特集2 東アジア進出企業の調査レポート
グローバル化の環境を生き抜くために

 産業経済のグローバル化が進む中で、ことに中国を中心とした東アジア地域への生産拠点シフトが続いています。多くの大手メーカーはすでに東アジア地域での生産比率を高めており、これに追従する形で、国内の部品メーカー、製造業者も進出の度合を深めています。県内中小企業でも海外への製造拠点展開を果たす事例は急拡大しています。
 こうした中で、財団法人長野県中小企業振興公社は、その実態を把握するため、県内製造業の海外進出状況及びその影響について調査を実施し、その結果を「東アジア進出企業の調査レポート」としてまとめ発表しました。
 この調査は、東アジア地域に製造業拠点を保有している、県内中小企業を対象に、平成13年10月及び11月に行われたものです。調査方法は、アンケート調査(33社)、ヒアリング調査(アンケート調査より抽出した12社)により実施されました。
 本稿では、今後の経営の参考としていただけるよう、海外進出・事業展開のポイントをまとめています。
 なお、調査についての問い合わせ等は、県商工部産業振興課企画貿易係(電話・026-235-7192)までお願いします。
(出典:財団法人長野県中小企業振興公社中小企業支援センター刊「東アジア進出企業の調査レポート~グローバル化の環境を生き抜くために~」より抜粋)

東アジア進出における事業展開のポイント
point1
海外への進出にあたっては、その目標設定や経営戦略等、明確な経営方針を確立することが重要である。
point2
海外進出する場合には、十分な事前調査をすることが重要である。
point3
「一旦、海外進出したら徹底して親企業へ付いて行く」というくらいの決断が大事である。中途半端な進出やシフトはかえって失敗を招くことになる。
point4
海外工場の成否は、現地工場を任せられる人材の発掘と育成等、徹底した現地化を図れることが成功要因の1つである。
point5
近年、現地でも日本企業同士の競争は熾烈さを増し、国内同様、何らかの優位性を持たなければ、競争には勝てない。他社とどう差別化を図るかがポイントになる。
point6
海外展開には、ビジネスチャンスが豊富にあり、経営者の迅速な判断力と行動力が大きなチャンスに繋がる。
point7
海外進出企業にとって、単独企業で利益を確保するのは困難な時代になって来ている。グローバル化した生産体制等グループ編成の中で、どう利益を確保出来るかもポイントになる。

国内での事業展開のポイント
point1
海外工場と国内工場の棲み分けを明確にし、経営資源の集中的な投入も必要である。
point2
国内工場に軸足を置き生き抜くためには、技術開発に取り組み、特許を取得し海外企業にライセンシングするなど、知的所有権の戦略化を図ることも必要である。
point3
国内で生き残るためには、開発や改善の余地のあるものを国内に残すとともに、国内のニーズにスピーディーに対応出来ることが重要である。

グローバル化時代を生き抜くための経営戦略として
現地で遭遇するトラブル等、海外進出した企業が抱える課題は多い

 前述の事業展開のポイントでは、成功事例を中心に紹介しているため、進出した企業は全て上手くいったように捉えがちですが、実際のところは、海外進出した経営者の多くは様々な課題に遭遇しながら事業を展開しているのが実状です。

1 国民性や法制面の違いによるリスクやトラブル

○国民性の違いによるリスクやトラブル

  • 陰で良品を他社へ転売している従業員や、不良品を隠し不良率を下げたように見せかける現場責任者などがいて、大きな損害を被った。
  • 現地工場ではISO9001を取得しているが、内部監査員や現場で発生するトラブルを解決出来る人材がおらず、また定着率も低いため、従業員の品質に対する考えが定着せず不良率が下がらない。
  • 優秀な中国人を採用したが法外な報酬を要求されたため、解雇せざるを得なかった。
  • 現地にある1000人規模の工場では400~500人の従業員が絶えず入れ替わっている現状にあるため、他社でISOの訓練を受けた人を採用している。
  • 中国企業からの発注もいくつか舞い込んで来るが、回収リスクを伴うため全て断っている。
  • 中国人の経営者は商売人タイプが多く、儲けるためなら一気に大規模な投資をするため、日本から進出した企業の仕事が取られてしまう危険性もある。

○法制面の違いによるリスクやトラブル

  • 中国企業を相手取っての訴訟に勝ったとしても、逆にその報復措置として中国政府から多額の罰金が課せられ倒産に至るケースもある。
  • 日本から中国へ金型を送っても、税関で1週間も止められ生産に影響を及ぼした。

○その他

  • 中国(深セン)では合併や単独での進出はリスクが多いため、委託加工の形態で進出している。
  • 中国はWTOに加盟しても余り変わらないことが予想され、共産党員等、力のある人と手を結ぶことが重要であることに変わりない。 等
2 日本企業同士等による競争の熾烈化
  • 海外進出する日本企業が増えたことにより、現地での競争は熾烈化しており、取引先からの単価は大幅に下落している。
  • 受注がほぼ確定しそうな段階であっても、同業他社が入り込みキャンセルされるケースがある。 等

3 親企業の撤退によるリスク
  • 親企業の要請で海外進出したが親企業が再移転してしまい受注が確保出来なくなった。
  • 納入先は当社の海外工場と同じタイにあるが、納入先が中国に再移転すれば付いて行かざるを得ない。 等

4 国内工場の受注減等
  • 海外工場では売上が伸びている反面、国内工場は受注が減少しており、余剰人員対策に頭を悩ませている。
  • 現地工場へは最新鋭の設備を導入しているが、国内工場へは新規の設備投資は行っていない。
  • 国内工場にはこれから日本人を採用するつもりはない。採用するにしてもブラジル人を採用する。 等
 海外進出した中小企業の多くは、国内工場の位置付け等、明確な長期ビジョンの策定や綿密な事前調査を実施して進出しているのではなく、受注の確保やコスト削減といった当面の課題の解決策として海外へ進出しており、現地工場を運営しながら現地で発生するトラブル等への対処やこれからの国内工場のあり方を考えているのが現実といえます。


海外進出は経営革新を進める上での今後の1つの大きな選択肢といえる
進出企業の多くは様々な課題を抱えているものの、

  1. 進出先で、新たな取引先の開拓により売上が増加した。
  2. 安い労働力の確保によってコストが削減出来た。
  3. 海外工場で得た利益の回収送金方法を工夫し、国内への送金が可能となった。
  4. 国内工場も取引先の増加や高い技術分野へのシフトなどの相乗効果があった。 等
 といった効果も得ており、総合的には海外進出を選択した自社の戦略に満足しているようで、中小製造業にとって海外進出は経営革新を進める上での今後の1つの大きな選択肢といえます。  また、進出せずに国内に残る企業にとっても、グローバル化が進展する中で、海外企業、特に東アジア地域に展開している企業の動向には注視し、自社の国際的な位置付けを常に確認しながら経営展開を図ることが重要といえます。

Case1 (株)セルコ
Case2 (株)スワコー
Case3 (株)東京マイクロ
Case4 (株)パルコート
Case5 (株)羽広工業
Case6 (株)龍門堂
Case7 (株)マイナック
Case8 (株)タカモリ
Case9 トピーファスナー工業(株)
Case10 (株)みくに工業


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