特集1
地域求職活動援助事業

地域求職活動援助事業 事業の目的と概要

 松本地域における月間有効求人数は、平成8年度の5,632人から平成12年度は6,098人へと8.3%増加し、月間有効求職者数は平成8年度の4,734人が平成12年度には5,323人へと増加しています。したがって、この間の有効求人倍率は平成8年度の1.19倍から平成12年度の1.15倍へ推移しています。
 しかし平成12年度の就職率は6.0%と低く、特に専門的・技術的職業や販売の職業では、相当数の求人があるにも関わらず、求職者の就職に結びついていない現状が浮き彫りになっていました。この状況は、求職者に対し求人に関する情報が適切に提供されていないため、労働力需給のミスマッチが発生していると分析できるのです。
 こうした課題に対応するため、地域雇用開発促進法第7条第4項の規定により、この地域を求職活動援助地域に指定し、求職者及び事業主のニーズ等をアンケート調査により把握して松本地域求職活動援助計画を策定しました。これに基づき厚生労働省の同意を得、国、県、地域就職援助団体等の連携のもとこの事業を展開しています。
 事業の目的は、松本地域の求職者の就職を促進し、労働力需給のミスマッチを解消して、地域的な雇用構造の改善を図ることにあります。
 次に対象となる地域ですが、松本市、塩尻市など2市5町17町村(図参照)となっています。
 そして、この事業の実施期間は、平成13年12月5日から平成18年3月31日までの五年間が指定されています。
 なお、この事業は地域就職援助団体による委託事業です。厚生労働省から長野県中小企業団体中央会が事業の実施を受託し、同会が開設した「松本地域求職活動援助事業推進室」が(社)長野県経営者協会、(社)長野県商工会議所連合会、長野県商工会連合会と連携を図りながら、効果的な情報提供などの事業の実施をしています。
 事業の実施内容については、人材受入情報の収集・提供、職業講習、企業合同説明会、就職ガイダンス、労働力需給に関する調査、ワークシェアリング導入促進事業、がんばるプラン支援事業(詳細は事例紹介)、その他地域内に居住する求職者等の就職を容易にするための事業があげられます。


地域求職活動援助事業 松本地域求職活動援助事業の具体的な活動展開

 厚生労働省から松本地域求職活動援助事業の実施を受託した長野県中小企業団体中央会(以下当会)は、平成14年2月に「松本地域求職活動援助事業推進室」(以下推進室)を開設、室長1名、事務補助員1名、情報収集員1名、アドバイザー1名の体制で活動を開始しました。
 次いで同年4月には、上記事業に「ワークシェアリング調査」と、事業主団体等と連携して行なう技能講習「がんばるプラン」を追加、コーディネーター(推進室次長)1名と情報収集員一名を増員しました。また、関連事業として新たに「松本地域求職活動援助事業特定事業新規学卒対象」を厚生労働省長野労働局より受託し、コーディネーター1名、事務補助員1名、情報収集員2名の体制で事業を実施しています。
 これまで行なっている事業には大きく分けて次の8事業になります。

I
人材受入情報の収集・提供
松本地域内に所在する事業所の求人に関する情報を収集し、当該地域内に居住する求職者に情報誌とインターネットなどを通じて情報を提供しています。

II
職業講習の実施
松本地域内に居住する求職者に、就職を容易にするために必要な知識及び技能を習得させるために「就職セミナー講習会」を実施しています。

III
企業合同説明会
対象地域内に所在する事業所の事業主が、当該事業所に係る求人情報を、この地域に居住する求職者に説明するための説明会を催しています。

IV
就職ガイダンス
求職者が自らの就職にまつわる状況を理解していただくため、対象地域の経済・雇用の状況を説明するガイダンスを行なっています。

V
労働力需給に関する調査の実施
この地域における労働力需給の現況及び見通しについて調査するため、雇用状況のアンケートを行ないました。

VI
求職活動援助事業運営委員会の開催
この事業の実施に係る運営方針、運営状況の確認等を行なっています。

VII
ワークシェアリング導入促進事業
多様な雇用形態の一つであるワークシェアリングに対する考え方、導入の際に問題となる点について調査を行ない、調査結果を地域内の事業所及び求職者に対しインターネットや説明会などを活用してお知らせしています。

