短期連載
新技術・新分野への取組み

 長引く不況の中、長野県経済は製造業を中心に、受注・生産の落ち込みや設備投資の減少など厳しい状況が続いています。そんな中にあって、自ら創造性を発揮して新たな技術開発に取り組み、経営の向上をめざす中小企業のために、長野県では幅広い支援制度を実施しています。
 支援制度は、補助金・助成金などの資金支援、委託開発制度、人材育成、産官学による共同研究、専門家による指導・助言、産業財産権の活用、製品のPRおよび販路開拓、法的認定による優遇措置など。それぞれのニーズに応じて最適な制度を選択し、上手に活用することによって、中小企業の創意ある向上発展が可能となります。
 ここでは「新技術・新分野への取組み」として、各種支援制度を活用し、経営向上を図っている県内中小企業の実例、および活用支援制度の内容等を紹介。中小企業が新たな経営革新への挑戦をめざす上で、貴重なヒントがここにあります。


導入事例 第3回 株式会社ミマキエンジニアリング

独自のインクジェットとカッティング技術で、
ニッチな分野でワールドワイドなシェアをめざす。


カッティング・プロッターのスタンダードを創造

 (株)ミマキエンジニアリングは、業務用インクジェット・プリンター、カッティング・プロッターシステムなどを製造・販売。売上高の7割を占めるサイン・グラフィックスのほか、テキスタイル、インダストリアルの業界で、日本はもとより世界でその名を知られています。
 1974年に創業し、76年から時計用水晶振動子の精密部品の組み立てを開始。その後、CAD図面を描くプロッターを開発し、1985年に自社ブランド「北斎」を発売しましたが思うような成果は得られませんでした。
 そこで87年、CAD用プロッターのペンをカッターに置き換え、看板の文字切りができる高性能カッティング・プロッターを開発。発売後も画数の多い日本の文字をスムーズかつスピーディに切るために技術開発を繰り返し、業績を伸ばしていきました。
 「当初、文字のカープ部分を切る際には、カッターをいったん上げて方向を変えてから下ろしてシートを切っていました。しかしこれだと、特に画数が多い漢字ではアップダウンが頻繁になり、時間がかかる。製品が売れない時期は半年ほど続きました。これをキャスターの原理でカッターを引きずって切る方法に改良し、エッジの部分はソフトで処理してスピードアップを実現。それが評価され、以後、カッティング・プロッターはほとんどこの方法に切り替わりました」。

業務用インクジェットプリンターで、日本、世界でその名を知られる

 その後、サイン・グラフィックス市場では文字だけでなく、写真やイラストなどのカラー・ビジュアルも入れた看板製作ニーズが高まります。
 そこでミマキエンジニアリングではサイン業界向けに、文字やカラー写真などを一度にプリントできるインクジェットプリンターの開発に着手。セイコーエプソンからキーパーツであるヘッド(インク噴射装置)と、高耐光性顔料インクの供給を受け、96年に初のフルカラー・インクジェットプリンターを発売しました。以来、群を抜く解像度の高さと価格の安さで市場に浸透。現在、この分野では世界トップクラスのシェアを確立しています。
 この技術を生かして「紙以外のものなら何でもプリントしよう」と、テキスタイル業界向けインクジェットプリンター「テキスタイル・ジェット」を開発。従来の捺染では表現できなかったデザインや色表現が可能で、デザイナーのアイデアがすばやくかたちにできると高い評価を受けました。ヨーロッパ最大の絹織物・テキスタイル産業の集積地であるイタリア・ミラノ北部にも数多く納入。今では多くの有名ブランドが「テキスタイル・ジェット」でプリントされています。
 一方、インダストリアル分野では、プラスチック製品、計装パネル、コンピュータ基板など、小ロット多品種の生産を可能にしています。今後、紫外線が当たると固まる性質を持つUVインクの開発により、自動車産業や半導体産業など大きな市場が広がっており、その取り組みが大きなテーマとなっています。


新技術の機密保持ができない。補助金活用に感じる矛盾

 2001年に中小企業経営革新支援法に基づく、長野県の「中小企業技術開発費等補助金」の経営革新枠を受けて取り組んだのが、テキスタイル・デジタルプリントシステムをより高速化するための技術開発。高速化インクジェットヘッドアレイの試作と性能評価を行い、4ヘッドアレイユニット組立装置を開発しました。
 もっとも池田明代表取締役社長は、「今は補助金の活用は様子見の状態」と打ち明け、制度について次のように指摘します。
 「今も開発テーマはたくさんあり、資金も必要なのですが。我々は画期的な新技術開発の肝腎な部分は機密保持のため、絶対に外に出したくない。しかし、開発を支援するはずの補助金を借りるためには、それをすべてオープンにしなければならない仕組みになっています。これは明らかに矛盾。そこが一番のネックになっています」。
 ミマキエンジニアリングでは、前年売上高の10%を研究開発費に充て、積極的に新しい研究開発に取り組んでいます。目下の最大テーマは、UVインクに代表される新しいインクの開発と、受注動向を見ながら小ロット多品種のプリントができるオンデマンド印刷の実現。
 「産業全体のデジタル化の流れの中で、サイン・グラフィックス、テキスタイル、インダストリアルそれぞれ、我々にとって大きなチャンスがあります。しかし、いかに身の丈にあったものを選んでいくかがポイント。あまり大きな分野は狙わず、ニッチでワールドワイドにシェアを取っていける分野を手がけていこうと考えています」。
 機械、電気・電子、ソフトウェアのほか、繊維、化学分野の技術者を含め、全社員の約4分の1が研究開発スタッフ。産学共同開発にも力を入れ、画像処理ソフトでは千葉大学や大阪学芸大学、アパレルでは信州大学繊維学部、長野高専などと共同研究も進めています。もっとも、ここでも企業秘密保持の問題があるとか。
 時代の追い風を受ける中、「最大の悩みは、優秀な人材の確保」(池田社長)。研究開発型企業にとって、人材はまさに命。ミマキエンジニアリングでは人材確保とともに人材育成に力を入れ、新たな付加価値の創造をめざしています。

株式会社ミマキエンジニアリング


今回の取材企業の概要
商 号 株式会社ミマキエンジニアリング
所在地 長野県小県郡東部町大字加沢1333-3
TEL 0268-64-2281
FAX 0268-64-2285
設 立 1974年5月
資本金 120,000,000円
社 長 池田 明
従業員数 274名
URL http://www.mimaki.co.jp
池田 明さん



今回事例掲載制度の概要

中小企業技術開発費等補助金
 中小企業技術開発費等補助金は、長野県に主たる事務所を有する中小企業者または中小企業団体を対象に、補助対象となる技術開発費等に対して資金補助を行う制度です。
 補助対象となるのは以下の通りです。
1. 創造的中小企業振興枠:中小企業創造活動促進法(創造法)の認定を受けた研究開発。
2. ものづくり試作枠:事業化を目的として新たな試作開発を行う事業に要する経費。
3. 経営革新枠:中小企業経営革新支援法に基づき、長野県内の中小企業者および組合等が長野県知事の承認を経営革新計画にしたがって行う事業。

平成12年、13年の中小企業技術開発補助金の導入企業

平成12年、13年の中小企業技術開発補助金の導入企業


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