平成14年度
企業倒産調査年報の概要

 平成14年度の日本経済は、アメリカおよびアジア経済の回復を受け、アジア向けを中心に輸出が拡大。景気回復基調に転じましたが、輸出増加による国内需要への波及効果という点では、いま一歩。雇用や設備の過剰感、賃金や設備の抑制傾向が続くなか、その勢いは弱いものに止まりました。
 このような経済情勢のなか、平成14年度の企業倒産は、件数が前年度比で減少。負債総額においても、大型倒産の減少により大幅な減少となりました。一方、中小企業を中心に、財務内容の改善といった構造的な問題の解決はまだ、兆しすら見られません。それを勘案すると、潜在的に経営環境の変化にきわめて弱い体質を持つ企業が数多く存在していると考えられます。
 中小企業の倒産実態を明らかにするため、中小企業総合事業団では毎月「企業倒産調査月報」(昭和54年4月~)を、さらに過去の蓄積データを整理した「企業倒産調査年報」(昭和57年~)を発行。民間調査機関で行われている負債総額1千万円以上の倒産に加え、1千万円以下の倒産についても調査し、実態把握に努めています。
 本特集では、平成14年度の経済金融動向、企業倒産の特徴、代表的な倒産事例、年度別データを掲載した平成14年度版「企業倒産調査年報」から、「第3章・平成14年度の企業倒産の特徴」の要約を再構成してご紹介します。


倒産企業実態調査対象地域一覧表(負債額1千万円未満、平成12年度倒産まで)

平成14年度の企業倒産の特徴

1.注目される不況業種の倒産件数減少
製造業、建設業、卸売業の倒産件数が減少
 倒産件数の減少は、製造業、建設業、卸売業による影響が大きい。
 製造業では、輸出主導による景気の回復を反映。細分類業種では、一般機械や金属製品、電気機械で減少に転じた。資本金規模別では、1000万円以上5000万円未満や1000万円未満、地域別では関東、近畿など輸出関連企業の多い地域で企業倒産が減少している(表1、表2)。
 建設業では、資本金1億円以上5億円未満を除く、すべての層で減少した(表1)。バブル経済崩壊後、建設業は過剰設備に加え、公共事業の抑制から、慢性的な不況を経験してきた。それにともなって倒産件数も増加傾向をたどってきたが、14年度は一服感がみられ、倒産件数も1.6%減少した(倒産件数減少幅の約3割)。地域別でみると、関東、近畿など、公共事業より民間事業への依存度が高いとみられる大都市圏で減少に転じている。
 卸売業では、衣服身のまわり品と繊維品の減少の影響が大きい(内訳合計で0.4%)。特に繊維関連業界に着目してみると、製造業の繊維も減少し(0.6%)、倒産件数は合計で1.0%減少。衣服身のまわり品を含めると、さらに1.5%となる。つまり、産業空洞化に悩み、構造不況業種といわれる繊維関連業界で、全体の約2割も倒産件数を減少させていることになる。
金融セーフティーネットの拡充など、政策の効果も
 ちなみに、小売業の倒産件数は2年連続で減少した。賃金の下落や失業率の上昇といった所得環境の悪化にもかかわらず、GDPベースの個人消費が13年度、14年度ともに伸びたためである。
 以上のように、14年度倒産件数の減少は、景気の回復に加え、不況業種である建設業、繊維関連業界の倒産件数の一服による影響が大きい。
 それは、バブル経済崩壊後の長期的な経済停滞のなかで、体力の弱い企業の倒産が一巡したことに加え、金融セーフティーネットの拡充など、政策の効果も大きいとみられる。
 ちなみに政府は、15年3月の「月例経済報告」で、企業倒産件数の減少要因として、信用保証協会の「セーフティーネット保証」の効果を指摘している。

