長野・上田地域知的クラスターが目指す ナノテクノロジーとは何か。

産学官による新たな産業起こしが始まった
○長野・上田地域知的クラスター創成事業スマートデバイスクラスターの形成を目指して
○公設試験場の各種サポートをあなたの企業もご利用ください

限界をみせる従来型技術に取って代わる超微細化技術。

 私たちを取り巻く技術革新は、つねに、さらにミクロなレベルでの現象の理解と、それらを実現させるための微細化技術の追求によって支えられてきたと言えます。
 ミクロン、サブミクロンでの超微細加工・組立・制御を実現するさまざまな従来技術が、半導体に代表されるエレクトロニクスデバイスの作製、プラスチックなどの高分子化学製品の実現、さらに光技術・メカトロニクス・食品科学など、広範な領域で、いわゆる20世紀型産業技術の発展と飛躍を支えてきました。
 しかし、こうした従来技術のスタイルによるマイクロ化には大きな限界が見えてきています。
 例えばエレクトロニクス分野では、従来原理に基づく電子素子は50nm(ナノメートル)が限界とされており、将来必要とされる微細化レベルに対して、少なくとも1桁~2桁の精度・効率不足が見込まれています。
 これを解決する手法として期待されているのが「ナノテクノロジー」なのです。
 ナノメートルのサイズに私たちが入っていくには、2つの方法があります。1つは上から(トップダウン)、もう一つは下から(ボトムアップ)です。
 トップダウン型とは、これまで私たちが取り組んできた、より微小化に向かうやり方です。材料の加工技術をさらに高め、言わば精度の壁を細かく切り崩しながら、ナノメートルの世界に迫っていくものです。これに対してボトムアップ型のナノテクノロジーでは、原子や分子を組み合わせる(アセンブリ)ことによって、いままでになかったような機能を人工的に発現させていこうとするものです。
 ナノレベルに対する研究はすでに1960年代から取り組まれてきましたが、その中で解ってきたことは、原子・分子を直接操作することによって、従来にない新たな機能や性能、効果が生じることがあること。これによって、従来技術をはるかに超えた新デバイスを実現していく可能性があるということでした。
 この考えに基づき、一九七四年、わが国の谷口紀男教授が国際生産技術会議において提唱したのが、今日注目される「ナノテクノロジー」の概念です(図3)。さらにこの概念は、米国のクリントン大統領の発言によって、次世代の最も重要な技術キーワードとして世界に広まることとなりました。


■図3 「ナノテクノロジー」概念

図3 「ナノテクノロジー」概念
定義
 ナノメートル(nm:10億分の1メートル)レベルの構造体を人工的に造り上げ、微小なユニットないし、その結合体に特定の機能をもたせたもの

 ナノレベルで原子・分子を制御し、その物質の特性を活かす加工技術により、新たな機能・特性を持つ新素材の開発、それまで限界とされていた技術開発のブレイク・スルーを可能にする。


十億分の一スケールの世界とは。

 ナノとは、10億分の1のスケールのこと。すなわちミクロンのさらに1000分の1という超微細な世界です。
 人間の髪の毛で50~80ミクロン程度。血液中の赤血球や白血球が2~5ミクロン程度。さらにその千分の一というわけですから、自然界においては、ナノレベルの物と言えば、物質を構成する分子や原子の領域なのです。例えば、今さまざまな話題を提供しているDNAが、二ナノメートル程度と言います。
 まさに、ナノスケールでの技術とは、原子・分子を直接操作していくことを意味するのです。
 ナノテクノロジーが可能にすると見られている、革新的な製品・部品等の領域は極めて広大です。
 ことに、次世代マイクロエレクトロニクス、次世代情報通信システム用デバイス、環境・エネルギー利用高度化技術、医療用・極限環境用等のマイクロマシン、生物メカニズム応用機器などの分野では、いち早い実用化が求められているという状況もあります。
 長野県の産業分野との関連で言えば、図4にみるような技術分野においての実用化が期待されています。


■図4 ナノテクノロジーが実現するスマートデバイスの木

図4 ナノテクノロジーが実現するスマートデバイスの木


ナノテクノロジーは究極の産業技術。

 長野県の産業技術は、従来から、電子・電機・精密機械等を主体として、各種機能部品や超精密加工・組立などにおいて優れた基盤を形成してきた経緯があります。ことにそのバックボーンとなる超微細加工等のプロセス技術では現在も大きな強みを発揮しています。
 このバックボーンを活かしながら、信州大学や県内の公設試験場などを研究開発の中核として、ナノテクノロジーの実用化に向けた研究開発プロジェクトがすでに始まっています。
 信州大学工学部を中心としたプロジェクトでは、ナノカーボン材料技術をベースとし、超潤滑性、高強度性、超精密加工性、導電性などを備えた革新的な機構部品の開発を進めています。
 信州大学繊維学部を中心としたプロジェクトでは、機能性ナノ高分子材料技術をベースとして、有機LDE素子の開発、およびその応用製品の開発が進められています。
 ナノテクノロジーは本質的に分野横断的な基盤技術であり、従来型の縦割りでなく、各分野の研究者・技術者が有機的なネットワークを構築し、相互に情報交換ができる仕組みが不可欠とされています。こうした従来の産業技術開発とは異なるパラダイムのもとでの研究開発を通じ、さらに活力ある長野県産業の未来が拓かれていくことが期待されています。


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