短期連載
新技術・新分野への取組み

 長引く不況の中、長野県経済は製造業を中心に、受注・生産の落ち込みや設備投資の減少など厳しい状況が続いています。そんな中にあって、自ら創造性を発揮して新たな技術開発に取り組み、経営の向上をめざす中小企業のために、長野県では幅広い支援制度を実施しています。
 支援制度は、補助金・助成金などの資金支援、委託開発制度、人材育成、産官学による共同研究、専門家による指導・助言、産業財産権の活用、製品のPRおよび販路開拓、法的認定による優遇措置など。それぞれのニーズに応じて最適な制度を選択し、上手に活用することによって、中小企業の創意ある向上発展が可能となります。
 ここでは「新技術・新分野への取組み」として、各種支援制度を活用し、経営向上を図っている県内中小企業の実例、および活用支援制度の内容等を紹介。中小企業が新たな経営革新への挑戦をめざす上で、貴重なヒントがここにあります。


導入事例 第4回 株式会社マスターマインド

斬新な発想とモノづくり技術を生かした独自商品で
ニッチ市場の開拓をめざす、オンリーワン企業。


突然のリストラを機に、部下10人を率いて創業

 (株)マスターマインドは平成5年、情報機器の開発・製造をめざして創業しました。
 きっかけは、創業者である小沢千壽夫社長が勤務先の経営不振により、多くの部下とともに突然の解雇に遭ったこと。高周波回路の設計、研究開発を手がけ、さらに県外メーカーの長野工場長として情報機器製造事業にたずさわった経験と技術を生かし、それまでの部下10人を率いての創業でした。
 創業にあたって小沢社長がまず考えたのは、従業員の生活。自身も含め、突然のリストラで途方に暮れた辛い経験を再び味わわせることのないよう、慎重を期しました。
 まず、まったく売上げがなくても、1年間は従業員の生活費に充てることができるようにと、2千万円の資本金を用意しました。それは自己資金と親戚などからの借金に加え、複数の友人に株主として出資してもらうことにより、何とか調達。設備も、パソコンやCADを除き、ほとんどを中古品で揃え、初期投資を可能な限り抑えました。
 そして、「自社ブランド品を持ち、企画から製造、販売、メンテナンスまで一貫して手がけられるメーカーであること」を目標に掲げました。創業と同時に情報収集と営業の拠点として東京営業所を設置したのも、市場ニーズをいち早くとらえた製品づくりで世に問うため。
 まず取り組んだのは、フロッピーディスクのコピーシステムとラベル貼付機の開発です。失敗を重ねながらも、優れた技術力を生かしてラベルの自動貼付機「はるだけラベラー」を商品化。業界人脈を生かした積極的な営業活動も功を奏し、人気を集めました。顧客ニーズに応えるかたちで、ラベルに印字するインクジェットプリンターを備えた「プリントラベラー」も投入。事業を軌道に乗せることができました。
 平成7年には、情報記憶メディアの大容量化の流れをとらえ、CD/Rのデータ・コピー機とメディア表面に印刷するインクジェットプリンターの開発にいち早く着手。比較的小ロットのCD/Rのデータ・コピーと印刷、それを一貫してこなす装置の3タイプを商品化し、現在も世界市場で活躍しています。

