第2部 誕生、発展・成長する存在としての中小企業(要約)

第1章 中小企業の誕生
第1節 創業者の誕生
第2節 開業率の推移及び業種別・地域別に見た開業率の分析
第3節 誕生直後のパフォーマンスと開業形態
第4節 開業の国民経済的意義

第1節 創業者の誕生
 第1節では我が国の創業者がどのような人たちなのかに焦点を当てて、創業を妨げる要因の分析を行った。

ポイント
創業希望者は、この20年強一貫して100万人を超えているものの(最近時点では124万人)、創業実現率は長期的に低下。

●概要
 我が国経済が再び蘇るためには、企業の大半を占める中小企業における経営革新とともに、多くの新しい企業が生まれることが求められている。しかしながら、現状では創業は低迷している。
 1960年代の我が国の開業率は高い水準にあったが、現在は、廃業率以下の水準に落ち込んでいる。


創業希望者と創業実現率の推移
~底堅く存在する創業希望者と低下傾向の創業実現率~

創業希望者と創業実現率の推移



ポイント
100万人を超える創業希望者の実像をみると、 実際に創業した者に比べて若年層・高学歴・男性が多い。

●概要
 性別内訳を見ると、創業希望者の約8割は男性となっているが、実際の創業者はその比率に比べ女性が高い割合を示している。
 年齢別内訳を見ると、創業希望者では29歳以下と30代の若年層が全体の6割を超えているが、実際の創業者は中高年層が多くなっている。
 学歴について見ると、創業希望者の26%は大学・大学院卒となっているが、実際の創業者は創業非志向者と変わらない数字となっている。
 創業者の親の職業では、会社経営者が全体で見ると約4割を占めており、若年層ほど、その割合が高くなっている。
 創業者の創業時の保有資産については、29歳以下では、約6割が500万円未満となっており、高年層ほど保有資産が多くなっている。
 こうした結果のうち、大学・大学院卒の人が創業することを回避するのは、被雇用者でいた場合でも、高収入を得る可能性が高いことからであろう。また不動産資産保有者で創業しやすいのは、不動産資産を担保とすることで創業資金を金融機関から調達することができ、より創業実現に有利な位置にあることが考えられる。


創業者・創業希望者・創業非志向者の比較
~2者の中で比較的若年層が多い創業希望者と60歳以上の割合が高い創業者~

創業者・創業希望者・創業非志向者の比較



~2者の中で比較的大学・大学院卒の割合が多い創業希望者~

創業者・創業希望者・創業非志向者の比較



ポイント
創業時の困難性をみると、資金面の問題が大きく、その他マーケティング・人材面等の問題もある。制度、手続き面の困難性を上げる者も多い。

●概要
 中小企業庁「創業環境に関する実態調査」では、創業時の困難性として「自己資金不足」、「創業資金の調達」といった資金面に関わるものがそれぞれ49%、33%となっている。その他、「販売先の開拓」、「仕入先の開拓」といったマーケティング面に関わるものがそれぞれ34%、16%となっている。また、「人材の確保」といった人材面に関わるものが32%、さらに「開業に伴う各種手続き」、「事業分野における規制の存在」といった制度に関わるものが、それぞれ22%、9%となっている。すなわち創業に関わる困難な問題として第一に資金、次いでマーケティング面や人材、そして制度の問題があるということである。
 開業に伴う法人設立手続について、アメリカ、イギリスと比較してみると日本はアメリカ、イギリスに比べて手続数も時間も費用も掛かっている。こうした差は創業を現実のものとできない要因の一つといえよう。


創業時の困難性
~資金関連に困難を感じている創業者が多い~

創業時の困難性



ポイント
資金面の困難性は創業希望者で割合の高い比較的若い層で深刻。
資金調達先としては、家族、友人等の「顔の見えるネットワーク」も重要。

●概要
 創業時の困難性について創業時の年齢別に見ると、特に40代以下の層の創業において問題点として強く意識されている。他方、50代以降の創業では、販売先の確保が創業時の困難性の中で高い割合を占めており、自己資金不足は若年層に比べると、それほど高い割合を占めていない。若年層が創業する場合、一定の資金制約が作用していることをうかがわせる。
 創業時の資金調達先では、約8割近くが自己資金を投下しており、親・兄弟・親戚等からの出資・借入、民間金融機関からの借入が続く。結果として親族、知人、元職場等「顔の見えるネットワーク」からの資金調達が創業において重要な役割を果たすことが分かる。これに対して、ベンチャーキャピタル、ベンチャー財団といったビジネスライクな関係からの出資・借入はごく少数に限られている。
 ここまでの分析を総合すると若年層ほど、創業を決定づける主要な要因は創業時に資金を十分に調達できないという「流動性制約」にあるといえそうである。つまり、創業を希望する者が多い、若い有業者ほど、実際には、流動性制約という創業に対する「資金的壁」の影響を受けやすいのである。


