信州の起業人-チャレンジャーたちの系譜-

“~ 自然・安全・健康・環境”を コンセプトに
「人にやさしい食づくり」をめざす。 ~”


中田教一さん

マルマン株式会社
代表取締役社長 中田 教一さん


工場全景
工場全景

アルプスのふところで、自然志向の味噌づくり


 アルプスのふところ飯田市で、自然志向に応える味噌醤油づくりを続けるマルマン株式会社。明治21年に創業し、昭和26年に丸萬醸造株式会社として設立しました。現在代表取締役社長を務める中田教一さんは、創業から数えて四代目。全国の消費者に共感を呼んだ「無添加生みそ」をはじめとして、つねに市場の先を見据えた商品戦略、事業展開を進めている経営者です。


中田式速醸法は現代の味噌づくりの基本

 父親である3代目中田栄造氏は、今日の味噌醸造技術の基本となっている『中田式速醸法』の発明者であり、NHK連続ドラマ「かりん」のモデルとなったことでも知られています。厳密な室温管理によって、四季を通じいつでもスピーディに美味しい味噌を作り出すことを可能にしたこの技術は、特許を取得し、第一回発明大会表彰にも輝くものでした。しかし、戦後の食糧難時代、安定した食糧の確保を目指すGHQの要請を受けて技術公開に踏み切ったのです。
 こうした先代の姿を見て育った中田さんは、子供の頃から家業を継ぐことを意識したそうです。昭和42年に入社し、後継者としての修業に入りました。ところがわずか5年後、父親である3代目栄造氏が急逝したのです。


弱冠27歳で社長に就任

天然醸造蔵
天然醸造蔵
 当時を振り返って中田さんは「最初の5年間は本当に悪戦苦闘の連続でした」と語ります。
 すでに先代社長の頃から、東京・大阪など全国に販路を拓き、『品質のマルマン』『技術のマルマン』という評価を確立していたのですが、その為の設備投資等が影響して借入依存の経営体質であったと言います。さまざまな方策を検討しましたが、最終的には「会社の持つ強みを活かして売上を伸ばすしかない」と決断。このため、大手等競合する他社と差別化できる商品を開発すること、販路を将来性ある分野に切り換えて行くことなどを方針として打ち出しました。
「もともと品質と技術には高い評価をいただいている。でもその一方では昔から『販売下手のマルマン』とも呼ばれていたのです。何しろ、先代は明治カタギで根っからの技術屋ですから、自分が正しいと思うと、お客さまが何といってもテコでも動かない。そういう気風が会社全体に浸透していたのです」。


「小さな企業は後追いではダメです。
つねに先行して、先行利得を獲得して行かないと、生き残れません。」


手づくり麹室
手づくり麹室

本物志向へのチャレンジ

生産ライン全景
生産ライン全景
 そこで、社内の意識を変え、体質を改善していくことから取り組みました。販売先からの情報などをもとに、特長である『品質』『技術』が活かせるよう、あえて高級化路線に取り組んだこともその1つ。本来、自然の摂理から生み出される醸造物としての味噌の特性にこだわり、より天然の風味やコクを備えた商品として創り上げ、お客さまにアピールして行く。それは同時に、業界大手メーカーが着手していない、隙間市場へのチャレンジでもありました。
「5年経って、ようやく経営が楽になったという感じでした。時代の流れに合ったということもあるのでしょう。目指した方向がお客さまに受け入れられ、社員自身も大きな自信を持ちましたし、事業戦略もはっきりした。それはもう天と地ほどの違いでした」。
 昭和54年には、こうした本物志向の戦略を可能にするための拠点づくりとして、工場設備の近代化に着手します。


業界で初の「無添加生みそ」が誕生

 同社にとって本物志向とは、味噌本来の特質に立ち戻り、「自然回帰、安全志向、健康志向」の美味しさを追求するということ。添加物が当たり前にはん濫している中、あえて「無添加」を追求しました。
 味噌は発酵物。生きている限り発酵を続け、発酵ガスを出します。このため従来品では添加物によって発酵を止め、パック詰めしていたのです。それをあえて使わないとすればどうするのか。
「問題はガスなんです。発酵を止めない以上どうしてもガスは出る。ならば出たガスをパッケージから逃がしてしまえばいい」。
 まさに逆転の発想。社内での研究の成果として生まれた新パッケージ法がそれを可能にしました。
 これによって平成3年、業界で初めて「無添加生みそ」が誕生しました。またこの年、同社は味噌生産の近代加工場を竣工させ、併せて社名を「マルマン株式会社」に変更。新生マルマンの「無添加生みそ」は消費者の支持を得て大成功。全国に拡がりました。
「おかげさまで現在でも、無添加生みその分野では、マルマンがナンバーワンのシェアをいただいています」。


