民事再生の申立てをすると、売掛金の回収ができる一方で、保全命令により原則として従来の債務は支払わなくてもよい。運転資金に余裕ができる仕組みになっているのである。
しかし、申立て後に発生する債務については、通常、従来よりも厳しい支払条件で支払わざるを得なくなる。また、売掛金の回収が予定どおり進まない事態も考えられる。
すると、法律の仕組みがどうであれ、現実問題として、支出が収入を上回る事態が生じ得る。その場合、申立て時点である程度の手持資金がなければ、資金ショートを起こすことになり、再生は失敗に終わる。
筆者の所属する事務所でも数多くの相談を受けているが、中には手持資金がほとんど枯渇した状態で相談に来られる会社もある。そのような状態で民事再生の申立てをしても、早晩破綻することが明らかである。そもそも第2表のとおり、負債額に応じて、裁判所に対し予納金を納めなければならないが、その予納金さえ揃えられない。このような会社に対しては、大変申しわけないが破産申立を勧めている。
第2表 |
東京地方裁判所における
予納金基準額
(平成13年4月1日現在) |
負債総額 |
予納金 |
5,000万円未満 |
200万円 |
5,000万円~1億円未満 |
300万円 |
1億円~10億円未満 |
500万円 |
10億円~50億円未満 |
600万円 |
50億円~100億円未満 |
700万円 |
100億円~250億円未満 |
900万円 |
250億円~500億円未満 |
1,000万円 |
500億円~1,000億円未満 |
1,200万円 |
1,000億円以上 |
1,300万円 |
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民事再生法を活用し、成功するためには、ある程度手持資金に余裕がある時点から今後の資金繰り(キャッシュ・フロー)を想定し、あらゆる方法を検討する必要がある。その方法の1つとして民事再生の申立てを検討し、最良の方法として、手持資金が最大化する最良の時期に民事再生の申立てをするというのが望ましい。
民事再生の申立てを検討する際には、申立て後の再生計画についてもある程度の青写
真ができていなければならない。
自力で再生するのか、スポンサーを見つけてM&Aで再生を図るのか、自力での再生を目指すのであれば、どの事業を収益の柱とするのか、等々、検討すべきことは山のようにある。このようなことを検討もせずに見切り発車的に民事再生を申し立てても、成功はおぼつかない。
民事再生の申立てをすると、当然のことながら信用力は低下する。この会社でなければできない、という何か特殊なものをもっていなければ、自力での再生は厳しいものとなる。
先ほど成功例としてあげた高伸建設でいえば、RADIXがその「何か特殊なもの」に当たる。
自力での再生が難しいということになれば、営業譲渡をはじめとしたM&Aを検討することになる。
民事再生法の下では、営業譲渡は、再生計画外で実行可能となっている。裁判所の許可があれば、債権者の正式な承認は不要である。
また、債務超過の株式会社であって、営業譲渡が事業継続のために必要である場合には、裁判所の代替許可を取ることによって、株主総会の特別
決議を省略することもできるので、短期間で実行可能である。
営業譲渡の手法をとる場合、それが営業の1部の譲渡にとどまるのか、全部またはほとんどの譲渡になるのかによって、再生計画は異なる。
前者の場合、営業譲渡代金と残した事業の収益とで弁済していく再生計画となり、自力での再生といってもよい計画となる。
これに対し、後者の場合は、営業譲渡代金と現存資産で弁済し、会社を清算するという再生計画となる。民事再生において営業譲渡の手法をとる場合には、通
常こちらの方法がとられる。あくまでも事業を継続させることに主眼をおくものである。
この方法によれば、従業員や取引先等の利害関係者への影響を多少なりとも抑えることができる。
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