創業時の困難性(創業時の年齢)
~若年層ほど資金調達に困難を感じている~

創業時の困難性(創業時の年齢)



創業時の資金調達先
~約8割が自己資金を用意、顔の見えるネットワークを通じた資金調達の重要性~

創業時の資金調達先



第2節 開業率の推移及び業種別・地域別に見た開業率の分析
 本節では、開業数を既存の者の数で割って得られる開業率に焦点を当て、近年の開業率の動向を見た上で、開業率がどういった要因に影響を受けて動くのか、そのメカニズムを考察する。

ポイント
我が国の開業率は長期的にみて低下傾向。我が国経済の成長低下が主因の一つであるが、自営業者の被雇用者に対する相対所得の低下も開業率低下の大きな原因。

●概要
 総務省「事業所・企業統計調査」によると、1980年代に入って開業率は低下し、1989年以降、開業率は廃業率を下回る水準となった。
 法務省「民事・訟務・人権統計年報」、国税庁「国税庁統計年報書」より、会社の新規設立登記数と納税申告会社等数から会社開業率及び会社廃業率を試算できる。こうして算出した会社開業率についても高度成長期以降、長期にわたり低下傾向が見て取れる。
 開業率を決定する経済要因としては、実質GDP成長率、失業率、実質金利、事業者対被雇用者収入比率、地価がある。
 実質GDP成長率については、70年代以降の長期的低下傾向は事業機会の減少を意味し、開業率低下につながることは明らかである。しかし、それとともに注目するべきは自営業主所得の相対的低下の影響である。事業者対被雇用者収入比率の推移を長期的に見ると、70年代初めから被雇用者収入に対する自営業主収入が減少を続けており、金銭面において、自営業主であることが被雇用者であることに比べ、引き合わなくなっていることが、開業率の低下に寄与していると見られる。
 中小企業は苦労やリスクの割に報われない存在というイメージが定着しつつある。こうしたイメージは実態面の自営業主、被雇用者の相対所得の関係を反映していると考えられ、そうした相対所得の変化が開業率の低下に現れている可能性がある。


事業所数による開廃業率の推移(非一次産業、年平均)
~高度成長期と比較して低下する開業率~

事業所数による開廃業率の推移(非一次産業、年平均)



事業者対被雇用者収入比率の推移
~70年代初めから事業者対被雇用者収入比率は低下を続けている~

事業者対被雇用者収入比率の推移



開業率と事業者対被雇用者収入比率の関係
~事業者対被雇用者収入比率と開業率には正の相関関係が見られる~

開業率と事業者対被雇用者収入比率の関係



第3節 誕生直後のパフォーマンスと開業形態
 本節では、開業に至った企業がスタートアップ期に直面する危機とはどういうものか、またこうした危機を乗り越えて、更に成長していく企業のあり方を考察する。

ポイント
開業1年以内の退出は約3割と高いが、他方で黒字軌道に乗せる企業も多い。特に創業者が若く、斯業経験がある場合、成功する確率が高い。創業すると成功しやすい若年層が、現実には資金制約が大きく創業に到っていないことが課題。

●概要
 経済産業省「工業統計表」より、開業後の経過年数別退出率を見ると、1年目で約3割近くが消滅する。しかし、この危機を乗り越えると、2年目、3年目以降の退出率は次第に低下し、4年目以降はほぼ安定する。
 これには、開業直後の経営知識・ノウハウの乏しさ、規模の過小性が影響している。また研究開発集約型業種に属し、従業者規模が大きいところが1年目の危機を乗り越えやすい。
 1. 若い時期に開業し、2. 関連した仕事の経験があり、3. 子供の時から経営者を目の当たりにできる環境にある起業家であるほど、成功する確率が高い。


開業年次別事業所の開業後の経過年数別退出率(製造業)
~1年目の退出率は高いが、2年目、3年目と年を経るごとに安定してくる~

開業年次別事業所の開業後の経過年数別退出率(製造業)



新規開業企業の収支状況(開業後2年以内で黒字と答えた者の割合)
~主に1. 若年層、2. 斯業経験が長い者ほど好業績といえる~

新規開業企業の収支状況(開業後2年以内で黒字と答えた者の割合)



第4節 開業の国民経済的意義
 我が国経済の活力維持及び強化のためには、低迷する創業を活性化することが不可欠である。
 その意義は、革新的技術や新事業・新産業等の創出によるイノベーション促進や生産性の向上、自己実現の場の提供、雇用機会の創出などである。


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