有機無農薬原料による味噌づくりを求め中国内蒙古へ

 さらに本物志向の戦略を深めるものとして取り組んだのが「オーガニック=有機無農薬原料による味噌づくり」です。
 問題は、原料となる大豆や米をどこで生産するか。有機無農薬生産は、世界的にもごく限られた地域で行われているに過ぎません。
 そこで着目したのが、中国内蒙古自治区でした。真冬の気温がマイナス30度にも達する同地でなら、虫害に影響されることも少なく、原材料確保も容易です。
「オーガニックに徹すると考えた以上、工場も現地にあったほうがいい。そこで、ウランホト市に合弁の萬佳食品有限公司を設立し、『有機無農薬みそ』の生産に踏み切ったのです」。
 同地の工場及び農場は、オーガニック認証機関によるオーガニック認証を取得。さらにマルマン本社工場においても、国際的オーガニック機関及び日本国内のオーガニック機関の認証をが取得。誰もが安心して、安全で美味しい自然本来の味噌を味わうことができる体制づくりを確立しています。
 この他、マルマンでは、徹底した衛生管理システムの確立を求めてHACCP手法を導入、品質保証国際規格ISO9002認証の取得するなど、わが国の食品業界を先駆ける取り組みを進めてきています。


今こそ、専業に徹すべし

 低成長が続き、産業分野全体の構造変化が続く時代ですが、「こうした時代こそ、専業に徹すべし、である」と中田社長は語ります。
「私共の基盤はあくまでも味噌。その味噌という市場のなかで、小さな分野でもいいから『我々がナンバーワンである』という位置を獲得すること。それを絶えず継続するよう研究開発を行うことだと思います」。
 そして、もう1つの「専業」の意味は技術。醸造という得意技術をフルに活かして新商品・新カテゴリを創造していくこと。
「私たちは、健康飲料シリーズとして、りんご酢・うめ酢・かき酢という商品を発売しています。これを市場に出した時は業界からびっくりされました。同じ醸造でも、酢は酢メーカーという常識があったのですね。しかし私たちの技術が活かせるのなら、そういう常識にとらわれる必要はないのです」。
 日本古来の伝統的食文化である味噌、そして醸造技術を貫きながら、時代のニーズに即した「人にやさしい食づくり」へ。同社がめざす”自然・安全・健康・環境“コンセプトに基づいたものづくりへの挑戦が続いています。



プロフィール
中田教一さん
代表取締役社長
中田教一
(なかたきょういち)
中央会に期待すること

 中小企業は、つねに先行して開発し、先行利得を獲得して行かなければ、生き残れません。しかし、研究開発に必要な情報や知識は簡単に得られるものではありません。ですからそうした部分でこそ、支援をしていく体制を整えていただきたいと思います。

経歴 昭和19年、中田家の長男として飯田市に生まれる。
昭和42年、家業を継ぐため、丸萬醸造株式会社に入社。
昭和46年、先代社長栄造氏の死去に伴い、代表取締役社長に就任。
味噌生産工程の近代化に努めるとともに、業界に先駆けた「無添加生みそ」の開発普及、有機無農薬原料によるオーガニック製法の「有機無農薬みそ」の実用化に腐心。平成8年には中国内蒙古自治区において「有機無農薬みそ」の生産を行う合弁会社を設立するなど、つねに業界を先駆ける事業活動を推進している。
趣味 若い頃には多様な趣味を持っていたが、現在は政治・経済に関するテレビ、読書などが一番の楽しみ。時々ゴルフに出かける程度。
現職 長野県味噌工業協同組合連合会副理事長
全国味噌工業協同組合連合会評議員
家族構成 妻、子供4人



企業ガイド
マルマン株式会社
本社 〒395-0056
長野県飯田市大通212-7
TEL.0265-22-1234(代)
FAX.0265-21-1100
創業 明治21年(1888年)
設立 昭和26年(1951年)
資本金 5,000万円
事業内容 味噌醤油の製造販売、果実酢の製造販売、その他ヘルシーフーズ
事業所 本社工場、東京営業所・大阪営業所・東海営業部・静岡支所
関連会社 萬佳食品有限公司(中国)

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