査する半導体検査装置、液晶関連装置など、新しい分野でも着実に実績を上げている。 テーマは一貫生産システムの構築 そして売上構成比の7割以上を占める、携帯電話、情報通信関連製品、デジタルカメラやDVDなどに使われるコネクタ用部品(コネクタコンタクト、コネクタハウジング)製造を手がけるのが、コネクタ製造部門。外資系も含め、日本に拠点を置くほとんどのコネクタメーカーに供給しており、「コネクタ部品業界の中で、スタンピングのシェアは日本一ではないか」という。 技術テーマは、多ピン化、ファインピッチ化といった次世代ニーズへの対応。現在主流のピン間ピッチ0.6ミリから0.2~0.3ミリという超微細加工の実現だ。 「微細化とともに精度要求も限りなく高まっていきますが、この世界ではそれは当然のこと。この分野だけでなく、当社すべての部門でつねに新しい技術に挑戦し、難易度の高い分野で戦っていく。しかもスピード要求にも応えながら。私が入社した当時、金型の納期は3カ月くらいでしたが、今は20日から1カ月が当たり前。価格も下がっている。つねに努力していかないと勝ち目はありません」。 一方、材料供給からスタンピングでの抜き・曲げ加工、品質検査、さらにはプラスチック成形まで行う一貫生産システムを構築し、最終商品としてコネクタ・メーカーに納品する体制づくりも重要なテーマ。同社に発注すればワンオーダーで最終商品になるというメリットを提供することで、他社との差別化を図っていく考えだ。その工程を一貫して行う自動機の開発・製造も含め、すでに一部スタート。今後さらにそのウェイトを高めていく予定だ。 念願の株式上場、直後に襲ったIT不況 2001年2月、同社はジャスダック市場への上場を果たした。1991年、先代社長の死去により29歳の若さで社長に就任した鈴木社長にとって、就任以来の大きな目標を実現した瞬間だった。 「ガラス張りの経営、社員のモラルアップなど、公開できる企業体質づくりをずっと考えてきました。そのすべてをクリアしなければいけないことの難しさも実感しつつ…。上場準備では幹部社員がかなり勉強してくれました。計数管理、社内規程をはじめ、企業体系をすべて見直していくという大仕事を乗り越えながら、自分たちのあり方をもう一度根本から見直すことができたことが大きかった」。 そう語る鈴木社長だが、続けて「実は上場するかどうか、その週ギリギリまで悩んでいたんです。」と意外なことを打ち明ける。「株式の上場では当社の都合だけではなく、株式市場の状況もあり、これらが複雑に関連しあったなかで、本当に今が上場に適したタイミングなのかを判断・決定することになる。2001年2月は当初予定を見送った後の猶予期間が限界に近づいている状況での決断だった。また、上場後の春先からIT業界が大きな変調をきたし、当社もその流れに巻き込まれてしまい、上場した期(同社は六月決算)は退職給付等の特別な処理があったとはいえ、結果的に現体制になって初めての赤字になってしまった。もし、あの時決断しなかったら、また一からの出直し。上場するためには年単位の厳しい段階を踏まなければならないわけで、それは大変なこと。思い切って上場して良かったと思います。」 社員一人ひとりの採算をはじき出す、採算システムを導入 まず、社員一人ひとりが、各職場での段取りや作業の仕方など仕事での行動をあらためて分析して、整理。例えば製造部門では、できる限り機械を止めずに作業を続けることが効率的には望ましい。そのため「シングル段取り」という合い言葉のもと、機械を止めて金型を交換するなどの段取りを10分以内でできるよう作業方法を見直した。 社員のデスクの引き出しの中も余計なものは一切ない。必要なものが即座に取り出せるよう、共通のベースに自分が使いやすい位置を決め、さまざまな文具がピタリと入るようくり抜き、必ずそこに置くようにしているからだ。デスクの上に置いて使用するものも、きちんと位置が決められている。工具の整理など、製造現場でもまったく同じことだ。 鉛筆一本からコピー用紙、オフィスでの電気代まで、ムダは結局、社員一人ひとりの採算にはね返る。