ニッチな分野を狙い、ビジネスの可能性を探る

 そして平成9年、それまで培ってきたインクジェットによるプリント技術を応用した、厚物ダイレクトプリンターの開発、製造、販売を開始し、現在に至っています。
 「水と空気以外、何でもプリントできます」(小沢社長)というように、インクを吹き付ける方式のため、さまざまな形状の素材に印刷できるのがインクジェットプリンターのメリット。
 例えば、透明なガラスの塊にプリントして置物にする、木に画像をプリントしてオリジナルの木製パズルや写真入りのプレートをつくる、ゴルフボールや位牌へのプリントなど、アイデア次第でさまざまなビジネスが考えられます。実際、携帯電話の電池パッケージにオリジナル画像をプリントするFCビジネスを展開する企業も現れました。
 現在、素材厚254ミリ・印刷幅1.8メートルの大型タイプから、小物印刷に最適なタイプまで数種類をラインナップ。さらに、あらゆる素材への印刷を可能にする水性インクのアンダーコート剤、屋外印刷物の色落ち、日焼けなどを防ぐトップコート剤なども開発。屋外のサインディスプレイ、スクリーン製版などの業界を中心に、アーティストに表現手段の1つとしての提案も行うなど、多方面に販路開拓を行っています。
 小沢社長は「当社が狙うのは非常にニッチな分野ですが、これを使えばいろいろなビジネスの可能性があるはず」と期待。平成10年には、自社開発機器により厚物プリントやデータ複製サービスを手がける、(株)ディクソンを設立しています。
 米カリフォルニア州に現地法人を置き、現地のビジネスショーにも出品していますが、「何かやってみようという意欲的な経営者の注目度が高く、いつも盛況」。それに比べて日本では「独自の豊かな発想と、ビジネスへの気概に乏しい経営者が多いように感じる」。現在の日本の景気低迷は、便利な社会があまりに進みすぎたことによって日本人からハングリー精神が失われたことにも原因の一端があると、小沢社長は見ています。

桝
マウスパット(皮革)
マウスパット
(皮革)
色紙
色紙
キャンバスアート
キャンバスアート
製品銘板(アルミ)
製品銘板
(アルミ)
装飾タイル
装飾タイル

企業の今の現場をもっとよく知ってほしい

 「創造法は県の紹介があって認定を受けました。まだ創設されて間もない頃で、当社は比較的早い方だったと思います」。
 マスターマインドが中小企業創造活動促進法(創造法)の認定を受け、塩尻市の研究開発補助金を活用したのは、創業2年目の平成7年。CD/Rのデータ・コピー機とメディア表面に印刷するインクジェットプリンターの開発に際してでした。もっとも、それ以降は認定を受けてはいません。
 その理由について小沢社長は「認定のために作成しなければならない書類がかなりあり、用意が大変。それも仕方がないのかなとも思いますが。もちろん開発資金は必要ですが、100万、200万円程度だったら金利が安い時に銀行から借りた方がラク、と思ってしまう」と話し、制度の煩雑さがネックになっていると打ち明けます。
 さらに「中小起業支援のためのコーディネーター制度でも、今の企業の現場とのズレを感じた。金融機関も、どういうことに使う資金で、将来の見通しはどうなのかを自分でしっかり目利きをし、それで貸す貸さないを決めるべきです。行政も金融機関も、企業の今の現場をもっとよく知ってほしい」とも。
 塩尻市創造的企業交流会の会長として、中小企業の新規事業の効果的推進や新しい経営方法の研究などについても積極的に取り組む、小沢社長。その指摘は、意欲旺盛にモノづくりを追求するすべての中小零細企業を代弁するものといえるでしょう。

株式会社マスターマインド


今回の取材企業の概要
商 号 株式会社マスターマインド
所在地 長野県塩尻市片丘今泉9828-16
TEL 0263-53-3700 代表
FAX  
設 立 1993年5月12日
資本金 3,100万円
社 長 小沢 千壽夫
従業員数 25名
URL http://www.mastermind.co.jp/
小沢 千壽夫さん



今回事例掲載制度の概要

中小企業創造活動促進法(創造法)
 中小企業創造活動促進法(創造法)は、中小企業者(新規創業者を含む)が行う製品開発、新サービス、ソフトウェア等の技術に関する研究開発および、その成果の事業化を通じた創造的活動を支援することを目的としています。
 所定の書式によって作成した研究開発等事業計画書によって長野県(地方事務所商工担当課)に申請し、内容の調査および審査を受けます。「著しい新規性があるか」「新たな事業分野の開拓につながるか」などの認定基準をクリアすると、知事の認定を受けることができます。
 創造法の認定を受けると、以下のような支援策を利用することができます。
1. 中小企業技術開発費等補助金
2. 債務保証制度の拡充
3. 税制面の優遇措置
4. 投資育成会社の投資制度の充実
5. リース事業者等のリース・割賦制度の利用の促進
6. 政府系金融機関の低利融資制度の充実
7. 新規・成長分野雇用奨励金
8. 小規模設備資金制度の充実
 但し、認定を受けたからといっても、これら支援策の適用が保証されるわけではありません。それぞれの申請先によって別途審査が行われ、支援策の利用が決定されます。


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