「企業間連携」による創業、
経営革新への挑戦


原川 耕治
全国中小企業団体中央会
企画部長


 わが国経済社会は、経済のグローバル化やIT(情報技術)革命の進展、「ものづくり」の基盤である産業集積の弱体化の懸念、下請分業構造の流動化、流通構造の変化、環境・エネルギー等の制約の増大などにより、大きくかつ急激に変化している。
 こうしたなかで、中小企業においては、廃業率が開業率を上回るという憂慮される状況が続く一方、機動性、柔軟性、創造性を活かした活力ある中小企業も多数出現し、中小企業の多様性がいっそう顕著になるなど、中小企業をめぐる環境もまた大きく変貌しつつある。
 このような変化に対応するため、一昨年以来、政府において、中小企業政策の見直しが進められていたが、昨年末に中小企業基本法の全面改正が行われ、新基本法を軸とする中小企業政策の転換が行われた。
 私ども中小企業団体中央会は、こうした中小企業をめぐる環境や政策のあり方の大きな変化を踏まえ、このほど、「経営革新・創業に挑戦する組合等多様な中小企業連携を創造する中央会へ」と題する中央会21世紀ビジョンを取りまとめた。
 新たな時代の幕開けである2000年を迎えて、組合をはじめとする中小企業連携組織の今日的意義を改めて確認し、今後の方向を提示するとともに、中小企業団体中央会の新たな役割と、これらに対する積極的な対応のあり方を明らかにするためである。
 ここでは、本ビジョンの提言をもとに、中小企業連携組織の今後の方向と、これを反映した中小企業組合の新しい動きについて紹介する。


連携組織による創業等への挑戦

 今後「わが国経済のダイナミズムの源泉」としての役割を積極的に果たしていくことが期待されている中小企業の新たな活力を引き出すためには、中小企業の研究開発や市場活動等への積極的な取り組みを促進し、創業や経営革新等につなげることが急務である。また、IT革命や、環境・エネルギー等の社会的課題への対応も喫緊の課題となっている。
 中小企業がこうした新たな課題に積極的に挑戦し、その発展基盤を形成・強化していくうえで、技術、情報、人材、資金等の経営資源をすべて単独で保有することは困難であり、同質・異質な中小企業が、組合をはじめとする多様な中小企業組織を通じて連携し、経営資源を相互に補完しあうことによってその制約を自主的に克服していくことが有効かつ効率的である。
 このような中小企業の連携のための組織としては、それぞれの特徴を持ち多様な経済活動を展開している事業協同組合、企業組合、協業組合、商工組合等の約5万にのぼる中小企業の各種組合をはじめ、共同出資会社や、任意グループ、企業間ネットワークといった、法人格を持たない「緩やかな連携」など多様な形態がある。
 これらの組合を中心とした連携組織は、中小企業が組織を通じて相互に協力しあうことによって、(1) 経営資源の相互補完をはじめ、(2) 市場における交渉力・訴求力の強化、(3) リスクの適正な分散・軽減、(4) 組合と組合員との分業、(5) 集積の共有や規模の実現性、などのさまざまな優れたメリットを生み出す本来的機能を持っており、これまでも、さまざまな時代環境のもとで、「前向きな自助努力」により自主的に経営基盤の強化を図るための有効な仕組みとして積極的に活用されてきた。


中小企業連携組織の今日的意義

 こうした時代を超えた基本的意義に加え、新しい中小企業政策のもとで、さらに以下のような視点から、中小企業連携組織の今日的意義が高まっている。
 第一に、中小企業の新たな課題への挑戦を広範化させていくうえで、個々の中小企業による取組みが期待されるのはもちろんであり、政策の弾力化・多様化が図られることは必要である。
 ただその一方で、依然として圧倒的に多くの中小企業にとっては、経営資源の相互補完はもとより、市場への訴求力の強化やリスクの適正な分散等を図る必要から、組合や緩やかな連携などの連携組織を活用した取組みがきわめて現実的かつ有力な手段であるというのが実態である。
 このような意味から、連携組織は、中小企業を経営革新や創業等に取り組みやすくする仕組みであるといえる。
 第二に、特に中小企業組合制度は、会社のような最低資本金制度もなく、比較的少ない資本で法人格を取得できるうえに、有限責任のメリットを得られるなど、事業を簡易に立ち上げることができるという利点を持っているほか、組合に対しては、国等の予算、金融、税制面の支援施策が講じられており、創業や新事業展開等への挑戦のための組織としてきわめて利用しやすい制度である。
 第三に、最近、SOHO等の小規模事業者、主婦や高齢者などの個人が、それぞれの経験等を活かしながら、新しい事業や就労の場、自己実現を求めて簡易に創業できる仕組みとして、企業組合制度が注目されつつあり、設立の動きが顕著になっている。
 第四に、昨秋の臨時国会で法改正が行われ、中小企業の組織選択の自由度を高める観点から、異業種連携組合において共同研究開発の成果を事業化する場合などに、組合(事業協同組合、企業組合、協業組合)が、事業の成長発展に応じて、会社への組織変更をスムーズかつ課税負担なしに行えるようになった。
 これにより、組合制度は、組合員事業を補完する目的で共同事業を実施するための仕組みであるという基本的意義に加え、創業や新事業展開への挑戦のための組織としての意義も飛躍的に高まり、その活用の幅を大きく拡げることになった。
 第五に、年々厳しさを増す環境・リサイクル・エネルギー・安全等の社会的に対応が要請される課題について、近年、商工組合等の業種別ネットワークを活用した取組みを活発化させているところが増えつつある。これは、業界、企業のイメージ、社会的評価の向上や実際の効率的対応の必要性からも、組織的対応が不可欠だからである。
 第六に、急速に進展するITへの対応は、いまや中小企業にとって避けて通れない重要な経営課題となっているが、初期投資コストが大きく、ネットワークの経済性が要求され、事業成長における収穫逓増が働く分野であることから、個々の中小企業での対応には限界があり、同業・異業種の事業者の連携による取り組みが不可欠となっている。