VIII
がんばるプラン支援事業
中高年の知識・経験不足、企業の若年労働者志向等から起因するミスマッチを解消するため、対象地域に関係する中高年求職者に対して地域の事業主団体などと連携し、必要な知識と基本的な技術を習得する技能講習等を実施しています。

 この他にも、地域産業振興策等と連携し、対象地域の求職者の就職を容易にするため、製造業を対象とした事業所見学会や説明会の開催、事業主を対象とした説明会及び職業訓練施設等の見学会を開催していく計画です。
 これらの事業はすべて、地域内ハローワークと情報交換と連携を密にして展開しています。以下に具体的事例として四つの活動をご紹介します。

地域求職活動援助事業 取り組み事例

事例1
求人情報誌の発行

 労働力需給のミスマッチを解消するためには、求職者の身近に新鮮で豊富な求人情報をお届けすることが第一です。そこで毎月25日に「求人情報」を発行しています。冊子は4分冊で、「専門・技術職、看護・介護・保安・デザイナー等、事務」「運輸・通信・製造、作業員、倉庫作業・清掃・軽作業・その他労務」「販売・営業・調理、サービス・理容・警備」「パート求人」に分かれています。ハローワークから情報提供をいただき、ハローワークだけでなくこの事業の対象地域24市町村の市役所・役場にもコーナーを設けるなどの協力を得て、市街地だけでなく郡部の方にも豊富な情報を提供できる媒体として好評です。
 掲載情報は一冊につき320件前後、合計でおよそ1,250件の求人を毎回載せています。もちろん情報の選択にあたっては、ハローワークの統計情報をもとに、それぞれの職種における労働力需給のバランスシートを見ながら行なっているので、ひと月ごとに的確な情報が求職者のみなさんのお手元に届いています。
 発行部数はこれまで各1,800部でしたが、発行から1週間で無くなってしまう状況から、求職者の増刷希望もあって、3月からは各2,300部印刷し発行していく予定です。

事例2
就職面接会の実施

 求職者と求人する事業主が互いにスタートラインに立ってもらうためには、両者の接点を設けることが重要です。就職面接会もその重要な役割を果たしています。事業主のみなさんには、求人にあたって年齢の条件をなくしてもらうよう要望し、とりわけ雇用状況の厳しい中高齢者に就職への活路を拓きました。とにかく両者に会ってもらい、求職者の熱意を感じてもらうのが目的です。
 もうひとつこの面接会の大きなポイントは、午後行なわれる面接会の前、午前中に就職セミナーを開催している点にあります。この企画はハローワーク松本の中村恒雄所長のアイデアで生まれました。セミナーでは面接の受け方、職務経歴書の書き方、職業訓練の話などのほか、各々の会社の採用方針について人事担当者からしてもらいます。この事前レクチャーがあるおかげで、求職者は現在の雇用状況の厳しさ、企業が求める人材等について理解でき、午後からの面接会がより活発になるのです。また、求職者がこれまでの職歴へのこだわりをなくし、職種転換しようという前向きな気持ちになっていただく機会になっています。
 現在、松本市と塩尻市、穂高町で開催していますが、参加者にアンケートを行なっても、「100%いい試みだ」と評価いただいています。

