木崎湖温泉開発株式会社 代表取締役 遠藤庄平さん |
レジャーのメッカにたたずむ「ゆーぷる木崎湖」
その湖畔に、エメラルドグリーンの屋根を見せているのが木崎湖温泉「ゆーぷる木崎湖」。平成8年4月にオープンした日帰り利用型リラクゼーション施設である。特徴は、豊富な天然温泉を活用し、大町市営の温泉プールと、地元の開発になる温泉利用施設を複合していること。木崎湖への観光客にとどまらず、幅広い人気を集めている施設である。 この温泉施設を運営する木崎湖温泉開発株式会社の社長は遠藤庄平さん。20代後半に携わって以来、観光ひと筋という方である。 「もともと事業家でもなんでもない、地元の農家の人たちが創り上げてきた観光地ですから。皆、試行錯誤でしたね。」 行政と地元がジョイントする、新施設の誕生 木崎湖温泉の誕生は、昭和50年にさかのぼる。豊富な湯量を持つ高瀬渓谷の葛温泉からの引湯事業が長野県企業局の開発によって行われており、この一部の分湯を企図したものである。 この受け皿として、地元の観光事業者が集まり、木崎湖温泉事業協同組合を設立。旅館・民宿等への給湯を行ってきていた。 ところが、一部とはいえ、事業協同組合が確保する湯量は毎分200リットルに達する。受け入れ側にはそこまでの需要がないことから、この湯を活用しつつ、観光誘客の促進を図る手段として考えられたのが、日帰り利用も可能な大型浴場施設であった。 たまたま引湯事業が県から大町市に移管される予定になっていた。市は、これを機に温泉の有効活用による地域活性化を目指しており、市民の要望が多かった温泉プールを設けることにした。 「そこで私たちの求めている温泉施設と複合化させようじゃないかとなったのです。」 行政と地元とのジョイントである。一種の民活でもある。 市の温泉プールと木崎湖温泉とは互いに気軽に行き来できる連絡部分を持っているが、施設としてはそれぞれ別途の建物である。 温泉利用施設の総工費は5億6000万円。入浴施設だけではものたりなかろうと考え、宴会場とレストランを合わせ持つ、くつろぎの場として開発した。 評判は口コミで広がる 温泉は、和風と洋風の施設を持ち、子供からお年寄りまで、さまざまな階層の方々に楽しんでいただけるようにした。また衛生管理については当初から管理指導の徹底を図った。 宴会場は、地元や周辺地域からの誘客を想定し、一方のレストランについては洋食をメインとしてスタートした。 「ところが、利用されるお客さまを見ていると、家族連れや中高年層の方が予想以上に多いのです。食事も和風を好まれる。また、いわゆる地の物が欲しいと言う声が高かったのです。そこで和風に切り換えていきました。」 特色ある食材として選んだのは、木崎湖で獲れるなまずである。淡水魚の中でもくせがなく、多様な料理に活用できるなまずを主力に据えた。新鮮な食材を最も良い状態で提供するため、井戸水を引いたいけすを設けて、活魚のままで供するようにした。 新鮮ななまず料理は大好評。刺身、蒲焼、唐揚げ、天ぷらなど、そのさっぱりとした味わいが好感をもって迎えられている。 また小谷村の山中から社員が自ら採ってくる天然の山菜を使った料理も評判がいい。季節折々の味わいを供している。 そうした手間と工夫を惜しまない努力が、口コミで広がっている。 「いろいろな宴会をお引き受けしているのですが、どうしたわけか長野や松本などからも、お問い合わせが来る。どうして知ったのですかとお尋ねすると、知人に聞いたと。わざわざ、連絡先を探して問い合わせてくださるんですから、ありがたいことです。」 先の課題を見つめたチャレンジも もともとレジャーの木崎湖畔に立地しているため、遠来の観光客も多い。また大町市周辺のリゾートへのアクセス経路にもあることから、さまざまな目的で信州を訪れた観光客が立ち寄る。事業の立ち上がりとしては奏功をおさめてきたと言えよう。 しかし、これからのことを考えると課題もあると遠藤さんは言う。 「一つは、この周辺にもさまざまな日帰り利用型の温泉施設が増えてきたことです。そうした中で、どのように差別化を図って行くか。 もう一つは、従来の長野県観光の軸を担っていたスキー観光が低落している。時期の分散化や観光目的の多様化が進んでいるなかで、どのようにしてお客さまに満足を提供できるかということです。」 その対策として既にさまざまな取り組みを進めているという。 周辺施設などを利用したマレットゴルフ大会、盆踊り納涼大会、クリスマスなどの季節のイベントの実施。冬期には、スキー場リフト券と入浴券とのセット販売。地元観光協会と連携し、トレッキングコースの開設にも取り組んだ。 地域の高齢者の方々に向けた巡回バスサービスもその一環だ。これは週2回、バスを巡回して送迎し、半額料金で気軽に利用していただくというものである。 「われわれの商売は生き物です。どんなに旨いことを言っても、 お客さまのお帰りの際には本音が出てしまうものなのです。」 いま地域観光産業の活性化のためには さらに、地域としての観光事業のあり方を変えていかなければならないのではないか、と遠藤さんは語る。 「全体としての傾向をいうと、大町市の観光は、通過型観光が主であって、じっくりと滞留し、のんびり楽しんでいただく滞在型観光になっていない。魅力ある器はあるが、それを活用したソフトができていない。」 大町市には、名前は知られていても、存外活かされていない資源も多い。例えば高瀬渓谷。その景観の素晴らしさは宣伝されているが、観光的な環境整備がなされていないため、人が行かない。 「居谷里湿原のミズバショウもそうでしょう。こういう地場の資源を改めて見つめ、それらを活用した体験型の観光に結び付けることはできないか。見るだけ、ちょっと遊ぶだけではなく、体験をし、学び、心を豊かにする観光のあり方を具現化するものがもっとあっていいと思います。」 事前にお客さまの動向を読む 観光地を見るお客さまの目は肥えている。いろんな所へ観光に行き、それこそ大資本が贅を尽くしたような施設や、至れり尽くせりのサービスや、世界の食を楽しむことも容易にできる時代。 「私共のような地元の人が素朴にやっている所には、もちろん真似のできないことです。でも同じような環境で素晴らしいもてなしをしているところもあります。ですから、これからの観光業者は、もっといろんな所を見て、肌で学ぶ研修をした方がいい」と遠藤さん。 「われわれの商売は生き物ですから。どんなに旨いことを言っても、お帰りの際には本音が出てしまうのです。言葉に出なくても顔やしぐさに出てしまいます。それでは遅い。お客さまを失っているわけです。ですから、事前にお客さまの満足度合はどのあたりか、その度毎に検討しながら答えを出して行くべきですね。」 |
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