第2章 中小企業の発展成長と経営革新
第1節 経営革新(イノベーション)により発展成長する中小企業
第2節 中小企業の研究開発活動
第3節 中小企業の成長と事業転換

第1節 経営革新(イノベーション)により発展成長する中小企業
 創業期を乗り越えた企業の成長度合いには大きな差が生まれる。本章では、経営革新が企業パフォーマンスに与える影響を分析し、創業期の危機を乗り越えた企業のみならず、あらゆる企業にとって経営革新(イノベーション)活動が重要であることを示していくとともに、活力ある中小企業の活動による経済活性化の道を示していく。

ポイント
企業も人間と同じく年を取ると、成長力は減退する。経営革新を行うことにより、成長力を持続することは可能であり、経営革新は「若返り」の薬と言える。

●概要
 経済産業省「企業活動基本調査」を基に常時従業者数の増加率を見ていくと、企業規模に関係なく、企業年齢が高いほど企業の成長性は低下することが分かる。すなわち、法人たる企業にも自然人と同じように「老化」が存在するといえる。
 この「老化」を防止する手段の一つが経営革新活動である。この処方はすべての企業に必ず効くというものではないが、自社にあった取組を行う企業群はそうでない企業群に比べ、多くの場合、若返りを果たしている。
 例えば、「企業経営革新活動実態調査」を基に経営革新活動に取り組んでいる企業と取り組んでいない企業を比較すると、前者の方が後者より常時従業者数増加率が高くなっていることが分かる。
 これらに示されているように、企業の経営革新活動への取組は、法人においても避け得ない「老化」現象からの脱却、すなわち、若返りのための処方箋として有効な取組である。


企業年齢別従業者数伸び率(1995~2000年)の平均
~企業にも存在する「老化」現象~

企業年齢別従業者数伸び率(1995~2000年)の平均



経営革新取組有無による成長率の違い
~取組企業と非取組企業の間に明確な差~

経営革新取組有無による成長率の違い



ポイント
中小企業の経営革新の内容としては、「新商品開発」
「新しい販売・顧客管理・社内管理等の手法の導入」等が多い。

●概要
 経営革新に取り組んできた企業について、最も重点的に取り組んだ活動の内容を見ていくと、企業規模にかかわらず、新商品開発に重点を置く企業の割合が多くなっている。また、小規模企業においては多角化、既存製品の改良への取組割合が高く、社内体制における新体制の導入については低い割合となっている点に特徴がある。これは、厳しい販売環境や、移り変わりの激しい市場環境に必死で対応しようとする中小企業の姿を示している。


最も力を入れた活動内容
~対外的アピールの強い活動に注力~

最も力を入れた活動内容



ポイント
全国の5,000の商店街を対象にした実態調査(回答1,702社)によると、大規模小売店舗が退店した商店街であっても、商店街としてまとまりを有し、店舗誘致、業種構成適切化等きめ細かい経営革新に取り組むことにより、むしろ来街者の増加に成功しているところが少なくない。

●概要
 商店街は、来街者の減少や空き店舗の増加など引き続き厳しい状況にある。大規模店舗の出店が相変わらず商店街にとって脅威となっている一方、商店街と共存共栄関係にあった大型店の退店は、年間販売額の減少に見られるように商店街に大きな影響を与えている。
 しかし、中小企業庁の「商店街実態調査」(2000年)によると、大規模店舗の出退店という大きな環境変化にもかかわらず来街者を増やしている商店街も少なくない。
 その取組をみると、閉店時間の繰り下げや休日開店の努力、店舗の誘致等、様々な面において取組を強化している商店街が来街者を増やしている。これらから、全般的に厳しい経済環境の中でも、考え得る限りの努力を行うことにより、来街者の増加・商店街の活性化を図ることが可能であることが分かる。


大規模小売店の退店にもかかわらず
来街者を増加させている商店街の特徴とは?

大規模小売店の退店にもかかわらず来街者を増加させている商店街の特徴とは?



第2節 中小企業の研究開発活動
 中小企業の経営革新活動をもたらす源泉の一つとして、研究開発活動を挙げることができる。そこで研究開発活動が中小企業の企業パフォーマンスに与える影響、経営革新活動に与える影響等を分析する。さらには、研究開発活動を行う重要な戦略としての産学連携についても分析を行う。

ポイント
経営革新と深く関係する研究開発活動についてみると、中小企業は大企業では取り組みにくいハイリスクの研究開発をも積極的に実施している。

●概要
 中小企業では大企業と比較して、1. 特に従業員50人以下の企業にあっては高いリスクを見込んだ研究にも積極的に取り組んでいき、2. 比較的短期間で成果の見込まれる開発活動に傾斜する傾向がある。
 これは、中小企業では経営者の一存で比較的自由にリスクの高い分野にも取り組むことが可能であること、リスクの高い分野に取り組む代わりとして、短期で見切りを付けるケースも多い可能性があること等によるものであろう。


見込み成功率50%未満の開発活動に取り組む企業割合(製造業)
~リスクの高い研究開発にも積極的な中小企業~

見込み成功率50%未満の開発活動に取り組む企業割合(製造業)



ポイント
これまで、中小企業の産学連携は大企業と比べ活発ではなかったが、実際に連携した企業についてみると、大企業と遜色ない効果を生んでいる。取り組むための情報不足が連携を妨げている面がある。

●概要
 中小企業の研究開発においては、外部資源の活用が重要であり、産学連携は研究開発にかかる人的資源を外部から補う有効な手段となり得る。欧米での調査を見ると、産学連携の効果は大企業より中小企業の方が大きいとの報告が多くなされている。
 翻って我が国では、企業規模が大きくなるほど産学連携を経験した企業の割合が増加し、企業年齢別でも年齢の高い企業ほど取組割合が高い。大学とのつながりは属人的な要素であることから、業歴や経営実権者の持つ「人的ネットワーク」に左右されやすいことを示している。
 常時従業者数増加率の違いを見ると、産学連携に取り組んだ企業は、概して取り組んでいない企業よりも高い成長を示している。
 今後、企業側、大学側が相互に認識し理解した上で、イノベーションの創出や企業の成長に非常に有用な活動として、連携活動を活発に行っていくことが望まれる。


産学連携取組状況

産学連携取組状況



産学連携の効果

産学連携の効果



第3節 中小企業の成長と事業転換
 事業転換は、企業にとり積極的な事業拡大戦略として、また低迷脱却のための戦略として位置付けられる。
 「企業経営革新活動実態調査」から事業転換を行う理由を見ていくと、中小及び大企業では「既存事業の状態に関係なく、ビジネスチャンスを感じて」、「市場ニーズの多様化への対応」といった積極的な理由から事業転換を行う企業の割合が高いことに対し、小規模企業では「既存事業への不安」から事業転換に至るケースが多いことが特徴的である。
 ここでは事業転換を経た企業の事例を見ていくことで、中小企業が事業転換という経営戦略を成功させるためにどうすればいいのかを考察する。


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