21世紀への組合の新たな躍動

 最近、以上の今日的意義を反映した、21世紀への新たな躍動ともいうべき組合の新しい動きが顕著になってきている。
 まず、最近、異業種の中小企業が自らの得意技術やアイデア等を持ち寄り、事業協同組合を設立し、共同研究開発に取り組むケースが増えており、環境・エネルギー、医療・福祉・介護、生活文化、情報通信、新製造技術、住宅関連などの成長期待分野で組合による研究開発活動が行われている。旧融合化法を含む「中小企業創造活動促進法」の認定組合数は約500にのぼる。
 また、研究開発以外にも、ソフトな経営資源を補完しあいながら、福祉・介護、情報通信、環境・リサイクルなど高成長が期待される15分野をはじめさまざまな事業分野で、新しい事業に取り組む組合が叢生しつつある。たとえば、
 (1) 福祉・介護分野では、介護保険制度の実施に対応して、異業種の関連中小企業が集まり、ホームヘルパー派遣や家事手伝い、食事の宅配、セキュリティーサービスといった地域レベルでの総合的福祉サービスの提供に取り組む事例
 (2) 環境・リサイクル分野では、個々の中小企業では取り組みが困難な、包装容器・産業廃棄物の再生資源化、工場団地でのゼロエミッション等のリサイクルの推進やISOの取得などに取り組む事例
 (3) 情報通信分野では、異業種の中小企業のネットワークの構築による、バーチャル・ファクトリー(仮想工場)構想の展開事例、情報サービスの提供や通信回線等の共同利用、ビジネスサポートに取り組む事例、SOHO事業者等が連携して大規模なソフト開発の共同受注を目指す事例
 (4) 流通・物流効率化の分野では、卸売・運送事業者等が、物流機能の効率化と情報ネットワーク化による共同物流拠点の整備に取り組む事例や、商店街組合で、ポイントカードにクレジットやプリペイドカード等の新たな機能を加えたICカードの導入、商店街自体のバーチャルモール化に取り組む事例
 などが全国で見られる。
 一方、簡易な創業組織として注目されている企業組合についても、(1) ホームヘルパーの養成や高齢者家庭への派遣、デイサービス介助等の事業を目指す福祉介護組合、(2) 保母や看護婦の経験を持つ主婦が、働く女性の保育ニーズに対応して託児所を開設するなど、ニューサービスに挑戦する組合、(3) ソフト開発やインターネットを活用したネットビジネスを行う組合、(4) 専門的な技術・技能を持った高齢者にる経営コンサルタントの組合、(5) 山村の農家の主婦グループが、地元特産のヘチマを利用した自然化粧品の開発・事業化に成功した地域起こし組合、などが全国各地に設立されている。

 以上見たように、組合をはじめとする中小企業の連携に対する中小企業のニーズはいたって旺盛であり、「独立した中小企業の多様で活力ある成長発展」という新たな中小企業政策理念を中小企業が主体性を持って実現していくうえで、中小企業連携はきわめて重要な政策ツールであるといえよう。
 新中小企業基本法においても、「中小企業の交流、連携、共同の推進」が今後も引き続き中小企業政策の重要な柱として掲げられているところである。
 私ども中央会は、今後とも中小企業の連携推進および連携組織支援のための機関として、その専門性を発揮しつつ、組合や緩やかな連携等への支援をいっそう充実強化していくが、特に本年は、本ビジョンの実践として、「組合創業推進キャンペーン」を全国的に展開し、組合の活用による中小企業の経営革新や創業等を推進していくことにしている。


目次に戻る