業種別企業倒産件数内訳の資本金規模別内訳

(表1)業種別企業倒産件数内訳の資本金規模別内訳


(表2)業種別企業倒産件数内訳の地域別内訳

2.上場企業の倒産過去最多、中堅企業は増加傾向

 14年度、上場企業の倒産件数は過去最多を記録した。ただし資本金規模別にみると、資本金10億円以上の大企業の倒産は全体として減少している。
 その一方で、資本金5億円以上10億円未満、1億円以上5億円未満の倒産件数は増加傾向にある。これは営業年数30年以上の老舗中堅企業で倒産件数が相変わらず増加しているためである(5億円以上10億円未満は20.0%増、1億円以上5億円未満は18.5%増)。
 ちなみに老舗企業は、資本金1000万円未満、1000万円以上5000万円未満のそれぞれでも、倒産件数が増加。その結果、営業年数30年以上の企業の倒産件数に占める割合は上昇を続け、25.6%となった。

3.民事再生法は一服、破産は増加

企業再生への期待を受けて産業再生機構がスタート
 わが国が構造的な需給バランスの悪化による経済停滞を続けるなかで、経済・産業活性化の一環として、企業再生への期待はますます高まっている。
 それを背景に平成12年4月、民事再生法が新設された。これは、従来の経営者の信用や能力を活用し、経営破たん状態におちいる前に申し立てをすることが可能で、迅速かつ簡素に企業再建を行うことができるというものである。
 また14年度には、産業再生機構の設立に向けた動きが本格化。平成15年1月に設立のための法案が国会に提出され、同年4月に成立した。
 産業再生機構の目的は、過剰債務を抱える優良な経営資源の再生と、過剰供給構造解消のための産業再生の促進。平成14年12月、政府からその基本方針が打ち出された。
 産業再生機構が行う業務は、具体的には再生をめざす企業の過剰債務の買い取り、追加融資などが中心。買い取るのはメーンバンク以外の金融機関の債権が主となる。債権の買い取りを平成17年3月まで集中的に行い、事業・産業の再生を図り、買い取り後3年以内に買い取った債権等を処分することを目標にしている。
産業再生法の改正で、中小企業再生支援体制を整備
 中小企業については、平成15年4月、産業活力再生特別措置法(産業再生法)を改正。中小企業の再生を支援するための体制を整備することとなった。
 具体的には、地域性が強いという中小企業の特性に配慮し、各都道府県の商工会議所等に中小企業再生支援協議会を設置。地域金融機関や政府系金融機関、自治体や国の地方支局・分局に加え、公認会計士や弁護士、中小企業診断士などの専門家が中心となって行われることとした。また中小企業総合事業団は、これまで出資対象ではなかった中小企業再生ファンドへの出資や、中小企業の再生に関する各種情報の提供など、中小企業再生の一端を担うこととなった。
3社に1社が選択する法的倒産。オープンでフェアな倒産が増加
 このように平成12年以降、中小企業の再生を支援するための体制の整備が進められてきたが、民事再生法関連の倒産件数は、12年度、13年度ともに、関東、中部、九州・沖縄、北海道など全国で増加した。
 しかし、14年度についてみると、民事再生法関連の倒産は一服状態となっている(図1、表3)。これは、慢性的なデフレ経済が続くなか、中小企業の財務内容の改善が思うように進展せず、やむを得ず破産に踏み切る企業が増えたため。
 その結果、法的手続きによる倒産件数の割合が上昇した。14年度はそれが35.6%であり、3社に1社が法的倒産を選択したことになる。このような法的手続き倒産割合の上昇は、社会的公正の観点からすると、オープンでフェアな倒産の割合が増加することを意味する。それは望ましいことといえるだろう。

