株式会社共進 代表取締役 五味 和人さん |
精密部品加工の専業メーカー ソレノイドとは、電気エネルギーを機械運動に変える部品。電磁コイルと鉄芯によって構成され、通電によって上下動をさせたり、あるいは鉄芯の上下動を感知して電流を伝えるといったスイッチング機能をもつ機構部品として、私たちの身の回りにある広範な製品に用いられているパーツである。 大は建設機械や産業機械から自動車、OA機器、遊具といった分野まで、その用途は広大。しかし、言わば縁の下の力持ちとでもいう役割を果たすパーツだけに、脚光を浴びることの少ない分野である。 そうした中で、株式会社共進が大きな注目を集めているのは、独自に開発した「カシメ接合法」などで部品製造における大幅なコストダウンを実現してきたため。ことに、自社技術による部品の高機能化や低コスト化の提案を行い、大手自動車メーカー等に納入し、高い評価を獲得。ソレノイド、バルブ用鉄芯など精密部品加工の専業メーカーとしての地位を確立している。 マイナスからの再スタート しかし実は、同社とソレノイドとの出合いは「やむをえず」のものであったという。 昭和37年に共進精密有限会社として諏訪市に設立した同社は、いわゆる挽物加工を得意として事業展開をしていたが、昭和58年、諏訪市を襲った角間川水害で本社工場を流失するという被害を被ったのである。 「せっかくの設備は水の中。仕事も得意先も、信用も失って、負債だけが残った」と語るのは五味和人社長。ゼロからのスタートどころか、まさに「マイナスからの再スタート」を余儀なくされたのである。 諏訪市中洲にあった分工場を増築して再スタートを図ったのが2年後のこと。しかしどれほど腕があっても、設備がなければ何もできない。再スタートに投じることのできる資金は限られる。当時の諏訪地方では、時計やカメラ、産業機械などの部品製造が花形であったものの、そうした分野への参入は見込み難い。同社にとって、取り組むことができる分野と言えば「ソレノイド鉄芯ぐらいしかなかった」のである。 パチンコ等の遊具のスイッチ、8トラックプレーヤーの機構部などに用いられるソレノイド鉄芯をつくることから始めた。 転機となったH社との出会い 転機が訪れたのは、16年ほど前のこと。たまたま中小企業振興公社の情報で共進の存在を知った自動車メーカーからの問合わせがあったのである。 当時、H社ではオートマチック車のシフトロック機構を新たに開発するため、ソレノイドの鉄芯製造業者を探していた。ソレノイド鉄芯をつくっていることを公開していたのは共進のみだったのである。H社のスタッフははるばる諏訪市へ訪ねてきたという。 しかし直ぐに取引開始とはいかず、その後18ヶ月をかけて綿密な審査や評価、指導が行われたという。共進の技術者たちの懸命の努力で、「どうにか満足してもらえる製品がつくれるようになった」ことで取引が始まり、同部品についてはすべてを同社が製造納入することになったのである。 一挙に事業が拡大した。しかしそれ以上にありがたかったのは、「同社の厳しい審査や評価試験を受けたことで、自社ではとてもできないようなデータ資料が得られたことですね。これは自信にも裏付けにもなりました。」 画期的な「カシメ接合法」の開発 しかし、シフトロック機構用のソレノイドは、自動車メーカーにとって決して売り文句になるような部分ではない。自動車の安全保安に欠くことのできない部品であるが、同じ性能ならば少しでも安く、かつ省エネにという要請はつねに根底にある。 ソレノイド部品がよりスムーズに動作すれば、機構としての安全性が高まり、かつ省エネにつながることは当然である。しかしそのためには、鉄芯の表面がさらに滑らかになっていなければならない。この精度を従来の切削工法で実現しようとすれば、別途改めて表面加工を行う必要があり、当然高コストにならざるを得ないのである。 この課題をどう解決するか。共進の技術者たちは、諏訪地域周辺の取引業者などからもさまざまなアイデアや工夫を集め、それらを検証しては試作しながらテストを重ねたという。そのなかから、「これならば」という答えが見えてきた。そのアイデアをもとに技術者たちが開発したのが「カシメ接合法」である。 【図】のように、従来一つであった材を複数の部材に分け、それぞれの仕様形状や精度に即した加工を行った上で接合するというものである。 この際、内側の部品に溝を付けておき、外側の部品を金型でプレスすると、内側の溝に外側部品の金属の一部が食い込む形で接合される。