特集2
中小企業経営と人材育成
~今こそ、次代の戦力となる人材の強化を~

 デフレスパイラルがさらに進行し、世界的な流れともなりつつある現在、いかに強固な企業体質を創り上げていくかは、中小企業にとどまらず、最大の経営課題。いうまでもなくその本質は、『人材と組織の最適化』にあります。
 しかしながら中小企業にとって、求職難とされる時代においてさえ、実際には意図する事業活動に最適な即戦力はなかなか得られないのが現実。むしろ社内人材の積極的な登用・育成によって、新たに必要となる専門職を確保し、組織の最適化を図ることがポイントと言えます。
 このような取り組みを支援する国の諸制度も確立されています。
 本特集では、中小企業の人材育成を支援する制度を紹介するとともに、これらを活用して新たな事業展開を図り、活路を見いだしている県内での事例を挙げながらご紹介します。

支援制度  中小企業労働力確保法

○法律の目的は
 「中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律」は、中小企業が労働時間の短縮、職場環境の改善、福利厚生の充実、募集方法の改善、教育訓練の充実等の雇用管理全般の改善を図ることによって、職場としての魅力を高めようとする取り組みを行う場合、国や都道府県が各種の援助を行うことによって、その取り組みを促進していく仕組みを定めた法律です。
 法律は平成3年に制定されましたが、その後、平成7年10月の法律改正では、高度な人材の確保・育成を行う中小企業の活動を支援するため、それまでの事業協同組合等への支援措置に加えて、個別中小企業者を対象とした支援措置が設けられ、平成10年12月の法律改正では、新分野進出等(創業又は異業種進出)を目指す個別中小企業者に対する人材の確保・育成、魅力ある職場づくりの活動を支援する措置についてさらに充実しました。
 また、平成14年1月より、「経済社会の急速な変化に対応して行う中高年齢者の円滑な再就職の促進、雇用の機会の創出等を図るための雇用保険法等の臨時の特例措置に関する法律」が施行されたことに伴い、新分野進出等(創業又は異業種進出)を目指す個別中小企業者に対する支援に加え経営革新を目指す個別中小企業者に対する人材の確保・育成、魅力ある職場づくりの活動を支援する措置についても追加されました。

法律の対象

1本法が対象としている「中小企業者」は、次に該当するものをいいます。
 1. 資本金額(又は出資総額)が次表以下、又は常時使用する従業員数が次表以下の会社・個人

2. 企業組合
3. 協業組合
4. 事業協同組合等
 ア.事業協同組合及び事業協同小組合並びに協同組合連合会
 イ.水産加工業協同組合及び水産加工業協同組合連合会
 ウ.商工組合及び商工組合連合会
 エ.商店街振興組合及び商店街振興組合連合会
 オ.環境衛生同業組合
 カ.酒造組合及び酒造組合連合会
 キ.酒販組合及び酒販組合連合会
 (オ、カ、及びキについては一定の要件があります。)

2 本法が対象としている「事業協同組合等」は、次に該当するものをいいます。
上記1.の④に該当するもの及び民法第34条の規定により設立された社団法人(構成員の3分の2以上が上記1.の①に規定する中小企業者であるもの。)

中小企業人材確保推進事業助成金
第1種中小企業人材確保推進事業助成金

ア 概要
 認定組合等が、認定計画に基づいて実施する以下の事業について、3年間にわたり、下記の助成金の支給が受けられます。ただし、1の事業を必ず実施し、併せて2及び3の事業のうち少なくとも1つについても必ず実施することが必要です。

イ 助成額
6以外の事業: 支給限度額の範囲内で事業の実施に要した経費の2/3相当額
6の事業: 200万円を限度として事業の実施に要した経費の1/5相当額
ただし、下表の額を支給限度額とします。


導入組合事例  長野県建設インテリア事業協同組合

○インテリア組合の概要
 長野県建設インテリア事業協同組合は昭和52年6月、長野県内の内装仕上げ工事の専門事業者10社が集まって設立されました。組合員企業が県内全域に分散しているため、なかなかスムーズな運営が難しいという課題はありますが、ビジョン研究委員会、施工管理改善推進委員会、技術・技能向上委員会などの活動を通して、業界の発展をめざした、さまざまな取り組みを行なっています。
 また同組合は平成10年度から2事業年度にわたって雇用促進事業団から助成を受け、「事業再構築雇用管理推進事業」を実施。事業再構築とモデル事業の実施にも取り組みました。


