19.事業活動の機会の適正化を図るための対策

大企業と中小企業の間には著しい競争力の格差があり、大企業や大規模小売店舗などが中小企業の活動する事業分野や地域に進出・出店する場合、多数の中小企業が打撃を受けることがあります。このようなことは、社会的公正や経営資源の損失の面から、国民経済上無視することができません。そこで、中小企業の事業機会や公正な競争を確保するための施策が講じられています。

1.中小企業の事業機会の適正な確保のための施策

中小企業の事業分野に進出する大企業の事業活動の調整を図るため、「中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律(分野調整法)」「大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律(大規模小売店舗法)」「小売商業調整特別措置法」などが制定されています。

(1) 分野調整法等

中小企業者が従来比較的多く従事している事業分野への大企業者の進出によって、中小企業の事業活動の機会が不当に侵されることのないようにするため、中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼすおそれのある大企業者の事業の開始又は拡大に際し、相当数の中小企業者の利益を代表し得る中小企業団体(商工組合、一定の要件を満たす事業協同組合及び社団法人等)が申出を行うことにより、大企業者の事業活動の調整が図られることになっています。
具体的には、次のような調整が図られます。

① 中小企業団体は、大企業者の事業の開始又は拡大が構成員の相当数の中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼすおそれのあるときは、当該業種所管の主務大臣(地区が都道府県域内のものは都道府県知事を経由)に対して、その開始の時期や規模等について調査を申出ることができる。主務大臣は調査結果を中小企業団体に対して通知する。

② 中小企業団体は、大企業者の事業の開始又は拡大が構成員の相当数の中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼす事態が生ずるおそれのあるときは、当該業種所管の主務大臣(地区が都道府県域内のものは都道府県知事を経由、都道府県知事は必要に応じて都道府県中小企業調停審議会の意見を聴き、意見を付して主務大臣に進達)に対して調整の申出をすることができる。

③ 調整の申出があった場合、当該事態の発生を回避することが困難であり、かつ、当該事態の発生を回避し中小企業の事業活動の機会を適正に確保する必要があると認めるときは、「中小企業分野等調整審議会」の意見を聴いて、主務大臣は大企業者に対し事業の開始若しくは拡大の時期の繰下げ又は事業の規模の縮小を勧告(進出が差し迫っている場合は一時停止勧告)することができる。

④ 大企業者が調整勧告に従わなかったときは、主務大臣はその旨を公表することができる。一方、大企業者への勧告が行われた場合には、主務大臣は当該中小企業団体に対し、構成員の中小企業が講ずべき設備の近代化、技術の向上、事業の共同化等について指導を行うことになっています。また行政の紛争処理機能を強化するため、中小企業調整官、中小企業分野調整指導調査員制度が設けられています。
なお、農林関連業種及び環境衛生関係営業に関する分野調整問題についても、農林水産省及び厚生省において処理体制が整備されています。
調整の対象となる大企業者には、中小企業基本法に定める中小企業以外のもののほか、大企業のダミーも含まれます。なお、分野法の対象からは小売業は除かれています。

(2) 大規模小売店舗法

百貨店・大型スーパーなどの大規模小売店と中小小売業との事業活動の調整を図るため、店舗面積の合計が 500㎡を超える大規模小売店舗の出店について調整が行われることとなっています。店舗面積の合計が 3,000㎡(東京都の特別区及び政令指定都市は 6,000㎡)以上の大規模小売店舗(第1種大規模小売店舗)については通商産業大臣が、それ以外の大規模小売店舗(第2種大規模小売店舗)については都道府県知事がそれぞれ調整を行います。

大規模小売店舗の設置者は建物の名称、所在地、延床面積、店舗面積等を、店舗内での小売業の営業者は名称、代表者名、店舗の所在地、開店日、店舗面積等を通商産業大臣又は都道府県知事に届けることが義務づけられています。通商産業大臣又は都道府県知事は、大規模小売店舗における小売業の事業活動が周辺の中小小売業の事業活動に相当程度の影響を及ぼすおそれがあると認めるときは、店舗面積の削減、開店日の繰下げ等を勧告し、従わない場合には命令を行うことができることとなっています。

店舗設置者又は核店舗予定者は、新設の届出から4カ月以内に出店予定地の中小小売業者等に対して地元説明を行い、地元説明終了後に店舗面積、開店日、閉店時刻、休業日数(調整4項目)の届出を行います。通商産業大臣又は都道府県知事は大規模小売店舗審議会又は都道府県大規模小売店舗審議会の意見を聴いて、必要に応じて勧告を行います。この勧告は届出後8カ月以内の期間に行うこととなっており、地元説明の期間と合わせて1年以内に出店調整処理手続きが終了することになります。

本法については、平成元年の「90年代流通ビジョン」、平成2年の日米構造問題協議報告」等を踏まえ、規制緩和措置が実施されており、平成6年5月1日通商産業省令の改正とともに通達が出され、調整対象面積の規制について、店舗面積が 1,000㎡未満の案件の原則自由化(大規模小売店舗審議会での審議を行うことなく「おそれなし届出」として認める)、中小テナントによる 500㎡までの増床の原則自由化(「おそれなし届出」として認める)、大型小売業者が入居することとなるテナント入替の原則自由化(「おそれなし届出」として認める)、軽微増床範囲の拡大(一律50㎡まで)がなされました。また、閉店時刻の不要基準(午後8時までに延長)、休業日数の不要基準(年間22日までに短縮)が緩和されました。さらに、現在大店法のあり方についての検討が行われています。

また、輸入品専門売場の設置については、輸入品専門売場特例法(輸入品専門売場の設置に関する大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律の特例に関する法律)により、1,000㎡以下は、大規模小売店舗法に基づく調整は不要となっています。

なお、大規模小売店舗法は、大規模小売店舗立地法(大店立地法)の成立(平成10年6月3日公布、公布日より2年以内に施行)に伴い、平成10年6月3日より2年以内に廃止されます。

(3) 小売商業調整特別措置法

小売商の事業活動の機会を適正に確保するとともに、小売商業の正常な秩序を阻害する要因を除外して国民経済の健全な発展を図るため、購買会事業(事業者がその従業員に生活必需品等を販売する事業)に対する規制、小売市場の許可、中小小売商とそれ以外の者との間の紛争の斡旋、調停、勧告などが行われます。また、大規模小売店舗法の対象外であっても、それが大企業者の新たな事業の開始又は拡大の場合には、一定の要件を満たす中小小売商団体の申出に基づき、都道府県知事が事前調査のほか時期の繰下げや規模の縮小の勧告を行うことができることになっています。

(4) 消費生活協同組合、農業協同組合等と中小小売商との事業活動の調整

消費生活協同組合や農業協同組合 (生協・農協) は、組合員の生活に必要な物資の供給を第一義の目的としており、本来営利を目的としたものではないので、大規模小売店舗法や小売商業調整特別措置法による調整の対象にはなっていません。しかし、近年、大規模な出店や員外利用等をめぐり、地元中小小売商との間で摩擦が生じています。
そこで、生協及び農協が行う生活物資供給事業については、厚生省、農林水産省において、各協同組合法の趣旨に則り、①法の許容範囲を超えた員外利用の防止の徹底、②店舗の設置及び運営の適正化などの指導が行われています。


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