トピックス東西南北 (有)ファミリー食品(下伊那郡喬木村) |
サラリーマンからの転身、起業。 ![]() この商品を実現させたのは、(有)ファミリー食品(下伊那郡喬木村)の代表を務める羽生嘉伸さん。技術畑のサラリーマンから転身した起業家です。 もともと電子部品製造を手掛ける地元企業に技術者として三十年余勤務していた羽生さん。同社で取り組む製品の海外生産に伴い、管理職としての海外転勤の話が持ち上がりました。しかし「病気がちの父を残して海外へは行けない」と退職を決意。これを契機として起業を決断しました。 「家内は、花屋やペンションなどを考えていたようですが、私は最初から食品に携わることを目指していました。」 その理由の一つは、ある金融機関の方から「これからは環境の良さを活かした食品加工の時代がくるのではないか」と聞かされたこと。伊那谷の清冽な空気と美味しい水を活用したものづくりを目指そうと考えました。 微粉砕技術との出逢い。 もう一つの理由は、サラリーマン時代に経験したことがバックボーンとなっています。ある時、塗料の粉砕技術を手掛けることになり、このために全国の事業者を訪ね歩いて、技術を吸収したのだそうです。その中で出逢ったのが、特殊な微粉砕技術でした。 「こうした微粉砕技術を応用して、あらかじめ大豆を粉砕しておけば、おからを出さない豆腐ができるのではないか、と考えたのです。」 豆腐開発には3年を要しました。ことに微粉砕については、精度にバラツキがあるなど試行錯誤の連続。よりよい粉砕機を求めて六社の業者をテストしたといいます。その結果、精度・品質管理面でようやく満足のいく技術を確立しました。 地元産の大豆と水を活かして。 ![]() 粉砕した大豆パウダーと水を混合し、煮沸して凝固させ、細断するまで30分程度。1日に600丁を生産します。従来の製法では、あらかじめ大豆を水に浸潤させる工程があるため10~15時間を要していましたが、粉砕技術の導入により、製造工程を一挙に効率化させました。 と同時に、粉砕をすることによって、原料大豆がすべて豆腐に加工されるため、おからは一切発生しないことが強みとなっています。栄養価に優れたおからは、古くから健康食品として、また飼料としても活用されてきました。しかし今日では需要が限られており、その大半が産業廃棄物として処理されているのが現実です。食料資源をむだにしない、また環境に優しいという意味でも意義を持っています。 食品は「味」が勝負。食感への挑戦。 「最初の頃は、お客さまから、食べるたびに味が違う、という指摘も受けました。従来の豆腐とは味わいが異なるのは当然なのですが、どうやら味というより食感の問題なのだろうと考え、対策を施していきました。」 食感の違いとは、おから成分が含まれていることによって生じているもの。それをどのように対処していくかが、開発のポイント。このため羽生さんは、技術者時代に活用していた実験計画法を採り入れ、おいしい食感の確立を図りました。 こうして実現された「大豆本来の味がする豆腐」は、好感を持って消費者に迎えられました。販路は、JAなどの店頭販売、中央道のサービスエリアやテーマパークでの土産販売、通信販売などでも広がっています。 全国の豆腐製造事業にも拡がる。 また同製法を導入し、豆腐製造に取り組んでいる業者はすでに全国各地で22社にのぼります。大豆まるごと豆腐振興協会という任意団体を形成しています。 製法については特許を申請中であり、年内にも認定されるとみられています。 羽生さんは、これからの展望として、豆腐製造にとどまらず畑の肉と呼ばれる大豆の特性を活かした食品づくりなどにも展開していきたいと考えています。また独自に構築した新製法を通じて、豆腐製造事業者の底上げに貢献していきたいと考えています。 「私たちのつくる豆腐は、これまでの事業者の方にとっては異質なものと感じるでしょう。ある業者は『これは豆腐ではない』と語ったとも聞いています。しかしその業者の息子さんは、社員の方々と試食して『旨い』と評価をされ、関心を持って下さっているそうです。消費者の価値観が変わってきているなかで、業者の意識も変わっていく、代わっていかなければならないと思います。その先駆けとして、私たちは希望を与え続ける存在でありたいと思います。」 取材・構成/中央会南信事務所 滝澤秀樹
|