特集2 物流コストの下げ方がわかります!
―物流ABC準拠による物流コスト算定・効率化マニュアル―

1 中小企業にも「物流ABC」を
―活動ごとにコストを明らかにし、物流効率化を実現する「物流ABC」―

物流は企業にとって重要な経営戦略

 IT(情報技術)の進展により、インターネットなどを利用した電子商取引が活発化するなど流通システムが大きく様変わりしています。そのような環境の中で、企業経営におけるすべての物資の移動について体系的かつ効率的な運営をめざすロジスティックスが今や、企業にとって重要な経営戦略となっています。
 もとより中小企業においても物流効率化は大きな経営課題。しかし、その対応は必ずしも十分でなく、さまざまな問題を抱えている中小企業も多いようです。そのような状況を改善するために中小企業庁では以前から、中小企業向けに自社のコスト把握を効率的に実施するための「物流コスト算定マニュアル」を作成してきました。

大手企業で導入が進む「物流ABC」とは
 一方、物流効率化への取り組みにおいては近年、大手企業を中心にさまざまな分野で、「物流ABC(Activity-Based Costing:活動基準原価計算)準拠による物流コスト算定」手法の導入が急速に進んでいます。
 「物流ABC」とは、物流コストを物流管理に使えるように把握することを目的として開発された原価計算手法で、活動(アクティビティ)ごとにコストを集め、それぞれの原価を計算します。設備や人件費による費用ではなく、例えば梱包一個、出荷一ケースといった日常の物流業務において「どこでいくら」費用がかかっているのかを把握します。
 「物流ABC」には次のようなメリットがあります。
物流を改善し、物流コストを下げる
「どの活動にいくらコストがかかっているのか」が明らかにできるので、コスト低減効果の高い具体的な取り組みを発見できます。
現場のムダを発見できる
作業時間や作業量について現場の生のデータを把握するため、算定の過程で作業に関わる問題点が明らかになります。その問題点はコストとして算定されるので、作業のムダを改善すればいくらコスト削減につながるかという計算ができます。
物流サービスのコストを計算し、顧客別に採算を分析できる
多頻度少量の納品や流通加工といった、物流サービスのコストが計算でき、その結果、顧客別の採算分析が可能になります。
共同物流施設の利用料金を公平に設定できる
物流サービス水準によるコストが明らかになり、作業負荷を正確に反映した公正な利用料金の算定根拠となります。

中小企業における物流効率化をめざして
 このように多くのメリットがある「物流ABC」ですが、多額のコストと労力を必要とすることから、中小企業における取り組みは遅れていました。
 そのため中小企業庁では今年3月、「物流ABC準拠による物流コスト算定・効率化マニュアル」を新たに策定。中小企業における物流業務のより一層の効率化を支援することとなりました。
 本マニュアルは、広く普及している表計算ソフト「エクセル」をベースとしたコスト算定ソフトとガイド集(解説書、事例集、用語集)で構成。普段、エクセルを使い慣れていない人でも比較的簡単にコスト算定ができるよう設計されているため、物流現場の効率化はもとより、省力化も期待できそうです。
※「物流ABC準拠による物流コスト算定・効率化マニュアル」は、以下のURLからダウンロードできます。
http://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/buturyuu_ABC.htm


2 実践!あなたの会社の物流コスト算出

 「物流コスト算定・効率化ソフト」は、〈算定編〉〈データ編〉〈検討編〉の3つに大きく分かれています。
 〈算定編〉では、物流コストを効率化の検討がしやすい形で把握し、算定手順は「物流ABC」をベースにしています。〈データ編〉では、コスト算定結果を整理し、物流コスト総額の把握および「物流ABC」コストデータをさまざまな角度から見ることができます。〈検討編〉では算定結果をベースに、物流コスト低減の可能性を検討するシミュレーションを行い、コスト低減の余地を洗い出します。