金属の加圧変型を応用した技術である。 この工法によれは、必要な部分のみをそれぞれ別部品としてつくることができ、材料のムダを生じない。また異形・異質材の接合も容易であり、精度・性能に見合った材料と加工コストの最適化が図れるわけである。 しかし、どのような位置でどの程度加圧するか、といったカシメ接合のための最適な数値を見いだすのは、試行錯誤のくり返し。まったく未知の領域であるため、その都度テストをくり返しながらデータを収集していった。「実際には、今でも試行錯誤です。技術的に高まれば高まるほど、その奥行きも深まるという感じですね。」 この「カシメ接合法」を用いることで、加工工程に過重な負担をかけることなく、充分な強度と仕上げ精度を確保することが可能になった。 まさに逆転の発想である。材料費・加工時間・工程の大幅な削減を達成し、低コストでの提供を可能にした画期的な技術であった。 なおこの技術によって同社は、第22回科学技術振興功績者に贈る文部科学大臣賞を受賞している。 高い評価を確立したソレノイド では自動車メーカーの反応はどうだったろうか。あらゆるパーツに対して安全保安性を重視する自動車メーカーのテストは厳しい。H社でも、当初はこの画期的な新技術を認めながら、徹底的な検証を行っている。それは、氷点下40度から熱暑の砂漠に相当する80度まで、あらゆる環境条件を想定したテストであり、限りないほどの連続動作テストのくり返しであった。 部品は評価試験を見事にクリアした。性能が実証されると、H社の対応も俄然機敏になり、実用化のためのさまざまな支援を惜しまなかったという。 工法と工程の革新による大幅なコストダウンの実現をもたらした同社への評価は高まった。また同時に、それぞれの部品ニーズに応じた新技術を開発するという開発者としての同社への期待も高まったのである。 同社が得意とする直流タイプのソレノイドやバルブは、そのほとんどがカスタム品である。得意先の要求仕様に応じて、開発設計される。同社が現在になっている製造品は軽く3,000アイテムを超えるという。 専業メーカーに徹する 諏訪市は、自動車産業分野からすれば遠い立地環境である。「海外に行くよりも遠い」と言われることもあるほどだ。近くにあれば臨機の対応もしやすいが、遠隔地ではそうもいかない。他社を凌駕するほどのQ・C・Dを実現していなければ、継続的に信頼を得ることは難しいのである。 それだけに共進では、全社を挙げてQ・C・Dの実践に取り組んできた。「不良ゼロで当然」、「24時間365日の顧客対応」、「コストダウン化へのあくなき挑戦」。言葉で言うのは容易だが、これを実践し続けるためには、まさに全社員・スタッフの高い目標意識が求められたのである。生産工程そのものは自動化されている同社の工場において目立つのは、外観検査に携わるスタッフの多さ。全数検査を徹底することで「不良ゼロ」を追求しているのである。 こうしたことについて五味社長は「ソレノイド鉄芯に徹してやっている専業メーカーの強み」だと語る。 小さな企業でも、一つのことだけに集中することで、設備をフルに活用できる。人材においても、一人ひとりの社員・パートがエキスパートになれる。 「投資の効率性という点で考えても、これは小さな企業が生き抜いていくためのヒントなのではないでしょうか。また専業化によって、積み重ねた実績の重みも大きいと思います。」 他にはマネのできない技術とノウハウの積み重ねを期待して、同社には現在、ソレノイド鉄芯やバルブにとどまらず、さまざまな機構部品の相談が寄せられている。 ことに自動車用部品の分野では、国内外の有力メーカーからの依頼を受けて、さまざまな新規パーツの開発・試作が進められているところである。 さらなる省エネや環境負荷の軽減をめざすT社の新ディーゼルエンジン用バルブ、S社のガソリンエンジン用機構部品などでは、その開発の段階からかかわり、新たな製造法の確立などにも取り組んできた。こうした開発・試作依頼はさらに増えている。 「私たちのような企業の価値とは、お客さまの困っている所を、どれだけきめこまかくサポートできるかだと思います。」 頑張れば何とかなる、と語る五味さん。株式会社共進は、全員参加の技術集団としてこの事業に取り組んでいる。 |
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