短期連載
新技術・新分野への取組み

 長引く不況の中、長野県経済は製造業を中心に、受注・生産の落ち込みや設備投資の減少など厳しい状況が続いています。そんな中にあって、自ら創造性を発揮して新たな技術開発に取り組み、経営の向上をめざす中小企業のために、長野県では幅広い支援制度を実施しています。
 支援制度は、補助金・助成金などの資金支援、委託開発制度、人材育成、産官学による共同研究、専門家による指導・助言、産業財産権の活用、製品のPRおよび販路開拓、法的認定による優遇措置など。それぞれのニーズに応じて最適な制度を選択し、上手に活用することによって、中小企業の創意ある向上発展が可能となります。
 ここでは「新技術・新分野への取組み」として、各種支援制度を活用し、経営向上を図っている県内中小企業の実例、および活用支援制度の内容等を紹介。中小企業が新たな経営革新への挑戦をめざす上で、貴重なヒントがここにあります。


導入事例 第2回 株式会社カウベルエンジニアリング

絶えず時代の変化をとらえ、的確に投資。
それが「勝ち組」への道。

中小企業はもはや、開発型企業でなければ生き残れない時代。

 (株)カウベルエンジニアリングは昭和49年、テープレコーダなどのオーディオ製品の下請けとして設立。完成品を主体に手がけていた25年前、取引先の倒産により3,000万円が不渡りとなり、連鎖倒産の危機に直面しました。
 坂川卓志社長は会社の状況を社員に包み隠さず話すとともに、「妻帯者は月5万円、独身者は月3万円の給料で半年我慢してくれ」と幹部社員に頼み、会社再建を誓いました。その時に残った5人の幹部社員とともに、「人生の裏街道を見た」(坂川社長)という並々ならぬ苦労とリスクを経て、同社は数年後、危機的状況を乗り切ることに成功。それが地元産業界で高く評価され、会社としての信用を獲得することもできました。
 一方では、県、市、商工会議所、テクノ財団などが主催する勉強会に積極的に参加し、情報収集。「中小企業はもう下請けでは生き残れない。開発型企業をめざすべきだ」と強く認識することとなりました。
 そこで社長は大手通信機器メーカーでソフトウェア開発に携わっていた長男に声をかけ、開発型企業の土台づくりに着手。長男が集めた5人のスタッフに創業と同じ覚悟で取り組む意志があるかどうかを徹底的に確認した上で、前職の給与を保証して採用し、平成3年にシステム事業部を立ち上げました。
 とはいえスタート当初は思うように受注できず、5年間東京の大手ソフトウェア開発会社に全員を出向。逆にそれが奏功し、人脈形成につながるとともに技術力の高さが評価され、受注が増加。対応してソフトウェアだけでなく、ハードウェア開発も可能な体制を構築しました。

勝ち残れるのは、環境変化に対応できた者だけだ。

 システム事業部は売上げの3割を占めるまでに成長。映像電子機器を手がける電子事業部では、ビューファインダーの液晶化や強誘電化などメーカーの技術革新によって、クリーンルームの必要性が高まっていました。
 「社内の開発環境を変える必要がある」。そう感じた坂川社長は平成11年、県の異業種交流会などでアドバイスされていた「中小企業経営革新支援法」の承認を受けました。「低利融資をはじめ各種支援制度が受けられるのですが、当時の金利は1.65%。投資するなら今がベストだと思ったのです」。
 同社は政府系金融機関から3億円の低利融資を獲得。1億5,000万円で新社屋を建設し、残りをICパッケージ実装の試作から量産までを手がける新規事業部門(DT事業部)への設備投資に充てました。
 「製造業がみんな中国に出て行く時に、こんな大型投資をして大丈夫かと各方面から言われました。しかし、2年間返済据え置き後の資金繰りが十分読めていたし、DT事業部を加えた3事業部で頑張っていけば大丈夫だという確信もありました」。
 社内40人の技術者から選抜して立ち上げたDT事業部は、携帯電話搭載カメラユニットの技術開発でブレイク。100万画素対応、省電力など、機能アップをめざした技術開発で同社への期待が高まり、現在はフル操業が続いています。
 今年、創業30年を迎えた同社。長引く不況下にも関わらず右肩上がりの成長を続け、今期は売上高・利益ともに過去最高を達成しました。
 「今年は勝ち組だったかも知れませんが、来年は一転、負け組になるかも知れない。今、中小企業はつねにそのくらいの危機感を持っていないと難しい時代だと思います。『勝ち残れるのは強い者でもなければ、賢い者でもない。その時々の環境変化に対応できた者だけだ』。これは進化論を唱えたダーウィンの”種の起源“の一節ですが、その通りだと思いますね。絶えず時代の変化をとらえ、進むべき方針を見極めた上で、的確な投資をする。これでいい、と思った時はすでに後退だと思います」。

株式会社カウベルエンジニアリング


今回の取材企業の概要
商 号 株式会社カウベルエンジニアリング
所在地 〒385-0021
長野県佐久市長土呂1739-1
TEL 0267-67-1511
FAX 0267-67-1513
設 立 1974年3月9日
資本金 50,000,000円
社 長 坂川 卓志
従業員数 120名
E-mail info@cowbell.co.jp
URL http://www.cowbell.co.jp
坂川 卓志さん



今回事例掲載制度の概要

中小企業経営革新支援法
 中小企業経営革新支援法は、新商品の開発・生産、新しいサービスの開発・提供、新しい生産方式・販売方法の導入など、経済的環境の変化に対応するため、中小企業者等が行う経営革新を支援することを目的としています。中小企業単独だけでなく、異業種交流グループ、組合等との多様な形態による取り組みが対象となります。
 所定の書式によって作成した経営革新計画書によって長野県(地方事務所商工担当課)に申請し、内容の調査および審査を受けます。「新たな取り組みであるか」「付加価値(一人あたり付加価値額)が伸びるか」などの承認基準をクリアすると、地方事務所長の承認を受けることができます。
 中小企業経営革新支援法の承認を受けると、以下のような支援策を利用することができます。
1. 中小企業技術開発費等補助金(経営革新枠)
2. 政府系金融機関の低利融資制度
3. 税制面の優遇措置
4. 債務保証制度の充実
5. 投資育成会社の投資対象企業の拡充(資本金3億円超の会社への投資を対象)
6. 中小企業労働確保法に基づく助成金


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