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長野県には世界競争の中で勝ち抜いてきた製造業と、その技術ノウハウ、人材といった優れた経営資源の集積があり、大学、試験場など研究機能や産業支援機関にも恵まれています。潜在能力は依然として非常に高く、その豊かな地域産業資源をいかに活用し、新たな活力へと転化させていくかが問われています。 その観点から長野県では、人材育成、大学・公設試験場・大企業等からの技術移転の促進、研究者・技術者等の人的資源の活用、支援拠点の整備など、スピードある新事業創出促進への総合的支援体制づくりを行っています。それを体系化したものが、県の総合的起業(創業)支援施策です(表1)。 その内容は、1 総合的支援体制(ワンストップサービス機能)の整備、2 産学官連携による研究開発(技術・製品・商品)支援体制の整備、3 多彩な資金提供による事業活動への支援、4 事業評価(目利き)、市場・販路開拓、情報発信によるマーケティング支援、5 人材育成、事業継承による次世代起業家の創出支援と多岐にわたります。
以上の諸施策により、長野県では県内で活動している産業支援諸機関が連携して、経営革新や創業をめざす意欲ある経営者等を支援し、活力ある経済社会の構築をめざしています。
- 長野県の総合的起業(創業)支援施策はどのような背景のもとに策定され、実施されているのでしょうか。 小林 長野県の工業出荷額は平成12年度は約7兆円、平成13年度は前々年と同様の約6兆5千億円と横ばい傾向にあり、企業の国際競争の激化や製造業の海外進出も盛んになってきています。そういう状況の中では、新しい産業構造、特に持続的発展が可能な内需型産業への切り替えが急務。それが総合的起業(創業)支援施策の背景にあります。 本施策は、健康・福祉、環境、教育等の戦略的新分野をはじめ、多様な業種・業態における創業を総合的に支援するものです。具体的には中小企業支援センターでのワンストップサービス、アドバイザー派遣事業や資金提供・技術開発支援など、さまざまな支援施策を展開しています。 例えば、長野創業支援センターはインキュベーションが重要な役割となります。創業をめざす企業や個人の方にインキュベーションルームを無料で提供し、恵まれた施設を利用して研究開発していただくとともに、専門家の支援スタッフによる経営、技術相談、事業化支援を行っています。 - 新しい産業構造への切り替えの必要が背景にあると。産業振興の結果、地域にはどういう効果が生まれるのでしょうか。 小林 一番は雇用の創出。近年、企業のリストラが大きな社会問題となっていますが、既存産業の雇用力が次第に小さくなってきています。しかし、新設企業は1人から5人程度で創業されるケースが多いので、事業が軌道にのれば当然より多くの人材が必要となり、雇用が生まれます。その結果、地域経済も活性化していくはずです。 平成14年版中小企業白書では「まちの起業家づくり」がタイトルになっています。欧米では80年代以降、まちの起業家、つまり自営業者が多数輩出し、それが地域経済の活性化に大きく貢献しました。日本でも今、このような状況の創出が必要になっていると思います。 長野県は機械加工、電気、ソフトウェア、食品、繊維など、非常に幅広い産業集積を持つ全国でも珍しい地域。いろいろな技術を持った企業がネットワークすることで地域でものづくりができるという環境は、起業(創業)に関してもとても有利な条件だと思います。 産業界ではこのような地域特性を生かしていただくとともに、県でも金融、経営支援事業、企業者の販路開拓支援、技術開発支援を積極的に行い、まちの起業家づくり、つまり創業者の事業化を支援していこうと考えています。 - ありがとうございました。
インキュベート機能を担い、早期事業化を促進 夢(ビジネスプラン)を実現しようとしている経営者や、創業を夢見る個人の夢をスピーディに実現し、新しいものづくり産業の創出をめざす総合的起業(創業)支援施策。 その中核支援機関が(財)中小企業振興公社であり、技術開発支援機能、技術移転機能、インキュベート機能、資金供給機能、経営指導機能、人材育成機能を持った多彩な支援機関との連携を図っています。 そのなかで特にインキュベート機能を担うのが、長野県創業支援センター(以下センター)。創業者や創業希望者の事業化を促進し、新たな雇用の創出や地域経済の活性化を図る拠点施設として機能しています。 平成9年、岡谷市の長野県精密工業試験場に岡谷創業支援センターが開設され、11社が入居してスタート。平成13年に長野県工業試験場に長野創業支援センター、平成14年には長野県情報技術試験場に松本創業支援センターが開設され、現在、3施設に26社が入居し、研究開発支援を受けています。 各創業支援センターはそれぞれ特色を持ち、岡谷は精密加工を主体に計測、半導体加工、化学など、松本は情報産業、長野では各試験場の研究員を網羅的にネットワークし、材料分野から製品開発まで、ものづくりをトータルに支援しています。入居する事業者にとって、研究ニーズにあわせて創業支援センターを選べることが大きなメリットになっています。
インキュベートルームと、ヒューマン・ネットワークが柱
センターの支援を受けることができるのは、製造業、ソフトウェア業などの事業の創業をめざす、あるいは事業を開始してから5年未満の企業や個人。希望者は支援を受ける目的などを書いた事業計画書を提出し、それを審査会が選考して決定します。支援期間は3年以内で、2年間の延長が認められています。
技術的な側面だけでなく、特許関係諸問題や資金問題、企業運営で発生するさまざまなトラブルなどの経営面でも、創業支援スタッフ(経理士、弁理士、弁護士、金融機関、企業経営の先輩など)がアドバイス。製品が完成した場合には販売促進の支援を行い、中小企業振興公社が全国で開催するフェア、県独自の新技術相談会などへの出展にも協力しています。
自らの夢とロマンを優先し、社会貢献の理念を持つ創業者たち 「入居期間中に積極的に試作品の売り込みを図る企業もあり、センターの卒業者はいずれも、何らかのかたちで製品やシステムを開発して巣立っていきます」と小林場長が話すように、センターは創業をめざす事業者にとってまさに理想的な環境といえます。 もっとも研究開発の結果、製品化という成果を成し遂げても、そこで直面するのが資金の問題。開発中は貯金や従来製品の販売などでしのぐことができても、製品化のメドがつき、まさにこれからという時の事業資金の確保が大きな課題となるケースも多いようです。 卒業者の中には企業組合を組織したり、少人数私募債を活用するケースもあるようですが、センターでも中小企業融資制度や各種補助制度などさまざまな制度について総合的に相談にのっています。 「製造業は先行して材料の購入、生産機械への投資をしなければならないし、製造期間中はお金になりません。製品を販売してもその代金は現金ではない場合も多い。製造業は本来、付加価値が高いものですが、すぐにお金にならないという資金的リスクが大きいものです。 それにも関わらず創業をめざすのは、長年にわたる企業勤務で培った技術ノウハウの蓄積と豊富な経験を生かして、自分の夢を実現したいという強い意志があるからでしょう。企業人としてのポジションや収入よりも自分の夢やロマンを優先し、それで社会に貢献したいという強い気持ちの持ち主が創業に成功するのではないかと思います。 そういう創業者や創業希望者をあらゆる方向から支援し、新しいものづくり事業を起こしていくインキュベーターとして長野県経済に貢献していく。それがセンターの最終的な狙いです」(小林場長)。 さまざまな課題をねばり強く乗り越え、自分の夢を実現していく創業への道。この施策により、果敢に挑戦し、その夢を実現しつつある創業者たちが着実に増えています。
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