第3章 廃業・倒産とその教訓
第1節 廃業率の動向と廃業に至る経路
第2節 マクロ経済指標、企業属性と倒産の関係
第3節 失敗から活かされる教訓

第1節 廃業率の動向と廃業に至る経路
 本節では、企業の退出の一形態として廃業を取り上げ、近年の廃業動向や、どのような属性を持つ企業が廃業するか、廃業へ至る過程等を分析する。

ポイント
破産した経営者約200人に対する調査(平成13年12月実施)によると、いったん破産した経営者が再び経営者として復帰することはアメリカに比べ少ない。また破産した経営者のうち4割は再起業を希望しているが、アメリカと比べればその割合は低い。

●概要
 破産後から現在(平成13年12月調査時点)までの経営者の行動をみると、50%は現在労働していなかった。そのうち56%は、既に積極的な仕事探しを止めてしまっていた。残りの50%は就業したことになるが、そのうち再び経営者になったケースは少なく(26%)、大多数は被雇用者となっている(74%)。
 これをアメリカにおける調査と比較すると、アメリカの場合、破産経験者の88%が破産後再び就業していたことが注目される。そのうち53%が、再度、経営者として復帰していた。
 アメリカにおいては『本来的企業家(committed entrepreneurs 破産企業を始める前にもいくつもの企業を所有し、破産後もすぐに他のビジネスを開始している経営者)が存在する一方、我が国においてはそうした起業家はほとんど見られない。


破産経験者のその後の動向
~我が国において、破産経験者が再び経営者に復帰することは少ない~

破産経験者のその後の動向



再起業への意志確認
~アメリカに比べれば少数に留まるが、
我が国破産経験者の中にも再起業の意志ある者が少なからず存在~

再起業への意志確認



第2節 マクロ経済指標、企業属性と倒産の関係
 本節では、企業の退出の中でも社会経済に与える影響がとりわけ大きいと考えられる倒産について、長期的動向及びマクロ経済と倒産の関係を分析するとともに、どのような企業が倒産に至ってしまうのかを、生存している企業と比較しつつ論じる。

ポイント
再起に当たっては、資金面の問題・ビジネス信用上の問題が 大きく横たわっている。

●概要
 破産という苛烈な倒産を経験してしまうと、その後の再起は難しい。一度破産を経験した者が意欲を失って再び就業しないことや、再び起業する意志を持ちながら実際には起業できないという現状は、失敗という貴重な経験が散逸してしまうことから、社会経済的にも損失であるといえる。
 再び起業する際には、自己資金の工面や金融機関から資金の調達ができないといった「資金面の問題」や、取引先との関係において信用が低下してしまうといった「ビジネス上の信用の問題」等、多岐にわたる障害が存在する。廃業・倒産経験者の経済面、心理面での負担を少しでも軽減し、再び起業にチャレンジできるような環境をつくっていくことは、非常に重要であると考えられる。


再起業への障害
~再起業の意志ある者にとっては、資金面の問題が最大の障害~

再起業への障害



第3節 失敗から活かされる教訓
 本節では、廃業・倒産を経験した経営者が、その後どのようにその経験を活かしているのかを分析する。また、このような経験をした経営者が再起できるような環境づくりの重要性を示すとともに、近年における環境整備への取組について言及する。

ポイント
財産があまりなくても創業に至るケースも存在。このような障害を乗り越えて2度目の創業に到った経営者は、失敗の経験を活かして良好な経営を行うことが多い。

●概要
 廃業・倒産を経験した経営者は「2度目の開業」時に高い学習効果を発揮している。「2度目の開業」企業の経営者は、創業準備時に「財務・法務等の知識の習得」、「経営全般に必要な知識・ノウハウの習得」といった経営能力面や、「開業に伴う各種手続き」といった制度・手続面で、いずれも新規開業企業の経営者より困難を感じるとする者の割合が少ない。


廃業直後の資産状況
~廃業後、現預金のほとんど残らなかった経営者や、自宅・店舗等を売却した経営者も
「2度目の開業」に成功している~


廃業直後の資産状況



「2度目の開業」企業の経営パフォーマンス
~「2度目の開業」企業は、収支状況等で高いパフォーマンスを示す~

「2度目の開業」企業の経営パフォーマンス


第4章 中小企業金融の課題

第1節 中小企業の資金調達の特性
 中小企業のいずれのライフステージにおいても金融面の制約克服、資金の円滑な調達が重要な課題である。そのため、中小企業の資金調達の現状について概観した上で、企業の状況、主要取引先金融機関の業態の違いや取引の長さ等により、資金調達条件がどのように異なるか、金融機関の中小企業向け貸出しは、どのように決まるのか等を分析することにより、中小企業の資金調達円滑化の方途を探る。

第2節 金融機関の中小企業向け貸出しの変化とその原因
 本節では資金を供給する金融機関に着目して、金融機関の中小企業に対する資金供給姿勢を分析する。
 中小企業は自己資本に乏しく、自己資本以外の負債の多くを借入金に依存している。しかしバブル崩壊以降、長期的には金融機関の中小企業向け貸出残高は減少傾向にある。その背景には、不良債権等による金融機関の財務状況があり、中小企業側の売上高減少が借入需要を減退させている側面もある。


第5章 中小企業の雇用創出・喪失

第1節 雇用の変動状況
 本節ではマクロ的視点から、短期的・中長期的な雇用変動の分析、さらに景気との関連、地域による違いについて分析を行う。

第2節 創出・喪失される雇用の内容
 雇用の「内容」の面から考えると、どのような雇用が創出・喪失されているのかを見る。


まとめ 「まちの起業家」と経済活性化(欧米の教訓)

●概要
 本書では中小企業の創業、成長発展を中小企業のライフサイクルとしてとらえ、そこで直面する問題について分析を行った。
 また、創業というリスキーな試みが盛んになるためには、失敗したとき、再起のチャンスが失われることがあってはならない。本書ではこうした観点からライフステージの最後の段階、廃業・倒産について分析を行うとともに、破産経営者の状況を紹介し、再起の条件を探った。
 さらに中小企業のライフステージすべてに関係する金融について、借り手中小企業の財務、金融機関側の財務状況によって資金配分の非効率が生じる可能性があることを示した。
 さらに雇用の面において中小企業が果たす役割を見てきた。
 「中小企業」というと長期的に衰退するものであり、中小企業政策とは経済政策というより社会政策であるという見方は、なお日本人の意識の中には根強い。しかしながら、世界の政府、学者の間ではこれと全く異なった中小企業観が共有されつつある。すなわちひとりひとりの「まちの起業家」が成し遂げる雇用創出、イノベーションはささやかなものであるが、これらの総和を見るとその役割は非常に大きく、彼らこそが経済構造改革の旗手であるとの認識が普及しつつある。
 日本経済が現代の状況を脱するためには、英米で起こったように中小企業者それぞれが主役として活躍し、その総和が大きな流れとなる、こうした過程が生まれることが課題であろう。


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