1.〈算定編〉と〈データ編〉の概要
 〈算定編〉では、物流施設内活動費と輸送費を算定します(物流ABCによるコスト算定)。設定には画面に表示された文字やボタンをクリックし、表示外のものだけ自分で入力します。
ステップ1= 「ケース荷受け・検品」「フォークリフト格納」など、物流施設内で行っているアクティビティを選択し、設定します。
ステップ2= 物流施設内で使用されている投入要素(人、スペース、機械設備、資材消耗品の4つに分類)を設定します。
ステップ3= ステップ2で設定した投入要素別に算定した月間コストを入力します。
 ここまでで「基本設定1」は終了です。さらに処理量、投入要素別コスト、作業時間、輸送費の4種類のデータを入力する「基本設定2」と「基本設定3」の手順を経ると〈算定編〉は終了です。
 〈データ編〉では、どのアクティビティにどれだけコストがかかっているかなど、物流コストをさまざまな切り口からみることができます。
 コストの高いアクティビティについてどの投入要素が高いのか(人件費なのか、機械設備なのか)が把握でき、原価の高い順、単価の高い順に並べ替えた表を出力することも可能です。物流ABC算定結果に輸送費を加えると、物流コスト総額およびその構成比を把握することができます。


2.〈検討編〉の概要
 〈検討編〉には、「人の効率化の検討する」、「スペースの効率化を検討する」、「物流サービスの改善を検討する」など、さまざまなコスト低減メニューが用意されています。
 メニューは物流施設において、現在の作業方法を変えずにできるコスト低減の可能性をもれなく洗い出せるよう構成され、それぞれ必要な数字を入力することでコスト低減余地を試算。検討結果の合計は「物流コストの低減余地の集約」の表に作成されます。


3 導入事例
ピッキング作業のムダをみつけて効率化
―機械部品メーカーA社の事例―

 機械部品メーカーA社。「物流ABC」によるコスト算定結果により、「アクティビティ原価の高いアクティビティ」の第1位にピースピッキング、第2位にケースピッキングが入りました。ピッキング作業に関わるコスト(人件費)は物流コスト総額に対する構成比で58.5%を占め、コストを低減するためには、まずここから改善すべきであることが明らかになりました。
 そこで〈検討編〉の「『ピッキング移動』アクティビティを設定する」の画面からピッキング移動コストを算定。その結果、全人件費の約半分に相当する金額がここに費やされ、ピッキング作業時間の90.2%は移動時間であることが分かりました。

ピッキングに関わるムダを徹底的に省く
 A社ではかねてより、倉庫が多層階に分散しているため、ピッキング作業者が商品を探しまわったりエレベーターを待っている時間が長く、非常に効率が悪いという認識は漠然とながら持っていました。
 この結果により、同社ではピッキングに関わるムダを徹底的に省くためのプロジェクト活動を開始。移動に関わるムダの中身についてピッキング作業者にヒヤリングして問題点を抽出し、改善策を講じました。

◆問題点
商品の保管場所がわかりにくく、探しまわったり人に聞かなければならない。
商品は顧客別の棚と共有の棚に分けられ、足りない場合にはほかの場所から出す。しかし、何がどこにいくつあるのか見に行かないと分からず、何カ所も確認する必要がある。
棚に十分な商品がなく、足りないことが多い。
棚が片づいていない。床の整頓が悪くて台車が使えず、手に持って何度も往復している。
入荷した商品が棚になく、入荷口まで取りに行くことが多い。
エレベーターがなかなか来ない。

◆改善点

2階から4階の倉庫にロケーション番号を付け、商品別に保管場所を確定する。
顧客別棚は廃止。原則として同じ商品の在庫は1カ所に集める。
入荷した商品の補充は午前中に行うことを徹底。
1カ月出荷がなかった商品は月末にチェックして五階に移動。

◆結果

 プロジェクト活動を開始してから1カ月後。同社ではパート作業者の残業がゼロとなり、月末の繁忙日に行なっていた増員もなくなりました。また、エレベーターが早く来るようになった、という感想が社員から出るようになりました。エレベーターの待ち時間の長さは倉庫の構造によるものではなく、ムダな移動が多すぎるためだったのです。


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