(図1)法的手続きによる倒産件数割合の推移(表3)法的手続きによる倒産件数割合の推移

倒産事例

Ⅰ.倒産原因の定義

 企業倒産の原因は厳密にいえば、下記項目間相互に関連性を有するものであるが、統計上は、最もウェイトの大きい原因によるものとして区分する。
主因別 細 別 摘  要
1. 放漫経営 事業上の失敗 経験不足、経営未熟、経営策の不手際、必要書類伝票帳簿等の不備、事業計画または資金計画の粗雑、もしくは無計画、事業概況の把握不十分等経営首脳陣の放漫に起因するもの。
事業外の失敗 投機思惑の失敗、事業面の失敗、企業間のあるいは役員間の内紛、労使間の紛争による蹉跌、経営者の経営意欲喪失などに起因するもの。
融手操作 自己の資金繰り困難からあるいは融資枠引き締めから、さらに取引先などからの要請により融手操作を行い破綻を招来した場合。
2. 過少資本 運転資金の欠乏 設立、創業当初より自己資本過少、手張り過ぎ運転資金の欠乏など資本構成不安定などに起因するもの。
金利負担の増加 高利依存、債務過多から金利負担の増を招き現状の売上げ、収益からこれを吸収できず、また拡販による経費高に起因したもの。
3. 他社倒産の余波 不良債権の発生 取引先、傍系会社、関係先の倒産、内整理などの連鎖反応により経営困難に起因するもの。
4. 既往のシワ寄せ 赤字累積 長期わたる業績不振によるジリ貧経営、旧債返済の重圧、販売地盤未確立による経営困難など過去の業績不振、失敗のシワ寄せ、経営方策の失敗に起因するもの。
5. 偶発的原因 代表者死亡、水害、火災、震災、交通事故、詐欺、盗難、使いこみなど予期しない偶発的問題から起因したもの。
6. 信用性低下 金融機関の打切
りなど
取引金融機関の融資引き締め、拒絶、または取引停止等を直接原因とするもの。 信用を著しく失墜したことに起因するもの。
7. 販売不振 業績低迷 市況悪化による売行き不振、業界不況によるジリ貧、季節的影響による売行き減少、市況低迷による利幅低下、採算割れ、輸出不振、受注減少、その他商い高減少に起因するもの。
競争からの落伍 同業乱立に伴い業者間の過度の競争から出血受注、サービス過剰による採算割れとなることに起因するもの。
市況動向の変化 技術革新、生活様式、嗜好の変化等需要動向、消費動向の変化に対応し得ないことに起因するもの。 円高、円安など為替相場の変化に起因するもの。
大企業の進出 大資本の進出、直売、デパート、スーパー・マーケットの進出から被害を受けたことに起因するもの。
8. 売掛金回収難 決済条件の悪化 売掛金回収遅延、長期化、こげつき債権発生による不良債権の累積、その他受取債権の回収困難、決済条件の悪化に起因するもの。
9. 在庫状態悪化 在庫商品の値下がり、契約キャンセル、製品不評等による返品増大、売行き不振に伴う在庫増大、新品種取扱の失敗、その他在庫状態悪化に起因するもの。
10. 設備投資過大 社屋、工場、機械設備等の新増改設による資金固定化、支店開設、車輌購入等による運転資金枯渇、その他無計画な設備過大投資に起因するもの。
資料:東京商工リサーチ

Ⅱ.平成14年度倒産事例
▼上場・店頭登録企業の倒産
1. (株)ニコニコ堂 (4月)
2. 第一家庭電器(株) (4月)
3. 段谷産業(株) (4月)
4. 宝幸水産(株) (4月)
5. 大日本土木(株) (7月)
6. ニッセキハウス工業(株)(他1社) (10月)
7. 古久根建設(株) (11月)
8. (株)セザール (3月)

▼“老舗”企業の倒産
9. アングル(株)(他1社) (4月)
10. (株)沢口材木店 (6月)
11. サンカクヤ(株) (10月)
12. (株)吉森鋼材 (3月)
13. (株)吉忠(他1社) (3月)

▼製造業の倒産
28. (株)ハナヱモリ (5月)
29. ユアサ建材工業(株) (6月)
30. (株)マルダイ (8月)
31. (株)井上電機製作所 (10月)
32. 多聞酒造(株) (12月)
33. 西出食品(株) (1月)
▼スーパー・ディスカウントストアの倒産
34. 松菱商事(株)(他1社) (6月)
35. (株)アイワールド (7月)
36. (株)まるよし (8月)
37. (株)ファミリーランドえぞえ (1月)
38. (株)ファル (2月)

▼ゴルフ場の倒産
39. 昭産業(株) (5月)
40. 地産(株) (8月)
41. エスティティ開発(株) (10月)
42. ジャパンレジャー開発(株) (11月)
43. 大和開発観光(株) (12月)
44. (株)高宮カントリークラブ (2月)

▼ベンチャー企業の倒産

45. クリスタルクレイ(株) (5月)
46. (株)エコン (5月)
47. ジャパン・イー・エム(株) (10月)
48. ティ・エフ・シィ(株) (2月)

▼コンプライアンス違反による倒産
49. 日本食品(株) (7月)
50. 協和香料化学(株) (8月)


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