●参加企業一覧

株式会社 岩野商会

長野市大字北長池2051 TEL.026-263-7000
代表者/岩野 宏
創 業/昭和26年
資本金/1億2000万円
主な事業内容/建築・大工・屋根・タイルれんがブロック・鋼構造物・内装仕上・左官・防水・建具

株式会社 丸滝

駒ヶ根市北町10-6 TEL.0265-82-3111
代表者/滝沢 義一郎
創 業/明治42年4月
資本金/6000万円
主な事業内容/内装仕上・建築・屋根・防水・建具・ガラス・大工

株式会社 小林インテリア

岡谷市長地権現町1-1-50 TEL.0266-28-5840
代表者/小林 武志
創 業/大正3年4月
資本金/3200万円
主な事業内容/内装仕上
倉島株式会社
佐久市原628-5 TEL.0267-62-1232

倉島株式会社

佐久市原628-5 TEL.0267-62-1232
代表者/倉島 拓二
創 業/昭和25年7月
資本金/1000万円
主な事業内容/内装仕上

コンテックナガイ株式会社

飯田市上郷別府3344-3 TEL.0265-24-3360
代表者/中山 景夫
創 業/昭和47年10月
資本金/2000万円
主な事業内容/建築・屋根・タイルれんがブロック・内装仕上

株式会社シマコー

松本市大字笹賀7600-2 TEL.0263-58-0456
代表者/田中 義彦
創 業/元禄15年
資本金/3000万円
主な事業内容/建築・内装仕上・建具・防水

株式会社ワタナベシート

松本市大字笹賀7210-1 TEL.0263-57-1682
代表者/渡辺 一二三
創 業/大正2年
資本金/1000万円
主な事業内容/鋼構造物・内装仕上

株式会社小林建装

長野市柳原2550-14 TEL.026-295-0550
代表者/小林 敏美
創 業/昭和57年4月
資本金/2300万円
主な事業内容/内装仕上と建築


○人材確保推進事業助成金導入にあたって
 深刻な若手技能労働者不足に悩む同事業協同組合では現在、厚生労働省の「中小企業人材確保推進事業助成金(第一種)」を受け、労働力の確保と良好な雇用機会創出のための取り組みを行なっています。人材不足の背景には、景気悪化にともなう経営環境の悪化とともに、業界が抱える体質的な問題も影を落としています。建設事業量の減少にともなう価格競争や単価、利益率のダウンが建設業の経営を圧迫。そのしわ寄せが下請け構造にある専門工事事業者におよび、恒常的な採算割れ状態から若年者の採用を手控える傾向が続いた結果、技能労働者の高齢化が進んでいるのです。
 業界全体が抱える体質的な問題としては、
(1)内装技能者の育成に長い時間と費用がかかる(一級技能士の受験資格要件は、経験8年以上)
(2)優れた技能者育成に対する消極的な取り組み
(3)技能労働者の強い独立志向
などの要因があげられます。いずれにしても、技能労働者不足は業界の事業そのものに関わるだけに、同事業協同組合にとって若手技能労働者の育成はまさに「待ったなし」の状況となっています。
 このような状況の中、同事業協同組合では平成14年度、職場環境の改善、募集・採用の改善、教育訓練の充実、雇用管理改善のためのセミナー開催などの事業を実施。経営体質の改善を図り、本来の目的である専門的な技能・技術を提供するための雇用管理の充実・向上を図っています。以下に同事業協同組合の導入事業を紹介します。

