信州の起業人-チャレンジャーたちの系譜-

“~ 出会いこそ原点。
人とモノと情報の融合で中小企業の夢をカタチにする。 ~”


石田 晃さん

株式会社カオス
代表取締役社長 石田 晃さん



『混沌』という名の ユニークな会社。


 「カオス(Chaos)」とは混沌を意味する。天地創造が始まる前の、曖昧模糊としてカタチを成していない状況のことだ。このユニークな名称を持つ企業が、上田市と丸子町に拠点を持つ株式会社カオスである。地元地域の金融機関や会計事務所、コンサルタント会社などの参画を得て平成2年5月に設立された。
 現在手がけているのは、コンピュータを応用した各種情報システムの開発、経営管理等の業務支援、マルチメディアコンテンツ開発など。かと思えば、生ごみ処理機などの環境推進事業にも取り組んでいる。まさに、新たな可能性が生みだされる前の「混沌」と言えそうな世界である。
 その代表を務めるのは石田晃さん。直江津(新潟県上越市)の出身である。


「第2の人生」を信州で。

 石田さんが、生まれ育った直江津を離れて、信州に居を据えることになったのは30年程前のこと。乗っていたクルマで事故に遭ったことがきっかけだったという。
 そのまま上田市の病院に入院。6ヶ月を経て一応退院したものの、完治までには4年半という長い期間を要した。この間、勤務しながら治療にあたった石田さんは、「ここから先は、第2の人生として、心機一転はじめよう」と思い立ち、本籍も上田市に移した。
 再起後、事務文具関係の会社で営業の仕事に取り組んでいる最中に出会ったのがビジネス向けのコンピュータ市場である。当時、コンピュータと言えば、大型コンピュータなどがまだ主流。今でいうオフィスコンピュータは出はじめたばかりの頃である。ビジネス向けのコンピュータシステムなどに携わっているのは、文字通り専門技術や知識を学んできた人ばかり。「プロでなければ扱えない」と思われていた時代である。
 「そんなことはないだろうと私は思いました。これからはプロが知識を押しつけるようなものではだめた。お客さまが何をやらせたいのか、それに合わせてシステムを作り上げていく時代になるだろうと感じました。」
 それには、お客さまの業務やニーズを理解し、システム構築への橋渡しをしていく人間が必要になってくる。石田さんはコンピュータシステムの開発・販売を行う会社の営業マンに転身した。
 「専門知識や技術はまったくないのです。しかし、お客さまの要望を汲み取ることはできる。だから社内で一番の技術者を付けてくれ、と言いました。それなら最高の仕事をしてみせるからと。」
 6年ほど仕事に没頭した。成果も挙げた。しかし、その中で疑問も頭をもたげきた。「情報産業の最先端と言いながら、実体は下請けや派遣ではないか。本当に自分たちの力を注いでものごとを創り上げていく仕事にはなっていない」ということだった。
 事業や組織づくりの上での考え方の行き違いもあり、結局職を辞した。


素人集団でシステム開発会社を設立。

 「むなしさばかり感じさせられるぐらいなら、いっそボランティア活動にでも専念しようか」と思っていた石田さんにまた転機が訪れる。「それなら自分たちで会社を持ったらどうか」という周囲からの強いアドバイスである。
 その声に押される形で、株式会社システムプランの設立が決まった。21年前の5月のことである。設立までの経緯が慌ただしかったこともあって、社員に加わった経験者は1人だけ。以前の会社でかつて部下として関わっていた人で、後は文字通りの素人集団。
 「とにかく教育してみようじゃないか。やってみて、できるようだったら打ってでる、と伝えたんですよ。」
 しばらくしてその技術者から「どうやらやれそうだ」との報告がなされた。まず、東京に打って出ることにした。
 「とにかく、名前も実績もない私たちとしては、一生懸命やる姿をお客さまに認めていただくことが先決でした。それには地方の地元よりも東京のような所がいい。競争の激しい場所で評価をされるようになったら、地元でやろうと。」


企業経営者は『夢』を持たなければ。
つねに新しいことに チャレンジして行くことこそが、自分への投資なんです。



「ゼロから育てる」ことの価値。

 素人集団は一生懸命に仕事に取り組んでくれた。先輩の指導を受けながら、実践の中で技術を身に付けながら成長してくれた。専門学校や学科出身者も採用するようになって、むしろ「ゼロから育てる」ことの価値を再発見したこともあったという。専門学校出身者は素地ができているために最初の伸びは良い。ところが、まったく素人で入った新人の中から、いつの間にかこれを追い越して急速に成長してくる者が必ず現われる。
 「先輩の言うことをしっかり隅々まで聞いて吸収する。仕事をしながらどん欲に学ぼうとする。そうした新人は、間違いなくいい技術者になるんです。」
 いい人材が増え、いい仕事ができるようになると、成果も次々に挙がり、事業は好循環になっていく。
 大手コンピュータメーカーやシステム開発会社などとの結びつきも生まれ、事業フィールドも拡大。最盛期には、県内に六ヶ所の拠点を設けるまでになっていた。