事例3
がんばるプランの実施

 求人票に書かれた条件に求職者が納得しても就職は機械的に決まるものではありません。適性はあるのか、技能はあるのか、ほんとうに自分がその職に就くために見極めなければいけないこと、覚悟しなければいけないこと、身に付けなければいけないことは数多くあります。たとえば警備という仕事ひとつとっても、経験のない人にとっては頭では理解している職種であっても、実際に体験してみないことには、その仕事につく決断はできません。
 そこで松本地域求職活動援助事業の目玉として、推進室が展開しているのが「がんばるプラン」です。中高年求職者に対して事業主団体等と連携して、必要な知識と基本的な技能講習などを実施することにより、中高年求職者の就職促進を図っています。対象は、45歳以上60歳未満で、雇用保険受給者及び一般求職者です。
 「がんばるプラン」はいわば求職者と事業主との「お見合い」の意味合いがあります。求人件数と求職者数が多い事業主団体と連携し、就職に資するための座学・実習等の技能講座を実施しています。また、技能講習受講者を対象とした事業主団体傘下の事業所見学を行ない、実際の現場をみることにより、求職者の方にその業種に対する理解を深めていただきます。そして今後は、技能講習を修了した方を対象とした合同企業面接会も随時実施していく予定です。
 今年度下半期からスタートした「がんばるプラン」は、この1月に最初の実技としてオフィスクリーニングを行ないました。講習者は仕事の実際を知り、自分の体を使って事前に仕事を体験することで、求人票に記載された内容だけでは見えなかった、その仕事の自分にとって適性を測ることができます。また、その仕事における技能や経験・ノウハウも講習のなかで身に付けることもできます。さらに、自分がこの仕事にチャレンジしたいという想いを直接会社にアピールする機会にもなっています。
 一方で、求人する会社にとっても講習者の適性を見極める貴重な機会でもあり、「がんばるプラン」による両者のお見合いで、労働力需給におけるミスマッチがかなり解消されると期待しています。
 今後は、介護、警備、旅館業務などの講座の範囲と開催場所の範囲をより広げ、推進室の事業の柱の1つとして定着させていくつもりです。

事例4
特定事業新規学卒対象

 地元企業への就職を希望するものが大半を占める新規学校卒業者は、地域の就職環境により一層大きな影響を受けることになります。
 そこで、松本地域求職活動援助事業の一環として、新規学卒者を対象とした人材受入情報の収集・提供、採用枠拡大のための広報・啓発、採用好事例の収集・提供、合同企業説明会の実施、職場見学会の実施を柱に事業活動をしています。
 そのなかで、採用好事例を収集し、採用枠拡大のために広報として行なったのが、「新規高卒者求人確保・拡大キャンペーン2003」として発行した冊子「素質、あります」です。松本地域をはじめとする長野県下八企業における高卒者の仕事での活躍ぶりをレポートし、あわせて各事業主の新規高卒者にかける期待のほどを紹介した事例集です。
 この事例集の活用と他の活動をあわせ、地元就職を希望する新規学卒者の就職とその後の安定した職業生活の促進につなげていきます。そして、結果的に意欲ある高卒者が若年期に適切なキャリアを形成し、企業における基幹的な人材として活躍できるような環境やシステムの構築・整備が進むことを期待しています


地域求職活動援助事業 今後の展開

 労働力需給のミスマッチを解消していくには、やはりタイムリーで有効な情報を求職者に提供することがいちばんだと考えます。したがって、ハローワークからいただく統計情報をもとに、求人に関するマーケットはどこにあるか見極め、バランスシートにのっとったより効果的な情報提供を充実させていくこと、求職・求人両者へのアンケートをもとにしたニーズの把握とこれへの対応が最も重要な課題です。
 そのために、積極採用企業情報をインターネットで配信する「ヒューマン・ウェブ」への登録企業の拡大等、その充実をより一層図っていきます。
 ハローワーク松本では、ハローワーク職員を同行させた事業所見学と職場体験講習の実施、市町村内の企業数社と求職者を参集させた巡回型のミニ面接会、求人情報を得るためのインターネットアクセスガイドの作成、働く主婦のための託児所・保育所・育児介護施設等のガイドマップの作成、自営業を開始する人のための起業家セミナー講座の周知を来年度の計画として企画しています。
 推進室もハローワークの動きに協調し、この地域における求職活動援助事業を成功に導きたいと考えています。


今回特集に御協力いただいた方々

藤原道雄さん 中村恒雄さん 中山悦次さん
長野労働局職業対策課
課長

藤原道雄さん
松本公共職業安定所
所長
中村恒雄さん
松本地域求職活動援助事業推進室
室長

中山悦次さん


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