佐久市工場団地事業協同組合
理事長 内藤 毅

○業界の景況見通し
 先頃、堺屋経企庁長官の発言で、「先行き景気の胎動が感じられる」という、感触めいた予測が報じられましたが、私共現場の実感の中からは、とうていそのかけらすらも見えてこないのが本当のところではないでしょうか。
 国内景気の沈滞、東南アジア市場の混乱による輸出落ち込みを、北米・ヨーロッパ向けで補ってきたものの、強かったアメリカの景気も、実体からは離れた9000ドルを超す株価の急騰、不動産価格の上昇、加えて企業収益の伸び悩みが見えてきていることなどから、何やらかげりを観測するむきも出ているようです。
 この先マイナス要因は増えても、景気そのものを押し上げる力は、個人消費、設備投資を中心とした国内民間需要が活発になり、本来の国内景気がしっかりと前向きに転じないかぎり、向こう一年間も同様の景況としかいえないのではないでしょうか。
 さあらぬか、10月以降国内大手メーカーの平成10年度下期計画の下方修正の発表が相次いでなされ、次年度設備投資の縮少見送りの記事も目につくようになりました。ただ比較的先行き強いと云われる半導体・液晶関連で、次期にむけて試作がらみの商談が生じていることと、中小メーカーの設備投資の動きが一部出てきていることなど、若干の明るい材料があることは、救いでしょうか。

○業界の抱える課題と対応
 景気停滞にともなう受注量の減が大きく経営を圧迫しています。対前年比20~30%の数量ダウンが見られ、業界中分野によっては一時的であるにせよ半減してしまっているところも出ている状況です。更に、縮少したパイをテコにするかのように、大きなコストダウン要求が客先から提示され、受注・操業確保の為には採算二の次で応じてゆかざるを得ない場面が出ています。
 またここ何期かにわたって手控えられてきた設備投資の遅れも、コスト競争力を奪ってゆく要因のひとつになってきています。かつてのような系列の中で安定受注、中長期の見通しが立てられた環境であれば、ある程度戦略的な投資も可能なのでしょうが、わずか先の予測見通しも裏付けが取れない商況にあっては、みすみす設備の老朽化を理解はしていても、手を下せずにいるのが現状です。
 他にも、就労人口の老齢化など、労働生産性の低下傾向を含め、コスト構造の抜本的な見直しが急務なのですが、その中でも特に人件費の抑制にからむ諸問題がまったく手付かずの状態でとどまっているのが中小企業の実態ではないでしょうか。大企業が着々進める思い切ったリストラ策はおろか、若年層への切り換えも思うにまかせず。高コスト体質がなかなか改善できないことによる競争力の低下はますます経営を悪化させる、悪循環へと向かわせることになると思われます。
 願わくば、1日も早い景気の回復を待って、これ等の遅れを取り戻すことに傾注するしかありません。

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