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近年、わが国の産業界においては、知的財産権の保護、積極的活用に大きな関心が集まっている。 米国では、すでに80年代から知的財産権の国際的な保護強化を求める「プロパテント政策」が採られ、特許権の権利範囲の拡大、保護の拡大を推進した経緯がある。その中で、日本メーカーが米国特許の侵害につき高額の損害賠償を支払わされる事件も生じ、わが国でも、急速に知的財産権への認識が高まり、ソフトウェア関連発明なども含めた知的財産権の保護強化が図られるようになってきた。 また、「世界の工場」と評される中国産業のめざましい成長や、アジア諸国の急速な追い上げの中で、事業の差別化を図り、かつ不正な模倣等から守るため、知的財産権を有効に活用することが不可欠と認識されるようになっているわけである。 しかし一方、中小企業においては、まだまだこうした知的財産権制度への理解が不十分で、トラブル等を抱えるケースも少なくない。 そこで本シリーズでは、県内の中小企業の方々により良く理解していただくことをめざして、わが国の知的財産権制度を紹介していく。今後、知的財産権に係るさまざまな課題に適切に対応するためのチェックポイントとしてご覧いただきたい。
以上、共同研究開発における主要留意点を述べたが、特に相手が大学等(公設研究所等を含む。以下、同じ。)においては、上記に加えて、以下の点への留意が必要となります。 2.特に相手が大学等の場合 1 大学等側における成果物の権利の帰属 大学等においては、共同研究の成果物たる権利の帰属を、当該大学等において主体的に取り組んだ教官や研究者に対して大学等の持ち分の範囲内で権利付与する場合があり、この場合、共有権利者が増えることとなります。このこと自体は、問題ない(相手方たる大学等の内部の問題)が、このように権利者が増えることから、成果物の活用(使用や第三者ライセンス)等に係る規定ぶりを、それに併せて変える必要があります。 2 学生が参加した場合 出願前の論文発表等は控えるよう前述しましたが、同様に学生が卒業論文等で発表しても新規性は喪失されます。特に、当該学生が発明者又は出願人にならないような場合は、原則特許法第30条の新規性喪失の例外も受けられません。さらに、学生は卒業後、他者に就職する場合もあるので、守秘義務、さらには一定期間の競業禁止を課す必要がある場合もあります※44。したがって大学側参加者に学生が入る場合は、注意が必要です。 3 成果物たる特許等の実施 大学等は成果物たる特許権の実施としての生産をしない。このため、大学等からは、当方に対しライセンス料(あるいは補償料)を要求してくるが、これは公平の観点からして仕方ありません。 4 大学等から当方への優先実施権の設定及びその期間制限 大学等との共同研究は往々にして基礎的なものであり、実用化あるいは市場化のためには、さらなる技術開発を必要とするものが多く、そして、このさらなる技術開発には、当初の共同研究開発に参加した企業(当方)に任せるのが効率的である場合が多くあります。逆に、仮にこのさらなる技術開発を一般の競争に委ねた場合は、当初の参加企業には開発リスクにさらに競争リスクが加わるためさらなる技術開発を行わない可能性もあり(そうなると実用化・市場化が遅れあるいは不可能となる)、ひいては、当初の共同研究開発自体への参加インセンティブが薄れる結果ともなりかねません。このため、このような場合は、大学等は成果物たる特許権等について、参加企業(当方)に「優先的実施権」を設定※45してくれる場合が多くあります。 この場合、参加企業が優先的実施権を設定してもらったにもかかわらず、さらなる技術開発に着手しない、あるいは相当以上の期間が経つのに成果を上げない場合は、その目的であった更なる技術開発の促進が達成されなくなってしまいます。それでは、公的な立場の大学等としてはマズイため、このため、一定の期間制限※46を設け、それを経過しても着手しない、あるいは成果が出ないような場合は、第三者に実施権を付与することを規定する※47のが通例です。 5 その他公的機関としての性格からの制約 例えば、大学等の施設や設備(共同研究の過程で取得したものを含む)を使う場合、それは公有物であることから、制限を受ける場合がある。また、成果物全般(特許権に限らず、例えば報告書も含む)についても、その処分について、規制を受けることがある。大学等の公的性格から仕方ない面もあるが、できるだけ規制は回避できた方が望ましく、少なくともそのような規制があり得ることは認識しておく必要があろう。 また成果報告書についても、大学等は出来るだけ多くを公に発表しようとしますが、ノウハウ等にすべきようなものは、発表しないようにしてもらう必要あります(このため、大学等の発表前に内容の事前確認ができるようにすることが望ましい)。 3.その他の留意事項 1 専門家の活用 知的財産権制度は、専門的・技術的な側面があります。このため、疑問を持ったり、迷ったり、困った場合は、出入りの弁理士あるいは最寄りの特許流通アドバイザー等、専門家にご相談されることをお勧めします。 2 独占禁止法との関係 共同研究開発も独占禁止法の対象となります※48。 しかしながら、共同研究開発は技術開発という意味で競争促進的であり、結論的には、独占禁止法上問題となる場合はほとんどありませんが、そういう場合もあり得ることは心に留めておいてください。 独禁法が適用されるのは、まず技術開発の共同化が技術開発という市場での競争の実質的な制限とならないかですが、通常、少数の参加者で行われること等から、そうなることは極めて稀※49であると思われます。 次に、共同開発の実施に伴う取り決め等が「不公正な取引方法」として問題にならないかですが、取り決め等の内容が、共同研究開発の円滑な実施に必要とされる合理的な範囲のものと認められるならば、競争に与える影響があっても、それが小さければ、問題になりません。 なお、念のため注意した方が良いと思われる条項を例示すると、以下のとおりです。
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