それが客観的に目に見えるようにし、細かいところまで社員に意識づけすることにより、職場全体で利益を上げていこうというモチベーションを生むのがこのシステムの狙いだ。月1回、各部門のリーダーが集まって自分以外の職場をチェック。実効性を上げるよう、つねに全員で意識を持って取り組んでいる。 全社一丸となり、黒字転換を達成 そもそもこのシステムを見つけ、導入を決断したのは、鈴木社長本人。同社ではもともと品質改善のためにQC活動を積極的に行っていた。しかし、いつの間にか発表会のためのQC活動のようになっていることに気づいたからだ。発表会に間に合わせることを第一目的にやるような、本末転倒の取り組みも多くなっていた。「作業の合理化が売上げにいくら寄与しているか、具体的な数字ではじき出す”秤“がないことが問題」と感じていた時に、この採算システムに出会う。 「社員一人からグループまで、それぞれの採算を昼に集計し、午後3時には具体的に数字で見ることができます。例えば1時間当たりの採算が3千円なら、それ以上やらないと利益が出ないと分かる。とすれば、それぞれがそれを超えようと努力します。自分たちの今の生産がどれくらいかが分かり、それを翌日の仕事に生かせるのが大きなメリット。手応えを感じたのは、ある若手社員が『残業は悪だ』と言うのを聞いた時。残業しているから会社に貢献している、という考えは間違いだと言うのです。それを聞いた時、このシステムもいよいよ浸透し、成果が上がってきたと実感しました。このような取り組みはトップダウンだけでは難しい。全社一丸となってやるシステムを導入したことが有効だったと思います」 「給与をカットするなど、社員に我慢してもらった時期もあった」という状況を耐え、赤字からの脱却をめざして必死に取り組んで、2年。今年6月の決算でようやく黒字転換を果たした。「一番厳しい時、全社一丸となることの大切さをあらためて感じました」という鈴木社長の言葉に実感がこもる。 つねに技術の裾野を広げていく気概を持つことが大切 携帯電話、自動車関連部品、メモリーカードなどで金型へのニーズが高まっている。半導体関連装置、電子部品という従来の製品分野の中で、より裾野を広げることに成功。顧客増にもつながり、現在は「久々にフル操業」の状況だという。 そんな中で重要なテーマは、フィルムや基板に極小の穴を金型を使って開ける技術など、従来の金型の概念を超える技術開発への取り組み。「業界にどっぷり浸かって周りが見えなくなってしまうと、そこからはい上がるのは難しい。新しい視野を持ち、つねに技術の裾野を広げていく気概を持つことが大切。既存技術の領域ではある程度、海外に移転しても仕方がない。それ以上に、我々の技術レベルを高め、新しいものに挑戦していこうと考えています」。 同社では産学官の共同研究にも積極的に取り組み、社員を大学院に派遣したり、大学の研究機関や各工業試験場とも密接に技術連携、秘密保持契約を結んだ上で、メーカー各社とも積極的に共同研究開発を行っている。 研究開発に携わる技術者は、金型設計で約30名、新規開発で約20名。電気、機械などの技術者を中心に、それぞれに得意な分野を生かして取り組んでいる。 求める技術者像について鈴木社長にたずねると、「既存の考え方を壊してくれる人、固定観念を打破して技術を生み出していく人」と即座に返ってきた。「すべて上司にうかがいをたててやるばかりではなく、もっとラフに考えた方が良い。しっかりコントロールする部分と、セクションで自由にやってもらったり、技術者に任せてしまうところのメリハリが大切だと思う」。 1969年に台湾に合弁会社を設立するなど、いち早く海外進出した会社としても実績を持つ同社。2002年には現地で操業する顧客からの強い要請を受け、中国でスタンピング工場をスタートさせた。中国では後発組だが、自社でメッキが手がけられるメリットを十分に生かすことで、「かなり力を発揮できるのではないか」と期待をかけている。 |
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