取組み事業1
「シックハウス症候群に対する正しい知識の習得」
 新築住宅に入居後、めまい、吐き気、頭痛、眼・鼻・喉の痛みなどの症状を訴える「シックハウス症候群」。日本では1995年頃に登場した言葉で、室内に多量に放散されたホルムアルデヒドなど揮発性の高い有機化合物がシックハウス症候群の原因物質とされています。つい最近、長野県内でも新築の小学校や医療施設の室内空気中から高濃度の有機化合物が検出され、大きな問題となったことは記憶に新しいところですが、同事業協同組合では、このシックハウスの原因物質に関する理解を深めるため、専門家を招いての正しい知識の習得、技術・技能の対応についての勉強会を実施。加えて、施工後に発生する産業廃棄物処理、リサイクルなどについても取り組んでいます。シックハウス症候群が社会問題化し始めた当時、その原因とされたのが内装材と内装工事に使用する接着剤に含まれる有害物質(VOC)。住む人の不安感が高まる一方、業界内からも、現場で施工する技能者の健康への影響に関する懸念も高まってきました。同事業協同組合が対策に取り組んだ背景には、そんな状況がありました。
◇これまでに実施した
 勉強会のテーマの一例
「シックハウスに絡むホルムアルデヒド及びVOCの動向」(講師・東リ(株)CS環境室)
「床材にかかわる有害物質の現況と対策」(講師・(株)タジマ環境・技術担当)

 その結果、シックハウス対策として導き出されたのが以下の2つのポイント。
(1)施工者が有害物質について正確な知識を持つ(いたずらに不安感を持たない)。
(2)ユーザーへの正しい情報の提供(環境基準をクリアする製品開発が進んでいる)。
 これにより、内装工事に関わる部分においてシックハウスの問題は解決できるという自信を深めることができました。さらに同事業協同組合の理事のひとりは、「安全性に対する科学的な知識を持つことによって、施工技能者が安全な住環境づくりでお客様に喜んでもらう仕事をしているという自信と誇りを持つことができる。また、そんな意識づけをすることが若い人材の獲得にもつながっていくと思っています」と話し、人材確保への効果を期待しています。

取組み事業2
「施工技術・技能向上のためのセミナー開催」

 中小企業人材確保推進事業助成金による新技術活用普及事業の一環として、各種セミナーを積極的に開催。組合員事業者の技術・技能、知識の習得・向上に役立てています。今年1月には、関連資材メーカーである東リ(株)CS環境室、東京技能士会から講師を招き、7月から施行される改正建築基準法に対応したセミナーを開催しました。内容は、室内空気汚染対策、使用制限される建材の指定など建築基準法の改正ポイントの解説のほか、床仕上げ用接着剤の動向、改正建築基準法に適合した東リの「環境対応型」接着剤の紹介など。さらに「東リ腰壁シート施工マニュアル」に基づいた腰壁シートの施工実演を組合参加企業従業員の代表者が体験し、各企業の職場に情報・技術を伝えました。様々な新しい製品の施工方法を習得することによって、組合員事業者のスキルアップを図っています。

取組み事業3
「メンタルヘルス対策」

 今、企業人にとって深刻な問題として社会問題化しているのが、心の病。ストレスから鬱病などを発病しても、受診する勇気がない、あるいはそもそも心の病にかかっていることに本人が気づかないというケースも多いようです。このような状況をとらえ、同事業協同組合では中小企業人材確保推進事業助成金による雇用環境改善事業の一環として、メンタルヘルスについての理解を深める活動を積極的に推進しています。
 今年1月には、前半に引続き長野産業保健推進センターの専門スタッフでもある、鶴賀病院の清水良明医師を招き、メンタルヘルスおよび統合失調症についての勉強会を開催。メンタルヘルスが必要となった原因、この病気の難しさについての講演を通して、企業内のカウンセリング制度の確立、全社的な取り組みによる従業員ひとりひとりの意識改革などの必要性について理解を深めました。

取組み事業4
「人材教育」
 同事業協同組合の施工技能者の平均年齢はほぼ50歳。長期間にわたって採用を見合わせている事業者が多く、技能者の高齢化が進んでいるためです。将来のために積極的に技能者を採用、育成していかないと深刻な状況になることは明らかとなっています。
 そのために同事業協同組合員事業者が中心となり、全国に先駆けて(財)長野県建設技能振興基金を設立。人材採用支援や、建設工事の施工技術高度化に対応する一級建築管理技士の受験支援など、若年技能者の確保・育成を促進をめざしたさまざまな事業を展開しています。
 さらに同事業協同組合では異業種交流会など、後継者育成のためのヒントを模索する活動も積極的に行なっています。



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