15年目の決断。

 そんな中で「社長を譲る」と石田さんが言いだしたのは15年目のことである。周囲には「えっ」と驚かれたが、15周年記念式典を機に交替し、自らは会長職になった。
 「すべてに順風満帆というわけではないにせよ、ゼロから発した会社がここまできた。しかし、これからの事業環境を考えると、より深い専門知識を備えたうえで判断、即断をすることが求められる。それには、社長を替わるべきだと考えたのです。」
 自ら業を興し、先頭に立ってきた企業経営者にとっては難しい選択である。往々にして中小企業の場合、事業継承は自分の身内に、と考えがちである。無理もないことではあるが、それが企業の存続や成長のための良い答えかといえば疑問である。
 「小なりと言え会社である以上、公のものだと思うのです。自分の思いだけで公私混同をしてはいけない。」と石田さんは語る。
 そして自らの新たなチャレンジの場として選んだのが、株式会社カオスであった。


『夢』をカタチにする事業へのチャレンジ。

 さまざまな業務用情報システムの構築などを通じて地域企業などの事業支援に携わってきたなかで、石田さんが痛切に感じていたことは、「企業は夢を持たなければならない」ということだ。
 「今の世の中を見ていて、中小企業の社長になりたいと思いますか? はっきり言って本人でさえ、そう思わないのではないでしょうか。そんなことで『夢』を描くことなどできないし、後を継いでくれと言っても説得力がないでしょう。『なにか仕事ありませんか』なんて御用聞き営業をしているだけではダメですよ。」
 石田さんは、社員ひとり一人がやる気をだせる経営をと呼び掛ける。
 「つねに提案をしなければ。難しいことを考える必要はないんですよ。今まで培ってきた固有の技術やノウハウは必ずあるはずです。それを活かせる新たな場はないか、と考える。チャレンジしてみる。それでいいんです。」
 もちろん経営である以上、利益は上がらなければならないが、計算ずくだけで事業は成り立つものではない。とにかくチャレンジする時期というものもある。「そこが投資ということなのかも」と石田さん。
 例えば今、株式会社カオスの丸子事業所では、GISを応用した新たな分野の開発が進んでいる。石田さんは、その開発業務を新人たちに委ねた。
 「何故かと言いますとね、まったく新しい分野と言うのは、ベテランでも新人でもスタート地点はそう変わらないのです。だったら、ゼロから、新人の澄み切った目で見て、取り組んでもらうのも1つの方法だと考えたからです。」
 社員たちにも「サラリーマンである以上、1度はトップをめざしなさい」と言い続けている石田さん。
 「技術でトップでも、会社のトップでも何でもいい。夢を持って欲しい。そのための努力になら、出来る限りの手を差し伸べようじゃないかと言っています。」
 21世紀という始まったばかりの新しい世界を視野に、石田さんの第3の挑戦が続いている。



プロフィール
石田晃さん
代表取締役社長
石田晃
(いしだあきら)
中央会に期待すること

 経営というのは、仕事を通して人と結び合い、自分の人生を創り出すことだと私は思っています。次の世代の人たちにもそうした『夢』を描いて欲しい。そのためには、厳しい経済状況の中で、果敢にチャレンジすることのできる場を提供して行くことが大切です。そうしたさらに環境づくりで貢献していただきたいと思います。

経歴 昭和18年7月28日、新潟県上越市(旧直江津)に生まれる。社会人としてのスタートは大阪の伊藤忠グループ。自分らしい生き方を求めて、さまざまな業種に取り組んだ。たまたま完治四年半という大けがをしたことを契機に上田市に移り住み、第2の人生として、昭和57(1982)年、株式会社システムプランを設立。長野県下と東京に拠点を持ち、企業・団体等向けの各種業務用情報システムの構築を手掛ける、県下有数のシステム開発会社に育てた。
平成2年(1990)年、より高度な情報活用による地域産業の活性化を目指し、地元金融機関や会計事務所等の参画を得て株式会社カオスを設立、代表取締役社長に就任。「企業の夢をカタチにする」をテーマに、広範な活動を展開している。
趣味 多彩な趣味を持つが、現在は「花が好きです」とのこと。ことにバラ栽培は本格的で、自宅に180鉢を有しているほど。「やる時は徹底してやりますね」と語る。
現職 株式会社システムプラン 代表取締役会長
株式会社カオス 代表取締役社長
家族構成 妻、子供2人



企業ガイド
株式会社カオス
本社 〒386-0041
長野県上田市問屋町510-2
TEL.0268-23-0202
FAX.0268-27-3139
丸子分室 小県郡丸子町上丸子950 丸子ファーストビル
代表者名 石田 晃
従業員数 11人
資本金 1,000万円
設立 平成2年5月
事業内容 コンピュータソフトウェアの設計・開発、
マルチメディア関連企画・立案・作成、
経営コンサルタント、税務相談、
環境・健康・リサイクル、
人材派遣/代行業務 その他

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